EX.268 「ボーナスタイム」
十戒編の終わりです。
ここから先は結論というか今回のオチ。
「疲れたろう。後の事務処理はすべて終わらせておくから帰ってゆっくりしたまえ」
そんなおばあちゃんの言葉を受けて、俺は家に帰って泥のように眠った。
『十戒』ーーー彼らはとても手強い相手だった。
おばあちゃんの介入がなければそこらの道先で死んでいただろう。しばらく優しくせねば。
それにしてもーーー俺に懸賞金を掛けた人物は一体誰だったのだろうか。
星王直属の諜報部が調べたところ、懸賞金を掛けたと思われる人物は不自然死していたという。
やけに手の込んだ自殺とのことだ。
ここから先は時計屋と組んで調査せねばならないらしく、時間もかかると言われている。
だからこの残り少ない夏休みの期間では解決しない問題となっていた。
「帰ってきたらハルトのご飯が食えると思ってたんだけどなぁ」
「お兄ちゃんは贅沢言い過ぎ。星王様のところでご飯食べてたんでしょ。舌が肥えたんじゃない?」
「あのなあスズ。この九日間で舌が肥えたというのは認めるよ。けどさぁ賞味期限ギリギリのパンにレンチンのハンバーグを重ねたなんちゃってハンバーガーは心にくる・・・・・・」
「作ってくれた人間に対してその態度?」
「ありがとうございます神様仏様スズ様ぁ!」
机にべちゃりと潰れながら敬服する俺にスズは「よろしい」と一言いってなんちゃってハンバーガーを頬張る。中からチーズが出てくるアレだ。
「ところでお兄ちゃん。修行の成果が出たのか戦ってみる?」
「いつもの能力無し竹刀勝負か?」
「そそ。お兄ちゃんは剣の鋭さがあればもっと強くなると思うんだよねー」
「そうかな。いまでも充分強いと思うんだけどなあ」
「いつも中途半端なんだよ!お兄ちゃんは!能力と肉弾戦と剣術がいつも半端だから純粋暴力に負けるんだよ」
「うぐぐ・・・・・・痛いところを突いてくる」
半端に自覚してしまっているからこそ彼女の指摘は至極真っ当だと分かるし、それを対策していない俺は手抜きだと思われてしまう。
「じゃあこれ食べ終わったら剣道場で勝負だ」
「うん!」
俺たちはいつもの会話を経て手元に残ったハンバーガーにかぶりつく。するとインターホンが鳴った。
「誰だろ?俺出るよ」
「ふがふが」
俺がインターホンのモニターを見ると、そこには見覚えのありすぎる人物がーーー
「やあアスナ」
「こんにちはアキトくん」
俺は素早く玄関を開けて出迎える。
そこには挨拶した通りに栗色の爽やかな髪の女の子がいた。
「どうしたんだよ。約束したっけ?」
「それは!ーーーあの〜・・・・・・この前約束したじゃない・・・・・・」
約束?はてそれは一体ーーー・・・・・・はっ!
「ああ!アレねアレだった!そうでした!すみません今日まで忘れてました!」
「忘れてたって・・・・・・っもう!私だって今日のために頑張ってきたのに!」
それは素晴らしい言葉です。これは口には出せませんがね!
「まあとりあえず上がってくれ、作戦を考えよう」
@@@@@
夏休みーーーそれは一ヶ月もの大きな休み。
俺はこの間、友人たちと外や家で遊び尽くしていた。
もちろん昨日までの『十戒戦』も重要な事件であったが、今の内は横に置いておいて、としなくてはならない。
ところで皆さんは夏休みに欠かせないものとは一体何か考えたことはありませんか?
花火?プール?それとも山登り?
いいえ違います。答えは夏休みの宿題です。
俺が通っている高校では夏休みの宿題は当たり前のようにある。
もちろん夏休みの宿題には大いなる役割が存在している。よく言われるのには、学力の低下を防ぐため、と言われている。実際勉強しなかったら三ヶ月程度で忘れると言われているのだから大事な勉強方法だろう。
実際高校一年生なんて勉強のべの字も頭に浮かばないんだから正しい考えだと言える。
問題は俺。
この夏休み。遊んだり遊んだり遊んだりしている上、今回の事件で大体10日潰れた。
そうーーー夏休みの宿題が全く終わっていないのである。
ありがたいことに高校に上がると自由研究や日記なんてものは無くなり、純粋に学力を重んじるようなものが多い。ある程度点を獲れる俺ならなんとかなる。
問題はこの量。
国語14ページ数学7ページ世界史11ページが俺の残りだ。物理と化学と英語は先に終わらせていたが夜までに間に合うか?
「ちゃんと真面目にやってね。ほらスズちゃんも手が止まってる!」
「ふぇ〜い」
ちなみに目の前のスズさんも同じ枠である。
スポーツ推薦で颯爽と受験を終わらせたあの姿と比べると大いに萎んでいる。
アスナの目下答えを直接写して提出するというプランなんか出来ないから頑張って進めるしかない。
「晩御飯は私がしっかりと作りますから!二人もしっかりすること!いいわね!」
「ひゃぁ〜い」
気の抜けた俺の返事にアスナはため息をつきながらキッチンへと向かう。今のうちに材料を確認しようとしているのだろう。
「えっ!なんでこんなに少ないの!?スズちゃん今までどうやって過ごしてたの!?」
「パパの作り置きがあったので」
「消費期限って知ってる?」
親父が帰ったのって10日以上前じゃないか。腹壊すぞ。
「仕方ない。ちょっと買い物してくるからちゃんと勉強しておいてね!」
「買い物用の財布そこにあるから取っといて」
「分かった!」
そう言ってとたとたと玄関に向かっていくアスナの背中を見てーーー
「お兄ちゃん・・・・・・やる?」
「やんないよ。サボった時のアスナの怒り顔は見たくないし、こちらにはご褒美があるのでね」
「晩御飯食べさせてくれないの?」
「違うんだよなぁ。気持ちの問題だよ気持ちの。スズには後4年は早いねぇ」
「お兄ちゃんよりも年上じゃん」
お互い軽口を叩きながらも手を動かしていく。
結構いけるなコレ。世界史がめんどくさいと見た。
@@@@@
「ぅ終わったぁあああああ!」
「地獄からの解放!お兄ちゃん!解放のドラム叩いて!」
「大袈裟だなぁ・・・・・・」
変なリズムで踊り出す俺たちを少し冷めた目で見るアスナさん。
「いやぁあぶなかった!世界史のあの少ない問題量で1ページ20分かかった時俺は終わったと思ったね」
「次は気をつけることよ。二人とも」
「「はーい」」
「最後だけ返事がいい・・・・・・」
しかし22時を越えてしまった。これ以上はメンタルとの戦いだったから本当に終わってよかった。
「アスナが能力解禁してくれたらもっと早く終わったのに」
「出来ることにズルなんかしちゃダメなんだから。一人でコツコツと終わらせる。それが宿題に対する正しい態度よ」
「今日だけで正論の受け皿が満杯になっちゃったよ」
これ以上は直接グーで殴って欲しい。
「ぅううんぅ・・・・・・」
「どうしたの?眠たい?」
俺が変なことを考えている時、鈴音は目を擦って目に見えてうとうとしていた。
「かも、知れません。もう寝ようかな」
「いいんじゃない?」
「アスナさんも一緒に寝ましょ?」
「ええええ!?ーーーえーと今はまだ眠くないかなぁ・・・・・・」
「じゃあ眠くなるまでお話ししませんか?」
「本末転倒じゃない!?」
「アスナ・・・・・・こういう時のスズは強情だから。せっかくだし一緒のベッドに入ったらどうだ?」
「えっでもーーー」
(スズは一回寝ると朝5時までは絶対に起きないから早く寝かせれば良いぜ)
(分かったわ)
「そうね。せっかくだからお邪魔しようかしら」
「ーーーあれ?そう言えばアスナさんってお泊まりオーケーでしたっけ?」
「お友達の家に泊まるって言ってあるから大丈夫よ」
「なんかそれエッチですね!」
「そぉ・・・・・・ねぇーーー」
ものすごく不自然に見えてしまうなぁ。
いや、そんなことより俺は色々準備しておこう。具体的に言えば引き出しの奥にあるアレの解放をーーー。
@@@@@
ーーースズ、粘るなぁ。
頑張って耳をすませば二人の声が聞こえてくる。
困った全然チャンスが来ない。
俺は今、無駄にペットボトルの水を用意しただけの坊やになっている。
@@@@@
さらに30分後、俺はもう諦めて本棚に置かれた漫画を読んでいると、扉を静かに叩く音が聞こえた。
「アキトくん・・・・・・大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫、大丈夫っす」
ドアノブがゆっくりと動くと、小さく開いた隙間からひょこっと顔だけが覗き込まれた。
「・・・・・・こんばんは」
「こんばんはです」
一体この空気はどうなんだろうか。
するとゆっくりとドアが開かれていく。
「・・・・・・あれ、着替えたんだ」
「そう。さっきのは部屋着だったから。今度はパジャマ」
正直さっきのでも充分パジャマだと思ったのだが、アスナにとっては違うらしい。今はかなりゆとりのあるワンピースパジャマだ。ラインは控えめに、それでも揺蕩うような姿がなんともーーー
「ーーー可愛いよ」
「ふふっありがと」
俺のそんな言葉にアスナは強張っていた顔を少し緩めた。
「それじゃあ電気消すね」
「えっ消すの!」
ものすごい童貞みたいなことを言ってしまった、童貞だけど。
「恥ずかしいの!・・・・・・できればあんまり見て欲しくないし・・・・・・」
「アスナのプロポーションはもっと自信を持った方がいいと思う」
「そういう意味で言ってないの!」
「痛あ!」
能力でテキトーに取り出したポーション瓶に頭から打つ。これ中身大丈夫なやつ!?
そんなことを考えている隙に電気が消される。
「もったいないなぁ」
そうぼやく俺の隣にそっと座り込む。
「月の灯りなら我慢してあげるから・・・・・・」
耳元で囁く声が脳を優しく揺らしていく。
「えっと・・・・・・もっと近づいても良い?」
彼女は何も言わずに両腕を開く。
俺はゆっくりと彼女の体温に触れながらーーー
@@@@@
「ただいまーです!いやぁ随分と時間がかかってしまいましたが!そうですよここからがボーナスタイム!めくるめく夜を二人で啄むように求め合う。なんと素晴らしき日常でしょう!夏の暑さに負けないくらいの熱量を放出してやりましょう!」
「あれレインボーだ」
目覚めた時にはいつもよりもテンションの高いレインボーさんがそこにいた。
彼女が帰ってきたということは事務作業は粗方終わったということなのだろう。
「ここにあらわれるのはアキヒトではありませんか!」
「どうしたんだよ。レインボーさん」
やけにテンションが高い。正直あまり寝れてないから彼女の高い声は頭を刺すように聞こえてくるのは辛い。
「さあ!今日からめくるめくーーー」
「ーーーあれ?レインボーちゃんじゃない?」
「めくるめくーーー」
「大丈夫かアスナ。膝が震えてるんだから、もう少し休んでても良かったのに」
「あのーーー」
「私もそうしようと思ったけど・・・・・・なんか目が覚めちゃって」
「え
「とりあえず今から朝ごはん作るから椅子に座っててくれ」
「うんありがと」
「」
アスナが昨日新しいパンを買ってきてくれたから主食はそれにして、卵とベーコン。野菜はレタスでいいな。
「あっレインボーちょうどいいや。手伝ってくれないか」
ぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょぐちょ!
「どうしたレインボー!?頭から突然ハンバーグを捏ねるような音が聞こえるんだけど!」
「しーーー」
うわっ、目ガン開きで鼻血出してる。一体彼女に何があったんだろうか。先ほどまで調子いいほどまでに調子良かったのに。
「レインボーさん?」
「死ね!」
「ブゲッぶ!」
「キャアアアアアアアアア!アキトくん!!」
レインボー怒りの鉄拳はアキヒトの顎にクリティカルヒットし、その勢いのままアキヒトは壁を貫いた。
「うわぁああああああああん!アキヒトのバカアアアアアアアアアアアアアアア!」
間違いなく過失10割のアキヒト(済み)は意識を刈り取られた。
その後、レインボーの機嫌が治るまでかなりの時間が掛かったというーーー。
次回:近日




