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ハードモードな中央ユーラシアに転生したので、生きることを目標とします 〜 普通中世ヨーロッパじゃないの!?劣悪な衛生や環境を乗り越える、異世界・非日常ファンタジー ~  作者: 山下オクトパス
第一章:転生と「水」への絶望

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01-38.生真面目な父の説得

賑やかだった昼食が終わり、家族全員で両手をお椀のようにして祈りを捧げ、静かに食後の儀を終えた。

器が片付けられ、いつもならお父さんが一息ついて午後からの畑仕事の準備を始めるこのタイミングで、僕は隣に座るおじいちゃんのオモとそっと目を合わせた。


おじいちゃんは僕を見て、白髭の口元を緩めながら、力強くコクリと頷いてみせた。

それが、僕たちの作戦開始の合図だ。


僕は大きく息を吸い込み、高床式縁台(タプチャン)の端に座るお父さんへと向き直った。



「お父さん、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」


「何だ、トッシュ。また狩りにでも行きたいのか?」


お父さんのプラートは厳しい表情で僕を見つめた。

僕はタプチャンの下に置いておいた、物置から運んでおいた小さな壺を両手で抱え、みんなの前に差し出した。

それを見た三男のフサンが、真っ先に身を乗り出して声を上げる。


「あ、これって、もしかしてあの綺麗な水~~!?」


「これ、ジャリジャリしないお水だよね!」



次男のハッサンも以前に物置で飲んだときのことを思い出したのか、嬉しそうに目を輝かせた。

お父さんは双子を軽く手で制しながら、怪訝そうにその小さな壺を見つめた。


「お前、最近物置で何やらこそこそとやっているとは思っていたが……これか」


「うん。お父さん、これ、少しだけでいいから飲んでみて」


僕は壺から小さな陶器の茶碗に水を注ぎ、お父さんへと手渡した。

お父さんは不審げに眉をひそめながらも、僕の真剣な眼差しに押されるようにして茶碗を受け取った。

そして、先ほどまで昼食時に飲んでいた貯水池(ハウズ)の上澄みの水と見比べるように一瞬だけ水面を見つめたあと、ゆっくりと口をつけた。




──お父さんの喉が、ゴクリと鳴る。


「……っ!?」


お父さんは一瞬で目を見開き、言葉を失った。

いつも飲んでいる水の、あのまとわりつくような土や砂の匂いが一切しない。

それどころか、驚くほど澄み切っていて、まるで山の湧き出し口から直接汲んできたかのような清涼感がある。



さっきまで飲んでいた水とは、まさに雲泥の差だった。


「これはいったい……? トッシュ、まさかお前、魔法の水なのか……?」


お父さんの驚きに満ちた声に、僕は首を横に振った。


「ううん。これは魔法のお水じゃなくて、ろ過をしたお水なんだ。石や骨炭や布で水を濾すことをろ過って言って……とにかく、魔法は一切使ってないよ」


「……それで、これがどうしたというのだ」


お父さんはまだ信じられないといった様子で、茶碗に残った水をじっと見つめている。

僕はさらに一歩踏み込み、本気の想いを言葉に乗せた。


「お父さん。実はね、今日からうちで飲む水は、全部これにしたいんだ。時々、布の上に積もった汚れを掃除したり、中の石や骨を交換すればいいだけだから、お金がかかるものじゃないし」


少しだけ間をあけ、さらに声に力を入れ、話を続ける。



「……いつも僕たちが飲んでいる水は、ちょっと嫌なにおいがするでしょ? あれはね、実は水の中に悪いものが入っているからなんだって。においが強くなる暑いときに、体調を崩したりお腹を下したりする人が多くなるのは、それが悪さをしているからなんだ。だから、その悪いものを取り除けるものを作ってみたんだ」


一気にまくしたてた僕の真剣さに、お父さんは圧倒されたように言葉を詰まらせた。

タプチャンの上が、水を打ったように静まり返る。

お父さんはしばらく沈黙していたが、やがて困惑を隠せない様子で低く呟いた。


「……そのろ過というものは、俺は聞いたこともない。それに、骨を使うだと……? それは、教えに背くものではないのか……?」


この世界の人々にとって、未知の技術や特に骨を使う行為は、本能的な不安を誘うものらしい。

お父さんの生真面目な警戒心に、僕は一瞬言葉に詰まりそうになった。

そこへ、おじいちゃんが力強い助け船を出してくれた。


「プラートよ。それが教えに背くものなのかどうか、ワシも偉い導師様ではないからわからん。だがな、トッシュが家の者たちの身体を気にして、これらを作った心は紛れもない本物じゃ。本当に効果があるかはわからんが、まずは試してみてもいいじゃないか。実際にこれだけ美味い水になっているのじゃからな」


「おじいちゃん……」


僕は嬉しくなっておじいちゃんを見つめ、それからもう一度お父さんをまっすぐに見上げた。



「おねがい、お父さん。みんなでお腹が痛くなるのをなくしたいんだ」


「ぼくたちからもお願いしたいなー! ジャリジャリするお水より、こっちの方が絶対にいいよー!」



フサンとハッサンも僕の横に並んで、一生懸命に小さな手を合わせる。

さらに、それまで静かに話を聞いていたおばあちゃんのグルスランが、ふっと口元を緩めてお父さんの背中を優しく小突いた。


「ふん、プラート、お前さんの負けじゃな。子供たちがこれだけ言うんだ、試してみたらいいだろう」



家族全員からの怒涛の説得に、お父さんはついに観念したように肩の力を抜いた。

そして、茶碗を置くと、少しだけ苦笑いを浮かべて僕たちを見回した。


「……おやじ殿や母上までそう言うなら、わかりました。しかし、トッシュが何やらやっていたとは思っていたが、俺とムフバット以外の皆はすでに知っていたようだな」


「ほっほっほ! 生真面目なお前さんを納得させるために、それだけトッシュも知恵を絞り、成長したということじゃ。プラート、息子の成長を嬉しく思え」



グルスランがそう豪快に笑うと、最初は何があるんだろうと心配そうにしていたお母さんも嬉しそうに微笑み、高床式縁台(タプチャン)の上には温かな笑い声が広がった。


『おいおいトッシュ、大勝利じゃないか! おやじさんを完全に攻略したぜ! これでトルスノフ家のろ過器で水改善プロジェクトは成功だな!』


脳内の『雲』の向こうで、おじさんが我がことのように大はしゃぎでガッツポーズを決めている。


(うん、やったよおじさん! みんなのおかげで成功したよ!)





じりじりと照りつける夏の太陽を浴びながら、僕は家族の笑顔を見つめ、この温かい幸せを病気から守り抜くための確かな手応えを、その胸に深く刻み込むのだった。


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