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ハードモードな中央ユーラシアに転生したので、生きることを目標とします 〜 普通中世ヨーロッパじゃないの!?劣悪な衛生や環境を乗り越える、異世界・非日常ファンタジー ~  作者: 山下オクトパス
第一章:転生と「水」への絶望

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01-12.朝の水汲み

あの拝受の儀の喧騒から、数日が瞬く間に過ぎ去っていった。


僕の体調はすっかり元通りになり、頭痛に悩まされることもなくなった。

お母さんに必死に頼み込んだ「毎日お湯を飲む作戦」は、我が家の深刻な燃料不足という現実の壁の前に、あっけなく玉砕してしまった。



畑仕事や家畜の世話で乾ききった喉を潤すには、どうしてもただの水を飲まざるを得ない。

最初は水を飲むたびに、頭の奥のおじさんが「ぎゃあああ! 菌が! 寄生虫が!」と声にならない悲鳴を上げ、脳内の『雲』を激しく波立たせていた。



けれど、人間というのは恐ろしいほど環境に適応する生き物だ。


数日も経てば、おじさんも「この体の元々の免疫力と胃腸の頑丈さに賭けるしかない……」と、諦めを含んだ半ば祈るような気配で沈黙するようになった。

日本という衛生的な環境で生きてきたおじさんにとっては地獄だろうけれど、僕の体は、案外タフにできているみたいだった。

そうして僕は、一旦は水の恐怖を心の奥底へと仕舞い込み、オイアクス村でのいつもの日常を取り戻していったのだ。


「おい、ハッサン、フサン。起きなよ。朝の水汲みの時間だよ」


夜が明けるよりも少し前の薄暗い子供部屋で、僕は二人の肩を小突いた。

窓の外はまだ紺色で、夜の冷たい空気が泥レンガの壁をひんやりと冷やしている。


「うう……ん……もうそんな時間か……」


「にぃちゃん、あと少しだけ……」


二人は相変わらず布団に丸まってグズグズと言っていたけれど、長男である僕が「置いていくよ」と言うと、慌てて跳ね起きた。

毎朝の生活用水を汲みに行くのは、僕たち兄弟の最初の大事な仕事だ。

中庭に降りると、僕たちは使い込まれた大きな革袋と、素焼きの土器の壺を手にとった。



頑丈に縫い合わされた牛や羊の革袋か、重い土器の壺に水を汲んでくるのが当たり前だった。

おじさんの世界の『水道』がとても羨ましい。


「トッシュにいは病み上がりなんだから、一番小さい革袋にしなよ。僕とフサンで重い壺を持つからさ」


ハッサンが少し眠そうな目をこすりながら、僕を気遣うように言った。

いつもフサンの悪ガキっぷりを止めているだけあって、こういう時は少し兄貴ぶるのがハッサンだ。


「なんだよハッサン、かっこつけちゃって。同じ日に生まれたんだから変わらないだろ。僕だってトッシュ兄ちゃんを心配してたんだからね! ほら、僕がそっちの重い方を持つよ!」


フサンが負けじと土器の取っ手を引っ張る。


「いいよ、二人ともありがとう。でももう大丈夫だから、みんなで分けて持とう」


僕は笑って二人の頭を撫で、それぞれの大きさに見合った革袋と土器を抱えた。

まだ静まり返った村の小道を、兄弟三人でザッ、ザッ、と乾いた土を踏みしめながら歩き始める。

見上げると、村のすぐ近くにある険しい山の黒いシルエットが、薄明かりの中に浮かび上がっていた。



あの山から掘られた地下水道(カナート)を通って、村の貯水池へと水が流れてきている。

地下を通っているとはいえ、途中のメンテナンス用の穴からは様々なものが入り込んでいるし、水路は『コンクリート』や『金属製の管』なんてものでおおわれていない、ただの土だ。

時期や時間帯によっては、どこか生ぬるくて、もっさりとした泥の匂いが鼻をくすぐる代物だ。



……そう、最近は思うようになってしまった。


「ねえトッシュにい、本当に魔法が使えるようになったの? 今度僕たちにも見せてよ!」


フサンが水袋を揺らしながら、目を輝かせて聞いてくる。


「それがまだ、この間のことがあったから先生が魔法を教えてくれないんだ。多分そろそろ教えてくれるとは思うんだけど」


「あ~、そうなんだ~最近トッシュ兄ちゃんは妙にお水にこだわるからさ、自分で水を出して飲めばいいのにな~って思ってたんだけど」


「それだよね~僕も思ってた」


「僕もそうしたいんだけどね、今度先生にそろそろってお願いしてみる」


(そっか、弟たちにも水に妙にこだわっているように思われてたのか・・・)


そんな二人と会話をしながら歩いていると、少しずつ村の中央にある開けた広場が見えてきた。

そこには、このオイアクス村の命綱とも言える貯水池(ハウズ)がある。

水汲み場に近づくにつれて、ざわざわとした人の気配と、水を吸い上げる革袋の擦れる音が聞こえ始めていた。

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