01-52.ニヨズ視点1
村の北端にある俺の工房からは、連日連夜、香ばしい煙と焼き物の熱気が立ち上っていた。
「おい、もっと薪をくべろ! 窯の温度を落とすんじゃねえぞ!」
「へい、師匠!」
汗だくになった弟子たちの叫び声と、粘土を捏ねる音が工房中に響き渡る。
導師様と村長から直々に「村中の全世帯に配るろ過器を作れ」という大命が下り、万屋の工房はまさに戦場のような忙しさだった。
普段からいる弟子だけじゃ手が回りきらねえってんで、村の手先が器用な男どもを何人も手配してもらい、総力戦で作業に当たっている。
そして、この大騒ぎの真ん中で、大人たちに交じって指示を出しているのが――トルスノフのオモのところの孫、トッシュだった。
「あの……ニヨズさん。この壺の底の穴なんですけど、もう少しだけ小さく開けてもらえますか? 砂や布が落っこちないようにしたいんです」
「おう、分かった。粘土を抜く段階で調整してやるよ」
少し戸惑いを見せつつも、大人相手に堂々と注文をつけてくるボウズの姿を見ながら、俺はフッと鼻を鳴らした。
――少し前に、オモのジジイとこのボウズが突然やってきて、「骨炭を焼いてくれ」と頼み込んできたことがあったが……あれはこれの試作品を作っていたわけだったんだな。
あの時は何に使うのか怪しんだが、まさか村全体を救う大道具になるとは思いもしなかったぜ。
(まあ……意地でも急いで作ってやらなきゃならねえ理由は、俺にもあるんだがな)
ちらりと工房の奥の住居に視線を向ける。
連日の夏病みでうちの息子の嫁も、少し前に腹を壊して体調を崩してしまっていたのだ。
導師様のお触れによれば、この壺で越し、しっかり沸かしたお茶を飲めば夏病みは治まるだろうという。
息子の嫁に冷ましたお茶を飲ませてやったら、確かに少しずつ顔色が戻ってきた。
効果があるって分かっちまったら、忙しいだのなんだの言っていられねえ。
何が何でも大急ぎで完成させて配るしかねえのだ。
「……よし、一番上の小石はこれで大丈夫です。次は骨炭と細かめの砂を重ねていきますね」
トッシュは周りの手伝いの大人たちを前に、作業手順を説明している。
最初は周りのデカい男たちに囲まれて多少うろたえているようにも見えたが、話し始めると大人顔負けの的確さで、実に分かりやすく指示を出していた。
砂の粒の大きさや、骨炭の敷き詰め方、布の挟み込み、そして何より大人たちへの指導――その手際と頭の回転の速さは、とてもじゃないが七歳のガキだとは思えねえ。
元々出来が良いボウズで、導師様の試作品作りを手伝っていたとは聞いていたが、実際に目の前で動いているのを見ると、噂以上の優秀さだと嫌でも理解できた。
(壺を整形して焼き上げるのと、骨炭を焼くのは俺や弟子の職人の仕事だが……ろ過器そのものの組み立ての指導は、俺はほとんど手を出しちゃいねえ。全部このボウズが手際よく仕切ってやがる)
時々、トッシュは作業の途中でフッと動きを止め、空中を一点に見つめてじっと固まることがある。
まるで、誰にも見えない何かと会話でもしているかのように静まり返るのだ。
(まあ、何か深えことでも考えてるんだろうな。秀才ってのは、時々あんな風に自分の世界に入り込むもんだ。オモのジジイも、自慢したくてたまらんわけだぜ)
俺がそんなことを考えて煙管をくゆらせていると、工房の外からガヤガヤと賑やかな歓声と、重い足音が近づいてきた。
「ニヨズ親方! 狩猟隊の獲物が届いたぞ!」
表に出ると、警備隊や村の力自慢の男たちが、荒野で狩ってきた大量の獣を運んできていた。
「よし、でかした! 手伝いの男衆、ぼさっとすんじゃねえ! すぐに解体して、骨を綺麗に洗う作業に回せ! 骨の油を抜いてからじゃねえと、良い炭は焼けねえぞ!」
「「あいよっ!!」」
運ばれてきた大量の骨と、黙々とろ過器作成の指示を出し続ける七歳の少年。
そして熱気を吐き出し続ける俺たちの窯。
村中のみんなを、そしてうちの家族を救うためだ。
オイノクス村一の職人の名にかけても、もうひと踏ん張り、とことん付き合ってやろうじゃねえか――。




