EX.250 「狩人②」
三宮センター街に連なる店の一つ。
何度も目には入るが、店に入ろうとは思わないラグジュアリーショップの中にアキヒトは潜んでいた。
潜むーーーというと大きな語弊が生じる、無駄に明るい店舗内に座っていた。
『影』の対抗策はシンプル。影を塗りつぶすほどの闇か光。【フラッシュ】を焚けば確実ではあるがその間に殺しきる可能性はそれほど高くはない。
店に入った瞬間殺し切らないといけないため、距離は狭い方が良い。
だからこそ店はある程度狭く、ライトが分かりやすいところが良かった。
アキヒトは『リーフ』の蔦を伸ばし、電源のある場所を探る。魔力の仄かな光も映さないように慎重に、だ。
呼吸は二度吸って一度に吐くを繰り返す。
アキヒトは『ポイズン』の能力の解析待ち。
シンエイによって食らった毒はアキヒトにとって極めて致命的な攻撃だった。
アキヒトの再生能力は毒には効かない。細胞全てを炭化させられても再生する肉体は毒には極めて弱かった。さながら酒に酔った八岐大蛇のように上手く再生能力を機能させることが出来ない。
避けたと思っていた。
だがバイクに乗って逃げる際、思いっきり突き立てられたナイフからおおよそ十種類程度の毒が注入された。
ーーーおそらく奴の能力の距離は無制限、だが確実性が持たない以上嫌がらせのような攻撃しか出来ないだろう。・・・・・・だとしたら狙うなら弱っている今。
アキヒトが座った箇所は銃が狙えない際どい箇所、ふざけたトモキから教えてもらった安置。この店もこんな形で利用されるとは思ってなかっただろうが使わせていただく。
「ョォ〜〜随分と安っぽくなったんじゃぁないのボウイ?」
「アンタのその髭面よりマシだけどな」
カランとこぎみのいい音を立てて店へ入る。
ーーーおそらく奴は俺の射程距離を見極めている。・・・・・・そうだ、そのまま待ってろ。
「そういやせっかくだし自己紹介でもしてもらおっかな?今から俺が殺すんだし墓の前で敬礼でもしてやるよ」
「イイよイイよ〜ボウイ。俺ちゃんはブラックリストヒーロー。影からでちゃいけないんだよ。常識だろぉ」
後は時間を稼ぐ。
「ああ?そうだっけ。光堕ちしたからわかんないや」
「確かに?俺ちゃんはお前さんのことを深く知ってるつもりだけど、ボウイは知らない。なんか不公平だよなぁ」
そうアキヒトは片目を閉じて、あーやれやれと言ったふうに肩をすくめる。
「そうそう、なんか調子いいじゃんか。このまま教えてくれよ」
「おお!そうだな俺ちゃんは中保慎英ーーー」
突如世界はブラックリストする。片目が闇に順応した瞬間アキヒトは『リーフ』で出した蔓がブレーカーを落とした。
同時、アキヒトは動き出す。
短剣でも片手直剣でも届かない距離、だとしたらどうする?
答えはシンプル。投擲物を投げる。
「セイっ!」
貼り声と共に投げられたのは『ランス』の能力で取り出されたモリ。それを力いっぱい振り込んで腹のど真ん中にぶち当てる。
思わず口から「やった!」と漏れる。
ーーーと、同時に自分の発言を悔やむ自分もあった。
コレ失敗フラグじゃん。
その嫌な直感の言う通り、腹にぶち当たる瞬間、彼の背後から膨大な光の質量に殴られる。
「俺ちゃんは弱ったウサギ相手でも手を抜かない。これポリシーね。そ・れ・と、やっぱり持っててよかった巨大照明」
どこかとろんとした目からとは思えないほどの気持ちの悪い殺気が額のど真ん中を走る。
その直感に従うように首を落とすと、その真上に轟音と共に一つの大きな穴が出来る。
「んんぅ〜?サプライズのつもりだったんだけどなぁ。まさか避けられるとは。俺ちゃん感動しちゃった。戦場で見たことあるのコレ?」
それはライフル銃も打てるようになった自動大型拳銃。歪な骨格からは想像できないほど凄まじい命中精度。
「これはこのダムダム弾を出すための銃。ボウイを殺すのが難しいのなら死にたいと思えるほど傷つけてあげればいい。そうだろう?ボウイ」
「とは言っても銃一丁くらいは避けられるぜ俺は」
「みたいだなぁ。だったらガトリング銃はどうよ」
どう考えても見たことがない口径の銃を取り出してニヤリと笑う。
「悪趣味も通り越してもはや尊敬に値するよホント」
銃口に熱が発する瞬間アキヒトは後ろに飛び込んだ。
射程距離からは簡単には逃げられない殲滅用の武器。今は簡単な傷も負いたくはない。
アキヒトは思いっきり背中の壁を蹴り飛ばした。
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三宮センター街、さんプラザ。
地下一階をアキヒトは静かに走り回っていた。
定期的に起きる轟音は自分の勝利を確信しているのか、何かしらのエコーロケーション的な役割を担っているのか想像つかない。
たとえ前者だろうと苦虫を噛み潰しながら肯定せざるを得ない。
先のガトリング銃は肌を抉ったのは数十発、直撃したのは十数発。
今再生能力が上手く機能しない状態では致命的だ。
だとしても逆転の芽を埋め続けられるのは『パーフェクト』の特異性だろう。弱点をつかれ続けているのならば根本的に戦い方を変えればいい。
アキヒトは能力を発動する。
腰に矢筒と十本の矢、背中に弓を携える。
能力『アーチャー』のデフォルトの姿。矢を十本全て打ち切れば新しくリロードされるというシンプル極まりない能力ではあるが、銃を当てられないアキヒトにとって簡単な遠距離武器であることは確か。
オマケに前方に撃ったら後方に飛んでいくことでお馴染みのアキヒトの銃センスと違って、文字通り百発百中の腕前だ。自前の筋力も相待ってボウガンよりも必殺度は高いといえる。
矢筈をかけ、静かに息を吐いて弓を引く、中る。
「こっちだよ鬼さん」
やるねぇと言いたいのか帰ってきたのは一発の銃弾。しかも角度を計算しているのか跳弾もしている。
今度こそかろうじて避け、再び前へ走る。
前に広がるのは分岐点
①そのまままっすぐに進むルート
②エスカレーターに乗って上へ向かうルート
③先ほどとは違う道で巻き戻るルート
答えはーーー
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アキヒトが弓で中てたのは右耳。情け容赦なく千切れ飛ばした矢の鮮烈な動きを見て痛みを感じるより先に口笛を吹いてしまった。
楽しすぎる。
シンエイの能力をハイテンションホルモンが活性し続ける。
痛みは快楽で押し除けて、早く早く走り続ける。今度はのんびりとはしない。熾烈で過激な世界を得るために。
そして完全に広がったのはエスカレーターを翔けるアキヒトと別の道で戻るアキヒト。
シンエイの直感が囁く。
瞬間、頭部を打ち貫かれたのはエスカレーターのアキヒト。だが、撃たれた頭部から順々に煙となって消えていった。あちらが分身体。
「やはりか・・・・・・」
この言葉は負け惜しみなんかではなく、本物のアキヒトを捕捉した上での発言。なぜあちらを狙うよりも先に撃ち抜いたのか、直感はこう囁く。
あの分身体を忘れた時致命的なミスを負う、という直感。
振り向くと同時に一矢が頬を掠める。
矢から感じる直撃させるつもりはなかったという感触。牽制のつもりだろう。もちろん前に向かわせていただく。
何発か撃つが流石に走りながらでは命中しない。
オマケにボウイは消化器に矢を中て、中身の粉を吹き飛ばす。ちょっとした煙幕が晴れるとそこにはーーー
「なるほど、そんな分身があるのか」
ーーーそこには道を塞ぐように鮨詰めになったアキヒトの集団。無駄に丸っこくて大きく個体や細長い個体がテトリスのようにガチガチに詰められている。
ーーーとはいえ耐久は紙程度の分身体たかがしれているな。
シンエイは銃を構え引き金を撃ーーー
ーーー瞬間、目の前から三本の矢が飛び出す。
可能性は考慮していたならば避けられる。
シンエイは能力を発動しない。ただ肉体技術でそれを避ける。
トスッ ガシャ カラカラカラ
「?」
音に目をやると握っていたはずの手が、その手首が矢に撃ち抜かれていた。力が抜けて手から銃がこぼれ落ちて情けなくその場で回転するだけ。
三発は陽動か、この確実な一発を生み出すために。
・・・・・・だが、疑問が出てくる。なぜボウイは今俺ちゃんの頭を撃ち抜かなかった?今能力を使わなかった明確なタイミングで。
予測していなかった?
いや、避けた先を予想していたほどの技術力だ。ありえない。だとしたらーーー
ーーーん?思い出せ、何か違和感があるぞ。
シンエイが思い出したのは先ほどの光景、エスカレーターで走ったアキヒトの姿。
サイズを変換できると言うのに何故そのまま変えてこなかった?
シンエイに電流が走る。
もしやあの先に全てをひっくり返す何かがあるというのか?
シンエイは銃を拾い、遠くへ逃げていくアキヒトを尻目にかのエスカレーターへ戻っていく。
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了解。完了したよ。
うん、準備はできている。
さよならだね。おれ。
いつもどおりに。
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三宮センター街、センタープラザ、窓口。
飛び出したシンエイが見たのは、おおよそ7歳程度だろうか小さな子供がバイクに何か調整している姿だった。
二択ではなく三択。
それを二択と思わせた時点で彼のボウイの勝ちだったのだろう。
だが、これまでだ。
「行って!」
小さなボウイの声に従い走り出すバイクを凝視する。
・・・・・・あれは、タイヤチェーン?
何かわからない、ただ明確な違和感を拭えない今はとにかくそれを排除しないといけない。
シンエイは銃を構える。
「俺を見逃していいの?」
「君に力は無い」
「でも自爆って選択肢があるよね?」
少年は服をたくし上げるとそこにはベルトに詰まった爆弾。ボウイの腹に収まる程度でもこの距離では致命的だろうと予想できる。
「あなたの弱点って二択でしょ?」
シンエイの能力『影』のシンプルな弱点。それはマルチタスクではなくシングルタスクな点。
銃を撃つと影に潜るは同時進行で行えず、必ずどちらかの動作が終わるまで次の行動に動かさせない。
「・・・・・・・・・」
シンエイは銃を撃った。
「マジかよ」
そしてそのまま自爆に巻き込まれた。
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半身をズタボロになってまで撃った弾は苦しくもタイヤチェーンの金属部分にぶつかり弾き飛ばされる。
一度腰を据えないといけないと判断した瞬間。上部に影が宿る。
片手直剣を携えた死神が彼の腕を切り落とした。
「そこでそれかっ!」
「使わないとは言ってないしなっ!」
一瞬の殺気。身を捩らなければ確かに頭が切り飛ばされていた。そんな一撃。
「やれやれ、俺っちのようなおじさんにピチピチボウイ相手は厳しいなぁ」
そしてそのまま、再び闇に消えていった。
アキヒトは地面を触る。
明確には自分の影を。
『影』の能力は自分以外にも他人の影にも潜ることができる。
もしかしたら、と思ったがここにはいなかった。
つまりーーー
「ーーー仕留めきれなかった・・・・・・っ!」
次回:近日




