EX.260 「有衝無痛の一撃」
ここは横山光輝が描いた作品『鉄人28号』が設置されている新長田商店街。
地元の近所にある自分自身にとっても身近な世界。
ここが十戒第八戦目の舞台。
いつもは学生や家族連れ、老人達といったたくさんの人達で賑わう商店街も今は人っ子一人居ない。
間違いなくこの場で合っているがーーー対戦相手が居ない。
今までほとんどが直接相対した敵ばっかりだったからこそある意味で違和感を感じる。
残った敵は時期に合わないロングコートの男とやたらメイクがケバい印象を受けた女だったはず。
今までの相手に姿形を変える能力を持っている人間は居なかった。だとしたら最初の印象に合わせて考えた方がーーーいやいや、そんなことしていたら絶対に足元掬われる!
車の中ーーー?
建物の中ーーー?
それともーーー
ーーーここにもうすでにいる?
ちょっとした違和感探し。
地域に住んでいる自分でも正直分からないし、自転車の数を求められても両手を上げるしかない。
集中力が下がってきたのか周りをうろちょろしたアキヒトはふと気づく。
いつもアナウンスで報告されている対戦カードが発表されていないのだ。
単純にあれは接敵した瞬間に流されるのか、正直タイミングは分かっていないのだがいつもあんな感じだったはず。
その時近くのラジオからザザッとノイズが流れる。
十戒第八回戦
アキヒト 対 レ⬛︎ヴィル・バ⬛︎⬛︎シア
場所 新長田商店街
初め!
と同時にドッ、と脇腹に衝撃を味わう。
「ーーーん?」
衝撃を受けたところに目を向けると服が赤く染まり始めている。
撃たれた!
俺は撃たれた方向から影になるように逃げ込む。
頼りない電柱だけどないよりかはマシだと思い込みながら己の傷口を見る。
再生能力が加速している身体は異物を吐き出しながら治していく。
そして転がった異物を見て俺は驚いた。
この大きさ・・・・・・9mm弾!?
小石程度の大きさ。
その程度の大きさの弾が皮膚を貫いて内臓を傷つけた。
その事実にーーー
バスッ!バスッ!
「なっ!」
今度は地面から炸裂音が響く。
同時に衝撃。衝撃がふとももに響く。
ーーー同じだ。
思わず立ち上がった俺が見たのは先ほどと同じ弾頭。
もちろん9mm弾にダメージはある。
人によっては致命傷になることも確か。
だが山本やハルトのように異常に硬い人と比べたら柔らかいが人以上に鍛えられているのも確か。
ハンドガン?
ライフルではないのは確実だ。
俺はライフルで見られている時にやけに第六感が働くーーーような気がする。
それに加えてスコープの反射光や発射音が全く聞こえない。
オマケにライフルならば衝撃はもっと大きいハズだ。
トラックに直撃されるほどのエネルギーではなく、むしろ少し小突かれる程度のエネルギーだった。
問題は痛みではない。
どこからダメージが与えられたかだ。
仮にハンドガンだと置いてこれほどのダメージを与えるとしたら、それこそ銃口と直接当たる程度の距離くらいだ。
だがそんな場所はーーー『透明』か?それともーーー
アキヒトは考える。
@@@@@
ここで語ることではないが対戦開始のアナウンスは十戒が決めている。
開始のタイミングと内容は相手が決めて言われたタイミングでかぐやが流す。それがどちらも納得の上で行なわれている。
そのためノイズの入ったアナウンスも、やけに遅れたタイミングも相手が決めたからこそ起きた事象であり、トラブルではない。
なぜ、そのようなことをしたのか、それは決まっている。
これは人と人との戦いである。
その戦いにおいてもっとも有効なのは相手の嫌がること行うこと。
シンプルだと相手が枯渇した瞬間を狙うことや、人質、能力による優位性をもたらす行動が当たり前になる。
ここで彼女が選択したのは思考の強制的な分割である。
人間は単純に思考を増やすことはできない。
マルチタスクとは言うが、それは単なる思考の優位性を脳自身が選択して行っているに過ぎない。
脳に情報を与え続ければ必ずパンクする。
脳の過負荷を与える上で大事なことは一度に全ての情報を与えてはならない。
一度に与えれば脳は確かに思考を止めるが、それ以上に脳は情報を捨てる。
それは直感型に動く相手にとって致命的だ。
より強力になるに違いない。
だからこそ「ん?」と思わせる程度の疑問だけでいい。
それを積み重ねていけば、私が本当に隠したい情報に目が行かなくなる。
彼女はーーーレイヴィル・パトラシアはハンドガンを握る。
標的に狙いを定めーーー撃つ!
@@@@@
アキヒトの掌に直撃した!
「ぢぃッ!」
痛みは無い。再生能力は発動出来ている。
だが致命的なところに気づけていない。
相手の能力が何一つ。
集中していたはずが攻撃の瞬間が読めなかった。
気がついたら当たっていた。
だがずっと疑問が残る。
コイツは今までと違ってハンドガンで狙っている。
普通の人間ならばダメージを積み重ねて機動力を落とすことができるが、俺の場合は違う。
再生能力持ちの俺にとって、注射よりも痛く無い。
直感だ!直感に身を任せろ。
相手は直接戦おうとしない。それは自身の肉体強度に自信がない証拠。
だとしたら一番の優先は能力を把握すること。
俺は目を閉じる。
六感を研ぎ続ける。
集中しろ、自分の力を全力で信じろ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
今!
俺は後ろを全力で振り向いた。
何かに気づいた訳ではなく。ただ何となく「嫌だったから」に過ぎない。
ーーー彼女にとっての誤算は、アキヒトが思っていた以上に思考の移動が早かったことと、彼女が同じ攻撃を幾度とも行ってしまい慣れてしまったこと。
そして自分の能力に絶対の自信を持っていたこと。
アキヒトは能力を使用していなかった。
肉体や直感、そして覚醒といった肉体パフォーマンスを意識して活動していたのも事実。
彼女は誤解していた、アキヒトは能力を使用できないのではなく、使用しようとはしてなかっただけ。
アキヒトの能力は基本的に能力把握に落ち着いていた。
だが能力を使用しないとは言わない。
『パーフェクト』の利点を使って、これ以上は必要ないと判断した。
だから必要のない情報はリセットした。
そしてこれから能力を把握するために目を開く。
アキヒトはアキヒトの直感を信じていた。
「嫌だ」という直感を信じていた。
そしてアキヒトは見た。
それはーーー大気が割れた瞬間だった。
次回:近日




