21 出撃準備
オペレーション開始は1730。
致し方ないとはいえ時間に余裕はなく、俺達は急いで出撃準備を整える。
「曹長、どんな感じで行きます?」
どちらかと言えば、どうすればいいです? といった様子で、珍しくシャルは不安げに口を開いた。
「どうも何も、いつも通りやるだけだろ」
努めて平静に、M8アサルトライフルの手入れを続けながら俺は肩を竦める。
「えー!?」
Mk50機関銃の手入れをしていたシャルが顔と声を上げる。言葉にしなくても、それでいいんですかと不満げ気なのが伝わってくる。
「コロニー解放、敵勢力の撃退以外に最優先確保目標が加わった。それだけのことだろ」
事も無げな様子を装って、俺はあっけからんと口にした。
「いや、それはそうですけど」
大尉独自の命令はそこに上にばれないようにという困難極まりない制約が付くでしょうが。そんな言葉にできない苛立ちを内包してそうなジト目でシャルは俺を睨んでくる。
「市街戦になる。俺達はフロントラインだし、火力より小回り重視だ。支援火器はシャルの分だけでいい」
シャルの目線に気付きながらも、俺はリリーとソフィに装備の指示を出す。
「曹長……」
しかし、ソフィまでもがMP11を整備する手を止め、不安に満ちた声音で俺を呼ぶ。気持ちもわかるし、ソフィの性格上仕方ないが、リーパーの監視員も不審を抱きかねない。
ヘルメットから解放された頭を掻いて、ゴーグルモニターからも自由になった裸眼で暗闇に沈んだ空を見上げる。
「お前らも知ってるだろうが、ブラウン大尉はあのバートン=ブラウンの遺伝子から作られた」
「「「はい」」」
三人の部下が頷く。亜人部隊員であれば誰もが知ってることだ。ブラウン大尉が、あのリッキー=サイモン大統領就任演説襲撃事件の首謀者であり、亜人宣言を行ったバートン=ブラウンの遺伝子から作られた亜人であることは。
「だからってわけじゃないが、あの人は何でもこなそうとしすぎる」
偉大なる亜人の先導者の遺伝子を持つ者として、俺達にはわからない重責がある。にもかかわらず、同胞の亜人を排除するトレイターとして働かされ、亜人部隊の一部隊長を務めている現状をあの人がどう思っているのか。
あの人は、俺なんかが苦しんでいる何倍もの自責の念を常に抱えている。
「自分と部下を守るため、指令を必ず達成し、それでいながらできる限り部下と敵の亜人の損耗すら抑えようとする」
「特攻のミスターブラウンが?」
シャルは不可思議そうに聞き返した。
「そうだ。どうしてあの人がそう呼ばれるだけ、作戦を急ぐかわかるか?」
部下を見回して、俺は問う。
「早期解決して双方の被害を抑えるため、ですか」
「そういうことだ」
リリーの答えに、俺は肯定の頷きを返した。驚く部下達に俺は続ける。
「亜人はゲリラ戦が得意だからな。さっさと頭を押さえて指揮系統を潰さなければ、争いは泥沼化して互いの消耗が続く。そうなれば当然、巻き込まれる二次被害者も増加する。それを嫌うから、あの人は無理と思える攻勢もかけるし、自ら前線に立ちもした」
部隊長として、当たり前と言えば当たり前な判断。しかし、部隊長をして前線に出るというあり得ない振舞い。亜人部隊四部隊長が一人、特攻の二つ名を冠する者としてしかテッド先輩を知らない人からすれば、それは想像とかけ離れたパーソナリティなのだろう。そんな風に考えながらも、自ら前線に出るのはある意味イメージ通りかと思い至り、俺は口角を釣り上げた。
「めっちゃいい人じゃないですか、ブラウン大尉!」
シャルが目を輝かせて叫ぶ。
そんな姿に俺は思わずシャルを凝視し、何ですかとたじろぐ様を目にして、
「その通り。あの人はお人好しなのさ。底抜けに」
どうしようもなくおかしくて、空を仰いで笑ってしまった。
「だからあの人は守ろうとするんだ。部下も、民間人も、そして敵ですらも。できるだけ多くの亜人の命を」
叶わないと知りながらも、身を挺して俺達を守ろうとしてくれたテッド先輩のかつての姿が思い起こされる。
「ウィル曹長、ブラウン大尉のことよーっくご存じなんですねぇ?」
しかし、ニヤニヤ嫌らしい笑みで余計な指摘をしてくるシャルのせいで、ばつが悪くなる。
「旧い付き合いだからな」
ポリポリと頬を掻いて、俺はシャルから目を逸らす。
「そう! それ気になってたんですよ! どういうお知り合いなんですか!?」
「どうもこうも同じ出身ってだけだ」
食いつくシャルに、俺は一マイル先の奪還目標を指差す。
「あ……」
そうすると、シャルは声を漏らしてそれ以上の追及をできなくなる。矛先を逸らそうとしたわけではあるのだが、そこまで大げさに気にして欲しかったわけではなかった。さっきまであれだけ無遠慮に言いたい放題だったくせに、気遣い屋なのか違うのかはっきりしない奴だ。
「時間がないな。さっさとルーフを起こすぞ」
切り替えるため、シャルの頭を軽く叩いて立ち上がる。
「いたっ!? 女の子の頭叩くって酷くないですか!?」
「はいはい。ソーリーソーリー、大変申し訳ございません」
不満いっぱいに叫ぶシャルを適当にいなして、俺はルーフを立ち上げようとする。
「あ、あの」
するとソフィが珍しく呼び止めてくる。
「どうした、ソフィ?」
俺は振り返ってソフィの様子を窺う。
「私と対応違いすぎませんっ!?」
後ろで騒ぐシャルは無視。部下によって対応が違うなんて当たり前のことだ。
「結局、私達はどうすれば?」
不安を湛えた瞳で、ソフィは見上げてくる。
「あー」
先程シャルに茶化されたこともあって言葉にはしづらい。
「テッド先輩はそういう人だから、力になりたい。作戦目標も極力達成して差し上げたい」
しかし、ソフィの不安はもっともで、俺はこの班の曹長だから。
「ただ、言った通りあの人は亜人の、とりわけ部下の被害を第一に考えている人だ。だから、俺達はいつも通り自分達の命を最優先にプランを遂行するだけさ」
俺の言葉に、僅かだけでも安心したように、強張った頬を僅かだけでも緩ませて、ソフィは頷いた。
「そんなこと言って大丈夫なんですか?」
軽口を叩きながらも、シャルも立ち上がる。
「命令には従ってんだ。言われた通り動いてる限り、自分達の命を最優先にしようとそこまで怒られんだろう。多分」
「いえ、怒られると思いますが」
「……命令第一って言われる気がします」
リリーとソフィも微笑みながら立ち上がる。
マジかー、と我ながらわざとらしくぼやく俺に、
「でも、了解です。曹長」
それでもリリーは、いつも通り拝命の敬礼を返してくれた。
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