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スライムの女王  作者: 黒戸しろ


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6/7

世の中、金がなければはじまらない

「ごちそうさま。おいしかった! ありがとう」

 この一言を言えたのは、生まれてはじめてのことだった。

 そして、心からの「ありがとう」も、ゼリーたちに出会わなければ、発することはなかったはずだ。

 この〝ありがとう〟なんかじゃ伝えきれない感謝を、どう伝えればいいのだろうか。

 彼らが私を助けてくれたように、いつか私も彼らの役に立ちたいと誓った。


 十歳の小さなお腹は、赤い実十個でそこそこ満たされた。

 前世では考えられないほどのわずかな量だが、胃袋がとんでもなく縮小していたのだろう。

 寄ってきた他のゼリーたちも、いそいそと木の実を出してくれたが、それは後でいただくことにした。

「みんな最高。助けてくれて本当にありがとう。すごく……うれしい」

 持つべきものは友だちだ。持ちつ持たれつしていけたらいい。


 ゼリーたちのおかげで歩く力を得た私は、早々に退散することにした。

 七匹のゼリーたちも、ひょこひょこと揺れながらついてくる。何度も振り向き、ぷるぷるな姿を確認すると、元気な個体もいるのか、ぴょんと跳ねてみせてくれた。

「ねえみんな。あのおじさん、動かないけど、殺したりなんかしてないよね?」

 百メートルほど後方で倒れている男を眺める。ぴくりとも動いてなさそうだ。

 鳩尾パンチで死なないとは思うが、あの男の利用方法を思いついたから、できれば活用したかった。

 ゼリーたちは、みんなでころりと球体になっている。つまり、殺していないということだ。

「よかった。ねえみんな、聞いてくれる?」

 こちらを見上げているような視線を感じる。ゼリーのみんなには目がないのに不思議な感覚だ。

「私に考えがあるの。この先、私たちが生きるには、絶対にお金が必要になる」

 話の途中で人差し指をぴんと立てると、ゼリーのうちの一匹が私の手の真似をして、人差し指の形になった。

 ゼリーは全員で意思統一ができるが、それぞれ個性を持っているようだった。ひと目で彼らを見分けたいが、これがなかなかむずかしい。今後の課題だ。

「だから教えてほしいの。人がたくさん住んでいる場所ってわかるかな? 大人たちがいっぱいいる所というか、建物が立ち並んでいる所。そこに向かいたいんだ。知ってる?」

 ゼリーたちは、まんまるなまま、ぽんぽんと軽快に飛び跳ねる。──あれだ。スーパーボールみたいだ。

 「知ってる、知ってる」とこちらに訴えかけているようにも見える。

「私がしようとしていることはね、あの人攫いを警察的な組織に引き渡すこと。たぶん凶悪犯をつかまえたということで、謝礼金がもらえると思う。まず、そのお金を得ることを目指したい」

 この世界に、警察的な組織があるのかわからないけれど、動いた方が動かないよりも正解に決まっている。

 行動するうちに、この異世界のことを少しずつ理解していけばいいのだ。みんなで生きていくために。


 いまだにぽんぽんと飛び跳ねているゼリーたちは、みんな一斉に左の方へ移動する。

 はじめは踊りか何かだと思ったが、案内してくれていることに気がついた。

 しかし、私が歩くには不可能な瓦礫の壁を越えようとするから、その都度「そこは行けないよ」と修正が必要だった。

 ゼリーたちを追いかけながら、先ほどの彼らの勇姿を思い浮かべる。

 大きな男を手際よく伸してしまった。

 彼らがいるのなら、なんだって出来そうだと勇気が湧いてくる。

 それこそ、大人と渡り合うくらいはやってみせる。

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