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ハードモードな中央ユーラシアに転生したので、生きることを目標とします 〜 普通中世ヨーロッパじゃないの!?劣悪な衛生や環境を乗り越える、異世界・非日常ファンタジー ~  作者: 山下オクトパス
第一章:転生と「水」への絶望

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01-42.酷暑の訪れ

お父さんを説得し、僕たちの物置で作った骨炭入りのろ過器がトルスノフ家の「公式な水」となってから、一ヶ月と半分ほどの月日が流れた。


さらに、長姉のバショーラ姉さんとソディル義兄さんの家にも、同じろ過器を作ってあげた。

バショーラ姉さんは最初は「なんだいこの壺は」と怪しがっていたけれど、ひと口飲んだ瞬間に目を丸くし、それからは毎日欠かさず使ってくれている。



そうこうしているうちに、オイアクス村には容赦のない夏本番がやってきた。


頭上の太陽は白くギラギラと輝き、乾燥した熱風が吹き抜けるたびに、ひび割れた大地からカサカサという乾いた音が響く。

日本の真夏日と異なり、外にいるだけで体中の水分がじりじりと奪われていくほどの高温な夏。

ただ、湿度は非常に低く乾燥している。



太陽の下では文字通り人が亡くなるような熱風が吹くが、日陰や家の中に入ると、汗がすっと乾き、そよ風が涼しく感じることもある、そんな季節。

日中は暑すぎるため、ほかの季節よりも早く起きて活動をし、太陽が頂点に来るころは家の中で休み、また、夕方になるころに再び動き出す。そんな生活となっていた。



――そして、この猛暑とともに僕たちを直撃したのが、貯水池(ハウズ)の腐敗臭だった。

水温が跳ね上がったことで、オープンな池の中に溜まった泥や藻、そして埃が混ざり合い、春頃とは比べものにならないほど強烈な生臭さと土臭さを放ち始めたのだ。



水汲みから戻ってくるたび、僕と脳内のおじさんは精神的にかなりのダメージを受けていた。


『うぐっ……トッシュ、今日は水を汲みに来るのが遅くなってしまったからか、ハウズの水、まじでヤバいぞ……ドブの臭いとドジョウの池の匂いを混ぜて十倍に濃縮したみたいな臭いがする……!』


(うう……おじさん、喋ると余計に鼻にくる気がするから黙ってて……)


もしもこの泥水をそのまま飲む羽目になっていたら、僕は間違いなく吐き気を催していただろう。

これも、臭いの少ない水を飲み始めたり、おじさんの知識を知ってしまったからこそ感じる気持ちだろう。

ほかの人は、夏はこういうもんだと思っている。



もちろん経験上、夏の水が危険であるということも皆気付いているだろうが、とはいえ、飲み水はこれしかない。

そういうもんだ、仕方がない、と思っているだろう。

けれど、僕たちにはあのろ過器があった。



汲んできた酷い臭いの水を、砂や小石、そしてニヨズさんに焼いてもらった骨炭を重ねた古い壺に通す。

ポタポタと静かに垂れ落ちてくる水を集め、革袋や土器の壺に溜めていく。

それだけで、あれほど鼻を突いていた不快な生臭さや泥臭さが、嘘のように薄くなって気にならなくなるのだ。


「……ふう、生き返るな。本当にこの水は砂っぽさや臭いががなくて飲みやすい」


農作業の合間、日陰の高床式縁台(タプチャン)でろ過した水を飲んだお父さんが、深く息を吐き出しながら感心したように呟いた。


日頃からこのろ過後の綺麗な水ばかりを飲むようになったことで、僕だけじゃなくて家族も、「ろ過する前の水」の臭いや不快さに過敏になっていた。


たまに汲みたての生水の臭いを嗅ぐと、お母さんもバショーラ姉さんも「まあ、こんなに臭かったかしら」と顔を顰めるほどだ。



水質が最悪になる夏だからこそ、僕たちが作ったろ過器のすごさと恩恵が、春よりもはっきりと目に見える形になって現れていた。

けれど、僕とおじさんには、まだ拭い去れない大きな懸念があった。


(ろ過器で砂や臭いは取れても、目に見えない『ばい菌』までは完全に殺せないんだよね……)


『そうなんだよな……一番確実なのは、熱湯でしっかり沸騰消毒することなんだが……』


問題は、やはり「燃料」の壁だった。


家畜の糞を乾燥させて作る糞炭には数に限りがあるし、貴重な薪は我が家にとっても非常に高価な生活資源だ。

お金があればなんとかなるのだろうけども、農民の収入だと限りがあるし、糞炭を作るにも限りがある。



お母さんが朝晩の食事の際にお茶を淹れてくれる以外で、日中に喉が渇くたびに火を起こして煮沸消毒するなんて、そんな贅沢は絶対に許されない。


そのため、日中の水分補給は、どうしても「ろ過しただけの生水」をそのまま飲むことになる。


(うーん、火を使わずに水を加熱する方法……たとえば、この強い太陽の光を利用できないかな……?)


『黒い土器に水を入れて放置するとか……? いや、生ぬるい温水を作ったら、逆に菌が繁殖しちまうかな……?』


物置の影で、僕とおじさんは日頃からそんな試行錯誤を重ね、燃料問題をどう解決すべきか悩み続けていた。



――そんな酷暑の夏が盛りを迎えた頃。

僕たちの暮らすオイアクス村で、少しずつ不穏な異変が起き始めていた。



村の共同での水路掃除の際、お父さんやおじいちゃんが浮かない顔で戻ってくることが増えたのだ。


「……また近くの幼い子が、酷い下痢と熱で寝込んだそうだ」


「ああ、北側の街区でも老人たちが何人も腹を壊して倒れているらしい。毎年のこととはいえ、今年の夏病みは少し重い気がするな……」


ろ過器を使っている我が家やソディル義兄さんの家では、誰一人として体調を崩すことなく元気に過ごしている。

けれど、村のあちこちでは、原因不明の腹痛や発熱を訴える人々が急速に増え始めていたのだった。


最近、日本も夏はありえないくらいの暑さになることが多いですよね…。まだまだ夏は続きそうなので、皆さま、健康にはお気をつけください。

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