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亜人戦争  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
21/23

19 作戦目標


 地獄の窯の蓋のように開かれたラコタの後部乗降口。


「ブラウン大尉!?」


 それを先行したチャーリー曹長が信じがたい名前を叫ぶ。耳を疑うも、チャーリー曹長がそんな嘘を言う理由もないし、彼はその場で敬礼をしている。


「儀礼は無用だ。気にせず着座してくれたまえ」


 そして何より聞こえてきた声は、確かに聞き覚えのあるブラウン大尉のそれだった。


「ハッ!」


 上官の許可を得て、チャールズ班の面々が足早に乗機する。


 その後に続いて機内に入れば、設置されたセンターシートに確かにブラウン大尉とその副官、イザベラ中尉が着座していた。敬礼しようとするも、目線だけで着座を促されるため、失礼しますと断るのみでチャールズ班と逆サイドに腰掛けた。


 ブラウン大尉。本名エドワード=ブラウン。

 通称、特攻のブラウン。バートン=ブラウンJr。


 亜人部隊に四つある中隊の一つ、我が第一中隊の司令官。その苛烈な攻撃的指揮と司令官でありながら前線に立った逸話をして、特攻の称号をいただく俺達の上官。


 そして、あのバートン=ブラウンの遺伝子から作られた人造亜人。


 そんな司令官が、どうしてわざわざ一回収ルートに過ぎないこんな場に?


「こちらラコタ1。亜人部隊第一中隊第一小隊一・二班の収容を完了。これよりコロニー1に向け発進する」


「コマンドポストよりラコタ1。了解。グッドラック」


 スピーカーからパイロットの交信が響き、俺達の疑問に関係なくラコタは離陸する。


 離陸後の揺れが収まり、安定飛行に移る頃、


「それで大尉。どうしてこんなところに?」


 チャールズ班、我が班の全員が抱いているだろう疑問を、チャーリー曹長が口にした。機内の視線がブラウン大尉に集中する。


「諸君の疑問はもっともだが、まずは全体ブリーフィングを始めさせてもらう」


 全員の注目を集めながらも、ブラウン大尉は落ち着き払ってゴーグルモニターのスイッチを入れた。

 疑問は解決されないものの、俺達は起動されたゴーグルモニターに注意を向ける。


「アテンション!」


 イザベラ中尉の甲高い声が鳴り響く。


「これよりオペレーションの説明を行う! 詳細に先立ち、大尉よりお言葉と本オペレーションの目標を伝える!」


 中尉からバトンを受け取った大尉が口を開く。


「諸君! 長期にわたる国境警備任務、大変ご苦労だった!

 本来であれば、その分の休暇を即座に与えたいところだが、それが許されない状況となった。

 諸君も承知の通り、当国のコロニー1から4が敵性勢力に占拠された!

 本オペレーションの目標は三つ!

 

 占拠されたコロニーの解放!

 コロニーを占拠した敵性勢力の捕縛、もしくは殲滅!

 敵性勢力に捕らわれていると思われる重要人物の保護!


 以上だ!

 ではオペレーションの詳細をイザベラ中尉から説明する」


 労いと概要を話し、ブラウン大尉がバトンをイザベラ中尉に返す。


「続けて、オペレーションの詳細を説明する!

 まず我が中隊の解放目標だが、コロニー1となる。コロニー2から4は第二から四中隊が対応するため、貴様らは目前のコロニー1のみに集中せよ!


 次に敵性勢力! こちらの主軸は、第二中隊の調査と本襲撃の結果、亜人解放戦線・DLFであることが確認された!

 その数、五百! 無人戦闘機群、二百以上! コロニー内部の協力者も相当数に上ると推定される!」


 頭を抑えたくなるが堪える。敵は少なくとも七百以上を数える連隊規模相当の戦力らしい。

 そんな俺達に追い打ちをかけるように、ゴーグルモニターにある男の姿が映し出される。


 痩せぎすな長身に長い手足。男でありながら、腰まで届くプラチナブロンド。美形ながらもどこか不吉で、人を食ったような微笑。

 それは、亜人問題に関心を持つ者であれば誰もが見覚えのある有名人。


「また、コロニー1襲撃者の中に、DLF代表ヘンリー=マーソンの存在が確認された! 諸君らも承知していると思うが、本人の戦闘能力は高くないはずだ! 可能な限り捕縛しろ!」


 DLF代表ヘンリー=マーソン。

 純粋な人類でありながら、亜人組織の代表となり、それを亜人の構成員に認められる奇人にして偉人。


 その本人自らが出向いているとあっては、やはりこの事件は尋常なものではない。

 改めて事態の深刻さを認識し、頭が痛くなる。


 ゴーグルモニターが切り替わり、今度は見覚えのない女性が映し出される。


 不思議な女性だった。ヘンリー=マーソン同様に透き通るように美しいプラチナブランド。

 しかし、その表情は知性を感じさせながらもどこか柔らかく、ヘンリー=マーソンの感じさせる不吉さとは逆の温かみを見る者に与える。


「また、コロニー1解放と敵性勢力の捕縛・殲滅に並ぶ目標が彼女、エマ=テイラー博士だ! 彼女の存在は米国にとって極めて重要だ! 何としても保護しろ!」


 全くの初見。にも関わらず、これほどの事件の解決と同列に扱われる人物。


 何者だ?

 疑念に眉をしかめるが、命令である以上、そこに疑問を挟む余地はない。


「作戦目標は以上! 続いて、本オペレーションのプランを説明する!」


 再びゴーグルモニターが切り替わる。次に映されたのは航空図。半透明の白い繭上のカプセルのような物の中に、万を数える建物が屹立している。それがどこかなんて聞くまでもない。何せ自分の生まれ故郷にして、これから俺達が突入することになるコロニー1だ。


「諸君も承知の通り、コロニーは障壁(コクーン)に囲まれている。そのオンオフが可能な東西南北それぞれのゲートから突入を行う。

 ウェストゲートから第一小隊、イーストゲートから第二小隊、サウスゲートから第三小隊、ノースゲートから第四小隊が進行せよ! 第五小隊は遊撃部隊とする!」


 俺達は第一小隊なのでウェストゲートからだ。コロニーは計画的に建造され、基本的に正方形、左右対称の構造のため、どのゲートから突入するかということに大差はない。


 問題はその後の小隊内での配置になるが、我が班はありがたいことにチャールズ班と共にフロントラインのセンター配置の栄誉を受けた。

 四方から中心に向かって解放を行う今回の作戦上、小隊内で一番の外れくじになる可能性が高く非常にお寒い。

 しかし、当然命令に逆らうことはできないので、少しでも生存率を担保するためプランを傾注する。といっても、そこからは決まりきった定型の市街地クリアリングのプランが話されただけだったが。


「プランは以上!」


 矢継ぎ早に説明したイザベラ中尉がそう切り上げ、


「確認がある者はいるか?」


 最後にそんなことを言った。幾つか気になる点はあるが、命令に対してとやかく言うほどではない。

 と俺は思うものの、これほどの作戦。流石にシャルとソフィの表情が硬い。どうしたものかとブラウン大尉を見やれば目だけで頷いてくる。


「よろしいでしょうか」


 俺は挙手し、発言の許可を求める。

 それを目にしたイザベラ中尉が、脇のブラウン大尉に確認の目配せをする。


「許す」


 元々含んでいるブラウン大尉は当然、俺に発言許可を与えた。


「ありがとうございます。本作戦の目標の一つは過激派勢力の捕縛、もしくは殲滅とのことですが、逃亡に対応する兵員が割り振られておりません。よろしいのでしょうか?」


 脇のシャルがピクリと頬を引き攣らせた。言いたいことはわかるが、なに余計なこと言ってくれてるんだといったところだろう。しかし、心配は無用だ。


「お前の疑念はもっともだ」


 ブラウン大尉が重々しく頷く。


「しかし、敵の数は我が部隊よりも多い。装備と個々の練度で我らが勝るとはいえ、兵力の分散は我が部隊の損耗率の上昇に繋がる。

 ゆえに四方面進行以外の戦力分散は行わん!

 文句があるなら、本作戦にこれだけの兵力しか投入しなかった上に言ってもらうとしよう」


 正気を疑うような目でシャルとソフィがブラウン大尉の胸部、心臓を見る。

 しかし、兵卒の視線に気付きながらもブラウン大尉は不敵に笑った。マイクの向こうにいる監視ではなく、現場の俺達に向かって。


「了解しました。ありがとうございます」


 そんなブラウン大尉と視線を交わし、質問を締めくくった。そして、俺は脇の部下達に安心しろといった微笑を向ける。


 まあ、後ろにはどうせ正規軍(ノーライフアーミー)が配備される + 最初は俺達、亜人同士を戦わせて戦闘データ収集という碌でもない上の思惑が透けて見えて胸糞は悪いが、口にしたところで誰も得をしないので表には出さない。


「他に質問のある者は?」


 ブラウン大尉は言いながら俺達を見回す。

 その視線を受けて、兵卒は口元を緩ませていた。本作戦の指揮官に、心許して。


「無いようだな。それでは総員、作戦の開始に備えろ!」


「「「「「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」」」」」


 第一中隊二百人の承服が響き、ゴーグルモニターの音声と映像が切れた。



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