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亜人戦争  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
15/23

14 斥候視認


「……! ……ィ!」


 遠くで声が響いている。


 気付き、意識は急速に覚醒する。


「曹長! リリー! 起きてください!」


 即座に起き上がり、寝袋を剥ぎ取る。アイゼンを付けたままの靴を手にテントから這い出る。


「状況!」


 靴を履きながら叫ぶ。


「十時の方向、距離三千に無人戦闘航空機(ドローンファイター)視認! 確認とほぼ同時にターゲットは反転、離脱しました!」


 シャルの報告を聞きながら、ライフルを手に取る。


「ターゲット以外の確認は!?」

「ありません!」

「戦闘行為は!?」

「ありません!」


 シャルの指さす先を確認。

 超々遠距離。

 夜の闇の中、亜人の視力でも既にターゲットは確認できず、すぐにモニターゴーグルを起動。

 熱源、金属感知を行うも索敵範囲外。


「わかった。引き続き警戒を厳にせよ」

「「イエッサー」」


 シャルとソフィが監視に戻ったのを確認し、


「ウィリアム班よりコマンドポスト。当局キャンプから十時方向、距離三千に無人戦闘航空機(ドローンファイター)を視認するも、ターゲット離脱のためロスト。どうぞ」


 司令部に報告を入れる。


『コマンドポストよりウィリアム班。無人戦闘航空機(ドローンファイター)以外の目標確認はあるか。どうぞ』


 当然ながらステラは交替に入っており、オペレーターのジェイムズの声が返ってくる。


「ウィリアム班よりコマンドポスト。ターゲット以外の確認はない。当局キャンプからの索敵範囲でターゲット、ターゲットに関わると思われる生体反応なし。どうぞ」


『コマンドポストよりウィリアム班。コマンドポスト、了解。当局が監視衛星で索敵を行い、状況を確認する。五分待て。どうぞ』


「ウィリアム班よりコマンドポスト。ウィリアム班、了解。報告を待つ。どうぞ」


『コマンドポストよりウィリアム班。コマンドポスト、了解。夜間のため、望みは薄い。あまり期待はしないでくれ。オーバー』


「ウィリアム班よりコマンドポスト。ウィリアム班、了解。オーバー」



 報告を終え、一息つく。


「曹長、どうぞ」


 呼びかけに振り向けば、リリーが湯気の立つカップを差し出してきている。


「ああ、ありがとう」


 寝起き早々、如才ない副官に礼を言う。


「いえ」


 リリーは短く応え、シャルとソフィにもコーヒーを振舞う。


 腰を落ち着け一服し、心を休める。


無人戦闘航空機(ドローンファイター)の種別は認識できたか?」


 俺の確認に、シャルとソフィの両方が首を横に振った。


「遠距離のため、確認できませんでした。ただ機影は小さく、戦闘よりも偵察を重視したタイプかと思われます」

「なるほど。こちらに気付いたと思うか?」

「おそらく。確証はありませんが、反転離脱したことから考えても、ほぼ間違いはないかと」

「そうか」


 シャルの返答にうんざりする。

 その報告内容と状況を併せて鑑みるに、今回の無人戦闘航空機(ドローンファイター)は件の密入国グループの斥候である可能性が高い。そしてそれが斥候であるということは、その後背には本命が控えているということになる。


『コマンドポストよりウィリアム班。監視衛星からの索敵を試みるも、不可と確認。夜明けを待ち、再度索敵を試みる。どうぞ』


「ウィリアム班よりコマンドポスト。了解。索敵結果が出次第、報告を求む。どうぞ」


『コマンドポストよりウィリアム班。了解。判明次第、情報提供を行う。貴局の無事を願う。グッドラック。オーバー』


「ウィリアム班よりコマンドポスト。了解。激励感謝する。オーバー」


 期待はしていなかったとはいえ、実りのない報告に少なからず落胆する。


 モニターゴーグルに示される時刻は2341。

 少なくとも、あと八時間は監視衛星からの情報は期待できそうにない。


「シャーロット二等軍曹、ソフィア三等軍曹」

「「はっ!」」

「それを飲み終わったら休め。予定より早いが、交代とする」

「イエッサー」


 シャルは即座に了解の返事をするが、ソフィの返事はない。気後れしているのだろう。


「イエッサー」


 しかし、今の時刻を確認し、合理的と判断したか。遅れて返事が返ってきた。


「本番が近い可能性もある。備えてしっかり休め」

 ソフィの返礼を確認し、告げる。その俺の宣告に二人の顔が引き締まる。


「「ハッ」」

「よし。悪いな、リリー」


 勝手に繰り上げを行ったリリーに詫びる。


「いえ、正しい判断かと」

「すまんな。助かる」


 多くを語らずとも、察して気遣ってくれる副官にはいつも助けられる。


「シャーロット二等軍曹、ソフィア三等軍曹、仮眠に入ります」

 ソフィに対しては上官になるシャルが、敬礼と共に報告する。


「ああ、しっかり休め。ただし、有事の際は即応するように」

「「ハッ」」


 相反することを言っているような俺の命令にも、二人は了承の敬礼を返す。

 散々訓練してきたことだ。危険地帯にあっても休息し、有事に際しては即応する。二人とも、それができる。


 背を向けテントに入る二人を見送りながら、早くも冷え始めたコーヒーを口に運ぶ。


 ――こちらを確認して離脱したということは、帰ってくれればいいんだが。

 そう願いながらも、俺は覚悟を決める。


「来るとしたら、この哨戒中ですね」


「そうだろうな」


 同じ考えのリリーに肯定を返す。


 あれだけの行動を取っている集団だ。当然、監視衛星の目は計算に入れているはず。

 となれば、既に警戒されている状況下では、その目が働かない夜間を狙うだろう。そして向こうが夜間に済ませたいのは国境突破のみならず、その先の逃走までの全てだ。その点から逆算すると、国境に程近い俺達の近辺を通るのは夜明けまでの余裕が残る時間、これからの四時間の哨戒中になる公算が高い。


 向こうは俺達を確認した。

 であれば、雪山迷彩装備の俺達をただの登山者とは思うまい。それを認識した向こうが取る選択肢は、強硬か、ルートあるいは日程の迂回か。二つに一つ。



 どうか後者を選択してくれ。



 信じもしていない神とやらに祈りながら、俺はますます冷え込む外気に身を竦めた。






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