世の中、金がなければはじまらない
「ごちそうさま。おいしかった! ありがとう」
この一言を言えたのは、生まれてはじめてのことだった。
そして、心からの「ありがとう」も、ゼリーたちに出会わなければ、発することはなかったはずだ。
この〝ありがとう〟なんかじゃ伝えきれない感謝を、どう伝えればいいのだろうか。
彼らが私を助けてくれたように、いつか私も彼らの役に立ちたいと誓った。
十歳の小さなお腹は、赤い実十個でそこそこ満たされた。
前世では考えられないほどのわずかな量だが、胃袋がとんでもなく縮小していたのだろう。
寄ってきた他のゼリーたちも、いそいそと木の実を出してくれたが、それは後でいただくことにした。
「みんな最高。助けてくれて本当にありがとう。すごく……うれしい」
持つべきものは友だちだ。持ちつ持たれつしていけたらいい。
ゼリーたちのおかげで歩く力を得た私は、早々に退散することにした。
七匹のゼリーたちも、ひょこひょこと揺れながらついてくる。何度も振り向き、ぷるぷるな姿を確認すると、元気な個体もいるのか、ぴょんと跳ねてみせてくれた。
「ねえみんな。あのおじさん、動かないけど、殺したりなんかしてないよね?」
百メートルほど後方で倒れている男を眺める。ぴくりとも動いてなさそうだ。
鳩尾パンチで死なないとは思うが、あの男の利用方法を思いついたから、できれば活用したかった。
ゼリーたちは、みんなでころりと球体になっている。つまり、殺していないということだ。
「よかった。ねえみんな、聞いてくれる?」
こちらを見上げているような視線を感じる。ゼリーのみんなには目がないのに不思議な感覚だ。
「私に考えがあるの。この先、私たちが生きるには、絶対にお金が必要になる」
話の途中で人差し指をぴんと立てると、ゼリーのうちの一匹が私の手の真似をして、人差し指の形になった。
ゼリーは全員で意思統一ができるが、それぞれ個性を持っているようだった。ひと目で彼らを見分けたいが、これがなかなかむずかしい。今後の課題だ。
「だから教えてほしいの。人がたくさん住んでいる場所ってわかるかな? 大人たちがいっぱいいる所というか、建物が立ち並んでいる所。そこに向かいたいんだ。知ってる?」
ゼリーたちは、まんまるなまま、ぽんぽんと軽快に飛び跳ねる。──あれだ。スーパーボールみたいだ。
「知ってる、知ってる」とこちらに訴えかけているようにも見える。
「私がしようとしていることはね、あの人攫いを警察的な組織に引き渡すこと。たぶん凶悪犯をつかまえたということで、謝礼金がもらえると思う。まず、そのお金を得ることを目指したい」
この世界に、警察的な組織があるのかわからないけれど、動いた方が動かないよりも正解に決まっている。
行動するうちに、この異世界のことを少しずつ理解していけばいいのだ。みんなで生きていくために。
いまだにぽんぽんと飛び跳ねているゼリーたちは、みんな一斉に左の方へ移動する。
はじめは踊りか何かだと思ったが、案内してくれていることに気がついた。
しかし、私が歩くには不可能な瓦礫の壁を越えようとするから、その都度「そこは行けないよ」と修正が必要だった。
ゼリーたちを追いかけながら、先ほどの彼らの勇姿を思い浮かべる。
大きな男を手際よく伸してしまった。
彼らがいるのなら、なんだって出来そうだと勇気が湧いてくる。
それこそ、大人と渡り合うくらいはやってみせる。




