友だち作戦
お腹を抱えていると、体が傾く。ゼリーたちは心配そうにおろおろした。
平気なふりをしたいけれど無理そうだ。強がりたくても気力はまったく残っていない。
まともな食事をしたのはいつ頃か……そもそも、満腹は経験したことがなかった。いつも硬いパンと泥まじりの水を飲んで空腹をごまかして生きてきた。
膝の上に額を乗せて、息をつく。飢餓は苦しくて仕方がない。
ぐったりとしていると、七匹のゼリーたちが私に挨拶をするかのように足元にくっついた。
そして、全員が地面に溶けこむように平べったくアメーバ状になった直後、素早く散開していった。
やがて姿は見えなくなった。
「…………え?」
彼らがどこに行ってしまうのか、追いかけたかったけれど、まるで根が這っているかのようにおしりを持ち上げられない。
「コロンちゃん……太郎くん、次郎くん、三郎くん、四郎くん、五郎くん、六郎くん」
今の私は、彼らがまた戻ってきてくれることを祈って待つことしかできない。
いっそ、私もゼリーとして生まれていれば……。
涙がにじんで、手で拭う。心置きなく目に触れられるのはコロンのおかげだ。
親切を知ってしまうと、孤独感は強くなる。胸が不安でいっぱいだ。
あれからどのくらい時間が経過したのかわからないが、ゼリーたちは誰も戻ってきていなかった。
いつの間にか地面は赤く色づいて、影が長くなっていた。
「まさか、お別れの挨拶……じゃないよね? やだよ……」
ぎゅっと目を閉じ、暗くなる思考を振り払おうとしていると、上から声が降ってきた。
「汚ねえガキだな。親は──いねえな」
嗄れた声だった。見上げたそこに立っていたのは、毛むくじゃらの熊のような男だ。
お腹がたぬきの像のようにぽっこりと膨れている。見事なビール腹だった。
「しかし、なんだその顔。ぼこぼこに腫れ上がってるじゃねえか。高くは売れねえが……まあいい」
ぐっと首を押さえつけられ、背中の服を鷲掴みにされた。
手と足をばたつかせたが、空を切る。
子どもの私は簡単に男に持ち上げられてしまった。片手だけで、荷物のように。
人攫いだ!
「離してっ」
「だまれガキ。うるさくすれば歯を全部へし折るぞ」
私の歯は乳歯もあるが、前歯はすべて永久歯だ。一生ものなのに気軽に折られるのは困る。
男に従うのは我慢がならないが、黙るしかなかった。
思えば、自分でも今生きているのが不思議なくらいだ。
きっと、ここまでが私の寿命なのだろう。
次の転生があるのだとしたら、ゼリーがいい。人間はこりごりだ。
諦めて大人しくしていると、男が突然「おわっ」と言った。
声と同時に、私は男の腹にぼよんと乗った。それから地面に投げ出される。
バランスを崩したのか、男が尻餅をついたのだ。
男の足元は、つるりと照っている。
よくよく見れば、アメーバ状になったゼリーだった。きっと、男はバナナの皮よろしくゼリーを踏んですべったのだ。
どのゼリーの子だろうと考えて、まったく見分けがつかないから叫ぶ。ゼリーのみんなに届くように。
「ゼリーちゃん!」
もう一匹、瓦礫の影からぽんと飛び出す。
ゼリーはべしゃっと男の顔に飛びつくと、顔を覆ってしまった。
男はがむしゃらに足や腕を動かして、ゼリーを剥がそうとする。鼻と口をゼリーに塞がれて、空気を確保できないのだ。
おどろくことに、すぐそばでは三匹のゼリーが溶け合って合体し、みるみるうちに濁っていった。
そのまま彼らがとった行動は、ボゴォっという鳩尾への体当たりパンチだった。
おそらく彼らは凍って強度を増したのだろう。カチンコチンだ。
「ぐへぇ!」
ぶっとばされた男は、ごろごろと地面に転がる。
どうやら失神しているようだ。
突然の出来事に、放心してしまっている私の前に、二匹のゼリーが姿を表した。
違和感を覚えるのは、ゼリーたちはみんな五センチ前後だったはずなのに、その二匹は十センチ程度に見えるからだった。
成長したのかな、と思っていると、二匹はそれぞれ体の中から赤い実を五つずつ吐き出した。
五センチ程度の大きさに戻った二匹は、うにょっと体を伸ばして、私に実を近づける。
合計十個の赤い実は、とてもおいしそうだった。
「……私にくれるの?」
二匹のゼリーたちは、まるっとなって、『はい』を表す。私の飢えを心配してくれて、持ってきてくれたらしい。
彼らのくれた赤い実は、グミの実によく似ていた。
前世では特に美味しく感じていなかったけれど、今世では何よりも美味しく感じた。




