EX.259 「幕間の刻」
「ひょひょはろうひゃんにゃ?」
「彼女は今、集中治療室にいる。ぐちゃぐちゃになった骨がこれ以上内臓を傷つけないために繋ぎ止めているのさ」
「もぐもぐもぐもぐもぐ」
「キングスライムの君に言われたくない。人間ってのは元々脆い生き物なのさ」
「あのーーー?」
軟体性と再生力のあるスライムに例えた完璧なツッコミの中、今まで静かにしていたメイド長は口を開いた。
「かぐや様・・・・・・失礼な物言いではございますがアキヒト様をお咎めになられては?先ほどからマナーが少し・・・・・・」
メイド長は一応マイルドに言おうとしているが、ようするにマナーがなってないから叱ってくださいということだろう。
あっこれおいしい、なんのチャーハンなんだろう?
「それは岩牡蠣の出汁が詰まったチャーハンらしいよ」
「はぐはぐうまうま」
「あのっ!これ以上は本当にっ料理長が」
彼女が慄いているのは料理長のこと。
昔、星王であり血の繋がった父でもあるソウマが、カップラーメンのお湯を使っていたことがバレ、温情付きで30分説教された逸話付きだ。
そもそも、この星王宮においておばあちゃん、執事長同等の年齢のため、若干21歳の彼女が口出しできないのも仕方ない。
「ミリアは口に物を含んで話した程度じゃキレないよ。それに見たまえ」
おばあちゃんは俺の手元を指差す。
「米が一粒も溢れていない。オマケにあれだけ乱雑に箸を動かしていても、タレの一つもだ。これはつまり我が孫の身体は帝王術を忘れていないということさ!」
いえ、単純に親父が厳しいだけです。
「では少々食事を摂りすぎでは!?目算で16000キロカロリーは摂取していますよ!これは平均的な1日摂取量の8倍です!」
「全く・・・・・・君はもう少し勉強するべきだ。『パーフェクト』の能力は確かに未知数であるが、分かっていることは彼は妖精を伝って能力を発動している点。それは本来ならば数秒で身体のエネルギーが消費してしまう危険な行動だ。一つの能力を抱えた妖精を能力毎に生み出して運用している『妖精使い』だったとしても外部生まれの妖精の力を借りているというのに。ーーーつまりだ、彼の体は能力を上手く扱うために、ではなく生きるために常に食べ物を摂取しなくてはならないのだ!」
「そのくらいは承知しております!」
おばあちゃんの長い弁論が一太刀に伏した。
「普段は魔力効率で何とか出来ているんですよね!ベッドでレインボー様とお話しなさっている時はそう見えました!だったらこれ以上食べると太りますよね!私はーーーデブは好きじゃないんです!」
・・・・・・今日イチ失礼な物言いが来たな。
もしかしてあれか?俺が10皿目に突入してからずっとハラハラして見てたのはそれが理由か?
「・・・・・・・・・」
ちなみにおばあちゃんはその考えがあったなと、頭を抱えていた。
メイド長は基本的におばあちゃんに振り回される立場であり、最も近い立ち位置にあるため、このような不躾な言葉もほとんど許される。
「確かに君の意見はもっともだ・・・・・・そして僕は考えて見たんだが、ぷよぷよとなった孫も可愛いから処刑」
許されないパターンももちろんある。
「後で高カロリーバター丸齧りしなさい」
「アアアアアアアアアアアアアアア!」
なんて不憫なのだろうか。
デブとは無関係な肉体労働者の俺は悲鳴をあげて膝を落とした彼女に哀れみの目をこぼした。
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その後、
おばあちゃんの耳が遠すぎるようになり、「死ね」が「おばあちゃんちゅきちゅきあいちてる」になったり、死に物狂いでバターを盗んできたメイド長が泣きながらかぶりつくなどカオスな空間になっていた。
お腹が膨れたのに加えて、そのカオスな空間に飽きてきたのか抜け出した。
そして俺は執事長から治療が完了した話を受けて病室へと向かった。
消毒液が鼻にツンと響く。
静かな病室には人工呼吸器と心電計の音が異様に響くように感じる。
「相手から受けた傷もそうですが、それ以上に腕の裂傷が酷いそうです。カガツチは全力を施しましたがそれでも完治は難しく痕が残るそうです」
「そうですか・・・・・・」
致命傷ギリギリから難を逃れただけでも奇跡のようなものーーーといえば多少は耳障りの良くなる。
「それにしてもーーー寒い」
「リッタの後遺症をできるだけ抑えるための方法です。あれは元来太陽のエネルギーをチャージするためにあります。不適合者が扱うと体内に常に熱エネルギーが溜まるようになります。だからこそああやって全身を冷やし続ける必要があるのです」
「ムーンフェアリーってだいぶ優しいんだな」
あの剣のデメリットといえば死ぬほど重いくらいだ。そう考えると最上級神器を作った人にどう考えてバランス考えたのか聞き出したい。
「ーーーやらなきゃいけないことが増えたな」
「ーーー・・・・・・?」
前までなら以前出会った巫女の彼女に報いれるように考えていたけれど、今は違う。
今ベッドに横たわる彼女には命を助けられた。
受けた恩は必ず返す。
「まずは十戒打ち倒さないとな」
「それについてですが私めはほとんど把握しておりませんが、昨夜のような実質二人組の戦いになるのでは?」
「今日1日は無事だから色々ネットで調べてみたんだ。ちょっと外に出よう」
病室から出た俺は入る前に預かって貰っていたスマホを回収して、ブックマークに残していた記事を執事長に見せた。
「これは加古川市の潰れた小学校の改装工事が始まったというニュースだ。しかもこれは一週間程前から行われている。都合の良いニュースじゃないかな?」
「しかしそれがブラフだとすれば昨夜のようなことが」
「もちろんそれも考慮した上で動くけど、相手方もそこまで仲間が減るとは思ってなかったんだと思う」
「その根拠は?」
「最初、奴らは全員で俺を襲っていた。それはつまり全員でなら俺を殺せると判断したからだと思う。けどそれを横入りしたばあちゃんが基本的に一対一に置き換えられたから暗殺じゃなくて戦闘に変わってしまった。結果的に攻略難易度が大きく変わったんだと思う」
執事長は俺の言葉を聞いて一言ふむ、と呟いてから。
「そこまで理解しているのならば昨夜は酷すぎますね」
「きょ、今日理解したんだよ。それにとどめをさせた達成感を狙ってーーー」
「一流の戦士はトドメをさせた程度では隙など見せません!」
ヤバい!執爺キレてる逃げないと!
そっぽ向いて走り出そうとした俺の腕を執事長は捕まえる。
細腕からは想像できない万力が如き力で捕まえられては早々逃げ出すことが出来ない。
ここで俺の頭に嫌な予想が立つ。
「ーーー・・・・・・もしかして全て理解してた上で聞いてた?」
「はて?何のことでしょう」
狸ジジイィイイイイイイイイイ!
その後俺は帯を締めた執爺にボコボコにされた。
そして次の日、空に花火が爆ぜた。
次回:近日




