EX.270 「戦利品と謎と」
現在ーーー解体部隊がドラゴンを調査している間。俺たちは大分暇を持て余していた。
「だったら手伝ってくれませんかね!」
「「「「・・・・・・」」」」
「フル無視と来たか!?」
「俺も頑張りたいと思っているんだけど実は爬虫類アレルギーなんだ。手がかぶれちゃう」
「さっき触ってたじゃ無いか」
「一瞬だけなら、ちょっと」
俺を大分白い目で見ていたトモキは諦めたのか解体作業に戻っている。
「いやーボーナスウィークとは言え面倒臭いのが残ってたな」
「面倒臭くて邪魔だったから残ったんじゃない?」
「依頼者が相当下に見ていると見た」
「まっ、だから結構貰えることになったんだからいいじゃんか」
ヒーローはギルドにて依頼を受けることが出来る。
セブンウォーリアーズが結成したときに受けた薬草採取クエストのように個人から受けるパターンや、企業や国家から受けるパターンがある。
大体依頼者が事前に金額を支払い、その何割かをギルドが徴収し、残った金が依頼達成の報奨金となるシステム。
普段であれば金額が高くて難易度が低い。所謂美味いクエストばかりが減っていくのだがこの時期は違う。
秋の季節は討伐クエストにボーナスが付いてくる。
理由はシンプルーーー秋は美味しい食べ物が増えてくる。その上で食べて成長してしまうからこそ、さらに厄介になる前に倒してしまおうーーという考えだ。
そのためこの時期は難易度に値段が釣り合わない討伐クエストが消化されていくという寸法だ。
今回俺たちが受けたのは『サブスピシズドラゴン』というドラゴン種。
本来は翼ばかり成長したいかにもアンバランスなドラゴンなのだが、今回戦ったのは伝承に出てくるようなドラゴンの大きさだった。
「みんな見てくれ」
トモキが指差したのはドラゴンの顎。
「なんかーーー黒いのがくっついてるのか?」
「タールなんじゃねぇの?飲むって言われてるぜ」
「それはただの言い伝えだよ。タールなんか飲んじゃ生命はイチコロだ。それにこれはくっついているんじゃないんだ」
「くっついてるわけじゃ無いってーーー何がいいたいんだよ」
「これはねーーー皮膚が溶けてるんだ」
「はっ!?」
ドラゴンが炎で皮膚を溶かすなんてあるか?
「えっとーーーなにが言いたいのかしら?ちょっと理解が追いつかない」
「えっとなユウキ。俺が『ファイア』の能力で火を作り出しても俺が焼かれることはないだろ?」
「まあ、そうね。確か自分の能力は自分の体に外的影響を受けないのでしょう?」
「それと同じなんだ。本来生物は生まれながらに得た能力によって自分が傷つくことはありえないし、たとえあったとしても克服するように出来ているんだ。なのに今回皮膚が溶けてるってことは自分の炎で燃やすことが出来るということなんだ」
本来あり得ないことがあり得ることになっている生命体。
「これが亜種ってことなのか?」
山本がそう呟くと全員が口を閉ざす。反論する術を持っていないからだ。
「ーーーもう少し調べたいから時間をくれないか?」
「うーん。こっからだともう一泊泊まる必要があるな。野宿の準備でもーーー」
「ヤダ」
「ーーーえ?」
俺の考えにNOを出したのは誰でも無いユウキだった。
「いやだって言ったのよ。なんでわざわざこんな砂だらけのところで野宿なんてしなきゃいけないのよ。無理に決まってるじゃない」
「あーー・・・・・・えっと・・・・・・」
「アキヒトは何もごもごしてんだよ。別に吉田も砂場で野宿した経験だってあるだろ。なんでわざわざ今日に限って」
「もう少し楽なクエストを受けたかった」
「持ってきたのユウキだよな」
「ああ、目ぇキラッキラしてた。『途轍もない大金を手に入れにいくわよ!』って言ってた気がする」
「なにか言ったかしら!?」
「「いいえ。何も」」
ユウキの眼光に俺とユウスケは萎縮する。
「なんでこんなにピリピリしてんだよ。昨日はここまでじゃなかっただろ」
「あれじゃないかトモキが東京でも元気にやってけてるって話を聞いてイライラしてんだろ。アイツ新しい学校で友達できてないらしいし」
「ナニカイッタカシラ!!」
「「なんでもないです!!」」
カレンという友達を有して以来、人間強度が下がった彼女には友達の居ない生活は辛いのだろう。あれはカレンが悪いな、うん。
「トモキ!調査はなるはやでよろしく!俺はさっさとアレを回収するから!」
「いやおい。なんで負けてんだよリーダー」
「しょうがないだろそう言う条件で入ってもらってんだから」
俺は非難しようとする二人から避難するようにドラゴンへ向かう。
トモキは何かよく分からない薬品を垂らしていた。
「ハルトも出来るだけ早めに頼む」
「りょーかい。だったらどっちがいい?内臓?しっぽ?」
「ーーーどっちの方が美味しい?」
「食べたことないから分からん」
「・・・・・・じゃあしっぽで」
ハルトは「りょーかい」ともう一度言うと地面に置いていた鋸を持った。
ゴム手袋と大きめのエプロンをバックから取り出して身につけると、首元にナイフを当てる。
生前はあんなに硬かった皮膚が嘘みたいに刃が通る。
あとは目的のものまで切れないように傷口から手を突っ込み伸ばす。
体内はまだ温かく少し気持ち悪さが勝ち始めた頃ーーー指先に硬いものが触れた。
「おっ見つけた」
俺はそれを壊さないようにゆっくりと引き抜くとその全体が見えてきた。
手には黒曜石を思わせる鋭利さに加えて、緑や紫がかったほのかな光を放っている。
「おっなんだそりゃ」
「龍涎香だよ」
「龍涎香ってマッコウクジラのやつ?」
「そそ。これはオリジナルな。唾液腺に出来る石なんだ香水の材料としてメチャクチャ高値で売れるしドラゴンを討伐した証拠にもなるんだ」
「へー尿結石みたいだな」
「それと混ぜないでほしい。それと一応依頼者にも書かれてたはずなんだけど読んでなかったのか?」
「活動に必要なもんだけ持って来いって言われたからな」
思っていた以上に俺たちはテキトーな奴ららしい。
「よししっぽ切れた。師匠手伝ってください」
「ーーーとりあえず溶けた皮膚は採取したから帰ってから調査するか」
山本がハルトの持つ『大喰らいの胃袋』に切り取ったしっぽを入れるところを見届けて、俺はバイクを取り出した。
おばあちゃんから貰ったものではなく今能力で作った型落ち以下の代物だ。
それに繋げられるように四輪の土台を用意する。
「ーーー車用意出来なかったの・・・・・・?」
「俺、車の免許なんて持ってないし」
「能力使ったら一発じゃない」
「能力使っても銃は当たらんぞ」
「・・・・・・・・・・・・そうね」
ものすごく不憫な目でこちらを見てくる。銃なんて扱えなくても人生楽しいんだよーだ。
「どれくらいかかる?昼寝したいんだけど」
「昼寝くらい勝手にやってろよ。時間はーーー場所次第かなぁ。『マップ』来てくれ」
『はいな!お呼ばれされて〜来ちゃいましたぁ〜』
突然ですがレインボーさんとは喧嘩中です。夏休みのアレが尾を引きすぎている。
「ここで一番近い街はどこかな?」
『むにゅむにゅ〜。はいここからだと『アルケミア』です。直線距離で110kmですね』
「2時間確定コースでーす」
「zzz」
寝てんじゃねぇよ。
俺は一つため息をついてアクセルを回す。
エンジンがガタガタとなり始めゆっくりと動き始める。
「『アルケミア』ってどんなとこなんだろう」
そんな言葉が空を舞う。
後ろを見ると何か余計なことを言ったのかトモキがユウキに殴られていた。
俺は苦笑いしながら前を向く。
そして俺たちが向かう地がどんな世界なのか思いを馳せてーーー砂だらけの道を進ませた。
次回:4月15日




