12 トレイター
「これ以上は、現状の情報では検討しがたいですね」
俺の諦めの吐息の結論を、リリーは言葉にしてまとめた。
「そうだな」
情報は少ない。ゆえに今の段階では、正答は求めえない。
「とりあえず、今日のところはこれ位にしておこう」
「はい」
俺の切り上げに、リリーは素直に応じる。
「ありがとう、リリー一等軍曹。現状の分析補助、助かった」
「いえ。これも私の職務ですから」
その言い様もらしいなと思って、やはり口元が緩んだ。
一通り話し終え、ふとした間が空く。
俺は監視を行いながらも、手のアサルトライフルを確認する。
そこにあるのは使い慣れたM8ではない。極寒地のため、寒冷地仕様のものだ。仕方ないこととはいえ、自分の命に関わる物が普段と異なるというのはどこか心細い。
その不安を紛らわすように、俺は銃の調子を見る。この寒さの中、分解も整備もできはしないが、いつでも支障なく撃つことができそうか様子を窺う。
撃つ。
そう、俺はいざとなればこの銃で撃つ。人も、亜人も。
撃つのだ。
そして撃ってもきた。幾人かの亜人を。自分と同じ亜人を。
俺も亜人なのに、自分と同じ亜人を。
今までも、そしてこれからも、撃ち続ける。
「曹長」
リリーの呼びかけが、俺を沈んだ物思いから引き戻す。
「なんだ?」
「上を」
俺の問い返しに応えたリリーの頭が動いて、俺の左肩に寄りかかる。
監視の目を逸らすなよと思いながらも、リリーが意味もなくそんなことをするとは思えないので、俺も同様に空を見上げる。
心、奪われた。
冷涼な大気の上、澄み渡った空の中、輝く満天の星々が俺達を見下ろしている。
「綺麗ですね」
「……ああ」
綺麗だ。素直に、そんな陳腐な感想しか頭に浮かんでこない。
「曹長」
夜空の光に心奪われる俺の耳元で、リリーの透明なソプラノが透き通る。
「なんだ」
「曹長の葛藤は、私達にもわかります」
心臓が一つ高く弾む。
「だって、私達も同じ亜人部隊ですから」
追い打ちをかけるように、あるいは潜り込んでくるように、リリーは言った。
どうしてわかった?
まるで俺の考えていることがわかっているかのようなリリーの台詞に動揺し、それを落ち着けようと深く息を吐いた。
「私達はトレイターです」
トレイター。
同じ亜人でありながら亜人に牙剝く俺達のことを、巷間の亜人達は侮蔑を込めてそう呼ぶ。その蔑称を耳にする度に、俺達は自分のことをより一層嫌いになる。
「確かに私達は汚い裏切り者なのかもしれません」
でも、それでも。もの悲しい声で呟きながらも、リリーは反芻する。
「私は生きたい。曹長と、皆と一緒に生きていたいです」
細く、切なく。
言葉として紡がれた想いは純粋で。
だから、心が締め付けられるようにやるせなかった。
「そうだな」
綺麗な天頂に、俺は心から同意する。
自分が、自分達が生きていたいから、他人を殺す。
それはあまりにも自分勝手で、許される罪ではない。
だって、同じ理由で自分が、リリー達が殺されたら、俺はきっとその相手を許さないだろう。
それでも、だとしても。
「俺も、お前達と生きていたいよ」
自ら吐き出し凍える夜空の大気に揺蕩う白い息越しでも明るく輝く星々を、俺はどこか遠く眺め続けていた。
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