EX.254 「懸念された日」
今日は平和にありますように
十戒第6回戦
アキヒト 対 シュウ・ハウゼン
場所 明石海峡大橋
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時刻はすでに23時を大きく回っている。
アキヒトは柱伝いに『サーカス』の能力の要領で跳び回る。
天気、雨。
敵を急いで倒さなければならない現状。アキヒトは焦りを見せる。
瞬間的に大暴れできれば楽かもしれないが、問題は相手の能力。
『円』ーーーそれは文字通りの円形状の何かを生み出す能力ではなく、物質の固定、充填、放出が行える能力。
今日は昼からずっと雨だった。
彼は能力によって雨を固定化させた。
雨が降れば降るほど雨は肉体を貫き、雨は自ら盾となる。
アキヒトが何度も攻撃できる時に行えなかったのはそれが理由だ。
【スティンガー】では一撃だけしか弾けない。雨のような無数の量の相手には押し潰されるだけ。『レインボー』の能力を発動していない状態の【ルールブレイカー】は雨は破壊できるがジリ貧。
「再生能力でゴリ押しするしかないのか?」
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シュウ・ハウゼンは自らの能力は無敵だとは言えない。それは理解している。
ーーーとは言え便利な能力だとも理解している。
そのため自分の能力ではかなりの準備段階は要る。
例えばこんな雨の日は特に動ける。
『能力』というのは自分の体にダメージを与えるものは存在しない。コントロール出来ないが為、飛び立った瓦礫に傷つけられるという例外はあれども基本的には無い。自分が生み出した火に燃やされないように、自分の生み出した水に溺れないように。
自ら固定した雨に貫かれることも防がれることもない。
蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。
現時点アキヒトは3径間2ヒンジ補剛トラス吊橋の明石海峡大橋の道路下、補剛桁に隠れていた。
対してシュウは道路ど真ん中。死角を隠すために全体を見渡せる場所にいる。
蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。
能力を使う時に問題になるのは自分の才能の限界を超える場合や能力のエネルギー源である魔力の消費が懸念される。
ここまで戦いを先延ばしにしたのは雨の状況下における能力発動はおよそ1時間ほどしか持たないのでは?
蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。
「足りないかもな・・・・・・」
アキヒトは柱を蹴り続けた右脚をさする。
戦いのコツは相手の想像以上の選択肢を用意すること。
「・・・・・・?」
C4爆弾がいくつもの柱にくっ付けられている。
これが爆発すれば明石海峡大橋が崩壊してしまったら一週間位インフラ止まるぞ。
とりあえずコピーと解析を同時並行で行っていこう。
あと回収も行わないと嫌なタイミングで爆発されたら困る。
シュウ・ハウゼンはかなりのビビりである。
そのために準備はかなり行っている。
だからこそ準備は怠らない。
死なないために。
ここからが死戦。
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殺気が溢れる。
暗殺が既に死にきっている今、これほどの殺気が溢れ出しても問題無いのか、それともーーー
「っ!?」
シュウ・ハウゼンは察した。
いや、この目で見て実際に理解した。
アキヒトが無数に分身して飛び出したことに。
「それでも、能力は発動したままだ!」
分身系の能力は一撃で分身が解除される。雨が降り続けている中飛び出したところで焼石に水。
「数の量でゴリ押すつもりかい!?」
事実上の方のアキヒトの分身は消されているものの、下の方にいるアキヒトは未だ健在。
このままでは、いや、まだそれはない。
スコールならもっと消えていくものの、今はそれほどではない。だが、彼の数は確実に減っていっている。
このまま消えていけばーーー
「ーーー最後に残った君にプレゼントを贈ろう」
シュウ・ハウゼンはポケットの中の硬い何かを探る。
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アキヒトの分身は着実に数を減らしていく。
約1000体ーーーそれがアキヒトが今出せる分身数の限界。
魔力核を作りそれを実体にオーラを整える。
分身数の限界はアキヒトの魔力量の限界ではなく、今までアキヒトの隠れていた時間の限界。
タイミングを見計らう。
確実に潰すのは相手の隙が生まれる瞬間。
走る、走る、走る、走る、走る!
「【ファイア】!」
雨は【ルールブレイカー】ではなく、シンプルに炎で蒸発させる。
水たまりに何が入っているのか分からないから出来る限り避ける。
走れ、走れ、走れ、走れ、走れ!
炎や分身を発動している中、不意なダメージを避けるためにさらに他の能力は使用しない。
既に200体ぐらいには減っている。
半分以上を肉傘にして走り続ける。
相手との距離はもう200mほど、俺ならば3秒も要らない。
3・・・2・・・1・・・。
「【ビックバン】!」
そう叫んで左手を眼前の敵に振り上げる、が。
視界がブレた。
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二方向の巨大な群れは瞬く間に数を減らす。
この10倍あればもっと余裕は出来ただろうが、そんな時間は無かった。
開戦から能力発動まで1分も無い。
そしてアキヒトが隠れたからおよそ5分。
小細工程度の攻撃以外には対して発されなかった魔力。
それをこの量で済ましていたのは怠慢かそれとも分身を作るのが下手か。
まあいい、それでも勝てるならば!
「能力発動!」
シュウ・ハウゼンはスイッチを押した。
瞬時設置された車から亜音速のボウガンがアキヒトの頭部を抉る。
「見えなかっただろ!あんたも知ってると思うが僕の能力はチャージすればするほど速さと威力が上がる!」
「・・・・・・・・・・・・!」
それでもアキヒトは走り続ける。
だが違和感も感じ取れる。
シュウ・ハウゼンは前二つ分の戦闘データを見て憶測を立てる。
その憶測とはーーー再生能力は無敵ではないこと。
アキヒトの戦闘ログには再生能力が幾度ともなく活かされた場面が多かった。
そしてそれに対する敵の攻略法はミンチにすること。
シンプル極まりない方法ではあるが可能性はあった。だが徐々にアキヒトが対応している内に再生能力の活動が活発化していき瞬きするほどの速度で回復していった。
問題は中保慎英と朝霧薊の二人が見つけてくれた可能性。
それは再生能力は「毒」と「見えない傷」に弱いということ。
それでも痛みを与えてしまったら回復してしまうだろうーーー痛覚があればの話ではあるが。
ーーーそれでも痛みを与える前に脳みその機能をはるかに落とせればいい。
彼が握ったのは「テンドウウサギ」の骨から作ったヒラ包丁。
見た目素手の相手には僅かにリーチに勝る。
「こい!さっさと来い!」
「・・・・・・・・・・・・」
答えない。
それでもこちらに進んでくるこの生物は巨大な魔獣よりも恐ろしい。
たとえ己れが朽ちても。
背後に隠した包丁を思いっきり突きつけた。
「・・・・・・・・・・・・?」
ーーー違和感が無かったわけでは無い。
能力を発動している今でも感じる絶妙な何か。
顔面に突き立てた包丁の原料となったテンドウウサギは存在を「認識できなくする」能力を持っている。
そしてそのような特殊な能力を持つ生き物で作られた武器は効力を継続させることができる。
その傷は認識出来ない。
そして刺されたことも認識出来ない。
とはいえ刺された身体は違和感を覚え、行動が行えなくなる。
ゲームで言えば『沈黙』に似た能力ではあるが、問題はそこではない。
今突き刺したそれには今まで消えていった分身と似たような雰囲気だった。
「もしかしてあんたは・・・・・・【実像分身】!?」
「正解」
意図せず辿り着いてしまった答えに対して足元から回答がやってきた。
万力がごとく力で握り締められた足を見ればコンクリートからはみ出した手に握りしめられていた。
「ぐぅうぉおおおおおあ!」
思いっきり下に引っ張り落とされ、さらに下に向けられる。
補剛桁に背中から叩きつけられて肺から空気を吐き出される。
「再生能力がッ・・・・・・発動しなかったのは、再生能力が発動しなかったんじゃなくて!再生能力を発動させる必要が無かったからか!」
実像分身は文字通り実体のある分身。
一撃で崩壊する分身とは違い、術者本人が解除するまで崩壊しない。
詰まるところ自分が対応していたのは全て分身。
1000体程度だったのも分身を発動させるのに時間がかかるから。
そして自分が対処されている内に悠々と僕の居場所にアタリを付けていたのか!
「みんな勘違いしすぎなんだよ。再生能力は便利だけど無敵ではない。それは本当だ。でもそれをメタったところで俺には支障は無い」
抜き出した拳は正中線のど真ん中を【ビックバン】が貫く。
「能力発動!」
『円』が発動する。固定の能力が動き出しアキヒトの腕が止まるーーーが、【ビックバン】の威力相手では数秒保たせる程度。
それでもその時間が欲しかった彼は際で避ける。
アキヒトの拳は鉄筋を貫いて止まる。
「能力発動!」
懐から取り出したハンドガンは本来持たない威力を放つ。
弾倉一個分。能力のチャージに必要な分。ライフル以上の威力を近距離で放つことができる。
対してアキヒトは覚醒した。
それは力づくで鉄筋を壊すのではなくーーー能力を発動するために。
「【スティンガー】」
編み出してからかなり便利さが増したソレは吐き出した銃弾を上手に跳ね返す。
「くっ!」
反射した銃弾が耳を飛ばす。
痛みで瞬きする前にさらにもう一発弾倉を込める。
ーーー撃てば返される。だとしたらッ!
狙ったのは事前に設置したC4。敢えて粗雑に作ったプラスチック爆弾は巨大な衝撃で爆発した。
先ほど、いやそれ以上の巨大な爆発がアキヒトの全身を包む。膨大な熱量と圧迫するエネルギーに押しつぶされる前に【スティンガー】で上部に逃げる。
無理矢理こじ開けた穴から飛び出すと雨が全身を刺す。
「『ファイア』。俺の全身を包み燃やしておいてくれ」
「了解です」
俺の言葉に呼応して妖精が炎で包む。
振り続ける雨が俺に届く前に炎が蒸発させる。
「結局インフラがどうとか言えないよな」
目測おおよそ20分の1ほどの面積が壊れている。
もっとも下の部分はより壊れている。
解析してその分解除していった爆弾を分身を発動させながら海に投げ捨てはいたけれど思っていた以上にダメージが入った。
「ーーー問題は敵がまだ生きていることだよな」
おばあちゃんからのアナウンスが届かない。
つまり死亡が確認されていないということだ。
俺もあの爆発の手前逃げていく男の姿を見た。
俺のように無傷とは言えないが、ある程度のダメージで抑え込んでいるだろう。
「ボウガンがあったな。解除しないと」
ここらあたりにある車は6台。その全てに取り付けられているかもしれないことを考慮して、解除のために向かう。
オマケにそのボウガンの矢を使って弓が射ることが出来るのではないかと考える。
「っ!」
近づいた途端爆発する。
ファイアの熱が爆発の熱から守るが吐き出したエネルギーがアキヒトを襲う。
「まだだッ!」
「ーーーいや、もう終わりだ」
眼前にはあの爆発から命からがら流れたのか半身が崩れた男がいた。
このまま俺が手を下さなくとも死んでいく。
「まだ終わりじゃないッ!終わらせないッ!」
喋れば喋るほど血反吐が飛び出す。
「僕の武器じゃあんたは殺せないッ!でもッ!それは殺さない理由にはならないッ!」
吐き出した顔から目玉がこぼれ落ちる。
「僕はあんたを殺さなくちゃいけないんだッ!」
あんたの熱量は分かった。でもーーー
「ーーーそれは殺していい理由にはならない」
俺はそう言い切る。
「でも、この戦いじゃそれが正義だよな」
アキヒトは【スティンガー】で空を飛ぶ。
そしてライダーキックを放った。
真正面から放たれたそれはシュウ・ハウゼンにとっても能力を発動できる完璧なタイミング。
先ほどの【ビックバン】と同様に己とあの男の直線上に能力を発動する。
そしてアキヒトの足が入れば固定すればーーーあの反射板よりも早く銃を撃てる。
「能力ッ発動ッ!」
「【ルールブレイカー】」
「なッなんだ、能力がッ」
アキヒトの肉体にこびりついたルールブレイカーの残滓がシュウ・ハウゼンの能力を破壊する。
そして、そのままーーー!
トンッ・・・・・・
「えッ、なんでダメージが・・・・・・」
「能力・・・・・・」
シュウ・ハウゼンは察してしまった。
アキヒトが何をしようしているかが。
「解除」
それは今までアキヒトが『円』の能力によって溜め込んだエネルギーがその足を伝って放たれた。
本来ならば鉄筋が何本も折れる威力が溜められ、それがより一層致命的なダメージを与えた。
死の導火線がより手前で着火される。
意識を失う手前シュウ・ハウゼンは最後の仕事を行う。
「僕はッ・・・・・・先に行きます」
スイッチを押した。
「どうかあの男もッ・・・・・・こちらへ送ってくださぃ」
体内に仕込んだ爆弾が爆発した。
@@@@@
十戒第6回戦
アキヒト 対 シュウ・ハウゼン
場所 明石海峡大橋
勝者 アキヒト
@@@@@ ドォオオオオオオオオオオオオン!
爆弾が爆発した中で二重で何か音が聞こえた。
雨で煙が溶けていく中で、真上を見たら虹色の火が散ったように見えた。
「もしかして花火」
「選手交代であります」
「っ!?」
今まで気づかなかった。
仕留めた瞬間が一番隙を見せた。
背後にその影がーーー
前へ走れるか!?いや、間に合わない!受けられるか!?相手も準備している!まともにはーーー
「人は、己れの命と向き合うときに最も恐怖する」
瞬きの手前、アキヒトにはそう、聞こえた。
「【壊拳】」
静かに突き出したソレはアキヒトの背中越しに直撃する。
意識が真っ白になる中で、アキヒトは気づいてしまった。
大事な何かを失ってしまったことにーーー。
十戒第7回戦
浩然 対 ???
場所 明石海峡大橋
開始ーーー。
次回:近日




