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亜人戦争  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
14/23

13 亜人の誕生


 宿営は好きじゃない。



 嫌って程、数はこなしているから慣れてはいるが、どれだけ慣れようと好きになれそうにはない。


 暖を取るためすぐ隣で眠るリリーはいつものこととはいえどうしたって気を遣うし、ここにシャルやソフィまでいれば、シャルは俺がいる状況に慣れているものの今日のステラのようなちょっかいがあればキャンキャンうるさいし、ソフィは口にせず静かながらも俺を気にかけている様子が気の毒だ。


 そしてそんな事情よりもなお、暗い中、何もすることのない時間があるというのが、どうしようもなく嫌だった。



 どうしたって、余計なことを考えてしまうから。


 星明かりがぼんやり滲むテントの屋根を見上げる。


 その先に行けたら、どんなにいいだろう。


 たまに考えるバカらしい現実逃避が我ながら笑えた。流石に亜人の俺達でも宇宙空間で生きてはいけない。


 亜人。

 そう、俺は亜人だ。今更確かめるまでもなく、常に意識させられる現実。その何千回目ともわからぬ再認識。


 どうして俺達は、生まれてこなければならなかったのか。


 考えても仕方ない。そんなこといつだってわかりきっているのに、やはり考えずにはいられなかった。


 寝袋から手を出して、俺はいつも枕元に置いている物を手に取る。


『亜人の誕生』


 ジップロックの中に、好事家の趣味の一品となった紙製の本。そこには擦り切れた文字で、そんなタイトルがふられている。


 ページを開くまでもなく、覚えこんでしまった内容が脳裏に浮かぶ。


 始まりは半世紀以上も前のこと。

 ラストウィルスを克服するための研究を通し、近代史に名を刻む大天才、ナイト兄弟はナノテクノロジーを確立させた。彼らは、その技術をもってして人類から疫病という大敵を駆逐。そして、外敵のなくなった人類の内的問題も、その技術をもってして、克服しようとせしめた。


 その問題とは、人類のあらゆる側面への意欲低下。


 ナイト兄弟が生まれるより一世紀以上も前から、その問題は顕在化し始めていた。技術が進歩し、多くの生産業はオートメーション化。サービス業すらマシーンがこなせるようになっていた22世紀。


 そうして進歩した技術が、人類から義務を奪い去った。

 労働、納税、勤勉、参画。法や社会が求めていた義務から人類は解放されたのだ。


 何もしなくとも、衣食住を保障された世界。

 その世界で、人類の多くは進歩した技術がもたらす娯楽をただただ甘受した。何を生み出すこともなく、ただ享楽を貪り、恩恵を享受する。


 そんな中、意欲的に生きていける者は多くはなかった。


 落ちぶれた人類を糾弾するかのように、最後に襲い来た外敵、ウィルス。

 ラストウィルスと名付けられたそれは、進歩した当時の医療技術をもってしても克服不可能だった。


 しかしそれすらも、先述の通りナイト兄弟が駆逐せしめた。


 そうして人類から義務も、外敵も無くした技術の進歩は、皮肉にも人類の発展の原動力たるモチベーションを大きく削り取っていた。



 その状況を憂慮したナイト兄弟は、一つの試みを行う。


 満たされすぎた人類から薄れている意欲、果ては生存本能、欲求や競争意識に至るまで。それらを人類以外から、人類へ取り込もうとした。


 野生の本能。

 そうとでも呼ぶべきものを、人類以外の生物から得ようとしたのだ。


 それが亜人の誕生。その第一ページ。


 ナノテクノロジーを用いたナイト兄弟の取り組みは事もなく成功した。そして、結果も伴った。

 彼らが生み出した亜人は堕落した人類よりもはるかに意欲的で、身体能力も高く、ナイト兄弟が後に発見した新たな力《・・・・》・アニマへの適応性も極めて高かった。



 だからこそ、まずかった。


 自分達と似ていながら、自分達と異なる生物に対する拒絶反応。

 高い能力値を叩き出す新生物の各国の取り扱い。

 現生人類と亜人間の対立。

 新たな生物を作り出すという神の領域に踏み込んだ倫理的問題等々。


 その脅威は、第九十六代アメリカ合衆国大統領・リッキー=サイモン就任演説襲撃事件により、全世界に明らかにされた。


 そうして亜人の排斥と解放、利用の争いは激化。


 しかし、現生人類は半数以上が労働もしなければ、この問題に興味を持つことさえない。

 けれど、問題は歴然と存在し、それはもはやテロと言えるレベルにまで達している。

 だというのに、人類の治安組織は衰退した上、亜人は戦闘能力において人類よりも優位に立つ。


 だから、亜人事件に対処するための戦力として、また新たな亜人が作られた。


 それが俺達。

 亜人のために立ち上がった同類を撃滅するための亜人の集団、亜人部隊。

 存在を知る同類からは侮蔑を込めてトレイターと呼ばれる存在。


 瞬間、本を握る手に、思わず力がこもった。


 軽蔑されるまでもない。誰より俺達自身がわかっている。


 俺達はクズだ。自分達が生きるためだけに同胞を殺す裏切者(ユダ)


 信じもしない神に問いたくもなる。俺達はどうして生まれてきたのかと。


 馬鹿らしくて笑った。やはり神などいるわけもない。


 だって俺達を生み出したのは、亜人(自分達)と敵対する人類なのだから。


 それでも俺達に神がいるとするのなら、それは俺達を生み出した人類、あるいはナイト兄弟。


 もしくは、俺達を生み出すことを決めたナイト兄弟のその意志か。


 意志。

 満たされた人類から失われ、世界の発展に、アニマの資質に深く関わるとされるもの。

 それゆえに、俺達亜人を作り出してまで、ナイト兄弟が取り戻そうとしたもの。

 それでいて、俺達トレイターは生まれながらに心臓に仕掛けられたリーパーによって、持てなくなったもの。


 それでも、だとしても。その条件の中で俺達はどうするべきなのか。俺はどうしたいのか。


「……んぅ」


 ふいに耳に届いた吐息に横を向く。


 そこには、もう十年近く見慣れた顔がある。

 知らず手の本を置いて、俺はその頭に手を伸ばした。が、リリーの頭は寝袋に包まれているせいでうまく髪を梳けなかった。


「ハハッ」


 何とはなしに笑って、寝袋の上からその頭を撫でた。


 俺は自分を嫌いだ。


 それでも死にたいとは思わないし、それ以上にこいつらを死なせたくない。



 だから、俺達が生き残るために必要なことは何でもしよう。


 今までだってそうしてきたように。これからも。




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