EX.246 「思念」
「あいつらの能力はーーー?」
「片方が毒を操る能力で、片方が脆くさせるか溶かす能力だ」
「根拠は?」
「毒は一度喰らったから言えて、溶かす方は目が見えるようになってから、足元見れば毒で溶けているかどうか見える」
「オーケー、じゃあ一対一に専念した方が強そうだな」
山本の意見に俺は同意する。
目が見えなくなった時の相手の行動を見据えて、お互いの欠点を補い合う動き方をしている。
ならばするべきことは一つ、隙を無理矢理作ってその欠点をゴリ押ししていくべきだ。
結局のところ、俺たちの考えていた方法はこの試合の形に乗っ取った動きになる。
俺は片足を伸ばして体温を下げる。
「【絶対零度の氷壁】!」
「「「!!」」」
完全なる不意打ち。
俺以外の三人が動揺したが、山本は俺の動きを予想したのかすぐに後ろに走り出す。
全員が能力を発動、もしくは身構えた瞬間ーーー
「【スイッチ】」
俺の声が響き、全員の位置が変化する。
本来であれば補充や戦うものの位置を入れ替える「スイッチ」の技術を能力に昇華した技。
俺の能力の強みは『パーフェクト』だと、自分の能力が理解されているものの、実際にどの能力を使用しているのかわからない再現性の無さだ。
「【チェイン・ホッパー】!」
位置は入れ替わる。
後ろに走り出した山本は俺に、毒の能力で溶かそうとしていた一人は据え置きに、山本をその反対側に、最後の一人を俺の位置に置く。
そのまま、『鎖』の能力を使って遠距離に拘束する。
「くっ・・・・・・!」
「うぉおおおおおおりゃ!」
そのまま上層階に投げ飛ばした。
同時、分厚い壁が毒によって薄くなったところを山本は見定めて拳を叩きつける。
「【空圧拳】!」
能力によって圧縮された空気を殴り飛ばし、円柱状の波状が発破されていく。
一瞬見た予備動作で構えを取ったが、ダメージよりもエネルギーを押し付けた形になり、後ろに吹き飛んでいく。
「山本!任せたぞ!」
「ああ!ちゃんと締めてやるよ!」
これは殺し合い。極力巻き込みたくはなかった。それでも任せざるを得ない。
意気揚々と飛び出した山本の後ろ姿を見て、俺は上に飛び立った。
@@@@@
「舐められたものですね・・・・・・」
ナゴリウス・ウゴンボは歯噛みした。
◾️といる時は一人でいるように言葉を重ね続けていた。だが、それができない以上感情表現も言語表現も一人で行う必要がある。それがやけに寂しく感じた。
「悪いな◾️ちゃん。仕留めさせて貰うぜ」
山本も内心焦っていた。
自分の手で人間を殺す経験なんて、本来ならばそうは訪れない。それでも友に手を貸し、セブン・ウォーリアーズを結成した頃からいつか必ず訪れると覚悟していた。
それが今だっただけ。
心臓から先の血管が全て凍りつき、胸が灼熱の温度まで跳ね上がったのではないかと錯覚する。
両手の拳に力を込める。
「来いよ・・・・・・」
それは相手に向けたのか、自分の臆病さに向けたのか本人にも分からない。
@@@@@
サウスモール4階。
フードコートエリアまで飛ばされたナゴリウス・ウゴンボは恐怖した。
たった一瞬で盤面が覆され、自身の得意としていた環境が爆発するがごとく崩壊していった。
ましてや入れ替わった瞬間、鎖に巻きつけられて投げ飛ばされた時には死を覚悟した。
だが分断されただけ、本当であるならば少し安堵するべき場面かもしれない。
「一息吐くには早すぎるんじゃないか?」
それでも真正面にいるのは、本来私◾️が一緒に立ち向かうはずだった相手。
「いっ、いや・・・・・・」
心臓が取り出されたかのごとく、心が空っぽになる。
この時はいつも◾️が子守唄を歌ってくれた。◾️妹が置きっぱにされたあの日から、自分を見失わないためのおまじないと共にーーー
『貴女はいつも泣きっぱなしだから、いつも私がいないといけないじゃない』
『嫌いよ。いらない物』
『早く私の目の前から消えてくれない?』
『無能、お荷物、邪魔者、食い潰し』
『早く行きましょう、ナベリウス。こんな村サッサと出掛けて世界を見るの。そうしたら私たちが世界で一番・・・・・・幸せ者じゃない?』
い・・・・・・いや、いやだ。消えたくない、消されたくない。無くなりたくない!◾️から!
ナベリウス・ウゴンボは生まれた時から二人であり、一人だった。だからこそ、自分たちを区別するために二人は上をウゴンボと下をナベリウスと呼び合った。
それは何かしらの自傷行為だったのかもしれないが、互いを結びつける貴重な糸そのものであり、たしかな繋がりだった。
それが、千切られた。
「お◾️ちゃぁああああああああん!!!あああいあああああああ!かがああいん!」
「ーーーっ!」
能力がーーー暴走する。
@@@@@
ウゴンボの能力『ポイズン』の毒濃度は吐き出す時間帯による。
月の光によって活性化し、太陽の光によって中和する。
そのためアキヒトに一撃を与えたのは、近距離の毒撃だけであり、バランスを崩した際触れたものは肌がヒリヒリする程度の物。
そのため殴られた先が室内であったことは彼女にとってむしろ都合のいいものだった。
ーーー私の能力は、血液摂取、経口接種、表面接種、この段階でよりダメージを与えるかが変わる。
問題は・・・・・・殴られた瞬間、その腕が鉄筋じみた硬さを感じたこと。血液摂取は望めない。ならば表面接種を狙いながら、散布出来るように。
そう考えてウゴンボは自身の汗を武器化する。
【ポイズンソード】ーーー液体から作られた武器はどれも歪な形になるため付与効果が予測されるため、暗殺には向かない。だが、現在自身の能力が分かりきっている場合においては、なによりも性急さを求められていた。
と、同時に眼前の男から爆風が飛ぶ。
繊細かつ豪快なその竜巻は山本の身体を四肢や指先に至るまで慎重に留められた。
彼の肉体の硬さに加え、空圧によりさらなる皮膚の硬さが生まれた。使い勝手の悪い力ではあるが、毒の散布を防ぐのにこれほど便利な力はない。
(・・・・・・私◾️の能力をすでに見破り、対策要因として呼ばれていた?でも、最初の男の子の動きからしてそれは無いかもしれない。油断?それとも私◾️を懐に入れるための演技?ーーー気をつけないと)
(たまたま能力メタが入ってくれたが、それだけじゃ済まないだろう。じわじわと削っていくべきなのはオレか?それとも奴か?)
二人はジリジリと動き出す。
余裕があれば周りの衣服を使って何かしらの武器を作り出せたかもしれない。だが、それをさせない相手であることは理解していた。
一歩。
エスカレーターの音がやけに聞こえ出す。もしかしたら上階で彼らが戦っている結果なのかもしれない。だとしたら相当暴れ回っている。
一歩。
お互いの能力によって発生する音が聞こえてきだす。山本は静音していなかったのでより明確に。
一歩。
互いの呼吸が届く。
右手も剣も届く互いの距離。
必殺の間合い。
@@@@@
ナベリウスの能力は『酸』。
肌の角質を溶かす程度から、大理石を溶かす具合まで幅広く。バランスを見極めることは難しい。
ーーーアキヒトは動揺した。
自身の優位な盤面であるはずが動けなくなったのは、相手の暴走。
自身の能力によって溶かされた皮膚が肉体内部の空気と混ざり合い、腐った物以上の激臭を漂わせた。
とは言っても鼻を閉じることも出来ない。
自我の喪失。アイデンティティの異常気象が彼女の脳内で暴れ回っている。
このまま放っておけば勝手に死ぬ。そうは分かっていても、最悪の想像が頭を巡っていた。
この能力は能力者が死んでも能力が継続してしまうのではないか?という問い。
脳みそと酸が混ざり合い、文字通り自我のあるスライムになってしまっては安全に殺す手段が少なくなる。
ーーー何重にも酸の層が出来上がっちまってるせいで【絶対零度の息吹】じゃ本体まで届かない。だとしたらーーー
アキヒトは自分の脇腹を見た。
今も能力によって服が修繕されていないため、溶けた部位の布がだらんと垂れている。
問題はその奥の肌で、冬で水場を使用した後のような赤さが今も残っている。
それが毒によるものなのか、酸によるものなのかがアキヒトは確信できていない。
最悪の場合、腕を突っ込んだ瞬間腕が溶ける。
「・・・・・・最悪だなぁ、考え方が」
こんな作戦レインボーに聞かれたら、両手でビンタされる案件だ。
でも思いついちまったからなぁ・・・・・・。
腕を見る。
イメージする。
「お◾️ちゃああああああああああんーーードゴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
発狂する彼女の体はすでに中身まで侵食されており、内臓までが見えている。
おかげで見える、人間の弱点がーーー!
アキヒトはゲル状の肉体に右手を突っ込んだ。
次回:近日




