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ハードモードな中央ユーラシアに転生したので、生きることを目標とします 〜 普通中世ヨーロッパじゃないの!?劣悪な衛生や環境を乗り越える、異世界・非日常ファンタジー ~  作者: 山下オクトパス
第一章:転生と「水」への絶望

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01-39.バショーラ視点1

トッシュの姉、トルスノフ家の長女、バショーラ視点の話です。

そろそろ春が終わり、荒野の風にじっとりとした夏の熱気が混ざり始める季節になっていた。


今日もまた、私と夫のソディル、そして一歳の娘のディロロムは、実家であるトルスノフ家の晩御飯にお邪魔していた。

近くに新しく家を設けたとはいえ、やっぱり実家に帰ってくるのが一番いい。



一歳の娘の世話を考えると、実家には母のムフバットも祖母のグルスランもいて本当に安心する。何より食費が浮くし、わざわざ自分たちの家で三人分の食事を作るよりも圧倒的に効率的だ。



父親のプラートからは、「お前たちは独り立ちしたというのに、少々来すぎではないか」と呆れ顔で言われるけれど、私は知っている。


父は口ではそう言いながら、初孫であるディロロムの顔を見てあからさまに喜んでいるのだ。

だから私は気にしない。頼れるうちはたくさん頼っておこう。

私は古い固定概念に縛られない、現実的な考え方をする女なのだから。



さて、今日はそんな晩御飯の最中に、祖父のオモからちょっとしたサプライズがあった。

それは、娘のディロロムへの贈り物だった。


いや、ディロロムだけじゃない。

長男のトッシュをはじめ、ハッサン、フサン、ナスル、そしてディロロムと、トルスノフ家に連なる五人の子供たち全員への贈り物だ。

なんでも、この間荒野へ狩りに行った際に獲った、サイガの角で作ってもらったらしい。



万屋(ウスタ)のニヨズさんのところで仕立てさせたという、首からかける小さなお守り、魔よけだ。

紐が通せるように丁寧に穴があけられたその角細工は、私たちの教えに沿った聖なるシンボルをかたどっていた。

私たちの教えでは、神様から授かる魔力(ルフ)という目に見えない恵みはもちろん、水や獲物、作物、この広大な大地など、すべてのものは神様からの有り難い恵みであると考えている。



日々、祈りやルフを天に捧げるとともに、私たちは様々な恵みをいただいて生きているのだ。

その恵みをいただいている光を表した『光の柱』と、それを受け止める私たちの器という意味を持つ『受け鉢』。

この二つを繋ぎ合わせた意匠こそが、私たちの教えのシンボルとなっている。



美しく磨かれたサイガの角は、まさにその聖なる受け鉢と光の柱の形に彫刻されていた。

子供たちの安全や健康を祈願した魔除けだ。



聞けば、トッシュがこの間作ったという、「ろ過器」というものの材料を頼むついでに、祖父のオモがうまく話をつけ、タダで作らせたらしい。


あの祖父も、なかなかによい性格をしているものだわと、私は胸の中でニヤリと笑ってしまった。




——そうそう、トッシュが作ったというあのろ過器というものも、本当にすごいわね。



今日の実家の飲み水も全部それだったんだけれど、今まで私たちが飲んでいたお水があんなに泥臭くて砂っぽいものだったなんて、あの澄んだ水を飲むまでは全く知らなかった。


確かに、あんな大きな壺の中に石や砂を何層も重ねたり、定期的に掃除したり作り変えたりするのは、聞くだけで面倒くさそうだし、「別に今まで通りそのままの水でいい」という人は村にいくらでもいるだろう。。なんなら、そういう人の方が多そうだ。

だけど、私はせっかくならあんな飲みやすくて美味しい水が飲みたいわ。



それに、トッシュが真剣な顔で言っていた「水の中の悪いもの」を、私の愛しいディロロムが避けられるのであれば、どんな手を使ってでも絶対に避けたいわ。

この地域では、子供が三歳や四歳を超えるまで無事に育つのは本当に大変なことなのだ。

昨日まで元気に笑っていた子が、夏にお腹を下しただけで、次の日にはあっけなく亡くなってしまうことなんて、珍しくも何ともない。



だからこそ、おじいちゃんがくれたこのお守りも、トッシュが作ってくれた綺麗な水も、使えるものは全部使ってこの子を守り抜いてみせる。

私は小さなクリスマンをぎゅっと握りしめた。



腕の中で、何も知らずにすやすやと眠るディロロムの小さな寝顔を見つめる。

この子に、どうか温かくて明るい未来がありますように。



母としての強い願いを胸に秘めながら、私は賑やかな家族の笑い声に包まれて、実家の美味しい夕食を再び口へと運ぶのだった。


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