EX.261 「対面」
大気がーーー薄いガラスのように割れ、飛び散る。
それは例え話のようなものではなく、その現象を明確に語った言葉。
本来であるならば無理解の攻撃。
だがーーーここで向かい撃つのは能力戦における百戦無類の英雄。
その割れた大気の中心から噴き出す9mm弾を避けない。
右目を敢えて捨てて受けたダメージは本来は甚大。
それでも一瞬ほろほろと失っていく視界の中で確信を得た。
ああ・・・・・・なるほど、そう言うカラクリがーーー。
アキヒトはーーー静かに笑った。
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ーーー見られた!
レイヴィルは今の衝突を理解していた。
本来、彼女の能力であれば、魔力を半径5mくらいに立ち昇らされておけば反応できる現象。
ただそこで問題になるのは、アキヒトはその方法を用いずに反応したこと。
元々リーダーから託された資料からは、五感の一つがほとんど失われた結果、第六感が非常に冴えているという内容。
それでも結果として、アキヒトは能力の発動に気づくことが出来たが、それ以上に反応できなかった事実。
彼女は慢心しなかった。
だが、ほんの少しズレが生じた。
彼女が能力を使用した上で最大ダメージを当てられる方法。
アンチマテリアルライフル。
そのライフルで撃てばたとえ掠っただけだとしても、弾かれる肉片の圧力で骨が吹き飛ぶ危険な銃器。
「能力発動ーーー【壊れた世界】」
彼女の正面1mが徐々にひび割れていく。
水面が凍りついていく現象と同じ。
同じではないのはーーーこれは人為的に起こせる現象のこと。
レイヴィル・パトラシアーーー能力『ワープ』。
『ワープ』の能力はワームホールを極小から極大までサイズ調整でき、その数によって距離を決める。
もちろんワームホールのサイズは大きければ大きいほど、距離が遠ければ遠いほど魔力消費量は大きくなる。
レイヴィル・パトラシアの魔力量では自分自身を動かすにはとてもではないが足りない。
だからサイズを極小に、そして距離も短く。
確実に仕留められるように引き金に手を引く。
ただーーーこれは慢心ではなく、ガチガチに思考を固めたが故の勘違い。
ドォオオオオオオン!
竜の咆哮に近い銃声が響く。
全身に強い衝撃、180cmの肢体が後ろにズレる。
ーーー・・・・・・・・・?
能力は未だに先に繋がっている。
だが、こちらに血肉も骨のかすみも何もかも届かない。
一体なぜ・・・・・・?
レイヴィルは無意識に近づいてしまった。
割れた空から手が伸びてくるまでーーー彼女が気づけなかった。
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アキヒトの行動は、察してなおかつ避けられるという事実を相手に気づかれてはいけなかった。
確実に仕留められるの瞬間まで、敢えてダメージを受けてやる覚悟もそこにはあった。
ただーーー何だろうか。それでも全て受けてやる気概はそこには無かった。
能力は使用しない。
全身に迸る矛盾が、彼女の計画を狂わせ、その上で別の方法を選ばせないために。
相手の選択肢の一番目に常に「相手の体力を削る」であってさえすればそれでいい。
アキヒトは魔力を広げた。
ーーーおそらく相手の能力『ワープ』。
その対策の最適解であると考えられる魔力の展開。
ただアキヒトはそれに加えて魔力を分厚く練った。
【スティンガー】とは違い、何かしらの魔力特性を持たない。
アキヒトの弱点ーーーそれは比較的ダメージを負いやすいことである。
自らが再生能力者であることから、ダメージの忌避感は酷く薄い。だからこそ受けるダメージと倦怠感。
アキヒトは受けてはいけないダメージとそうでないダメージの差に気づけないーーーそれが致命的と言えるほどに。
昨夜、伝えられたことがある。
「自らを守ると言うことは一見、恥ずべきことだとよく言われます。ーーーそれは自らの肉体に絶対の自信を持つ人間が陥ることです」
それは肉体がパンクアップされ、執事服がはち切れそうなほど膨れた執事長にそう言われた。
「自分を守ると言う行為は、必ずその後自分の番がやってくるということです」
「えっと・・・・・・どういうこと?」
いまいち分かりづらい方程式が唱えられているがためにアキヒトは困惑する。
「戦いにおいて生き残ってさえいれば次があるーーーそれは大事なことです。一度で終わってしまう決着よりも、二度三度挑戦できる。それが出来れば素晴らしいではありませんか」
「でも戦いって普通一度だけで、二度も三度もチャンスがあるって考えたら危険だろ?」
「運で、ならば危険です。だがそれが実力であるならばどうでしょうか?」
執事長は斧をゆったりと構える。
「なのでこれから全力で能力を使わずに守ってください。死なないようには手加減いたしますので」
そのようなスパルタ指導によって身についた、アキヒトの新たな防御技。
本来であるならば超覚醒によって強化することが前提ではあるが、気づかれてはいけない現状でそれは出来ない。
だとしたら現状のスペックで似た技を果たさねばならない。
アキヒトは魔力を複数分裂させる。
そしてそれを合い挽きし、複数の層を作り出す。
そしてそれが実体化し、球状の魔力壁を作る。
【フルシールド】。
シンプルな防御壁。
それでも確信はある。
己の遥か怪物の一撃すらも止められるという確信。
そして再び背後から嫌な気配を感じる。
今度は強烈な程に肌をノックする。
ーーー・・・・・・来るっ!
そう理解した瞬間、ドォオオオオオオン!と背後の一撃。
先ほどまでの9mm弾ではなく、これほどの威力はライフルクラス、だと確信する。
ひしゃげた弾頭は魔力層を傷つけることができずに、威力を落として落ちていく。
「・・・・・・?」
ここで疑問ができた。
それはーーー相手の能力が解除されていないことだ。
ーーー相手が誘っているのか?
そうアキヒトは訝しむ。
事実解除されない能力はアキヒトにとっても巨大で見えやすい地雷である。
不発弾なのかーーー誘われた一撃なのか。
それでもアキヒトは手を突っ込まずにはいられなかった。
ーーーそして、触れたのは布?いや相手が着ている服だ、と察する。
そして逃げられないように肉ごと掴む。
「どれだけ極小でも!俺が無理やり魔力を注げば関係ないッ!」
そして思いっきり引き出した。
ヒビが大きく膨らむ。
能力を使い続けているのなら、強制的に魔力をそそげば繊細なバランスが崩れる。
だとしたらワープの大きさは膨らむ。
ーーーアキヒトが引き出したのは確かに人間。
「あんたがレイヴィル・・・・・・であってるか?」
「ーーーまさか・・・・・・そんな方法を取るだなんて」
無理やり引き抜かれた衝撃がすごいのか、それとも先ほどのライフルのダメージが絶妙に残っているのか彼女は肩で呼吸をする。
「ーーー・・・・・・こうなってしまったらやるべきことは一つ」
「相手よりも先に拳を当てる!」
「素早く暗殺の領域に戻す!」
十戒第八回戦が始まり30分は経過した。
そうしてようやく二人が対面する。
次回:近日




