14 斥候視認
「……! ……ィ!」
遠くで声が響いている。
気付き、意識は急速に覚醒する。
「曹長! リリー! 起きてください!」
即座に起き上がり、寝袋を剥ぎ取る。アイゼンを付けたままの靴を手にテントから這い出る。
「状況!」
靴を履きながら叫ぶ。
「十時の方向、距離三千に無人戦闘航空機視認! 確認とほぼ同時にターゲットは反転、離脱しました!」
シャルの報告を聞きながら、ライフルを手に取る。
「ターゲット以外の確認は!?」
「ありません!」
「戦闘行為は!?」
「ありません!」
シャルの指さす先を確認。
超々遠距離。
夜の闇の中、亜人の視力でも既にターゲットは確認できず、すぐにモニターゴーグルを起動。
熱源、金属感知を行うも索敵範囲外。
「わかった。引き続き警戒を厳にせよ」
「「イエッサー」」
シャルとソフィが監視に戻ったのを確認し、
「ウィリアム班よりコマンドポスト。当局キャンプから十時方向、距離三千に無人戦闘航空機を視認するも、ターゲット離脱のためロスト。どうぞ」
司令部に報告を入れる。
『コマンドポストよりウィリアム班。無人戦闘航空機以外の目標確認はあるか。どうぞ』
当然ながらステラは交替に入っており、オペレーターのジェイムズの声が返ってくる。
「ウィリアム班よりコマンドポスト。ターゲット以外の確認はない。当局キャンプからの索敵範囲でターゲット、ターゲットに関わると思われる生体反応なし。どうぞ」
『コマンドポストよりウィリアム班。コマンドポスト、了解。当局が監視衛星で索敵を行い、状況を確認する。五分待て。どうぞ』
「ウィリアム班よりコマンドポスト。ウィリアム班、了解。報告を待つ。どうぞ」
『コマンドポストよりウィリアム班。コマンドポスト、了解。夜間のため、望みは薄い。あまり期待はしないでくれ。オーバー』
「ウィリアム班よりコマンドポスト。ウィリアム班、了解。オーバー」
報告を終え、一息つく。
「曹長、どうぞ」
呼びかけに振り向けば、リリーが湯気の立つカップを差し出してきている。
「ああ、ありがとう」
寝起き早々、如才ない副官に礼を言う。
「いえ」
リリーは短く応え、シャルとソフィにもコーヒーを振舞う。
腰を落ち着け一服し、心を休める。
「無人戦闘航空機の種別は認識できたか?」
俺の確認に、シャルとソフィの両方が首を横に振った。
「遠距離のため、確認できませんでした。ただ機影は小さく、戦闘よりも偵察を重視したタイプかと思われます」
「なるほど。こちらに気付いたと思うか?」
「おそらく。確証はありませんが、反転離脱したことから考えても、ほぼ間違いはないかと」
「そうか」
シャルの返答にうんざりする。
その報告内容と状況を併せて鑑みるに、今回の無人戦闘航空機は件の密入国グループの斥候である可能性が高い。そしてそれが斥候であるということは、その後背には本命が控えているということになる。
『コマンドポストよりウィリアム班。監視衛星からの索敵を試みるも、不可と確認。夜明けを待ち、再度索敵を試みる。どうぞ』
「ウィリアム班よりコマンドポスト。了解。索敵結果が出次第、報告を求む。どうぞ」
『コマンドポストよりウィリアム班。了解。判明次第、情報提供を行う。貴局の無事を願う。グッドラック。オーバー』
「ウィリアム班よりコマンドポスト。了解。激励感謝する。オーバー」
期待はしていなかったとはいえ、実りのない報告に少なからず落胆する。
モニターゴーグルに示される時刻は2341。
少なくとも、あと八時間は監視衛星からの情報は期待できそうにない。
「シャーロット二等軍曹、ソフィア三等軍曹」
「「はっ!」」
「それを飲み終わったら休め。予定より早いが、交代とする」
「イエッサー」
シャルは即座に了解の返事をするが、ソフィの返事はない。気後れしているのだろう。
「イエッサー」
しかし、今の時刻を確認し、合理的と判断したか。遅れて返事が返ってきた。
「本番が近い可能性もある。備えてしっかり休め」
ソフィの返礼を確認し、告げる。その俺の宣告に二人の顔が引き締まる。
「「ハッ」」
「よし。悪いな、リリー」
勝手に繰り上げを行ったリリーに詫びる。
「いえ、正しい判断かと」
「すまんな。助かる」
多くを語らずとも、察して気遣ってくれる副官にはいつも助けられる。
「シャーロット二等軍曹、ソフィア三等軍曹、仮眠に入ります」
ソフィに対しては上官になるシャルが、敬礼と共に報告する。
「ああ、しっかり休め。ただし、有事の際は即応するように」
「「ハッ」」
相反することを言っているような俺の命令にも、二人は了承の敬礼を返す。
散々訓練してきたことだ。危険地帯にあっても休息し、有事に際しては即応する。二人とも、それができる。
背を向けテントに入る二人を見送りながら、早くも冷え始めたコーヒーを口に運ぶ。
――こちらを確認して離脱したということは、帰ってくれればいいんだが。
そう願いながらも、俺は覚悟を決める。
「来るとしたら、この哨戒中ですね」
「そうだろうな」
同じ考えのリリーに肯定を返す。
あれだけの行動を取っている集団だ。当然、監視衛星の目は計算に入れているはず。
となれば、既に警戒されている状況下では、その目が働かない夜間を狙うだろう。そして向こうが夜間に済ませたいのは国境突破のみならず、その先の逃走までの全てだ。その点から逆算すると、国境に程近い俺達の近辺を通るのは夜明けまでの余裕が残る時間、これからの四時間の哨戒中になる公算が高い。
向こうは俺達を確認した。
であれば、雪山迷彩装備の俺達をただの登山者とは思うまい。それを認識した向こうが取る選択肢は、強硬か、ルートあるいは日程の迂回か。二つに一つ。
どうか後者を選択してくれ。
信じもしていない神とやらに祈りながら、俺はますます冷え込む外気に身を竦めた。
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