EX.263 「女王様の処刑場①」
男はーーー九条綾華は静かに祈る。
『十戒』を統率した後に死んでいった者たちへの供養。
仲間たちが静かに空へと還るように願う。
古ぼけた壁に貼り付けられたのは写真。
そしてその写真が照らされるように蝋燭が敷かれてあった。
男は瓦礫に腰を据えて目を閉じる。
「ガモーレ、ビビタス、バンジャス、ウゴンボ、シンエイ、薊、ハウゼン、浩然、パトラシア」
己よりも先に死んでいった者たちの名を呼ぶ。
帰ってくる声を失くしていると知っていながら。
初めはリターンとリスクが釣り合っていると思っていた。
魔王を倒したとはいえ未だ16になりたての子供。
つけいる隙は十全にあると。
気づけなかったのはリスクの大きさ。
気づけば志を共にした仲間たちはいなくなってしまった。
女王様の処刑場。
かつて初代星王が考案した1対1の血戦。
今更ではあるがこれを考案できている時点で己の実力を確信していたのだろう。
初代星王は男だ。
わざわざこの名前にしたのは、殺すのはあくまでも自分という傲慢さと確信が混ざられた事実ということ。
処刑台に立たされていたのは自分。
ーーー・・・・・・初めから逃げておけば良かったのだろうか?
いや、それをしてしまえば『十戒』は終わる。
ガモーレを亡くしてしまった時点で相手の実力差は理解していた。
その上相手は逃げの一手ではあるものの相当な時間逃げ切っていた。
本来であるならば仕留められていたのは自分だったのか。
ここから先我々に残されているのは自滅か消滅のみ。
それでも残った全員で挑んだ。
そして私一人が残った。
「殺して見せよう」
男はそう呟いた。
殺せるタイミングは確かにあった。
それを再現する。
太陽の瞳が閉じていき、夜の帷がおりてくる。
「行こうか」
準備はもう出来ている。
後はもう殺すだけだ。
@@@@@
俺が向かったのはニュースになっていた廃校舎。
やはり、と思う前に想像以上の不気味さに肝を冷やす。
今回は花火ではなく、直接おばあちゃんによって伝えられた。
それは相手の挑発なのか、俺が神経を尖らせすぎて疲れさすのがメインなのか。
加古川市炭谷小学校。
先日の魔獣騒ぎと別の小学校との合併により事実上の廃校になった小学校。
本来であれば今年度をもって終了する予定であったが、急遽早回しすることになった。
ここの土地に新しく図書館が設置される予定だそうが、魔獣騒ぎが起きたことにより少々延期しているという。
学校に入っただけでもわかる生々しい爪痕と、未だに残る魔獣の匂いが鼻を抉る。
何が起きたのかはまあ言わずとも分かるだろうと思わせる姿。
教員2名が殉職して、ヒーローが駆けつけた頃には内臓が食われていたらしい。
ーーーたった三ヶ月前の話。
ヒーローが足りないとは言わないが、魔獣騒動がやけに多すぎる。
ここ十年の魔人被害も多いらしいし、相手も本腰入れて襲う気なのだろうか。
・・・・・・なのに身内同士で殺し合っている今、どういうことなのでしょうか。
そんな事実にため息をついた時、頭上に光と音。
今年最後の花火が大きく舞った。
「っ・・・・・・!」
俺は花火の音に紛れた風切り音を聞き逃さなかった。
己の頭を狙ったそれを掴む。
「黒く塗られた矢か。先端に塗られているのは毒だろうな」
夜目が効かない内に俺を殺す方法を練っているのか、それともーーー。
相手には地の利が在る。
近所や都市部と違って違う市の小学校なんて入ることなんて無い。
その事実がアキヒトの足を鈍らせた。
幸いにもこれ以上の追撃は無い。
運動場のど真ん中に逃げたのは正解だったのか。
『あーマイクテストマイクテスト。聞こえているか?先輩』
スピーカーから流れてきたのは疲れたオッサンの声。
そしてかつて自身が襲われたときに聞いた声。
学校取り付けのスピーカーから流れているということは放送室にいるのかと考える。
「アンタが十戒のリーダーか」
『一応聞こえているから答えてやるか。そうだ、私が十戒の統率者ーーー九条綾華。よくも私の仲間を殺してくれたな・・・・・・なんて言わないさ。この世は殺し殺されの関係。死んだのは純粋に殺すのが下手だっただけ。それ以外ないさーーーないが、それでも心の中でキレている私がいる』
『だから殺す』と彼が言った。
「とても分かりやすいな」と俺が言った。
『私が最後だーーー先輩。この世から十戒が消えるか死神が消えるのか勝負をしようじゃないか』
そう言うとスピーカーは黙る。
ーーーアキヒトは考える。
さっき撃たれたのは校舎側・・・・・・だけどあれは弓の音だったのか?時限式のボウガンの可能性もある。
花火と同時に撃たれたのが問題だったな、確信できるな情報が無かった。
もう一発来たら確信して飛び出そう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
来ない。
相手が俺の思考を読んでいるのか、それとも俺が焦ることを待っているのか、その答えが返ってこない。
バスバスバスッ!
「ッ!?」
突如、無音の銃撃がアキヒトの右足を襲う。
痛みは無いーーーが一瞬右足の感覚を無くした。
「麻酔弾かッ!」
アキヒトは右足の少し上を『ソード』で作り出したナイフで突き立てる。
ナイフと肉の隙間から血が溢れていく。
切り裂くべきかと考えたが、アキヒトはこれ以上侵食していかないと確信して引き抜く。
わざと治療しない。
治療することで麻酔弾の侵食を避けたかったからだ。
アキヒトはわざわざリスクを負ったのか、というとそれは違う。
血の流れを見ておきたかった。
血圧低下による血流の鈍化。
その全てを監視しておくべきだと考えた。
そして麻酔弾を撃った張本人も。
ーーー・・・・・・機械音が聞こえる。
「上ッ!?」
そこには矢と同じように黒く塗られたドローンが空を飛んでいた。
もしかして矢を撃ったのもドローンなのか?
そんな疑問がアキヒトの脳裏をよぎった時、ドローンから何かが落とされた。
それはプレゼントボックス。
子供がクリスマスでプレゼントされるようなチープな包み箱。
アキヒトは飛び出した。
アキヒトの直感に広がったのは己の姿。
ーーー・・・・・・それは幸か不幸か右足の感覚を取り戻す衝撃が起きる。
ナパーム弾。
ゼリー状の燃料を詰めた焼夷弾の一瞬。
それが爆発する。
その爆圧に吹き飛ばされてアキヒトは地面を転がり続ける。
それは間違いなく幸運。
直撃していれば間違いなく肉が抉れるまで焼かれ続けていただろう。
ーーー不幸は今の爆発でアキヒトは敵の場所に核心を持たなくなってしまった。
ドローンが可能であればどこからでも攻撃できる。
魔道具ではなく単純な電力兵器だから魔力は発さない、だからこそ一瞬の魔力も探知することは出来ない。
ーーー行くしか無い。
アキヒトは走り出す。
それは最初に流れたスピーカーの送信場所放送室。
仮にドローンを使って襲っていたのはそこにいるという可能性を出来るだけ減らしたかったと考えるべきだと予想する。
答えはーーーそこには居ない。
「能力を発動しよう」
もちろんアキヒトには能力という選択肢がある。
能力『カメラ』を使用する。
この能力は撮った場所を1時間前であれば撮ることができる能力。
もちろん制限も多い、その例の一つにその場所に入って写真を撮らなくてはいけないことと、一度シャッターを押せばフィルムが焼かれるまで動けなくなること。魔力を大量に消費すること。
ここで魔力の消費は考えてはいけない。
勝つためには多少のリスクは大事。
最前を尽くせば必ずーーー。
アキヒトは扉を開いて足を進める。
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答えはーーーそこには居ない。
「能力を発動しよう」
もちろんアキヒトには能力という選択肢がある。
能力『カメラ』を使用する。
この能力は撮った場所を1時間前であれば撮ることができる能力。
もちろん制限も多い、その例の一つにその場所に入って写真を撮らなくてはいけないことと、一度シャッターを押せばフィルムが焼かれるまで動けなくなること。魔力を大量に消費すること。
ここで魔力の消費は考えてはいけない。
勝つためには多少のリスクは大事。
最前を尽くせば必ずーーー。
アキヒトは扉を開いて足を進めて異物を踏む。
「ーーー・・・・・・ん?」
それは地雷。
アキヒトはギョッとしてしまい足を離してしまった。
瞬時爆発。
アキヒトは極細の隙間の時間で自分の足が飛んでいく様子をゆっくりと見た。
『そろそろ爆発したところか』
「ーーーッ!」
再びスピーカーから声が流れる。
アキヒトは鈍痛よりも先に心臓を直接シェイクされるような衝撃があった。
爆発から内臓が溢れないように再生能力を進める。
『地雷はーーー戦場にて足手纏いを増やす兵器、というのが通説であるが、それは正しくない』
男がゆっくりと語る。
『銃では足りないんだ。血が、血液が、殺したという実感が!だから冷静にさせる必要がある、脳のドーピングを強制的に引かせる手段がソレだ』
『それこそが地雷だ』と彼は言う。
『誰もが思いたいんだよ「自分は死なない」と。だが目の前の誰かが、それとも一兵隊の仲間がその被害に遭うと気がついてしまうんだよ。目に見える傷が強制的に理解させる。「自分も似たように殺されてしまう」と。そうすれば足を引かせる、腰が引く』
俺は治り始めた足を包むために能力でズボンで布を使った。
傷は治った。
ただーーー足が飛ばされたという事実は消えない。
『君はーーー先輩はどうだ?まだ殺されないと脳を騙せるのか?』
戦いが始まりおおよそ10分。
戦いの火蓋はとうに落ちている。
二人の死神はどちらに鎌を下ろすのか未だ決めあぐねている。
次回:近日




