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亜人戦争  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
12/23

11 考察


「それで、曹長。今回の事件の考察はどうしましょう?」


 モニターゴーグルを暗視モードに切り替えていると、リリーが切り出してくれる。本当に、よくできた副官だ。


「そうだな。まずは敵の分析だが、明らかにただの亜人集団じゃないな」

 リリーの切り出しに応じて、俺は敵の想定から考察を進める。


「そうですね。この冬季の雪山を侵入ルートに使用している。国境警備隊を避ける上では、優れたルート選択ですが、実行するのは困難です」


「だな。亜人であれば難度は下がるとはいえ、容易ではない。加えて最低限の雪山装備は必要になる。それを少なくとも七百人分以上。相当の組織力、資金力がある」


「さらに国境警備隊に一人も捕縛されない練度。監視衛星が確認した限りでは、この過酷な環境下で一人の脱落者もいないようですね。統率力も大したものです」


「こうなると最早、相手は限られるな」

「はい」


 俺は世界に数ある亜人関連組織から、条件に当てはまる組織をピックアップする。


「どう考えたって最有力はDLF。次点で中華亜人会、ADA、 ERUってところか」


「最低限、そのレベルの組織力が必要不可欠ですね。既知の組織で、それら以外にこれほどの組織行動を行える組織はないでしょう。また、この規模の組織が急に発足されたとは考え難いです」



 DLF(Demiーhuman Liberation Front)・亜人解放戦線。

 ALF(Animal Liberation Front)・動物解放戦線から派生・独自の発展を遂げたこの組織は、亜人活動団体の最大手にして最右翼。全世界に支部を持ち、構成員数・資金力共に図抜けている。加えて、亜人のみならず、純粋な人類の構成員、協力者が多いこともその特徴だ。


 中華亜人会。

 国家として公に亜人実験を推進する中華人民共和国に反発する中華系亜人を中心とした会合。世界各国の中華街等に密かに潜伏しているとされており、その広い情報網、強い結束力を特徴とする。


 ADA(Africa Demiーhuman Association)・アフリカ亜人協会。

 亜人の強い繁殖力で自然増加した亜人を構成員としており、その構成員数の多さで知られる。しかし、アフリカ各国に存在する組織間の連携は拙く、組織として成熟していない。


 ERU(European Rights Union)・欧州権利連合。

 ヨーロッパ各国の亜人の権利のみならず、移民、女性、動物の権利等、各種権利団体を内包した連合。その組織特性と、ヨーロッパ各国は亜人の権利も先進的に認められているため、亜人関連組織の中では非常に理知的団体とされる。



「ERUは外してもいいかもな」

 組織規模的に本事件の実行は可能だろうが、組織の性格的には本事件からもっとも遠いように思える団体を俺は除外候補として挙げる。


「確率は低いように思えます。ただ、相手の目的が不明な以上、安易に除外すべきではないとも考えます」


「……確かにそうだな」


 ERUはテロ活動を行うようなタイプとは思えないが、目的次第では行うことも否定しきれない。最優先目標があれば、どれほど理知的な団体であろうと強硬策に出ることは考えうる。


「となると、ターゲットの候補はこの四団体として、次はその目標か」


「はい。何をおいても目標が定かでなければ対応もできません」


 目標がわかれば、目標達成のために相手が取る手段も推察できる。

 手段が推察できれば、効果的な対応策を検討することができる。

 それを推察する情報はあまりに少ないが、


「なぜアメリカ合衆国か」


「はい。そこが最大のヒントになりそうですね」


 俺の推測をリリーも後押ししてくれる。


 そう、なぜアメリカなのかだ。

 敵の目標がなんであるにしろ、敵からすればアメリカは、間違いなく世界有数のやりにくい国家(・・・・・・・)のはずなのだ。

 秘匿ではあるものの我が亜人部隊を始めとした対亜人戦を行える精強な常備軍、ほとんど全ての国民を管理する戸籍システム、国内の動向を探る諜報機関等の行動を阻害するあらゆる要因が揃っている。


 強いて相手に有利な点を挙げるならば、今回侵入を許した通り、広大な領土ゆえの長大な国境線、自然に恵まれたがゆえその国境線に存在する峻険な地形があるが、そんなものは似たような条件でアメリカよりよほどやりやすい国は他に幾つもある。


 となれば、


「あと気になるのは、どうしたって時期だな」


「偶然か、それが狙いか。大統領選も重なっていますしね」


 今日はクリスマス。あと一月もしない内に、次の合衆国大統領が決まる。


 亜人とアメリカ合衆国大統領。


 この二つが並べば、未だ歴史に学ぼうとする心ある人類の半数は確実にある一つの事件を思い浮かべるだろう。



 亜人宣言。


 今を遡ること約40年前の2183年1月20日。

 時の大統領に就任したリッキー=サイモン大統領の就任演説会場を亜人の集団が襲撃・制圧。 

 大統領の就任演説に代わって、亜人の権利保障、人類と亜人間の相互不干渉を訴えた一大事件。

 世界に初めて亜人問題の重大さと亜人の軍事利用の重要性を示した事件と言われ、亜人にとっては輝かしい功績とも思われている。



「幸か不幸か四十周年。何をするにもちょうどいい節目だな」


「事を起こすのに過去の日取りを尊ぶことの意義は理解できかねますが、とかく起こす者というのは意識するらしいですからね」


 合理的なリリーらしい意見に思わず笑いそうになる。


「そうだな。となると、やはり本命は1月20日か」

「しかし、逆にそれを囮とする可能性もあるかと」

「そうだな」


 本命を指定しながら、自分でも想定していたリリーの指摘に頷く。これほどにらしい(・・・)からこそ、それを逆手に取るというのも一つの戦略だ。しかし、これは考え始めれば永遠に逆の逆を考え続けなければならないウロボロスの輪。



 だからこれ以上の推察を諦め、俺は一つ長い溜め息を吐いた。





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