01-25.骨の炭
「よし、ハッサン、フサン。お前たちは母ちゃんが台所で呼んでおったぞ。夕飯の支度を手伝ってきなさい」
祖父オモが優しく促すと、双子はまだ遊び足りなさそうに顔を見合わせたが、おじいちゃんの言葉には逆らえない。
「はーい。トッシュ兄ちゃん、また後でね!」
「今度はお水、もっとたくさん作ってよ!」
二人はドタドタと元気よく物置から出ていき、その足音が台所のほうへ消えていくのを待って、僕はホッと胸をなでおろした。
物置からオモの部屋へと移動し、小さな壺に溜まった綺麗な水を、改めてテーブルの上に置く。
部屋には干し草と、少し古い紙の匂いが漂っていた。
「さて、トッシュ。二人きりになったことじゃ、じっくりと話を聞こうか。トリーブ先生が言っていたという、水を綺麗にする方法。これだけで終わりではないのじゃろう?」
オモは長年この地を治めてきた長老としての深い目を僕に向けて、じっと先を促した。
僕はコクリと頷き、おじさんの脳内アドバイスを受けながら、トリーブ先生の「聞きかじり」を装って語り始めた。
「うん。本当はね、この石や砂だけじゃ、細かい泥は取れても、目に見えない小さな『悪いもの』や、水の嫌な臭いまでは完全には消せないんだって。もっと綺麗にするためには、砂や石の間に『炭』を混ぜなきゃいけないの。それから、お水をしっかり沸かしてお湯にして、沸かしてから飲まないと本当に安心じゃないんだって、トリーブ先生が言ってた」
「お湯にする、か。だが……お湯を沸かすには、それなりの燃料が必要じゃな」
オモは白い髭をなぞりながら、少し難しい顔をした。
この乾燥地帯において、薪や木炭は極めて貴重な贅沢品だ。
普段の料理には、家畜の糞を乾燥させた糞炭を使っている。
毎回の飲み水を全て沸かすほどの燃料は、うちの家計ではとても賄いきれない。
「そうなの。実は前に、母さんにも『お水じゃなくて、毎日お湯かお茶が飲みたいな』って頼んでみたんだけど……。燃料が足りないから毎回沸かすのは無理だって言われちゃって。今までより少し回数を増やすくらいならできるけど、普段は今まで通りお水を飲んでねって言われちゃったんだ」
「ふむ……。ムフバットの言う通りじゃな。お前の言う悪いものを消すためとはいえ、毎日何度も火を熾していては、我が家の蓄えなど一瞬で消えてしまうし、その悪いものというのも理解が難しいじゃろう」
オモは腕を組み、天井の日干しレンガを見つめながら深く考え始めた。
——部屋の出口から差し込む夕暮れの光が、室内の埃を金色に照らしている。
静寂が部屋を支配する中、オモはしばらくの間、じっと目を閉じて何かを思い出そうとしていた。
「……そういえば昔、どこかで出会った旅の薬売りや商人から妙な話を聞いたことがあってな。炭というのは、何も木を焼いたものばかりではない、と」
「木じゃない、炭?」
「うむ。なんでも、獣の骨を焼いて作る『骨炭』というものがあるらしい。詳しい作り方までは知らんが、それも普通の木炭と同じように使えるそうじゃ」
(おじさん! 骨炭ってわかる・・・?)
僕が心の中で問いかけると、脳内のおじさんが少し記憶を掘り起こすように答えた。
『おいおい、骨炭か!なんかの本かテレビで見たことがあるぞ。動物の骨を炭にするやつだろ。詳しい作り方は知らないが、たしかに聞いたことがある気がするぞ。木炭が手に入らない今の俺たちにとっては、試してみる価値は大アリだな!』
(すごい……おじいちゃん、おじさんよりも物知りだ!)
『うっせえわ!おじさんよりも、は余計だ!』
(えへへ……)
僕は喜びを抑えきれずにオモを見つめた。
だが、オモはすぐに少し困ったように肩をすくめた。
「しかしな、トッシュ。聞いたことはあるが、ワシらにはその炭の作り方なんて分からんし、自分たちで適当に焼いて作れるものではないことだけは確かじゃ」
「うーん……そっか。やっぱり僕たちじゃ作れないんだね」
「いや、あやつなら、あるいは作れるかもしれん」
オモの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
「あやつ?」
「村の北の隅に、ニヨズという男がおるじゃろう。大工仕事から鉄や土器の細工、お守りの飾りまで、手先を使う仕事ならなんでも引き受ける、偏屈な万屋じゃ。あやつの窯なら、その骨の炭とやらも作れるかもしれんぞ」
「本当!? じゃあ、頼めば作ってくれるかな?」
「子供だけが頼みに行っても、おままごとだと追い返されるのがオチじゃ。だが、ワシが一緒に行って頼めば、なんとかやってくれるかもしれん。よし、今度あの偏屈者のところへ行ってみよう」
「うん! ありがとう、おじいちゃん!」
僕は思わずオモの頑丈な腕にしがみついた。
(おじさん、やったよ! おじいちゃんが一緒に行ってくれるなら、僕が頼むよりよさそうだね!)
『ああ、本当に頼もしいな。おじいちゃんを味方(?)につけられたのはラッキーだったな。少しずつ、だけど確実に、まともな水への道が開けてきたな』
おじさんの安堵した声が脳内に優しく響く。
まだ水路の泥を完全になくすことはできないけれど、僕たちの生き残りをかけた小さな一歩が、確かに大きく動き出そうとしていた。




