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亜人戦争  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
18/23

Interlude ー亜人宣言ー 西暦2183年1月20日 1158


アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク タイムズスクエア



「間もなくリッキー大統領の就任演説が始まります。亜人問題が世界を席巻する今、新たな合衆国大統領がどのようなスタンスでその問題に向き合うつもりなのか。世界の注目が集まっています」


 ニューヨーク・タイムズスクエア。

 二世紀以上前から世界最大のモニターが設置されているそこで、今や圧倒的少数となった労働する人類である女性キャスターがモニター内でリポートをしている。

 しかし、そのモニターを見上げる人類はごく少数。生ある人より多くのマシーンが街路のそこかしこで清掃やインフラのメンテ等の作業をしている。



 モニターが放送局から切り替わる。大きな演説台の前に、壮年の白人男性が立っている。

「親愛なる合衆国民の皆様」

 にこやかに、笑顔で彼が語り始めた瞬間、耳をつんざく轟音が演説会場を覆いつくした。


「何事だっ!?」

 緊張に顔を張り詰めさせながらも、新大統領は臣民の前で無様な醜態は晒さない。

「大統領! 避難してください!」

 SPがそんな彼の避難を促すも、次の瞬間にはずるりと地に倒れ伏した。


「ハロー、プレジデント」

 SPの後ろから姿を現したのは、大柄なSPよりもさらに二回りは大きい異形。それは人型をしていながらも、人とは思えない茶色の剛毛を全身に纏っていた。


「亜、人……」

 大統領は絶句するように、その呼称を吐き出した。


「ノンノンッ」

 そんな大統領に対して、異形は不快そうに指を振り、

「その呼び方は止めてほしい。呼ぶならそう、ネクストジェネレーションとでも呼んでくれ」

 大統領とカメラに向かって、宣言した。


「警備はどうした」

 周囲を囲む気配。絶望的な状況の中で、合衆国民五億の代表たる大統領は果敢に問う。

「悪いけど無力化させてもらった」

 そんな大統領に対して、愉快そうに茶の剛毛に覆われた顔で異形は笑う。

「無事、なんだろうな」

 問える立場ではない。そんなことは百も承知しながら、大統領は続けて問う。

「腐った人類にあっても、流石は大統領様」

 ヒューッと、バカにしたような口笛を巨大な異形は吹く。

「大体大丈夫じゃないかな? まあ、中には死んだ者もいるかもしれないけど、君達が俺達に

してきたことを思えば、仕方ないことだろう?」

 ようやくテロリストらしい怒りを微かに滲ませて、異形は応えた。


「さて、リック。君が就任演説で俺達のことをどう語るつもりだったかも大いに気になるところだけど、俺達もこの場を借りて世界に伝えなきゃいけないことがある。そこをどいてもらえるかな?」

 全世界が注目する合衆国新大統領の演説台。そこをテロリストに譲り渡すことなどまかりならない。それはたとえ結果が同じだとしても、合衆国大統領が自ら渡すなどあってはならない。

「ホント、人類にしておくにはもったいないよ、君」

 愉快気に笑いながら、茶の異形は何事もないように大統領の首を軽く手刀で叩いた。瞬時に意識を刈り取られ地に倒れ伏した大統領には目もくれず、異形はカメラに目線を向ける。



「ハロー、ヒューマン」

 茶の獣毛で覆われた顔をにこやかに歪めて、異形は片手を上げた。

「俺はバートン。バートン=ブラウン。見ての通り亜人さ。オランウータンと人間のハイブリッドで、今回は一応亜人代表のつもりでここに立たせてもらってる」

 フレンドリーな様子を崩さないまま、異形は自己紹介をすます。

「リックの演説を待ち望んでたのに横入りしてゴメン。でも、俺達は君達にどうしても伝えなきゃいけないことがあるんだ。無粋を許してほしい」

 鷹揚に頭を下げて、バートンと名乗った異形は続けた。


「伝えなきゃいけないことっていうのは他でもない。俺達の取り扱いについてだ」

 真摯な瞳でカメラを見つめ、バートンは告げる。

「俺達が求めるのはただ一つ。同士の開放、尊重だ」

 バートンがお願いするように両手で握っていたマイクが、音を立てて握り潰され、不快なノイズが響き渡る。

「おっと、失礼」

 怒りの発露による無礼を軽く詫びて、バートンはマイクなしでも響く大音声を発した。


「ヒューマンライツ。君達が当たり前に持ってるそれを、俺達亜人にも望む。それだけさ」

 太い人差し指を立て、バートンは主張した。

「互いに同等の権利を持つ者として、ただの隣人として生きよう。相互に不干渉で、この星で共生しよう。本当にそれだけでいいんだ」

 バートンは胸の前で両腕を開き、真剣にお願いした。

「怠惰な君達のために、俺達が血を流す。そんなのはもうゴメン被りたいんだよ」

 思わず言ってしまったというような本音。それをおっとと手で口に蓋をして、バートンは飲み込んだ。

「俺達の主張は以上だよ。これが認められれば、俺達は君達に何もしない。君達が俺達の同士を解放し、これから生まれる同士も尊重してくれる限り、俺達は君達の良き隣人でいよう」


 話は終わったとばかりにバートンは背を向け、

「グッバイ、ヒューマン。これが永遠のお別れであることを願うよ」

 捨て台詞のように言い残し、大きな手を上げて去っていった。




 世に名高き、第九十六代アメリカ合衆国大統領・リッキー=サイモン就任演説襲撃事件。

 そこでステイツ産の亜人、バートン=ブラウンが行なったこの短い演説は、後に亜人宣言と呼ばれるようになり、人類史における大きな転換期の一つとされた。



 しかしそれほどの出来事を前にしても、人類の半数以上はこの宣言に興味を示さないどころか、知りもしないほどに堕落しきっていた。





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