EX.247 「ナベリウス・ウゴンボ」
肉体が柔らかく溶けていく。
ただの酸とは比にならない激痛。
走る、走る、走る。
俺の再生能力と彼女の強酸。体力が万全であるならば気にしない量のものならば良かったもののそうはいかない。
やけに不安定な日々と精神状態の今じゃこうはいかない。
肉体はない。
ゲル状のそれはすでに人の形を形成しておらず、どこぞのゲームのスライムのようだった。
「アキヒトォ!」
地面が割れる。
@@@@@
一撃が必殺。
されどその拳は優しくとろかす。
『酸』の◾️に対し自分は『毒』。
歴史上毒はよく暗殺に使われた。
そのために自分もそれに特化した役割を担っていた。
【十戒】はそのための隠れ蓑。◾️と正しく生きていくための重要な居場所。
故にーーー
「ふんっ!はぁっ!そいっ!せりゃぁ!」
荒々しい掛け声と共に肉厚な腕が振りまくる。
男は思っているよりも武術に対応しているようだ。爪による攻撃も軽くいなされていく。その上で剛力を活かそうとするのだからタチが悪い。
山本がウゴンボの身体に触れる度に肉体が酸に焼けた音がする。本体に触れ続けなければならない彼にとっては常にダメージを受け続けなければならない。
だが彼は悟っていた。『致命的な攻撃は何かしらの条件が必要』だと。証拠にアキヒトに最初のダメージを与えたのは【酸】の方であり、【ポイズン】の方ではない。
傷つける度に発生する血液さえ避け続ければーーー。
「ぶぅーーーーーーーっ!」
「!?」
ウゴンボは口に溜め込んだ血液を噴射する。
山本はここで致命的になる顔を腕で防ぐ。
直後腕には極太の注射器を何本も指す痛みが走る。
動かせはするが、万全とは言えない。
「こういうのを『毒霧』って言うんでしょう?」
「プロレス技じゃねぇんだから!」
所詮弾丸程度の空気分だけしかねぇが!
「くらえ!」
空圧拳のミニバージョン。
指の膂力を備えたエネルギーを直接ぶち込む!
「【空圧弾】!」
人差し指から弾かれたそれは空気抵抗を無視して直線に突っ込んでいく。
目には見えないが強烈なエネルギー。
ウゴンボは避けられない。
「うぐぅあ!」
たまらずえずく。直接肉体を抉られたのではなく、無慈悲に肋骨を砕くそれはウゴンボの身体を簡単に持ち上げる。
だが空気は一瞬で解け、持ち上げられた肉体は優しく降ろされる。
近距離まで近づいた山本に彼女は痛みで動けない。
「【六連発拳骨】!」
肉体の集中線を狙って放つ六連撃にーーーウゴンボは意識を手放した。
@@@@@
山本は不殺主義ではない。
魔獣も殺すし、魔人だろうと殺す覚悟は出来ているつもり。
機会が無かったというだけ。
山本は倒れたウゴンボを見下ろす。
全身打撲と自身の毒によるダメージで虫の息。このまま放置すれば死んでいくだろう。
山本は静かに息を吐く。
機会が無かったということは経験が無いということ。
山本が出張った時のほとんどは敵を殺さずにすんでいた。
ユウスケのように振えば相手を殺す武器を有していない彼にとって殺すというのは文字通り『自らの手で殺す』ものであること。
そのような汚れ仕事はアキヒトやユウスケが率先して行っていたこと。
彼が今までヒーローで前線で戦い続けていても殺さずにいたことは、神の采配によるものなのかもしれない。
ーーーこれから先俺は、人を殺すことを躊躇うのだろうか・・・・・・?
アキヒトが時々、ただでさえ真っ黒な目がさらに濁る時がある。
人を殺してきたからなのだろうか、それの罪悪感なのだろうか。
自分を納得させる言葉が見つからないと、これ以上前に進めないと悟った。
だから、何とか自分で言葉に尽くしてみようと思った。
「これから先貴女みたいな人間は沢山会うと思う。決して悪では無い生きていくために殺さなくちゃいけなかった人間に。俺はーーー憎み続けたく無い。あの時殺していればなんて、後悔したく無い。だから・・・・・・ごめんな」
何とも筆舌しがたい自分勝手な答えなのだろうか。こんなもの吐くべきものではないということも分かっていたはずなのに。
いまから汚れていく自分にどうしても真っ直ぐでいたかった。
俺を殺そうとしたからじゃなくて、俺が殺さなくちゃいけないと思ったから。そうやって行動に移す。
静かに拳を増え上げる。
感覚は無くなっているが、強い麻酔だと思えばどうとでもなかった。
「さよなら」
もう一度深呼吸をして、山本は拳を振り下ろした。
ウゴンボの最期を瞬きせずに見届けた直後、べちゃ、と不快な音が聞こえた。
「ん?」
背後に落ちたのは天井から漏れ出た液体。
ゲル状の何かから溢れでたのはーーー目玉。
一瞬、山本は息を飲んだ。アキヒトが敗北してしまったのかと。だが、かぐや様からの宣言は聞こえない。まだ戦い続けているのか、確認できていないのか。
「いや、これは違う。誰のだ?」
ーーー思えばこの目玉は彩虹がある。何もかも真っ黒な奴の目では無い。
直後ーーー地面が割れる。
そこには同じゲル状の何かに手を突っ込んでいる友人の姿。
「アキヒトォ!!」
@@@@@
アキヒトは手を突っ込んだ。
中身を冷やしたところで変わらないと悟っている中で尚、突っ込んだ理由。
心臓に手を伸ばした彼は、心臓を握るのではなく手を開いた。
彼は思ったことがあった。颶衲球と祖母に名付けられてから、安定出来るように修行した結果見えたもの。このエネルギー弾は一定方向に超高速で回っていることを。右回転の渦で出来ているそれは『削る』のではなく『弾く』力があるのではないかと。
だとしたら自分の技はバリエーションが付けることができるのでは無いか、と。
「回れ!」
逆回転ならばーーー『弾く』のではなく、『収縮する』のではないか!
「うぉォオオオオオオオオオッ!」
暴風のように暴れるそれを何とか手のひらでコントロール出来るように動かしていく。
中心に移動させるイメージを保て!
「ま・・・・・・だ、お姉ちゃん!」
同時、頭部の潰れた身体が意識を取り戻す。自分の肉体から『採取』した内臓をそのまま武器にして、槍のように投げ飛ばした。
奇跡のような肉体の動作に山本は気付いた。
初速の遅い彼にとって、もう投げられた槍には届かない。アキヒトも自分の出した技に手間取っていて対応出来ない。
ならば出来ることはただ一つ。彼の奥の手。
【空圧弾】などという急拵えの技ではなく、正真正銘彼のただ一つの必殺技。
「【空圧拳】!」
エリアごと横殴りに破壊される。剛腕から放たれた文字通りの暴風はアキヒトの危機を救った。
アキヒトもようやくコントロール出来たのか、ようやくエネルギーを止める。削るとは違って今のは圧縮するらしい。ビー玉状のソレを見て人は生きているとは言わないだろう。
「アキヒト」
「・・・・・・ん?」
「お疲・・・・・・れ!」
「おぶぅ!」
山本の全力の体当たり!アキヒトは避けられない!
「えっ!?なになになに!?一番ダメージ入ったんだけど!」
「右腕失ってんのはダメージに入らないのかよ」
「どうせ生えるし」
そう言って断面図を見せる。ピクピクしていて正直気持ち悪い。
「・・・・・・お前もお疲れ」
自分の背後を見たのか、アキヒトは静かに労った。
「気にすんなよ。呼ばれた時に覚悟はしていた。今さっきようやく決まったけどな」
「そうかよ、頼りにしてるぜこれからも」
「おう」
アキヒトは静かに小さなソレを見返すと。
「取り敢えずあの身体に渡しておくか」
「結局どんな関係性だったんだろうな?」
「双子だろ。似てるし」
「やめろやめろ!そんなこと言ったら今後俺そっくりのキャラクターが敵になってやってくる!」
「少なくとも一人はお前の血の繋がった方の母親なんだけどな」
アキヒトは心底嫌そうな顔をした。
「ところで俺の腕治せる?カレンみたいに【ヒール】してもらったら助かるんだけど
「無理。俺治す技術無いもん。病院通え」
「功労者になんて口ぶりだ!」
腹を軽く立てる山本を尻目にアキヒトはもう一度倒れた肉体の掌に置く。
あの一瞬は奇跡だったのだろうか?それともーーー
「いや、ただの奇跡なんだろうな」
隣からバヂンと破裂音が鳴る。
そっと見ると山本が掌を重ねて祈っていた。
俺も片手で祈る。
そして、思った、おやすみ、と。
3回戦アキヒト×山本対ナゴリウス・ウゴンボ
場所:umie
勝者:アキヒト×山本
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ありがとう
ありがとう
ずっと一緒だよ
次回:近日




