EX.251 「狩人③」
本音を言ってしまえばここで仕留めておきたかった。
アキヒトはこぼれ落ちた手首を見て思った。
重症ではあるが、致命的では無い。
多少ここで逃げ延びれば医療に使う方法くらい用意されているだろう。
完全に斬り落とせば良かったものの、ギリギリで避けられてしまった。
・・・・・・思ってたよりも殺気が漏れてしまったな。
ここはガッツリ反省すべき点だな。今後活かせるところがあったら活かすべきだろう。
ーーー活かせるところがあったら。
自爆と不意打ちでやれたのは黒焦げの右腕のみ、これならばもう少しやるべきところはあった。
・・・・・・とはいえ、今ので相手の選択肢はだいぶ減ったハズだ。オマケにもう一つ仕込みを済ますことができた。
俺は呑気に戻ってきたバイクを触る。
「まだまだお前には働いて貰うからな」
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「ふふふ・・・・・・ここまで俺っちを追い詰めてくるか、あのボウイ策士じゃないか」
脳汁がドバドバ、エンドルフィンでビンタされながらシンエイは傷口を火で焼く。
食事処は食べるものがたくさん多いのが魅力的だがコンロがあるのがより魅力的だ。
本当なら鉄板で焼こうと思っていたが鉄板って思っていたよりも見つからないものだ。
ーーーここで一つ考え事をしよう。
俺っちの撃った11ミリ弾は確かに走るバイクに当てたのを見た。
ただタイヤは弾けず、むしろ巻きつけられたタイヤチェーンに弾き飛ばされた。
・・・・・・なぜタイヤチェーンが巻き付けられていた?
ボウイと俺っちでは考え方が違う可能性が高い。
なんでも使える能力のボウイとなんでも仕舞えて出せる能力の俺っち。
準備段階が必要な俺っちではなんでも使える能力者には敵わない。
だが証拠が揃っている現状では氷の類の能力が使われるハズだ。
ジクジクと何かが痛み出す。
幻肢痛か火傷かその他もろもろか、ぶん殴られたエンドルフィンも量が足りなかったに違いない。生産業者に文句を言わないといけなくなった。
だがそれは二の次だ。
失った腕も傷ついた身体も置いておこうじゃないか。
準備段階は遥かに過ぎて、準備したものもほとんど使い尽くした。
「効くのは毒か・・・・・・」
シンエイはナイフをより強く握りしめた。
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二度、手を叩く。
「詠唱は覚えた。あとは噛まないだけ」
今更ながら魔法の短期詠唱や能力の自動発動に何度も助けられている。
だが、ここで必要になるのは詠唱が必要になる技術。
とりあえず頭に叩き込んではあるが、実際に本番で使えるとは限らない。
「狙うのは一度きり、矢は二本、全部使わされるなよ」
一幕おいた少しの時間。何度も何度も自分に言い聞かせる。
自分は本番には強いとは思っているが、避けて通ってこなかった魔術の道にこの前入ってきたばかりの新参者。確実性が乏しい。
物に付与するのは能力で慣れている。
あとはそれを応用するだけだ。
「もしも俺が狙うとしたらーーーあそこだな」
そこは三宮の中でも極めて目立つ高層ビル。
その屋上へ、今から目指す。
三宮商店街から見えないそれを見つめた時、被ったヘルメットが弾け飛んだ。
「!!」
ーーーライフル!
先程までつけていなかったヘルメットをしていたのも、たまたまビルに向けて顔を傾けたのも嫌な予感がしたから。
ただ、アキヒトの嫌な予感は結構な確率で的中する。
とはいえ無傷ではない、弾かれた耳を治さぬまま、エンジンを吹かせた。
ライフルの音は聞こえなかった。なら、遠くに居るはず。問題はやつの能力は影があれば発動できること。
二度目のライフルには当たらないように不規則に曲がりながら商店街を抜ける。
そして大きく右へ曲がった時、巨大なトラックがシャッターを突き抜けて弾くように飛んでいく。
「・・・・・・っ!」
激突はない。
それでも自分の考えていることが先読みされているのではないか、という不快感が脳をよぎる。
かすった拍子にバランスを崩しかけたが、高級品なこのバイクの運転中は90度曲がっても倒れない特質に助けられる。
直線しか進まないなら、なんとかなる!
「【絶対零度の氷道】!」
目標である神戸市役所に辿り着く。
そして、バイクを走らせながら擦らせるように足を下ろす。
【絶対零度の息吹】とは違いこの技はどの部分か地面に触れてなくてはならない。
バイクにタイヤチェーンを付けたのもこの作り出した道を安全に作り出すため・・・・・・。
手に痺れ・・・・・・?
足元を見るとナイフが一本突き刺さっている。おそらく能力発動時に発生した光を頼りに突き刺したのだろう。
問題はこのナイフには先ほどの毒が塗りたくられているところだろう。
ただ能力自体は問題なく発動した後。
このまま道のりに走り出せれば。
ーーーパキン!
「え?」
どうしたものか。後方部のタイヤのチェーンが壊れたじゃないか。
チェーンがタイヤの回転に耐えられなかったなんてふざけたことはないはず。
だとしたらーーー
「あの時の銃弾か」
アキヒトが思い出すのはシンエイに二択を絞らせ、彼が銃を撃つことを選び、それがチェーンに激突したところ。
アキヒト自身はその光景を見てはいないが分身の報告により理解している。
改めてあそこで殺しきれなかったことが悔やまれる。
「それでもっ!今進む!」
アキヒトはさらに加速する。
チェーンが壊されたなら能力で補えばいい。
アキヒトは『ニードル』によって小さな針をタイヤに巻く。
心許ないが最低限の工夫だ。
山のように伸びていく道のりに負けないように体を内側に傾けて走らせる。
ロケットは来ない、ランチャーも同じく。
ただ、何かを忘れているようでーーー。
「あっ!」
そんな気づきを得るや否や時すでに遅い。
ガシャン!と大きな音を立てて地面が大きく揺れる。
地震ーーーではない、これはトラックによって氷道が崩されてしまったこと。
まずい!とアキヒトは思う。
空を飛ぶ能力は安定していない。
『ウイング』はたどり着くまでに時間がかかるし、『ジェット』は一直線上に進み続けるしかない。
『天空飛行』はドラゴンボールの舞空術のように簡単にできるわけではない。
特にこんな自分のバランスが崩れている状況では限りなく難しい。
「『アーチャー』!」
地面に落ちていく最中、腰に携えた矢を引き抜き、弓で射る。
目標はビルの頂上。
アームを取り付けた矢は狙い通り頂上に辿り着き、アキヒトは能力で付けた極細の糸をロープ程のサイズまで太らせた。
それをバイクに取り付けて振り子状になるようにビルに激突する。
ついでにガラスも割れたから中から入ることも考えたが、ここで下手に相手の陣地に入ってやる度胸はなかったのでそのままロープ伝いに上へ登っていく。
不自然なほど何もなかった。
ただ、嫌な予感だけがビンビンに全身を穿つ。
問題は何かは全くわからない。
それでも最初に用意した案を続行させよう。
最後の矢を抜く。
このまま適当に撃ってどこかにぶつかれば、リセットされて再び十本の矢が補充される。
だがアキヒトはその手段を選ばなかった。
最後の一本に集中することで、外せない緊張感が後押ししてくれると考えたからだ。
一度吸う、吐く。
「『今宵、罷り通る不変不動の幽世修める清浄結界。二方を定めし仕業の先に菟道の念を崩したもうことなし、即ち二方封印の定めなり』」
魔力を練る。
人差し指から伝わるように矢に魔力を移す。
エメラルド色の魔力が矢に伝わったところを見て少し安堵した。
ーーーあとは来るだけ。
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月は雲に隠れたまま動かない。
シンエイがアキヒトに施したのは毒。
それによりアキヒトの再生能力が著しく落ちた。
ならばこの状態で首を切り落とせば死ぬのではないか。
アキヒトは不死者ではない。
わかりやすい弱点を持たない再生能力は相手にとってクソゲーの極まりないものだろう。
だがこの毒によって再生能力が間に合わなければ殺すことができる。
月はーーーゆっくりと現れた。
同時にシンエイは動き出す。
アキヒトの背後の通気口の影に隠れたのちに走り出した。
風音や足音は能力によってかき消される。
狙うのは首ーーー!
・・・・・・その時、シンエイは信じられないものを見た。
それは何も見ていないはずのアキヒトが弓を射ったこともそうだが、それ以上の衝撃が訪れた。
自分がもう一人いる。
否、それは鏡に写った自分。その証拠に彼やアキヒトが左右反転されて映し出されている。
しまった!これは、最初から誘い込まれていた!
これは『ミラー』の能力!
アキヒトから射られた矢は鏡に吸い込まれるように、そしてそのまま何もなかったように反対の直線上、すなわち自分たちの方へと突き進む。
つまりアキヒトは鏡に写った自分を見て射ったのだと、シンエイは射られた後で気がついた。
ここからが本番。
シンエイは鋭い痛みが走る。
その矢を抜こうと思った時強烈な違和感に気づく。
体が動かない。
能動的な行動も、痛みの反射も何一つ動かない。
そもそも体が空中で固定されてしまっている。
「これは・・・・・・『二方封印』。俺が詠唱して扱う封印術だよ」
突如頭を走った疑問に答えるようにアキヒトはゆっくりと振り向く。
「これは低位の封印術でさ、5分で解けるどころか、ちょっと動かすだけで解ける」
アキヒトは全身に力を入れて、金色の姿に変わる。
データによるとそれは覚醒と呼ばれるものだったはず。
「・・・・・・随分と、俺ちゃん相手に苦戦してた割に分かってましたって顔が気に入らねェナァ」
「アンタの策にはだいぶ踊らされたよ。けど、俺の器用さに負けたんだよ」
「悔しさ通り越して何も感じねぇ。これも封印術の影響かい?ボウイ」
「関係ないよ」
アキヒトは両足に力を込める。
シンエイになす術はない。『影』の能力のもう一つの弱点は地面に触れていないと能力が発動しない点。
それを考えて矢を射ったのならば恐ろしい限りだ。
「派手に頼む」
アキヒトはそれに答えるように彼を蹴り飛ばした。
「【レッグビックバン】!」
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シンエイの体が地面に直撃するよりも早くに降り立つ。
そして、先ほど放った逆の足で受け止めるようにもう一度【レッグビックバン】を放った。
今度は真上、さらにアキヒトは飛び立つ。
『天空飛行』の高速加速によって間に合わせ、左手に力を込める。
チャージが完了した瞬間、辿り着いたシンエイの体に向けてーーー
「【ビックバン】!」
最後に真下に叩き落とした。
ここまでしたのは最後の望みからだったのか、殺しても殺しきれない存在だとアキヒトは感じていたのかはアキヒトの表情からは読み取れない。
そして、中保慎英だった体を見下ろして、アキヒトは安堵したように一度息を吐いて、吊りおろしたバイクを回収して行った。
十戒第四回戦
アキヒト 対 中保慎英
場所 三宮駅周辺
勝者:アキヒト
次回:近日




