EX.257「固有結界」
【火雷の槍】は雷であり、おそらく初めに見せた数本の槍がメインの技。
それでも一本にまとまった時に速さと威力が増したということは雷をイメージして作られたのか、それとも槍自体に規定本数が存在し、例えば十本ならば十倍になるように作られているのではないだろうか。
【霧斬剣】は霧であり、濃いもやがかかった剣がメインの技。
私の防御を貫通したが薄皮のみを切り裂いたということは、深傷を負わせることができない制限がありながら確実にダメージを与える武器なのではないだろうか。
【雹捲刀】は雹であり、霞がかった刀がメインの技。
初めて食らった時に私は相手の居合の速度が速かったから打ち合い損なったと思ったが、おそらく先ほどの剣と同様防御無視ーーーいや防御破壊するのがメインであり刀が破壊される制限を持ちながら確実に相手を仕留める武器なのではないだろうか。
【地刃砂嵐】は砂嵐であり、大幣を弾けさせるーーーおそらく爆弾がメインの技。
破裂した武器を中心に強烈な砂嵐を起こすが、自分も同様にダメージを受けるリスクもある技なのではないだろうか。
【雨月弓】は雨であり、矢のない弓がメインの技。
水球の矢を放ち相手を中てる技であるが、守った腕は貫通したが、その先の私の胸には水鉄砲程度の威力しか残っていなかった。おそらく最初に当たった部分のみ貫通させる技なのかもしれない。
今判明されている技のほとんどはダメージは与えられるものの、致命傷にはなりずらいものが多い。
もちろん当たりどころが悪ければ死ぬものではあるが、本来であればメインアタッカーではなくサブアタッカーになる技ーーーのはずだ。
ーーーどれも憶測が立たないものだが比較的予想できるのは技の名前に天気の名前が入っていること。
そして能力はおそらくーーー日本の気象庁が発布している国内用の15種類の天気。それがモデルとなって技が出来ていると考えられる。
どの技が問題になるか分からない・・・・・・早めに仕留めておかなくとは・・・・・・
「なるほど・・・・・・貴女の能力はーーー『天気』ですね」
「正直ーーーここまで速く読み取られるとは思いませんでした」
彼女は槍を構えてーーー投げた!
分裂、分裂、分裂していき複雑な軌道を通って槍を突き立てる。
スピードは速くない、だがダメージは少なくない槍。避け続けなければ。
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鈍痛に滲む胸をセイは弄る。
骨が数本折れるーーーそれは常に命のやり取りが行われるヒーローとは違って、日常を生きる人たちにとっては異常事態だ。
雨が降る中、冷えるはずの身体が熱を持って冷や汗が流れる。
たった一度の反撃で緊急アラートが脳を揺らす。
腕取られてケロリとしているあの男はそれだけ異常なのが理解できる。
漫画で肋骨が折れた程度だ・・・・・・だなんて言ってるキャラクターはほんとにファンタジーということですね。
逃げ続ける・・・・・・?いや、【火雷の槍】は魔力消費が大きい使い続ければ間違いなく仕留められる。
「能力発動・・・・・・【雲半纏】」
突発的な動きをしなければ私の体を回復させてくれる半纏を着ておけばーーー
「させません。【立幅墜】っ!」
いつの間にか目の前にいた彼からは避けられないーーー振り上げた拳は腹に直撃する。
内臓が手もみでシェイクされるような激痛が走る。
能力がーーー解除される。
「【雹・・・・・・っ!?」
忘れてたこの能力はもう既にーーーっ
引き抜いた刀からは刃は残っていなかった。
それに気づいた直後顔に激痛が走る。
殴られた、と気付いたのは吹き飛ばされた先で視界の片隅に見えた振り抜いた影が見えたからだ。
「・・・・・・くそっ」
右耳から音が聞こえない、殴られた影響で一時的に麻痺している。
このままじゃダメージが私をーーー
「恐れていますね・・・・・・【壊拳】」
殺される・・・・・・!
「『満たせ、満たせ、満たせ、満たせ、満たせ、繰り返し灯した五つの梁は、今その生を破却する』ーーーっ!」
ーーーあぁ、分かる壊れた人形のように私の心が崩れていく。
死ぬような単純なものではなく、今まで大切にと抱きかかえていた宝物が根こそぎ奪われていく無力感や恐怖感。
大したダメージはなかったーーーけれども巨大な水槽から小さなひび割れで全てが崩壊していく。どれだけ抑え込んでも間に合わない感覚。
ーーーこれが貴方が食らったものですね。
これが心が壊れている状態かと、ようやく理解が出来た。
これだけボロボロになってしまった今、奥の手を使うしか他ない。
これだけ貴方はやらかした。この手はできるだけ使いたくないものですが仕方ないですね。
「『魂に輪廻はなく、唯只管に、満ち満ちた世界下、裁かれよ』」
それは魔術、もしくは能力に特別秀でた者が究極的の自己世界。
「『今太平の理を外れ、神の心意を覆い奉らん』ーーー」
空想と現実の帳を外し、自らの心の世界そのもので、世界の理すらも覆い尽くす究極の奥義。
その名もーーー
「【固有結界】ーーー『観天望気・碧空』」
彼女がそう言った瞬間、世界は一変する。
荒れた空も崩れた橋も何もかもが無くなり、世界に何も無くなる。
ウユニ塩湖を彷彿とさせる世界には、足元の小さな霧のようなもの以外に何も残っていない。
いや、この霧に何か特異性があるのかーーー?
「ーーーいえ、これこそが世界です」
「っ!?」
セイは傷つき切った身体をさらに鞭で叩いて立ち上がる。
もはやこの体からは悲鳴すらもあげられないのだろうが、【壊拳】で失った心は【固有結界】の完成により修復された。
再びーーー立つことができる。
「【固有結界】ーーー聞いたことありませんか?これが私の世界です」
「聞いたことはありませぬが、食らったのは初めてですな。これほど綺麗なものとは」
浩然の発した言葉は素直なものだった。
皮肉ではなく、心の底から発された言葉には、賞賛に近いもの。
幻想的ではあるものの、世界を見てまわれば見つかるかもしれないという絶妙な塩梅。
心を安らかに揺るがすような世界だった。
「ここは全ての始まり。太陽という世界を温める恒星の下、雲の子供達がすくすくと育つ場所でございます」
「ーーー・・・・・・なるほど足元の霧は雲の子供だと」
「ええ、これほど近づけば身を燃やす熱。その下に今私たちはいます」
「それが貴女の【固有結界】の能力であると」
「ええ、私の能力は通常では出せない天気が二つありますーーー『晴れ』と『快晴』です。その二つはあまりにもコストが大きすぎるため、私の先祖達が一つにまとめることによって運用されて来たと」
それがこの固有結界の全て、そして『天気』の能力は能力を発動するたびに武器を生む。
彼女は手を包むようにする。
するとーーースポットライトのような光が天から落ちる。
「これが私のーーー私たちの持てる最強の武器ーーー最上級神器『リッタ』です」
ーーーそれは、彼女の身の丈ほどの巨大で肉厚の斧。
『ムーンフェアリー』同様の最上級神器の名を冠した究極の武器。
彼女はそれを優しく包むとーーー
「本来は我々のようなものが使ってはいけませんが、死ぬわけにはいきませんので特例です」
そう言って静かに微笑んだ。




