01-41.????視点3
おじさん視点です。
真っ白な空間で、俺はいつものように一人、胡坐をかいていた。
この転生してきてから、早くも三、四か月が経とうとしている。
いや、そもそもこれは転生と呼んでいいものなのだろうか。
自分は今生きているわけではないし、七歳の少年の脳内に寄生しているだけの、実体のない精神体のようなものだ。
しかも、目覚めた先はかつて暮らしていた地球に似ているようで全然違う、魔法なんてものが存在するファンタジーの世界だ。
……まあ、この世界が何なのか、自分がどうしてこんな奇妙な現象に巻き込まれたのかを考えるのは、もうよそう。
いくら頭をひねったところで、答えの出ない謎を考えても時間の無駄でしかない。
——しかし、ふと思うことがある。
俺は一体、何のためにこのトッシュという少年に寄生したのだろうか。
もしも本当にこの世界に神様がいるのだとしたら、何かしら意味があったのだと思いたい。
いや、そうでも思わなければ、やっていられない。
日本の知識や経験を持っている身からすると、この過酷な世界での暮らしは圧倒的にハードすぎる。
まだ七歳の子供だというのに、トッシュは毎日泥だらけになって過酷な畑仕事や水汲みをこなしている。
衛生環境も、現代人の感覚からすれば最悪の一言に尽きる。
日本にいた頃は、蛇口をひねれば当たり前のように綺麗で安全な水が出てきた。
食材を冷たく新鮮なまま保存できる冷蔵庫もあったし、街に出ればスーパーやレストランでいくらでも美味しい食べ物が買えた。
あの何でも揃っていた、至れり尽くせりの環境と比べたら、ここはあまりにも過酷すぎる。
そして、その世界の落差を、俺はトッシュの五感を通じて自分のことのようにリアルに感じていた。
あいつが泥水を前にして絶望すれば俺も青ざめるし、あいつが美味しいお肉を食べて喜べば俺の胸も弾む。
ただ頭の特等席から世界を眺めているだけなのに、トッシュの人生に日々一喜一憂している。
このシンクロ感というか、自分のことのように感じてしまう感覚は、本当に不思議でならない。
そして何より、トッシュが心から感じている「家族が大好きだ」という温かい感情は、今では俺自身の感情そのものになっている。
あのお節介で頑固なオモじいちゃんも、ぶっきらぼうだけど不器用な愛をくれるプラートおやじも、トッシュを優しく見守ってくれるムフバット母さんも、そして、姉弟たちも、みんな俺にとってもかけがえのない、大好きな家族となっている。
もし、この世界に転生したこと──いや、寄生したことに何か意味があるのだとしたら。
あるいは、これから俺自身の手で、それに意味を付けるのだとしたら、答えはもう決まっている。
自分や、この愛する家族には、もっと良い生活や環境で生きてもらいたい。
誰も病気にならず、健康に長く生きてほしいと思うのだ。生活ももっと、楽になる方法はないのだろうか、と。
しかし、ようやくろ過器を完成させてトルスノフ家の飲み水を綺麗にしたけれど、これだけではまだ足りない。
あくまでも素人考えで作ったろ過器だ。すべての細菌を完全に死滅させられていないだろう。
そして、「毎回の煮沸」までは、燃料の壁のせいで出来ていないのだ。
水以外でもそうだ。理系の知識がない俺だって、現代人の知識があれば、恐らく何か……思い付けるはず。まだまだやれることは山ほどあるはずだ。
トッシュと共に、この世界の過酷な常識をひっくり返していこう。
そして、大好きな家族が安全に、健康に、笑顔で長く生きられるような生活に変えていくんだ。
——それこそが、俺がこの、ハードモードな世界に放り込まれた意味だと信じて……。




