EX.278 「隠された秘密④」
舗装されたとはいえ星王宮と比べても古いと思わせた城の中であまりにも異質。
綺麗過ぎるーーーそう彼女に思わせた。
細菌一つすら溢れていないであろう整頓された研究室。
トモキが見ればこれらの設備の一つ一つを解説してくれるだろうがここにはいない。
「カメラに撮っておきましょう」
ユウキはスマホを取り出してぎこちなく撮影する。
薬品を始め、あらゆる教材に人間大の試験管。
中には緑色の粘液のようなものが詰まっている。
確か・・・・・・これはホルマリンってやつかしら。
半端な知識なものでこれが何なのか特定出来ないのが歯痒い。
ただーーー間違いなくこれは危うい。
彼女の持つ反応がアラートを鳴らしている。
「さて・・・・・・ある程度撮影できたしーーー馬鹿どもと集合しないと」
中身を知るのは後でもいい。
後は逃げられた後でも爆破されないように爆弾がないか気をつけるだけだ。
それとーーー
「この砂も回収しておくべきね」
それはリーリアルだったもの。
その砂をコンビニで貰った袋に詰めて、マジックポーチに入れる。これさえあれば調べてくれるだろう。
ドチャッ!
「ーーー?」
何か瑞々しい物が落ちた音がする。
研究所の奥か・・・・・・。
彼女はマジックポーチからライトを取り出して暗がりへと進む。
ゆっくりと、確かにその歩みを確かめながら。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ!」
「ーーー・・・・・・?」
暗がりの先には何がいた。
小さくうずくまっている何かだ。
ーーー人だ。確かに人のフォルムをしている。
だがそのシルエットは少し歪な形をしている。
男だ。
膝と膝を細く尖っている。
背骨は浮き出て、一部が異様に飛び出している。
やけに痩せ細くなった体だ。
光を当てると怯えるように顔を隠す。
もしかしたら随分と長く幽閉されていたのかもしれない。
「大丈夫かしらーーー?」
ユウキは怯える男に囁くように、しかし確かに届けるように話しかけた。
だが男はハァハァと荒い息を吐きながら、何も答えなかった。
多少の違和感はあれども、幽閉されていたのかもしれない人間だ。怯えて何も話せないのも理解できる。
もしかしたら私のことも科学者の一人だと思っているかも知れない。
こういう時は猫に話しかける時と同じだ。
目線を合わせてゆっくりと話しかける。
「もう一度言うわ大丈夫かしら?問題ないわゆっくりと話しかければいいから。そう、ゆっくりと吸って吐いて。そうーーーそのように」
「ハァハァハァーーー・・・・・・嫌だ!」
嫌だーーーとは一体何のことだろうか?
ーーーよく見ればこの人の肌がおかしい。
やけに身体がざらざらとしている。
鳥肌かーーーとは思ったが鳥肌としてはやけに荒っぽい。
それに彼の指先が随分とーーー尖っている?
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!なりたくない!なりたくない!!なりたくないんだ!竜なんかに!」
「ーーー・・・・・・は?」
りゅう?ーーー竜と言ったのか彼は。
だが何を言っている。龍人族はいるが、あれはどちらかと言えば人よりだ。感性はともかく。
それに彼らは先天的に竜が混ざっているだけで、後天的に竜が混じることはない。
「りゅうって何かしらーーー?いや、それよりも落ち着きなさい。ゆっくりと、ほらゆっくりと」
「嫌だ!もう沢山だ!仲間も死んだ!ーーー俺も、俺もこんな体になるくらいならーーー!」
そう叫ぶと男は自らの腕を噛みちぎりろうとする。
「やめなさい!」
ユウキは叫んでその行動を止めようとするが、その腕を爪で切り裂かれ投げ飛ばされた。
「ッーーー貴方ね!」
身体を腕で支えて起き上がる。
そして投げ飛ばされた時に手放したライトを手に取るとーーーそれらを目にした。
人だ。
男も女もあらゆる年齢を関係なく巨大な試験管に詰め込まれた人たちだ。
中には人と緑色の液体。あれは確かーーーホルマリン。
「放せ!話してくれ!死なせてくれ!お願いだ!」
男をゴライアスで捕まえる。
ただ嫌な想像だけが頭を巡ってしまう。
いやな辻褄が合ってしまう。
「ごめんなさい。きっとーーー貴方は既に死んでいる」
「何を言っているんだーーー!?」
彼の証言、リーリアルの状態。そしてーーー
『私たちはワイバーンを討伐しにこの国に来たんだ』
昨日飲み会で偉丈夫が話してくれたこの国に来た理由。
「この国はもしかしてーーー人をドラゴンに変える研究をしていた・・・・・・?」
@@@@@
叩きつけられる瞬間ーーーアキヒトは確かに聞いた。
カードオープン・・・・・・カードオープン、かーーー。
「先生!なに手を出してるんだよ!これはオレの教材なんだろ!?」
「そりゃあキミが随分と手をこまねいていたからね。親心として手は出したくなる。それにーーーこれ以上は難しいみたいだ」
「逃す気はないぞ・・・・・・!」
埋められた壁から這い出してアキヒトはそう叫ぶ。
「いいやこれ以上はもう十分だ。キミのスイッチが入り切る前に逃げ出させてもらう」
「だったら謎解きタイムだ。アンタの正体は分かった」
剣は抜かない。抜いたところで奴に届かないーーーそう直感が語っていた。
「アンタはかつて世界を壊そうとしたSランク犯罪者のリリエンタール・セオドア・マックヴァルドーーーだろ。とっくの昔に死んだハズの犯罪者だ」
『カード』は確か擬似的に能力者を製造するアイテムだったハズ。今は昔ほど盛んではないがあることは知っている。
「ーーーそうか確かキミは『死神』と呼ばれた賞金首ヒーローだったね・・・・・・」
女は鉄でできた頭をポリポリと掻いてぼやく。
「否定する気は無いんだなーーー」
「否定したところでキミはきっとより疑うだけだろう。だったら時間の問題だ」
「随分と効率的だな」
「時間が限られているんだ。我々革命を起こす者達にとってはね・・・・・・」
そして女は転がった少年の手を掴み立ち上がらせる。
「先生ーーーごめん」
「仕方ないさーーーそれじゃあ行かせてもらおう。追いかけたところでキミは時間がかかるだけだ」
「ーーーだとしても!」
「それとだーーーもう私は『オーバーロード』と名乗っている。間違えないでくれたまえ」
アキヒトは前へ駆ける。
敵へ確実に届くようにーーーだが、
「ーーーじゃあね」
手をぴらぴらとさせた二人は突如生まれたワームホールに吸い込まれていた。
一瞬の逡巡。行くべきか行かないべきか考え、その時間にワームホールが閉じてしまった。
「ーーーいや、ここは行かなくて正解だ。みんなと集合しておかないと」
そう言って自分を納得させる。
最悪自分の腕一本くらい押し付けてやればよかったがもう仕方ない話だろう。
ーーー上に行くべきか下に行くべきか・・・・・・。
そしてアキヒトはこっちだ、と呟いて自分が開けた天井を見つめた。
@@@@@
「ごめんなさい・・・・・・」
少年はーーー天音と呼ばれた少年はそう言った。
「謝ることは無い。私も随分と憶測が外れてしまっていた。ここからゆっくりと考えていこうーーーどうすれば良かったのか、これからどうするべきか。大丈夫・・・・・・私達にはたくさん時間があるのだから」
そうして再び彼らは消息を絶った。
自らを『過負荷』と名乗った女は
再び世界の唸りを確かに待っているーーー。
次回:7月8日




