01-34.魔法を授かった意味
僕たちは、ソディル義兄さんと羊たちが待つ放牧地へと急いで引き返した。
遠くから僕たちの姿を見つけると、ソディル義兄さんは嬉しそうに大きく手を振って迎えてくれた。
繋がれたロバの背には、先に3人が仕留めた七匹の野ウサギが、すでに綺麗に揺られている。
そこに、おばあちゃんが見事に仕留めた一頭の中型のサイガが加わった。
全部でサイガが一頭に、野ウサギが七匹。
平日のわずかな時間での狩りとしては、これ以上ないほどの大戦果だ。
「いやぁ、本当に大漁ですね! これなら家族みんなでお腹いっぱい食べられますよ!」
ソディル義兄さんは、丸々と肥えたサイガの体を慣れた手つきでロバの荷台へ固定しながら、我がことのように顔をほころばせた。
準備を整えた僕たちは、羊の群れを先頭に立たせ、ゆっくりと村への帰り道を歩み始めた。
帰り道のロバの上で、僕は興奮が冷めやらないまま、隣を歩くおばあちゃんを見上げた。
「ねえ、おばあちゃん! さっきの弓、本当に凄かったよ! 矢が放たれた瞬間、風みたいにびゅんって飛んでいって、サイガが一歩も動けなかったんだ!」
『おいおい、本当にぶったまげたぜ。ただ弓を射るだけじゃ、あんな風の渦なんて起こるはずがない。科学的には説明のつかない超常現象だが、俺が見ても、普通に放っただけじゃないってことくらいは分かったぞ』
脳内で、おじさんも同じように腕を組んで興奮気味に頷いている。
「あれは、一体何をやっていたの?」
僕が尋ねると、おばあちゃんは愛馬ジョイの上から、嬉しそうに目を細めて僕を見下ろした。
「あれはね、弓矢を射るときに、風の力を借りていたのさ。さっき唱えた大典の言葉で、風の魔力を呼び出してね。矢の速度をぐんと上げるだけじゃなく、狙いが風で逸れないように、矢の周りの風の軌道をまっすぐに整えていたんだよ」
「風の魔法って、すごいんだね……!」
僕が感嘆の声を漏らすと、ソディル義兄さんも大きく頷いた。
「ええ、本当におばあ様の風の弓は、この辺りでも並ぶ者がいないほどの名技ですよ。僕たちじゃあ、あんな風を鋭く操ることはとてもできません」
「よしおくれ、ソディル。目立つ魔法ばかりが能じゃないさね。お前さんや、そこのおじいさんだって大したもんさ」
おばあちゃんはおじいちゃんを軽く小突くように視線を向け、それからソディル義兄さんへと微笑みかけた。
「私のような風の魔法みたいに、目に見えて派手なものじゃないけれどね。お前さんたちのように、体の中の魔力を使って、身体能力をぐっと強化して放つ弓だって、なかなかだ。あれだって立派な魔法さ」
おばあちゃんの言葉に、ソディル義兄さんは少し照れくさそうに頭を掻いた。
僕は、いつも一緒に畑仕事をしているときに、ソディル義兄さんが遠くから魔法を使っている様子を思い出した。
「ねえ、ソディル義兄さん。義兄さんはいつも、畑仕事のときに砂の魔法を使って、固い土を柔らかくしたり、土をならしたりしているよね。あの砂の魔法を、狩りに使うことは難しいの?」
「ははは、僕の砂の魔法かい? そうだな、魔法が使えるといっても、僕の体の中の魔力は大して量がないみたいなんだ。それに、砂属性の力というのは、なかなか戦いや狩りには向いていなくてね」
ソディル義兄さんは、自分の大きな手を広げて苦笑いした。
「日干しレンガを作るときに砂を速く固めたり、土木作業のときに少し使えたり、畑を耕すのが速いくらいで地味なものばかりさ。なかなか戦うのには使えないんだよ」
『いやいや、めちゃくちゃ便利じゃないか! 日干しレンガがすぐ作れるなんて建築だと超便利スキルだし、土木作業を素早くこなせるなんて、農業が基本のこの世界じゃ超有能な属性じゃないか!』
脳内のおじさんが『地味だけど実用性抜群すぎるだろ!』と大絶賛している。
僕も、心からソディル義兄さんを見上げて微笑んだ。
「そんなことないよ! お家を直したり、畑を耕したりできるなんて、農家の仕事には一番役に立つ魔法じゃないか。僕はすごくかっこいいと思うし、みんなを助ける素晴らしい魔法だよ!」
「トッシュ……。そう言ってもらえると、なんだか少し照れくさいけど、嬉しいな」
ソディル義兄さんは本当に嬉しそうに目を細め、僕の頭を優しく撫でてくれた。
おじいちゃんやおばあちゃんも、そのやり取りを満足そうに眺めている。
「そうさね。魔法は使いどころ次第だよ。トッシュ、お前さんの水属性だって本当に素晴らしいものさ。この乾いた地において、水は金よりも価値がある。ただ綺麗な水を呼び出せるだけでも、農耕にも、飲み水にも、あらゆることに使える。どんな魔法であっても、神様から授かった尊い力なんだよ」
「尊い力……」
僕は、おばあちゃんの言葉を噛み締めながら、自分が今作ろうとしているろ過器のこと、そして家族を病気から守るための作戦を頭に思い浮かべていた。
僕が水属性を授かったのには、きっと大きな意味があるはずだ。
一刻も早く、綺麗な水をみんなに届けたい。
「その通りじゃな。さあ、そうこう言っているうちに、村の入り口が見えてきたぞ」
おじいちゃんが前方を指差すと、オイアクス村の日干しレンガの家々が、赤茶けた荒野の向こうに小さく浮かび上がっていた。
「早く帰って、このごちそうをお父さんやお母さんたちに見せてやろうじゃないか。子供たちも、きっと目を丸くして羨ましがるぞ」
おじいちゃんの楽しげな声に、僕たちは笑顔で頷き合い、背負ったたくさんの戦利品と共に、温かい我が家へと向かってロバたちの足を急がせるのだった。




