EX.269 「物語の再走」
今回から新章です。
よろしくお願いします。
「みんな、準備はできているか?」
俺は自分と同じように息を潜めながらターゲットに近づくみんなに声をかける。できるだけ相手に届かないようにごくごく小さな声でだ。
「もち」「了解」「できているわよ」
とりあえず三人で区切る。
聞こえなかった二人はもっと近づいているのだろう。
「それにしてもあれば何だ?でっかい人参?」
「さっきもデカいカボチャを見たわ。ここはそんな大陸じゃないハズなんだけど」
「それにあの生物って肉食よね?なぜ人参をーーー?」
俺たちのターゲットは今も大きな人参を美味しそうに食べている。
「燃料かな?ほとんどは生き物の毛や骨らしいけど。まあ考察は後に残しておこう」
俺たちは今広大な自然の中にいる。
大きめの岩すら遠いところにあるこの場所では、本来であればどれだけ息を潜めても即座にバレて猛烈な反撃を喰らうだろう。
そんな困難を対処したのはマジックアイテム『姿隠しの外套』。最近ギルドで格安で買えたから使用しているということだ。
「着いたわ」
最後の声を聞いた時に俺はゆっくりと剣を抜く。
重すぎる『ムーンフェアリー』ではないが、俺が所有している数少ない実物の剣だ。
ーーー剣を抜いたらバレるかな?
そんな不安がよぎり、ゆっくりと引き抜く。
ありがたいことに相手は食事に集中しているらしい。
「みんなは事前に伝えた通りに動いてくれ。行動に移すまで、3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・今!」
カウントダウンを終わらせた瞬間、場にいる全員がコートを脱ぎ捨てた。
「!!ーーーグォオオオオオオオオオオオ!!」
「【空殻裂き・改】!」
一本ではなく無数の刃を繰り出す自前の剣術。これだけ大きい敵であれば相当効くーーー!
「効いてーーー、無い!?」
確かに皮膚は切れているが、それがどうかと言わんばかりの眼光で俺を襲う。
そして、図体に似合わない速度で叩き潰そうとする。
ーーー俺はハエか?
「【万国不動の防壁】!」
「!?ーーーっ助かった!」
「ボーっとしない!相手はドラゴンよ!」
「悪い!」
俺はもう一回剣を強く握りしめる。
「みんなで叩くぞ!」
「「「「応!」」」」
ーーードラゴン。それは最強の生物である。
火を吐き、空を飛び、そのあまりある巨体はビルすらも容易く砕くことができるというーーー。
「しっぽくるぞ!回避体勢ーーー」
「ふん!」
砕くことはーーー
「きっしょぉ・・・・・・」
あろうことがそのしっぽ攻撃を受け止めた男に対するコメントがこれだ。素直に言わせて欲しい。
「トモキ!目ぇ潰れてないぞ!」
『文句言うな!顔の辺りの皮の分厚さがとんでもないぞ!』
実際遠くからライフルの音が聞こえる。ただまぶたに弾かれている。
もしかしたらこの最強の生物には銃が効かないのかもしれない。
「最悪俺らが潰さなきゃいけないぞコレ・・・・・・」
「最悪はもう一つ。やっぱりゴーレムは一発程度しか耐えられないわ。ここ砂が多すぎる」
「第二能力の方は」
「もっと悲惨。ゆっくり砂に埋もれていく芸なら出来るかも」
「じゃあ良いタイミングでよろしく」
その瞬間を俺は見逃さなかった。ドラゴンの舌が二回タップしたことをーーー。
「タッピングだ!ブレス来るぞ!」
「【空圧壁】!」
「【スピニングシールド】!」
「【万国不動の防壁】!」
三人の盾で身を守る。
ブレスの威力はこちらに届かないものの、正直熱い!
「砂ってその熱で何とかならないのか!」
「山本!もう少し私に合わせなさいよ!あなたの空気で砂が崩れる!」
「文句言うな!俺だって精一杯だ!」
ーーーうん。こちらはかなり悲惨だ。
お互いの能力が奇跡的な噛み合い方をしている。俺はただ剣を回しているだけだし。
「ハルト頼む!」
「了解!ーーーさっさとドラゴンは眠っておけ、よっ!」
「グァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ハルトの全力の蹴りが横腹にぶつかり、ドラゴンは苦悶の声を漏らす。
蹴りの熱によって皮膚が大きく焼け、傷口からは香ばしい匂いが漂う。
「トモキ!俺がまぶたをどうにかするから確実に当てろ!」
そう言ってユウキが生成したゴーレムの背から全力でジャンプする。
狙いは充分ーーーだが、相手もこちらに気づいている。
タンッ、タンッ
二回舌を鳴らす音ーーータッピングだ。
「悪いが当てられる気はないぜ!」
数秒後俺のいる場所は炎に包まれるだろう。
だが、俺が新しく身につけた技術であれば乗り越えられる。
それは【スティンガー】のように疑義的な地面を作り出すのではなく、空気と空気の面を分け上手く蹴り出すハルトの【スカイウォーク】と似た原理の技。それに加えて剣技を混ぜた技はーーー
「ーーー【一艘飛び】!」
ドラゴンは俺の急速な移動に目では追いついていたが身体では間に合っていない。
「食らえ!」
俺は剣で横薙ぎに切り裂く。
ナイフで切れた音ではなくギャリッッと石でヤスリを研ぐような音が聞こえた。
トモキのライフルを防いでいることを考えるとこいつの耐久は最低でも戦車以上だ。
実際問題ああは言ったものの俺一人でやり切る予定だったのにほんの隙間しか作れなかった。
「トモキーーー」
自由落下の最中、背中を預けた仲間を呼んだ。
「ちゃんと見えてるよ」
一瞬見えた弾影が俺が切り裂いた隙間に入っていくのを見た。
「グゥオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
バチンッ!と破裂音が聞こえた瞬間に目から血が吹き出した。ドラゴンは痛みで悶えながら叫んだ。
思わず耳を塞ぐが全身を強打するほどの絶叫だ。簡単な手段では踏破できない。
「ユウスケ!顎の隙間のピンク色の鱗!」
「了解ーーー遅いんじゃねぇの!」
俺はありとあらゆる怨嗟を飲み込んで託すことにする。
最後の最後までユウスケを温存しておいた理由は単純。ドラゴンの弱点である逆鱗を綺麗に穿てる人間が必要だったからである。
基本的に真正面からぶつかる都合ーーーそう簡単に見えてる相手から弱点を当てさせてくれるとは思えない。
だからこそギリギリまで意識外に行ってもらう必要があったのだが、問題はそれができるのはユウスケかトモキの二人だった。
俺が思いっきり斬るとドラゴンを討伐した証拠が入社できない可能性があるのでできるだけスムーズに行きたかった。
トモキは近距離で戦うのはできるだけ避けている都合上、ユウスケに白羽の矢が刺さった。
ユウスケに立ってもらっていたのはドラゴンの足元。
つまり俺たちと戦っている間ユウスケは必死にドラゴンに触れないようにしていただろう。
「気をつけろ!見た感じ結構動くぞ!」
「死角から動くから問題ねぇ!行くぞーーー【流し雨】!」
高速の抜刀から繰り出される刀はまるで吸い込まれるように逆鱗に向かっていきーーー突き刺さった。
「ガッッッッ・・・・・・」
剣先から溢れるように血が流れる。
ユウスケはそこから刀を抜くと、ぼたぼたっと血をこぼしてゆっくりと絶命した。
俺はドラゴンに近づいて少し触る。
ブレスを吐いた後だから結構熱は残ってるけど、この微かに感じる熱の無さはーーー。
「よし!ドラゴンやれたぞ!」
「うぉっしゃああああああああ!」
「まあまあスムーズに行けたんじゃ無い?」
「大分きつかったと思うけど」
「結構活躍できたぜ!世界の中でも蹴りでドラゴン吹き飛ばしたのは俺だけじゃね?」
「結構いるわよ」
「世界って広いなぁ・・・・・・」
『ねぇドラゴン倒せた?』
若干一名が現状を把握していないがまあ問題ないだろう。
秋のボーナスクエスト『ドラゴンを倒せ!』
クリアだぜ!
次回:来週




