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アキヒトバトルアドベンジャーズ  作者: モフきのこ
第1.5章夏 『十戒』

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272/303

EX.253 「舞われ周れ」

 鈍痛が脳を響かせる。

 目が飛び出した衝撃よりも肉体がボロボロになっていく様を気づけなかったことでよりダメージが入りすぎている。

 相変わらず痛覚のほとんど失った身体はこんなタイミングで致命的な欠陥を引き起こす。

 見えない傷に鈍感になりすぎている。


 結果がこれだ。

 両目はすでにどこかに飛んでいき、内臓はおそらくズタズタだ。

 とにかく逃げないととんでもない追撃を負う。


「本当に・・・・・・痛みを感じないのですね」


 どこに逃げればいい?

 この立体駐車場の形を思い出せ。

 あの女は別に道路のど真ん中にはいなかった。

 右か左に逃げ込めば落下できる。


「廻れ」


「グゥッ・・・・・・!」


 あの女がその言葉を発した瞬間、両足があらぬ方向に曲がりだす。

 能力を理解する前に、俺の体がスクラップにされてしまう!


「【ビックバン】!」

「!?」


 俺は地面を強く叩く。

 ビスケット状に砕けていくコンクリートから落下する。

 ここは立体駐車場の4階、このまま落ちても逃げる隙がある。

 俺はこのコンクリートを触れて魔力を通せば能力の発動条件を満たす。


「廻れ、廻れ、廻れっ、廻れ!」


 俺はコンクリートに手を伸ばす。

 あの女がそう叫ぶと伸ばした手が、指がより曲がり始める。


 ーーー舐めるな!


 俺は適当な方向に弾き飛ばす。

 無機物に魔力を残し、その先にあの女がいないことを信じてーーー


「ーーー【チェンジ】」


 瞬時に俺の位置とコンクリートの破片の位置が変わる。

 一体どこに飛んでいくか分からないが、ギャンブルしないと抜け出せないのも確か。

 一瞬ふわっとした時に、下に大きく落ちていく。

 三階に落ちるのならこれだけ長く落ちることはない。つまりーーー最後まで落ちきる所存だ。


「おおおおああああ!」


 情けない悲鳴の最後に潰れたカエルのような声が自分の鼓膜越しに聞こえた。


 @@@@@


 ようやく再生された目玉で捩れた右手を見る。

 こんなふうにするのは『回転(ロテイト)』や『竜巻(トルネイド)』のどっちかだ。

 一応『(サークル)』の能力もあるけれども、ここまでの能力ではない。


 あの女は体術は大したことない、横薙ぎの蹴りで大きめなダメージが入っていた。テキトーな蹴りでモロに対して隙の無い人間にあれだけダメージを与えることが出来ているのなら、懐に入れば仕留めることができる。


 問題なのはあの能力の発動条件だ。

 能力に良し悪しはある。強力な能力であればあるほど万能性よりも特化している分弱点も大きい。

 あの女の場合何をもって捻ることが出来るのか、と。

 射程距離が分かれば最悪弓を使えばそとからチクチクすることが出来る。


「問題は俺が無防備に近づき過ぎたんだよなぁ」


 不用意になり過ぎたせいで射程距離が全く分からない。あそこまで近づけばどんな能力だって射程距離だ。気を抜き過ぎてしまった。


 空間が曲がっているわけでもなく、ピンポイントに捻じ曲げている。


「気が乗らないけど進むしか無いよな」


 見たら静かに即死、なんともまあ暗殺向きな能力なこと。俺じゃなかったら二度は確実に死んでるかその後全てベッドの上だ。


 内臓破壊は能力よりも殴ったほうが早いと考えていて、むしろ近距離戦の方が得意と思っている俺にとって同じ近距離特化型な能力は正直難しい。


「あそこまで近づいたからここまでボロボロになってしまったのか、それとも逃げきれない範囲まで入り込んだからこうなったのか分からないーーーん?」


 周りの空気が澱んだと思った瞬間、手が曲がった。


「またかよ!」


 何も見えていない状態でここまで曲がりきっているのはどうすればいいのか。

 とにかく逃げていくと視界の端っこにあの女の影が見えた。

 結構遠いがあそこから能力が届くのか、だけどなんで腕だけ?


 あの女は俺が再生能力を持っていることを知っている。じわじわ俺にダメージを与えたところで限界が来るのはあちらの方だ。

 再生能力を底なしの魔力で補っている俺にとっては願ったりだが不可解な点がある。


 俺が進んでいたあの場所はあそこにいたあの女にとって死角だったはず。

 立体駐車場のちょうど角に俺がいたはずだからだ。


「いやミラーがあるな」


 さらに遠くに離れて座って冷静に考えるとあの角にはカーブミラーがあったことを思い出した。

 つまり視覚の線は消えない。


 最初に目を潰されたせいで初回の能力発動時に何をしていたか知ることが出来ない。

 魔力を広げた範囲内で選んだものか、視界に入ったものか。


「違うな。ここのヒントは()()()()()()()()()だろう」


 たまたま腕が範囲内に入ったのなら、普通はよりあの女に近い側の左腕が潰されるはずだ。だが、結果的に曲げられたのは右腕の方。

 あそこにはカーブミラーがあった右腕は狙える。


 ただ見える位置にいるのなら、最初にやった内臓破壊を行えば良い。

 それをしなかった理由はおそらくーーー。


「それが出来なかったからだろうな」


 おそらくあの女は全体を見ることによってピンポイントの破壊ができるようになったと考えられる。

 目玉をやられたときもそうだった。

 目と目があったはずはないが、あの距離だと目玉じゃなくて大雑把に顔になる。

 あの女がそれに対応できたのは事前に俺の全身を確認できていたから。

 そして次に右腕が曲げられたのはカーブミラーに全身が見えていなかったから。


「廻れ、は多分能力発動の条件ではなく、より集中力を上げるためのルーティンみたいなもの」


 俺が【ビックバン】を放つ時に大声で叫ぶように、より技の失敗率を下げる手段と同じ。確実性を上げるためにああやって言っている。


「ならやれることは全然あるな」


 俺は『ボム』でスモークグレネードを作りだすとあの女の方向へ放り投げた。


 @@@@@


 空気は見ることができないが、煙を見ることができる。

 それが朝霧薊の自身の能力の理解だった。


 その上でーーーこの距離でピンポイントに爆弾を投げれる技術に感嘆した。


「これほどまでにどれだけ努力したのでしょうか」


 彼女は努力は嫌いでは無い。見ている分には、だが。

 その上でその努力を踏み躙る過程を踏まえて好む。

 それが彼女が自身の環境で生き延びるために必要な精神性だった。


 女社会の中で生き続けるためにはより舐められず、強者である必要があった。

 強ければーーー失わない。

 強ければーーー舐められない。

 強ければーーー奪っても良い。

 それが強者の特権であり、義務のはず。


 そんな考えの中十戒に入り、命を奪い続ける道を選び続けたのは理解は難しくは無い。

 ただ環境か考え方か諭してくれる人がいなければここまで捻れる必要はなかった。


 最初に彼女が能力を使ったのはミサンガを編むためだった。

 気づけば命の糸を絶っていた。


 ここで能力を使えば居場所がすぐにばれて射止められる。

 先日の戦いにて喰らっていた弓を彼女が受けとめるには難があった。

 矢が彼女にぶつかる前に能力を発動して曲げる時間がないと、彼女自身が気付いていたから。


熱感知(サーモグラフィー)』を使えば一発だが、なぜか使用しようとは思っていなさそうだった。


 ならば一点集中。

 隙をついて狙えば相打ちは狙える!


 そう確信して重心を下げる。目測で大体アキヒトの心臓のある位置まで。


 すると突然足元がおぼつかなくなる。

 彼女にダメージはない、だとしたら/落下。


 アキヒトはスモークグレネードを投げた時に彼女の真下におりて待機した。

 そして『ソード』で取り出した剣を振り抜いた。

【空核裂き】と呼ばれたその技は彼女がいるであろう天井を貫いた。


 落下していく中、彼女は忘れていた。

 相打ちなんて狙えるほど自身と相手の距離は近くないことと、相打ちなんて考えている時点で負けていると。


 このまま落ちれば突き刺されて死ぬ。


 だとしたらーーー!


「廻れ、廻れ!廻れ!廻れ!廻れ!壊れろ(廻れ)ェええええええええ!」


 言い切る前にアキヒトは彼女の頭蓋骨を突き刺し断った。

 絶ちつづけた彼女の最期らしい結末だった。


 だが疑問は残る。

 彼女は何に能力を使ったか。


 能力を解除し剣をしまう。

 そして周りを見渡すと柱が徐々に曲がっていく。

 一つではない何本も。


「最期にここまでの能力をだったなんて」


 感嘆なのか称賛なのかどちらとも取れる言葉を吐いて、アキヒトは上へ飛び出す。


『ウイング』や『ジェット』では初速が足りない。

 アキヒトは少し考えて、魔力で菱形の板を作り出した。


 そして思いっきり踏み締めた。


【スティンガー】は超強力な反射板。速度の足りない超覚醒を補うために最初は作り出したものだった。


 アキヒトは見下ろしながら、駐車場が崩壊していく様を見続けた。


 十戒第五回戦

 アキヒト 対 朝霧薊


 場所 立体駐車場


 勝者 アキヒト

次回:近日

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