EX.270 「重戦士の男」
ヒーローには所属してからランクが与えられる。
最上級であるA級から新人であるH級までの八段階だ。
基本的に一年ほどで抜けると言われているH級を除けばヒーローの活躍度によってランクが上昇していく。
そしてヒーローにはある程度の目安が用意されており、A級からC級までが主戦力、それ以下が予備戦力として扱われる。
さらに主戦力はより細かくランク付けされており、より平和のために戦うヒーローにハイランクが与えられる。
ランクが上がれば固定給が上がり、ヒーローをメインの職業にする人もいれば、そうではない者もいる。
とはいえハイランクのヒーローはそれだけでも憧れられる立場であり、社会にとって重要な存在である。
実際ハイランクのヒーローは現場の指揮権が与えられる。状況判断で都度変わる者であるが優先的に任せられることも多い。
もちろん予備戦力のヒーローたちも自衛隊や警察と協力して民間人の救出や敵の捕縛といった活動も精力的に行う。
誰もがお互いを支え合う形でヒーロー活動を行っている。
世界の平和のためにーーー
ーーーとはそんなことを言いつつも、問題はここにある。
俺、アキヒトこそミヤタアキヒトさんはH級である。
その理由はもちろん今アメリカに帰ったカレンにヒーロー免許を貸しているからである。
討伐詳細などと言ったデータは全てヒーロー免許に残されるが、毎年3月にある免許更新日に更新をおざなりにすればランクは上がらない。
もしくは下がる。
俺はこれ以上下がらないため問題はないが、ずっとH級で居続けるのも心苦しい。
完全に紛失していないので再発行も難しいし、そもそも当時のカレンにヒーロー免許を渡した頃を逆算すれば大体ヒーローになってから一度も更新していない身として大分肩身が狭い。
とはいえここからヒーロー活動を続けていくのならランクを上げるのも一つの手だとは思っているのでカレンに貸す前に更新しておくべきだったと後悔している所存である。
・・・・・・そろそろ閑話休題としておこうか。
ビシャエラ・バウワンと名乗った彼はA級29位。ガシャガシャと動くたびに鳴る鎧の下には相応の肉体が備わっていることなのだろう。
「えっと・・・・・・ビシャエラさん?ーーーそれともバウワンさん?」
「バウワンと呼んでくれ。私の国は君の国と同様に姓と名の順番となっているんだ」
じゃあファーストネームで呼んでくれということだろう。
「ではバウワンさんよろしくお願いします」
「ああよろしく頼む。ここにヒーローが現れるのは珍しいんだ」
俺はもう一度手を強く握りしめると、ゆっくりと離した。
「ヒーローは珍しいんですね」
「そうだね。そこの少年たちにも話したのだが、この国は巨大な壁で作られている。オマケにもしものための錬金術的保護も掛けられているそうだ。私もパフォーマンスの一つとして壁を突き破ってみたが瞬く間に修復していた」
この人は一体何をやっているのだろうか。
「なるほど、適当な魔獣だったらこの国を襲えないと言うことですね。でもなんでバウワンさんが来たんです?」
バウワンさんは一つ指を立てると。
「それはね。この国で類を見ないほどのワイバーンが発生してね。稼ぎ時だと思って参った所存さ」
そう言ってニカっと笑う。歯の手入れは欠かさないタイプらしい。
ーーーそれにしてもワイバーンの群れ、か・・・・・・ここに来る前はそんなの聞いてなかったな。
「それじゃあワイバーンの群れはこれから?」
「?ーーーそうか君は後発組だね。実はもうワイバーンは借り尽くしてしまったんだ。すまない」
魔獣の討伐は取ったもん勝ちだ。そんなことで謝られても困る。
「そんなの構いませんよ。お互いにやれることはやりましたし。知ってます?俺たちはドラゴンを討伐してきた帰りなんですよ」
俺は胸を張ってそう言い切る。
するとバウワンさんは目をキラッキラとさせながら、
「すごいじゃないか!是非とも話をーーーいやいや交流会としてこの後ご飯を食べに行かないか!面白い店を知っているんだ!」
「ええ・・・・・・別に構いませんが・・・・・・」
この人圧が凄いなぁ。
「いや、ちょっと待てアキヒト」
「?」
肯定した俺にストップをかけたのは先ほどからずっとバウワンさんを見つめていたトモキだった。
「どうしたんだよ、いきなり。別にいいじゃんか誘いを受けても」
「お前・・・・・・提出しなくちゃいけない書類あったろ」
「あったっ・・・・・・」
俺はトモキと目を直接交わす。
彼の目から何か大事な意思を孕んでいるように見えた。
俺はとりあえず彼の言葉に乗ってみるとした。
「そうだった!やっべぇクリア報告を忘れてた!」
「おっとそれは大変だ。すぐに書類を提出したほうがいい。ここの受付は端正な顔で睨んでくる」
「すみません・・・・・・俺の参加は難しいと思うので代わりにあのユウスケってやつを連れて行ってください。アイツが今回のMVPなんで」
「そうか・・・・・・なるほど。気を利かせてすまないね」
「いえいえ、こちかこそすみません」
そう彼に言って、俺はメンバーの方へ向く。
「お前ら一旦ここで解散する!ホテルの場所はメールで送ったから自力で向かってくれ!」
そんな俺の言葉にみんなは気の抜けた返事をするのであった。
@@@@@
バウワンさんと食事へ向かったのは主席のユウスケと筋肉談義がしたいと言っていた山本、そしてただ飯食らいのユウキだった。
残りの俺たちはすごすごとホテルへ向かった。
「なぁーんで解散すんのかね?」
「しょうがないでしょ。気になることが多過ぎたんだ。正直皆んなも回収しようと思ってたんだぞ」
「えっじゃあ何?アイツらもう罠に掛かった後?」
次会えるの独房の中かな?
じゃあ揶揄い用のおもちゃ持っとかないと。
「そうじゃなくて・・・・・・本来会えない人と会えてるのがおかしいといいますか・・・・・・」
「ずいぶんな言い方じゃないか。お前らしくない」
先ほどからごちゃごちゃ言う割には要領を得ない。
普段ならもう少しはっきり言うくせにどうしたものか。
「ーーートイレ行ってくる」
「じゃあ岡田さんが言葉をまとめている間に料理を進めておくよ」
「足りない何かがあれば言ってくれよな」
「大丈夫。調理器具は持って来たから」
そう言ってマジックバックからフライパンやらなんやらを取り出して取り付けられたキッチンのボードの上に置く。
「あれリッター単位でウン万円変わるはずなんだが・・・・・・」
俺はハルトの金遣いの荒さが不安です。
ハルトはタオルを取り出して消毒液をかけてキッチン周りを掃除する。
そして蛇口を捻ると・・・・・・。
「・・・・・・出ないんだけど」
どれだけ回しても水が出てこなかった。
「断水してるなんて聞いてないんだけどなぁ」
「張り紙貼ってたら気づいてるはずだし・・・・・・」
俺たちはうーん、と悩むが答えは一切出てこない。
「とりま断水と断言しといて、水は能力で解決しておくか」
俺は『ウォーター』を呼び出す。
時間帯的にはすぐにおネムになる妖精たちもピンピンだ。
『おはよーマスタァ。何すればいいのぉ」
「全くもっておはようって時間帯じゃないけどさ。まあいいや、色々水回り頼めないか」
「わかったぁ。必要だったら言ってねぇ」
「ありがとうウォーターさん」
ハルトはサッと感謝を伝えて、鍋を差し出す。
ウォーターはそれを察して水を噴き出す。
ーーー見方によってはマーラインなんだけどね。
「よしじゃあ水の準備は出来たし、コレを沸騰させてる間にドラゴン肉を調理しておこう」
そうハルトは言ってコンロのスイッチを押す。
「今度は火が出ないか」
「もしかして大外れ引いた?」
宿ガチャ失敗してるんじゃないのか?
しかし困ったなぁ水もガスも終わってるのか。
それ以外は見た目大丈夫っぽいけどめちゃくちゃ不安になってきた。
「よし今度はファイア呼び出してちょーだいよ」
「お前俺の能力を使うことにためらいを見せてくれよ」
いくら家族でも気安すぎるのではないだろうか。
俺は文句を言いつつもファイアを呼び出し火をかけて貰った。
『今度はもうちょっと有用なタイミングで呼んでくれよ』
「火は寧ろ何か焼くのがメインだろうが」
戦闘に使い過ぎた。
もっとまともな使い方をしてあげないと捻くれてしまう。
するとドンドンドンとドアを叩く音が聞こえる。
一瞬、今度は怪奇現象か、と身構えたが音の出元が先ほどトモキが入っていった部屋だと気がつくと一つため息をつく。
そう、水回りがストップしているのだ。
「ウォーター悪いけど水のお裾分けしてくれないかな」
『いーやーだぁだぁ』
@@@@@
「・・・・・・助かった。この恐怖はトイレで紙が無かった時と同じだ」
「どっちもトイレの話じゃねえか。反省しろ」
「不可抗力にどの反省を!?」
トモキは、はあ、と一つ大きくため息を付くと、備え付けのベッドに腰をかける。
ゴッ!
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
我ら兄弟は石がぶつかった音がした方を見つめた。
「ケツが!死ぬッッッ!」
「・・・・・・この宿終わってないーーー?」
「結構な値段したのにな」
今までここまで酷い宿に出会ったことが無い。
そりゃ値段相応のモノとは出逢ったきたが、それはあくまでも値段を出し渋ったからこそのオチだし。
だから割と金を取られたくせにサービスが終わってる宿は珍しい。
「持って来た野宿セット使うか」
そんな力の抜けた声に、二人は「賛成」と言った。
@@@@@
そんなこんながありつつも料理が出来たらしく、唯一まともな石でできたと思われる机に集まる。
「ドラゴンのテールスープ出来上がり!ホントはもっと豪快なメニュー作りたかったが環境が終わってるから我慢じゃな」
「ハルト爺さん随分と老け込んだ喋り方じゃな」
「いやお前らもじゃよ」
おっと待ち過ぎて心がジジイになってしまった。
さっさと食べないと胃が受け付けてくれないかもしれない。
「じゃあ早速いただきます」
ーーーまずはスープを啜る。
・・・・・・おぉ、野生味あふれる濃厚なスープだ。
一瞬豚骨ラーメンのスープのように感じられたけど、この味の濃さはポルトガルのサラブーリョって料理に似てる。
そして皿の中心にでかでかと乗せられたテール肉はじっくり煮込む時間は無かったものの脂と赤身が噛めば噛むほど濃くなっていく。
「旨っ!思わず食レポしてしまった!」
「口には一切出てなかったけど」
そう言う冷静なツッコミ、今は要らなかった。
「ドラゴンの肉って筋が硬いってイメージだったけど案外柔らかいんだね」
「テール肉はコラーゲンと脂が多い部位だからだね。十分美味しく作れたわ」
「ご飯我慢してよかった・・・・・・」
「文字通り噛み締めて食べとる」
コレぐらい美味しいと何も考えられなくーーー
「あっそういやトモキってなんか言おうとしてたっけ」
「あっ忘れてた」
忘れてたのはトモキさんでした。
「オレ、ヒーローランキングのトップ層は調べたりすることがあるんだけど」
「うん」
「それであの人の名前も姿も見たことがあるんだけどーーー確かあの人はもう死んでいるはずなんだ」
次回:4月29日




