18 チャールズ班
1208、コマンドポストからのチャンネルが開く。
『コマンドポストより第一中隊第一小隊第一から五班。至急下山されたし。ランデブーはポイント48.9816・118.7705。1600までに現着せよ。遅滞は一切認めない』
いつになく余裕のないステラからの指令。
予想はしていたが、こうして緊迫した声を聞くと、やはり落胆せざるを得ない。
『コロニー1から4が敵対的勢力に襲撃・占拠された。第一中隊は集結後、コロニー1の開放に向かう。迅速に行動せよ。オーバー』
事態は俺が想像していた以上に最悪だったらしい。眩暈を通り越し、一周回って笑いだしそうにすらなる。
「曹長」
苦笑に顔を歪める俺に、優秀な副官が指示を仰いでくる。
「十分で撤収。1220にはランデブーポイントへ向け出発する」
「「「了解」」」
三人の部下は素直に敬礼し、撤収作業を開始する。かなり無茶な集合時間だが、そのことに誰も文句を言わない。命令であるから、無茶だろうが何だろうがやるしかないのだが、そういう理屈を抜きにして全員が理解していた。
想定通り。いやそれ以上の事態が進行していることを。
※※※
1538。
雪山滑走からの全力疾走という無謀トライアスロンの結果、何とか指定時刻前にランデブーポイントに到着。
「よう、ハーレム班」
一息つこうと座ると、見慣れた顔が声を掛けてきた。
「どうも、チャーリー曹長」
筋骨隆々、見るからに軍人ですといった風貌の四人組。同じ第一中隊第一小隊の第二班、チャールズ班だ。
「ああ、立たなくていい。強行軍でお疲れだろう」
年配の先任曹長相手に自分だけ座っているわけにもいかず腰を上げようとしたが、当の本人に制された。
「それではお言葉に甘えまして」
なので、俺は遠慮なく座ったまま口を開く。
「相変わらず美人揃いで羨ましい限りだ。うちのごついのと一人チェンジしてくれないか?」
無骨な黒い顔に笑顔を浮かべ、チャーリー曹長はいつも通りのご提案。
「曹長! では、一番階級の低い自分がっ!」
「バカ野郎! そこは先任の俺に決まってるだろ!」
「なぜお前らは揃って我が班を抜けようとしている!?」
部下二人の積極性にチャーリー曹長が衝撃を受け、
「いや、一人引き抜けても向こうに二人残りますからね。そりゃ、二人の方行きたいですよ」
副官が冷静に突っ込む。
相変わらずなチャールズ班の様子に思わず声を出して笑ってしまう。
「申し訳ありません、チャーリー曹長。我が班は一応亜人で揃えてますので、本物の動物の方はちょっと」
そして、当の話題の的はすげない遠慮を申し出る。
「リリーちゃん!?」
「せめて俺はこいつらと一緒にしないでもらえるかな?」
ショックを受ける動物1と遺憾の意を示す副官。動物2は堪らないといった表情、Mか。
「ハッハッハ! 相変わらず言うな! 中々厳しい任務だったが、元気そうで何よりだ」
チャーリー曹長は豪快に笑い声を上げ、拳を突き出してくる。
「そちらも元気そうで何よりです」
億劫だがゴツンと拳を突き合わせる。
「ところで何か追加の情報は?」
お決まりの一連を終え、俺は情報収集に入る。
「ああ、やっこさんは2000に亜人の権利に関する声明を発表するとのことだ」
「第二の亜人宣言ということですか」
「そういうことだな」
想定通りと言えば想定通りの目的だ。しかし、腑に落ちないのは、
「どうして、それほど時を空けるのでしょう」
「うむ、それだな」
俺の疑問を形にしたリリーの言葉に、チャーリー曹長も同意する。
「その時間があるがゆえに、こうして我々の参集も間に合っています」
チャールズ班の副官が補足する。
「ということは?」
「これほど急いで下山させたのも、宣言を防ぐためとのステラ嬢ちゃんからの情報だ」
俺の確認にチャーリー曹長が応える。
まあ、納得だ。アメリカとしては、二度も同じような状況で宣言を行われては威信に関わる。断固として阻止したいところだろう。しかし、そうなれば尚更、敵が時間を空けることの意味がわからない。現にこちらにこうして対応するだけの余地を与えてしまっている。
「コロニーを占拠したことと関わっているのでしょうか?」
「考えられる可能性としてはそこだろうな」
唯一、時間を開ける理由として理解しうる点を上げれば、チャーリー曹長も頷いた。
コロニー。
米国におけるそのワードは、現在国内に七つある亜人居留地のことを示す。
米国が把握する亜人は原則として、このコロニー1から7のどこかに居住することとなり、国の管理を受けている。もっとも俺達亜人部隊は半公的な例外にあたり、俺達以外にも有力者の護衛やペット、国に把握されていない非公式に出生された亜人等もいるにはいるらしいが。
「コロニー襲撃の際に、内部から呼応した者もいたとのことです。コロニー内の亜人を取り込むためというのが考えうる線でしょうか」
チャールズ班の副官が補足する。ありそうな事情だ。しかしそれにしたって、
「どうして四つものコロニー占拠を許したんですか? いかに囮となった大統領就任演説会場に戦力を回したとしても、亜人勢力の標的となりうるコロニーの警戒を緩めていたわけではないでしょう?」
そう。一番警戒すべきは大統領就任演説会場でそちらを囮として使われたとはいえ、亜人勢力が狙うターゲットとしてコロニーは次点で考えるべきレベルの標的だ。元々内部の亜人の暴動に対応するための備えも整っている。簡単に占拠を許すとは思えない。
「各コロニーを襲撃した敵勢力は、少なくとも大隊規模とのことだ」
「大隊っ!?」
チャーリー曹長の回答にシャルが声を上げる。上官同士の話に口を噤んでいたが、驚愕を堪え切れなかったのだろう。
「どこからそれだけの数が? 本国境線からの侵入は我が中隊が警戒についてからは許していないはずでは」
俺達が配置される前の侵入があるとはいえ、どう考えても千には届かないはずだし、その後の第二中隊の追跡で多少なりとも数を削れていたはずだ。
「わからん」
当然、チャーリー曹長もお手上げだが、
「しかし、第三中隊の調査では少なくとも半年前からあらゆるルートで我が国への侵入を許していた可能性が浮上している」
……もはや言葉もない。誰もが言葉を失う中、チャーリー曹長が事実を告げる声だけが響く。
「五大湖ルート、海岸経由、航空ルート。少しづつ、巧みに浸透していった」
半年もかけて。慎重に、執拗に。
もはや怨念めいたものさえ感じ、外気と関係なく寒気を覚える。
「話を戻すと、コロニーを襲撃した部隊は亜人と無人戦闘機械のハイブリッド部隊とのことだ。無人戦闘機械群も加味すれば連隊規模だとさ」
こんなの笑うしかない。チャーリー曹長は苦笑しながら肩を竦めるも、流石に裏に秘めた本音を隠しきれていない。
「……さながら戦争ですか」
俺も肩を竦め返しながらも、声が苦々しくなるのは否めない。
「もはやそう言っても過言ではないな」
どうしたって重くなる空気の中、チャーリー曹長が明後日の方向を見る。
「アメリカが後手後手に回っている。私が着任して十年の間でも初めての事態だ」
チャーリー曹長の視線の先、俺達を戦地に運ぶのだろう輸送用ヘリCHー67・ラコタが着陸する。遠く離れていても身の危険を感じるほどの暴風。
「気をつけろよ」
先任曹長のその忠告が、ヘリの着陸に備える今の状況に向けられたわけでないことが残念でならなかった。
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