01-05.頭痛の警告
双子たちの賑やかなやり取りに、父さんが「ゴホン」とわざとらしく咳払いをした。
「さて、魔法を賜ったんならそれはいい。そのあと気絶しただろうと、先生からも聞いているが……そのあとは覚えているか?」
その言葉に、僕は昨日の夢の中の光景を思い出した。
あの白い空間で出会った、ニホンという場所から来た、あのおじさんのこと。
僕たちはもう、良くも悪くも一蓮托生の相棒になったんだということ。
「……うーん。一緒に、変なのも頭に入ってきたような気がし……あーー…………」
おじさんのことを家族に話そうと、それを口に出しかけたその瞬間だった。
ズキッ……いや、ピキッとするような、鋭い痛みが頭の中に走った。
ひどく痛むわけではない。
でも、まるで「それ以上は言ってはいけない」と、頭の中の何かが本能的なストッパーをかけているような、明らかな拒絶反応だった。
同時に、頭の上の『雲』からも、焦ったような危うい気配がうっすらと漏れ出てくるのが分かった。
なんだか、昨日のことや、おじさんの話は誰にもしないほうがいいみたいだ。
これもなんとなく感覚的にだけど、確信してそう思える。
言えば、またあの頭が割れるような痛みに襲われてしまう気がした。
「うーん……あんまり、覚えてないみたい。そこで記憶が止まってるみたい」
僕が慌てて誤魔化すようにそう言うと、父さんは少し拍子抜けしたような顔をした。
「そうか。まあ、身体に問題がないようなら、今日はもう一日様子を見て、明日くらいから学校や農作業に復帰するか」
「ハッサン、フサン。今日もトッシュがいないからな。お前たちに農作業も羊の放牧も頼んだぞ」
「「え〜〜っ! 人数少ないと大変だからいやー」」
双子が揃って口を尖らせる。
「ほら、そんなことを言っていたら、魔法を賜らないわよ」
お母さんが笑いながらそう言うと、二人は慌てて手元のノンを口に押し込んだ。
そこからはたわいもない話に戻り、温かい朝ごはんは終わった。
祖父のオモが、最後にまた神に祈りを捧げる。
座ったまま両手をお椀のように重ねて水をすくう形を作り、口元へと持ち上げる。
そのまま両腕を肩の横へゆっくりと開き、手のひらを上に向けたかと思うと、今度はそれを下に返しながら静かに下ろしていく。
同時に頭を下げ、目を閉じた。
「神に感謝を」
頭を下げたまま、数秒の沈黙が続く。
全員でそれに続き、食事の終わりを告げる。
毎日、こうして食事がとれることへの、神への純粋な感謝。
食事が終わった後、僕はもう大丈夫そうな気はしたけれど、みんなに心配をかけているし、今日は大事をとってまた横になっていることにした。
一人だけ子供部屋に戻り、絨毯や布がたくさん引かれている床に座る。
窓の外の中庭からは、父さんが農業の準備を弟たちに指示する声と、ハッサンとフサンが嫌々ながらも元気よく了承する声が聞こえてきた。
僕は小さく息を吐き、静かになった部屋で、窓の外からの声を聞いた。
すると、僕の思考に寄り添うように、頭の奥からどこかしみじみとした温かい声が響いてきた。
『……この家族との暮らしは、悪くないな』
言葉が直接通じるわけじゃないけれど、おじさんが我が家の賑やかさを凄く愛おしく思っているのが、僕の心にじんわりと伝わってくる。
(でしょ? 頼りないおじさんにはビックリしたけど、僕の自慢の家族なんだ)
僕は心の中で誇らしくそう返した。
おじさんも嬉しそうに気配を揺らしている。
拝受の儀の時から始まった、僕とおじさんの一蓮托生の日常。
僕は頭の中の相棒の存在を心強く感じながら、家族のための綺麗な水をどうやって手に入れるか、静かに思い描き始めるのだった。




