EX.249 「狩人①」
アキヒトは『ソード』の能力によってナイフとダガーを取り出す。
片や斬ることに特化した武器、片や刺すことに特化した武器。
脅威度は変わらない、どちらも『人を殺せる武器』なのだから。
シンエイは警戒を露わにしない。
飄々とした態度で相手の緊張感を崩し、確かな一撃を加えるため。
シンエイは自身の能力を無敵とも思っていない。
派手な能力ではなく、どちらかといえば暗殺特化。このような場面でなければ見せる必要のない能力。
そしてーーーシンエイは内心焦っていた。
ミヤタアキヒトという人間のデータには、彼が二刀流を振るう時、それを片手直剣を使用すると学んでいたから。
片手直剣独特のリーチを消し、体術も合わせて行える短剣の二刀流は彼には望ましく無かった。
なぜ二刀流をこのような使用法にしたのか、彼は少し考えた。
ありがたいことにアキヒトは先ほどの違和感を察して動こうとはしない。おそらくカウンター目的の待機をしていることだろう。
『死神』と呼ばれた頃の彼は身の丈に合わない大きさの直剣を使用していたと聞くーーー。
事実彼が使用していた『ムーン・フェアリー』はどんな武器をも萎縮する『最上級神器』。使用すればたちまち人間は輪切りにされる。
ーーーだと言うのにクダンの武器を使用しない理由。または短剣にこだわる理由。
「ーーーああ、そうかそうか。よりスマートに殺せる手段があるなら、そっち選ぶわな」
そう嗤った瞬間、彼の視界からアキヒトが消えた。
薄い殺気ーーー彼がそう察したのはすでに懐の中。
ーーー図星だったのかよ!
ーーー否定はしねぇよ!
アキヒトの二本の刃がシンエイの肝臓を突き刺し、首を切り裂いた。
同時。アキヒトは武器から手を離す。
彼の作り出した武器は例え【スイッチ・オン】を施されたとしても魔力を注ぎ続けない限り、自然と消失していく。
武器に愛着がないわけではない、とはいえ貴重な機会を感傷によって立ち止まるものでもない。
アキヒトは一つ能力を施した。
どちらの持ち手から手が離れた時、薄く見る。
消耗していく数字の羅列がゼロになる瞬間を。
「なるほもね。『BANG』って感じかい?」
そうシンエイが放った言葉に対してダガーが答えた。
大体大理石が黒焦げになるほどの黒色火薬が炸裂した。
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アキヒトは三宮駅からフラワーロードも重ねた巨大な中央線の真ん中に逃げ込んだ。
流石にこの時間になるとここではかなり暗くなる。ましてやおばあちゃんによって人払いが済まされているならなおのこと。おまけに雲が分厚く星も見えない。
やったという実感はない。さらには傷一つ付いていないのじゃないかという嫌な直感が脳裏を過ぎる。
敢えて室内ではなく、屋外に飛び出したのには理由がある。
おそらく奴の能力は暗闇の中の方が向いているのではないかという考察。
親父の『闇』ではなく、おそらくあれはーーー
「ーーー『影』!」
最初の一撃もその後の違和感もこの能力なら納得がいく。
ーーー問題は、その程度の選択肢を潰したところで何かしらの対応をしてくるということ。
そして、俺にはその想像がつかないこと。
アキヒトは警戒心を絶やさない。すぐにでも動けるように対処する。
とはいえーーー、
「想定外の対処は難しいでしょ?」
「!?」
能力『影』は何物も収納することが出来る。自分や自分の体積を超えるものも含めて。個数上限はゲームで言う10スロット分。その代わり自分の影で覆い隠せるならば上限が無い。
シンエイは基本的に空き容量を考えて収納する。いざという時に自分を出し入れすることができるからだ。
事実アキヒトの即死、もしくは致命傷クラスのダメージを幾度となく無効化している。
彼は常に小型のカードで挑んでいた。アキヒトに対してナイフを使用することで、接近戦もしくは暗殺術に秀でているものではないかという錯覚を生み出すために。
全てこの瞬間のために。
小型ロケット。
小型と言っても最低でも人間の1000倍は超える大きさの物体。
その質量が、巨大な爆発となってアキヒトに降り注ぐ。
「用意してよかった巨大照明」
さらっと語った手段によってそらに巨大な彼の影が広がる。本来そのまま霧散していく光が分厚い雲に映画のように広がっていく。
そこから現れたロケットがアキヒトを捕捉し、爆発した。
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「俺ちゃんはボウイの前にいろんな人間を殺してきたよ。元帥やら貴族やらーーーこの世のVIPをさ」
シンエイは軽妙な語る。
「想定外のことが起きようとあらゆる選択肢を用意して今まで殺してきた。『十戒』に入ったのは必要だったからさーーーまあ居心地は良かったがね」
シンエイは冷や汗を流す。
「ーーーでもこの世のどれほど殺したところで、あらゆる人間を殺した『英雄』にはなれなかった。『死神』という称号すらも」
シンエイは自分の目を疑った。
「ちょうど良かったんだ。ヒーローの闇に堕ちた人間が光に進もうとした瞬間が!そうだろう先代死神!?かつて鍛えた殺しの技術は使えない。どんな手を使ってでも相手を殺す術を失っている。それでも死神の首が欲しかった」
シンエイは震える足を強く叩いた。
「世間は納得するはずさ!弱体化したとはいえあれだけの人間を殺した首に莫大なほどの懸賞金を懸けるんだぁから!『どんな手段を使ってでも相手を殺す』。俺たちブラックリストヒーローの常識だ。なのに!ーーーボウイはどうやって殺せばいいんだ?」
ーーーアキヒトは生きていた。
奇跡が起きたのではない。小型ロケットの爆発想定はここら一帯も犠牲になる予定だ。なのに道路のコンクリートが大きく剥がれた程度で済まされており、おまけにアキヒトも重症の一歩手前で済んでいる。あれでは再生能力の餌食だ。
アキヒトは小型ロケットが落ちてきた瞬間、超覚醒へと変化した。巨大なエネルギー超回転する力があるとすれば、ロケットも同じようにできるのではないかと考えた。
確信はない。けれどここまで準備された上で瞬時に三宮の街を守りながら解決する手段をアキヒトは持っていなかった。
だからこそヤケクソに近いギャンブルに挑んだ。
結果こそこのようになってはいるが成功は至難の技。爆発のエネルギーを周囲に霧散させながら上空へ飛ばす。
おまけに未だ未熟な彼は技を使用するのに手のひらを媒介にせねばならず右手は瞬時に焼けこげた。
それでも微調整を続けながら完遂できたのは、あくまでアキヒトの努力と痛みがほとんど失っていることに起因するだろう。
アキヒトは何度か深呼吸をしながら再生能力に集中する。本来必要ではないその作業は、こうした方が治るのが早くならないかと考えているからである。
そしてアキヒトはシンエイの言葉に答えない。
おそらく彼は自分自身に問いかけているのだろうかと考える。手段は再びシンプルになるだろうと想定する。
そう考えた最中、思いもよらない言葉が来る。
「なぜボウイはこの街を護るんだい?」
「そりゃあヒーローだからなんじゃないか」
思わずその質問に答えてしまった。
「いいや、例えヒーローだとしても自分の命を優先する。オマケに君の能力は『瞬間移動』なんかお茶の子さいさいだろう?」
ーーー嫌な流れだ。
「かぐやは人払いを済ませた。被害が建物だけで済んだんだ。命を張る理由なんてどこまで地元愛でも無理っしょ」
「そうだなぁあんたの想像通りに事が進むのが嫌だったからじゃないかな」
「ふーんまあいいけどさ。ここで俺ちゃんの想像を塩一摘み。もしかして俺ちゃんたちとボウイの賭けてるチップの価値が違う?」
ーーー同時アキヒトの真横をナイフが通り過ぎる。いやアキヒトが横にくの字で避けたからそのような表現が必要になった。
刃渡り10センチ。この程度ならばアキヒトもここまで大袈裟に避けない。
ただ話している最中に後頭部からピリッと来た直感と目視した時に確認した歪なデザインのナイフがアキヒトに危機を叫んだ。
カウンターを打とうにも避け方が悪い。そのため仕方なく横に大きく跳んでその場から逃げ出した。
不意打ち避けられたシンエイはピュ〜と気軽に口笛を吹く。想定内だったようで癪に障った。
「そのナイフの形状ーーー毒だな?オマケに何種類もある毒の」
「そうーーーよく分かったね。武器マニア?こいつは九種類の毒を生み出すナイフさ。元ネタになったヤマタノオロチは炎で炙られて再生能力を失ったと言う。ならばボウイは毒で再生能力を奪うとしようかなぁーーー俺ちゃんから大規模な選択肢を奪ったんだ。圧倒的な塩試合を見せてやろうかい?」
「ああそうかよ。だった、その前に殺してやるよーーーそしてこれがオードブルってやつだ」
アキヒトがカチッとスイッチを押す。するとシンエイを横から吹き飛ばしながらバイクが現れた。
「戦う場所は三宮駅周辺なんだろ?だったら今から追っかけっこだ!」
そう言うとアキヒトはエンジンを吹き出して商店街へと進んで行った。
「ーーーやれやれ俺ちゃんいい歳なんだけどなぁ」
気怠く見せた男から静かに笑みが溢れる。
ーーーそれは、狩人が生きのいい獲物を見定めた時と同じだった。
次回:近日




