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亜人戦争  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
22/23

20 独自目標

「さて」

 そして、他機との交信が断たれた状態で、ブラウン大尉は俺達を見やった。

「久しいな、チャーリー、ウィル」

 上官とは思えない朗らかな笑顔で、ブラウン大尉はチャーリー曹長と俺に話しかける。

「そうですな、ブラウン大尉」

「お久しぶりです、ブラウン大尉」

 何事もなかったかのように平静に応じるチャーリー曹長の口調に俺も倣う。

「おいおい、なんのために私が出向いていると思ってるんだ? 今は他の隊の目もない。昔通り、テッドで構わないよ」

「司令官に対してそういうわけにはいきませんな。オペレーション中でもあることですし」

「私も部下の目があるもので、失礼ながら」

 大尉に対するものと思えない俺達の受け答えに、部下が内心穏やかでないことが顔色からも伺える。

「なるほど、確かにその通りだな? では、君達。ここでのやり取りは軍機に抵触する恐れがある。内密ということで頼むよ」

「「「「「「ハッ!」」」」」」

 明らかにふざけている様子のブラウン大尉だが、大尉の命令に兵卒が返すのは了承のみ、否やがあろうはずもない。

「ということだ」

 お道化た様子でブラウン大尉が肩を竦める。

 そんな大尉の様子に、チャーリー曹長が溜め息を吐いたので、俺も諦める。テッド先輩がここまで押してきている以上、意見を変える気はないだろう。

「オッケー、わかったよテッド。昔通りいかせてもらおう」

 左右に頭を振って、チャーリー曹長がテッド先輩に向き直る。俺は年配であるチャーリー先輩にテッド先輩への対応を任せる。

「それで、どういうことだ?」

 まさにそれだ。司令官であるテッド先輩が特定の班のみに顔出しをし、親しみやすさを演出する。どう考えても何かがあるとしか思えない。

「何がだい?」

「とぼけるなよ。どうしてお前がこの機に乗ってるのかってことだ。まさか俺達と旧交を温めるためというわけでもないだろう?」

「いや、それだけだが?」

 あくまでとぼける大尉。

「オッケーオッケー、それじゃ用はもうすんだな? 俺達は班内ブリーフィングを始めさせてもらおう」

 つれなくチャーリー先輩は大尉に背を向け、部下に向き直ろうとする。

「冷たいな、チャーリー。いつからそんなにつれなくなったんだい?」

 あくまで変わらぬ態度で、テッド先輩はその背に追いすがる。

「お前が俺の上官になって、俺にも部下ができた頃からかな」

「寂しいものだね。旧友との再会は昔語りをしたくなるものだろう?」

「再会理由が任務じゃなければな。仕事が片付いた後なら、嫌って程ウィルと一緒にバーボン片手に付き合ってやるさ」

 今度はテッド先輩が深く息を吐く番だった。ちなみにチャーリー先輩、さりげなく俺を巻き込むのは勘弁してほしい。

「オッケー、今の約束を忘れるなよ」

 降参したように苦笑した後、ブラウン大尉は顔を引き締め直した。

「私達がこの機に搭乗したのは他でもない。本作戦の目標、エマ=テイラー博士に係る秘匿命令を伝達するためだ」

 語り始めながらも、ブラウン大尉はチラリと意味ありげにイザベラ中尉を見やった。その視線を追えば、イザベラ中尉が今時珍しいペーパーを胸前で掲げている。曰く、

『本題はこっちだ。大尉の話を聞いているふりをしながら読め。脈拍も変化させるな』

 同時にイザベラ中尉は、胸元を人差し指で指し示す。

 緊張が走った。

イザベラ中尉の行動が意味すること。大尉と中尉は上に内密で独自の命令を俺達に下すつもりでいる。

俺達、亜人部隊全員の心臓に仕掛けられた裏切り防止用の自爆兼監視装置・リーパー。その盗聴に悟られない視覚情報で、俺達に上のものとは異なる大尉独断の命令を伝えようとしているのだ。

「本作戦の最優先目標はコロニー解放、過激派勢力の捕縛、殲滅及び彼女の保護と伝えたな」

「「ハッ!」」

 リリーも、シャルも、ソフィも、チャールズ班の三人も。部下達が顔を強張らせる中、チャーリー曹長と俺だけが、何事もなかったかのように隊長として応答する。

「あれは正確ではない」

「と、言いますと?」

 年長のチャーリー曹長が、場を代表して問い返す。

「最優先目標は彼女の過激派勢力からの分離のみ。それさえ果たせれば、コロニー解放も過激派勢力の捕縛、殲滅も後回しでよい」

『彼女の独自確保。それが我々の最優先目標だ』

 大尉の言葉だけでも衝撃的なのに、少尉のペーパーは尚更だった。

独自(・・)確保。リーパーの集音を逃れて伝えようとしている以上、それは上とは別に大尉達が彼女を確保するということだ。

「どういうことですか?」

 流石に、チャーリー曹長も緊張した声音で問い返した。これはまさか演技じゃないだろう。

「彼女は非常に優秀な科学者とのことだ。だから、国としては当然彼女を保護したい。今後も国家のために研究を続けてもらうために」

『上は亜人勢力と彼女の分離を最優先としている。よって彼女は私達亜人にとって、重要な何かを握っている可能性が高い』

 そんな推測と勘だけで自らの命を危険に晒す反乱とも言える行動を? 理解しかねる選択にこちらまで巻き込まれるのは勘弁してほしい。

 そんなことを思っていると、『深呼吸をして読め』、というペーパーがめくられ、

「その彼女が過激派勢力に利用されること。当然ながらそれは国家にとって不利益となる。そのため、保護が無理であれば除去も止む無し。それが国の判断だ」

『彼女は亜人研究の専門家だ、リーパーに関しても何か知っている可能性がある。場合によっては、その無力化方法も』

 前置きがされていても、動揺を隠しきれたか。

 リーパー。俺達の人生を縛る元凶。俺達の命を握り、俺達が裏切り者と罵られようと、同胞に牙剝くことを強いる悪魔。それから、解放される?

「どうしてそれを我々だけに?」

 俺達の動揺をリーパー向こうの監視から隠そうとするかのように、チャーリー曹長が声を発する。

「民間人、それも一部界隈では名の知れた民間人の排除も視野に入れた作戦だ。流石に国としても体裁が悪いと見える。いかに国民の半数以上が気にしなくともな」

 除去。排除。明確な言葉を使わなくとも、それらが意味することは明らかだ。

「信頼できる部下にのみ、本命令を下すよう指示があった。そこでチャーリー曹長、ウィリアム曹長。君達とその優秀な部下達を最も目標との遭遇確率が高そうなフロントラインのセンターに配置し、本命令を下したわけだ」

 頭が痛いと言いたげにチャーリー曹長は眉根を押さえ、

「そこまで見込まれて嬉しい限りだよ」

 皮肉気に口の端を歪ませた。

「もちろんだ。研究所時代から一緒の君達を信じなくて、他の誰を信じるというんだ、チャーリー、ウィル?」

 言ってろと吐き捨てるチャーリー曹長の上官に対するものとは思えない暴言を、むしろ嬉しそうに大尉は笑い飛ばした。

「チャールズ班、ウィリアム班、両班に命ずる。エマ=テイラー博士を過激派勢力から分断せよ。いかなる(・・・・)手段(・・)を(・)用いて(・・・)も(・)だ」

『エマ=テイラー博士を独自に確保。上には秘密裏に情報を入手すること』

「「「「ハッ!」」」」

 無茶苦茶な命令にも俺達は従わざるを得ない。リーパーに命を握られている限り。

そして、そのリーパーから逃れる可能性がある限り。

「話は以上だ。班内ブリーフィングに移ってよし」

「「ハッ!」」

 大尉の許可に従って、チャーリー曹長と俺は部下に向き直ろうとする。

「チャーリー、ウィル」

 その俺達の背に、大尉が声をかけてくる。

「勘だが、この作戦はタフなものになる」

それはそうだろう。俺達全員の胸にはリーパーがある。それにバレないように作戦の最大目標を独自に確保しろなんてどうやればいいというのか、想像もつかない。

「頼んだぞ」

 それら全てを承知した上で、それでも頼むと言わんばかりの重い声音だった。

「亜人の、その中でもお前の勘はよく当たるからな。まあ、できる限り頑張るさ」

 投げやりに手を挙げて、チャーリー曹長は応えた。

 やれやれだ。思わずその手を追うようにして、天井を仰いだ。

 不安げな部下の視線。それを感じた俺は形ばかりの微笑みを作って、班内でのポジション確認を始めるしかなかった。


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