EX.262 「火中の願い」
隠した手から小型の拳銃が取り出される。
投げるように出したソレを掴みアキヒトに照準を合わせる。
距離70m以内ーーー十分な射程距離だ。
ーーーそれはアキヒトにとっても同じ。
超小型の【颶衲球】を指で弾く。
圧縮するにあたって火力はかなり抑えめになるが、その特性は消えない。
「ぐぅっ・・・・・・!」
銃ごと弾いた隙にアキヒトは前に進む。
アキヒトのシンプルな射程距離は大体10m程度。
拳を届かせるには近づくしかない。
「【壊れた世界】ーーー」
近づかれそうな彼女がとった行動は一つ。
後ろに倒れるだけだった。
柔らかいガラスに乗っかったかのように空間がパキパキと割れる。
「『ワープ』の能力か!」
どこに逃げるつもりだ!?
「『ポイント』ッ!」
俺はチップを投げつけるが、それが付く前に逃げられた。
「また膠着するのか」
いったいどこにーーー。
考える暇もなく視界に一瞬影が走る。
パララララララララララッ!
空気が連続して破裂する音と共に銃弾が肉体を抉る。
右目をやられた俺は、熱を発する肉体から意識をぶらせる。
能力を使ってマシンガンを持ってきたのか。
おそらく相手は一度自分が先ほどいたところに戻り、マシンガンを持ってきた。
先日戦った影の能力者と原理は同じ、だが明確に違うところは武器庫さえ用意していれば相手は幾らでも武器を取り出せることだ。
ただ・・・・・・何故相手はここに戻ってきた?
能力で戻れるのならば近距離戦が得意な俺相手なら遠くに逃げて戦うのがセオリーのはず。
だが相手はその方法を使わずにこのまま戻ってきた。
本当は近距離戦が得意?
いや・・・・・・だとすると一度連れてきた時に例え不意の攻撃でも逃げ切ることは出来るだろう。
そうならば、能力の精度を上げるため。
能力は元来能力者から近ければ近いほど、精度や威力が上がる。
人間には魔力が存在し、その魔力が届く範囲が最大の射程距離。
お手玉を想像したらいい。
小さく投げれば簡単に回せる球でも、高く高く上へと投げれば精度を大きく欠く、そういうものだ。
相手の能力は『ワープ』だと仮定した上で行動する。
「【スティンガー】」
俺は大きな魔力板を2の乗数毎に分割していく。
分割すればするほどアキヒトの盾が増やせる。
弱点は同様に増やしていくと隙間が生まれること。
【フルシールド】は使えない、それを使えば俺が遠くへ動けなくなるし、シールド内にワープを置かれて蜂の巣にされるだけだ。
パララララララララララッ!
再びマシンガンから銃弾が発される。
アキヒトは致命傷にはならないようにシールドを中心線を守りながら近づく。
アキヒトは【スティンガー】を斜めに配置することで、敢えて相手に反射しないようにした。
射程距離が再び近づく。
命を抉り取れるまでの距離が。
「【壊れた世界】」
そして再び彼女は能力を発動した。
彼女のとった方法はシンプル。
アキヒトの限界が来るまで撃ち続けること。
ゲリラ戦に近い方法で盤面を動かせばさきに精神が折れるのは、終わりを知らない相手の方。
ワープ位置も事前に用意していた複数から能力を発動して魔力を残す。
もちろんその分の魔力も減るがご飯を軽く食べれば必要な魔力は補充出来る。
無限コンボーーーそれが彼女が動かせる最初の手段。
彼女が貯蓄した銃弾や武器を今のように行動していけば、大まかな計算であれば15時間は容易い。
時間を稼いでいけばリーダーが何かしらの手段を持ってきてくれるだろうという信頼がこの耐久戦へと足を進めた。
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相手が現れる箇所は大体10箇所。
分身を用意して待機したとしてもまた新しい場所を作り出している。
これじゃあモグラ叩きよりもめんどくさい難易度だろう。
アキヒトは思案する。
このまま時間だけが経っていけば嫌でも二人目と戦わざるを得ない・・・・・・。
正直二人目がきついのは一つ前と双子相手で嫌でも思い知った。
おそらく相手はトカゲの尻尾のように逃げ続けてタイムアップを待ち続けるだろう。
相手の貯蓄量が分からない手前、決め撃ちが出来ないし、そもそも終わりがあるかも分からない。
「しょうがない・・・・・・クソゲーなら俺の専売特許だ」
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3時間後、レイヴィル・パトラシアは荒い息を漏らす。
アキヒトには傷がない。
再生能力によってとっくの昔に完治した上、途中で付けられた傷はすぐに治癒を終わらせた。
アキヒトのとった方法はーーーアキヒトの数を増やし続けること。
10箇所の穴から始まり、今では無数に作られたワープの入り口に合わせるように分身を合わせて作り出した。
【分身】は某忍者漫画のように魔力が二分割されるのではなく、任意で魔力量を設定することが出来る。
だからここには残り滓のような魔力を持ったアキヒトがほとんどであるが、相手はそれを考えきれない。
もちろん考慮の一つに入ってるかも知れないが、それで無防備をさらして命を失わすにはいかないだろうり
魔力をチョピっとだけ流して混乱させるならまだしも新たにワープ先を作るとすると魔力の消費は大きい。
ここで距離による魔力の消費量の問題が現れる。
元々魔力量の少ない彼女はどれだけ節約しても確かに限界が近づいていく。
足先が冷たい。限界の身体を酷使すると壊死に近づいていく。
レイヴィル・パトラシアとアキヒトの違いは魔力量の違い、そして戦争を勝ち抜いてきた精神力ーーーそれが明確に分けていく。
「能力・・・・・・発動・・・・・・【壊れた世界】」
彼女は愛銃を手に取って再び能力を使った。
足元がひび割れていくーーー。
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レイヴィル・パトラシアは運輸会社の社長の娘だった。
常日頃何一つ不自由なく育った彼女は誰からも羨ましく思われる立場だったのだろう。
5歳の誕生日に彼女の能力が目覚めた。
ーーー『ワープ』。
それは運輸会社として素晴らしい能力であり、今後も先行きが輝けるとそう両親は喜んだ。
だが、彼女の胸の奥に燻るそれを両親は知らなかった。
ーーーつまらない。
彼女が進む道は誰かに舗装され、自動的に道が動くもの。彼女が歩む道には誰かがゴールを用意してくれていた。達成の困難さやその辛さがそこにはなかった。
何一つ刺激的なものが無く、何一つ自分が都合通り行かないものがなかった。
ーーー刺激が無かった。
ある日事件が起きる。
両親が殺された。
ただの一人の男に。
外部か内部か知らないが両親は相当な恨みを持っていたらしく、殺し屋に殺されてしまった。
ああ・・・・・・なんて、
彼女の胸の奥に燻ったのは恐怖でも不安でもなく。
素晴らしいのでしょう!
熱が熱が熱が彼女を動かせる。
心に浮かんだ衝撃が、未確定の未来が、その無数にあった道先が全て壊れ落ちて彼女には何も無くなった。
だからこそその両手には火傷しそうなほどの心の炎を掴ませた。
「私を弟子にしてくれませんかッ!」
命乞いにしては歪すぎる提案に殺し屋は目を細める、それも束の間。
「あの女は生きている。そうして欲しい人間に依頼されたからな。だがお前ならどうする」
そう言って手渡したのはグロック17。
自分の手に合わないほどの形がその不調和さが彼女を笑わせる。
彼女は自身の母に近づいた。
男の言う通り息をしていた。
私は倒れた彼女に銃口を向ける。
そして彼女は処女を散らせた。
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彼女が抜け出したのは鉄人28号の股下。
もちろん公園近くにもアキヒトがいる。
「そうはさせない」
彼女はマジックアイテム『失われし稚児の魂』と取り出す。
音叉を鉄人に打ち付けると、音が世界に反響して音叉が破壊される。一回限りのアイテムだから仕方のないものだ。
効果はーーー魔力の流れを1秒ズラす。
瞬時にアキヒトが煙をだして消えていく、ダメージを食らったという認識だったのだろう。
もちろん彼女にもダメージが入る。
脳を軽く揺らされた感じになり、少し吐いた。
彼女は持ち直して銃を構える。
建物内部からアキヒトが現れる。
標的を見つけた今、もう逃さないという表情だ。
「暗殺はスマートに」
能力発動・・・・・・!
「【壊れた未来】」
彼女は銃を撃った。
この距離ならば相当な腕がないと当たらないと思える間。
だが確信を持って撃った。
彼女は銃口の先端に極小のワープを作り出して、その先をアキヒトの心臓に作り出した。
直線距離を通った銃弾はそのまま心臓に直撃した。
だがアキヒトは止まらない。
「ーーーッ!?」
距離はぐんぐんと近づいていく、その恐怖が彼女を止める。
アキヒトは体内に【フルシールド】を敷くことでダメージを無効化していた。
もちろん心臓周りに【フルシールド】を敷くことは血液を止める行為だ。
自殺に近い行動をとって命を守った。
ーーー彼女はかつて言われたことを思い出した。
『この世界には殺せない相手というものがある。それは銃が当たらないというようなものではない。死に自ら近づくことで死から遠ざかる者がいる』
それは矛盾しているようで、彼の人生論が詰まった言葉だった。
『そういう人間を殺してようやく殺し屋のプロになれる』
そして彼は少し嘆息して。
『この世界は俺たちのことを賞金首ヒーローと大袈裟な言葉で包んでいるが根底は変わらない。強いやつを殺したいんだよ俺は』
そう言った彼は笑っていた。
ーーーええ、彼はとても強いですよ。
彼女は笑っていた。
処女を散らした時とは違う。
自らの主を祝福するような優しい笑いで。
そして彼女は命を散らせた。
十回第八回戦
アキヒト 対 レイヴィル・パトラシア
場所 新長田商店街
勝者 アキヒト
次回:近日




