15 戦闘
戦場での祈りごとなんて、大抵は叶わないもんだ。
「シャル! ソフィ! 起きろ!」
視認と同時に俺は叫んだ。
「リリー、12時の方角! 距離3000に無人戦闘航空機、1!」
言う間にも、無人戦闘航空機は見る見る彼我の距離を縮めてくる。
「シャル!」
「はいっ!」
背後からの応答で、シャルがテントから出てきていることを確認する。
「撃て! 遠慮はいらん! ぶちかましてやれ!」
「はっ!」
瞬間、シャルの周囲のアニマが凝集する感覚。そして、短い発砲。
こちらからの攻撃を警戒した無人戦闘航空機は、不規則な軌道で接近してきている。しかし、シャルの弾丸はその無人戦闘航空機を追尾。風の特性を得手とするシャルはこの手の技が得意だ。
「曹長! 無人戦闘航空機の背後、生体反応8!」
リリーの報告と無人戦闘航空機への着弾は同時だった。距離があるにも関わらず、甲高い音が耳につく。そして、そんな残響を響かせながらも、無人戦闘航空機は無傷。
狙撃銃程度の銃撃が効かない無人戦闘航空機の強化装甲といえど、アニマで強化されたシャルの弾丸は容易く貫く。それを防いだのは当然、
「全生体反応にアニマ反応!」
敵のアニマだ。
敵は雪山を真横に滑るようにして、通常では考えられない速度で突破を図る。横撃しようとするこちらの機先を制して、敵最後尾の無人戦闘航空機の機銃が火を噴いた。
「氷よ」
リリーの詠唱に従い、俺達の前面の大気が凍り付き、機銃の銃撃を弾く。通常状況下でさえ、アンチマテリアルライフルを逸らすリリーの氷だ。氷点下の環境で無人戦闘航空機の機銃程度はわけもない。
「追撃する! シャルは援護! ソフィはシャルの防御を行え!」
「「了解!」」
俺は息を短く吸い込み、
「リリー、出るぞ」
「了解!」
前方の敵を見据えた。
鋭いアイゼンをアニマで板状に包み込み、雪上を滑り下る。敵は全速で離脱を図るが、こちらは高所からの移動で重力を味方につけている。
背を追う敵の隊形はダイヤモンドツー。全力で離脱を図る前方のダイヤとそれを援護する後方のダイヤ。
「回避!」
そして、その二つのダイヤの間に後退し、機銃を荒れ狂わす無人戦闘航空機!
甲高い音を響かせて、その無人戦闘航空機が姿勢を崩す。しかし落ちるわけでもなく、無人戦闘航空機は俺達に牽制を続ける。
「シャル! こいつはいい! 先頭の足を止めろ!」
「了解!」
悔しそうに無線機越しにもわかる歯ぎしりをしながらも、シャルは命令に従う。しかし、これはシャルが悪いわけじゃない。
「リリー!」
「っ大丈夫です!」
後方のダイヤモンドからの集中攻撃をリリーは氷で防御する。結果は相殺。いかに数で有利とはいえ、絶好調のリリーのアニマと互角。
見据える先、後方のダイヤモンドの中でこちらに一番近い男が笑った気がした。
無視して、俺は無人戦闘航空機に腕を向ける。
「消えろ」
無造作に放ったアニマの炎が機銃の掃射を融解し、敵が無人戦闘航空機の防御に展開したアニマごとターゲットを消し飛ばした。
まだ距離はありながらも、敵の動揺が見て取れる。それでも、アニマの揺らぎが少ないのは後方のダイヤ。
「リリー、前の4を任せる! 後ろを片付けたら合流する!」
「はいっ!」
「シャル! ソフィ! リリーの援護を任せたぞ!」
「「はっ!!」」
ダイヤモンドの片割れを部下に任せ、俺は後方の敵を見据える。
狂ったように乱発される銃弾、各種アニマの火線が襲い来る。雪面を滑る高速軌道で躱し、最短距離を進むに邪魔なものはアニマで防御。
弱い。
よく訓練されてようと、それなりであろうとアニマは基本的に資質が物を言う。例外である俺の、いや俺達のアニマ容量には遠く及ばない。
敵の全てを無視して、俺は突撃する。攻撃が当たるも、何一つ俺のアニマ障壁を破れない。
「ヒッ!」
「来るな!」
揺らぎを見せた敵のダイヤモンド隊形。
それでもなお冷静に対処しようとブレードを抜く前衛を無視しジャンプで飛び越える。
後衛の砲台役。とりわけ現環境下で危険度の高い氷使いの喉笛を掴んだ。怯えた顔が心に刺さるも、それ以上目に焼き付く前に握り潰した。
「ニック!!!」
ジャンプで躱した前衛が叫び、俺へと迫るが無視。もう一人の後衛、銃撃を乱射する男へ向けて手を薙ぐ。
「ニコル!」
俺に向かっていた前衛が、銃撃を行う男に同様に手を向ける。俺の手から延長した炎の剣が、そいつの生じさせた炎の防壁に引っかかる。微かに反発を感じるも、目を伏せて腕を振り切れば、肩口から袈裟斬りに銃撃者を両断した。
隊長、と。
前衛の男に目を向けたそいつの口が、最後に呟いた気がした。
「き、きっ! 貴様アァッ!」
憤怒に形相を歪めた男が、アニマの炎に包まれた手刀を振り下ろしてくる。
躊躇いを振り切るようにして、俺もその腕に向かって手刀を振り払った。
「……あ?」
斬り飛ばされた自分の腕を見て、そいつは一瞬間の抜けた表情を見せた。
その肩を掴んで、腹に膝蹴りを食らわせる。悶絶するそいつを地面に転がせた。
「ヒイイッ!」
悲鳴を上げて、一番何もしなかった敵のフロントのもう一人が背を向ける。そいつに向けて手を振り、今度はその両足を叩き折った。
「ギャアアアーーーーッ!!!」
悲鳴を無視し、
「リリー!」
俺は自分の部下の名前を叫んだ。
氷に包まれたリリーの腕を、涙のように血が流れていた。
リリーの他に立っている者はなく、前方のダイヤモンドも既に制圧された後だった。
俺は安堵の息を吐く。
「敵の二人を排除。二人を制圧。そちらは?」
マイクに話せば、
「同じく二人を排除。二人を制圧しました」
リリーも同様の戦果報告を返してくる。情報源を四人確保。戦果は上々と言えるだろう。
「よし。情報源を捕縛。キャンプに戻り最低限の治療を行う」
「了解」
俺は足元の恐らく敵の隊長であろう男の襟首を掴み引きずり起こす。
「抵抗するな。そうすれば殺しはしない」
正面から見据え、警告する。苦悶に顔を歪めながらも、そいつは憎悪に燃える目で俺を睨む。
「この……トレイターがっ!」
臓腑の奥から絞り出すような恨みを、そいつは俺に吐き捨てた。
「ああ、そうだよ」
否定せざる事実を、俺はただ素直に認めた。
呆気にとられたようにポカンとした表情でそいつは俺を見つめ、その後に苦しそうに笑い、
「じゃあな、クソトレイター」
アニマで、最期に何かを起爆させた。
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