EX.112 「『タイヨウ』の夢」
数週間後治療を終え——————貴族は命。取り止めた。
「覚えろよ······!お前達!!家畜の分際で飼い主に銃を向けた事······!必ず後悔させてやる······!!」
「·····················」
「命を助けて、なぜ恨まれなきゃならない······」
「帰すべきじゃない······この島を危機にさらすぞ」
ここに集まった兵士達の中には怒りを露わにする者や、オトヒメの顔を信頼し重く苦しい表情を浮かべる者もいた。
「お待ち下さい!!——————まだお話がある様ですね。······ならば私が地上まで同行します」
「そんな無茶な、オトヒメ様っ!!」
無茶も無理も彼女は承知だった。
生まれながらにしてとても弱い身体。
だが、だからこそ折れない意志がそこにあった。
「待つんじゃもん!!オトヒメ!!そんな勝手な事は許さん!!どうしても貴族達と話をつけたいのならわしがゆく!!」
今までずっと見守る事だけを続けていたネプチューンもそれだけは許せなかった。
「ネプチューン王!!国王ならばよもや人間に捕まる事もあるまいが······」
彼は元々は海の大戦士。身を守る術も、その強固な肉体を持って戦う術も心得ていた。だが——————
「いいえ。強いあなたでは意味がない。人一倍体の弱い私が行って帰って来られる世界でなければ。地上の安全を証明する事などできません」
彼女は折れなかった。
己の弱さを理解し、それを利点に変える——————それはネプチューンが昔の師に教わった事でもあった。
「オトヒメ······」
「信じて!!あなたの選んだ妻と人間を······!!」
アーマンは「生意気な······」と呟いたが、それ以降は何も言わずオトヒメが船に乗っていく事に対して黙っていた。
不安で不安で眠れぬ夜がリュウグウ王国を包み込む。
百日にも感じる一週間が過ぎた頃。
「オトヒメ王妃が帰られたぞーーー!!」
数日に及ぶ説得の末——————オトヒメはついに横暴な貴族をなだめ。
「オトヒメ様ァ〜〜〜!!」
「よかった生きておられるだけでわしらはァ〜〜!!」
「お帰りなさい!!オトヒメ様〜〜!!」
さらにオトヒメの持ち帰った一枚の紙——————それは魚人島の『希望の光』といえるものだった。
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「世界貴族の一声は王達の会議。『世界均衡』でも強い力を発揮します!これは世界貴族の一筆。こう書いてあります」
その書に書かれていたのは『魚人族と人間との交友の為。提出された署名の意見に私も賛同する』という文であった。
つまり、『世界均衡』にてたくさんの署名を提出できた時。この一枚の紙がより現実的な力を与える代物。
——————移住の可能性が高くなる物だった。
「貴族が署名の後押しを······!?」
「複雑たが······」
「——————ですからあと、必要なのはより多くの署名です。······私には、もう皆様の決断を待つことしか出来ません——————どうか人間との共生の意志を。地上への移住の意志を示してください······!」
オトヒメは焦っていた。
全てを失ったあの時から。
オトヒメの不安は——————。
だが、
その不安は杞憂に変わった。
最初に動いたのは子供達だった。
子供達は自分が持つ署名書をオトヒメの持つ箱に投げ入れた。
「子供達······また喜ばせて、もう返してなんて言わない?」
「言わないよーー!母ちゃんも出すって!!」
嬉々としていった子供達に流される様に、無数の魚人達が己が持つ署名書を投げ入れていった。
初めは——————ようやく箱の底が見えない程度しかなかった。
だが、皆が次々と入れていく中、溢れる程溜まっていった。
「オトヒメ様っ!!」
「こんな小さい箱じゃ間に合わないよ!!」
「この国に何人人口いると思っているんですか!!」
「え?······」
国民達の暖かい声に、オトヒメの瞳に涙が溢れ始めた時、後ろの方から兵士が巨大な籠を用意した。
「はいはい失礼。今度はこっちに入れて下さい!!」
持ち運んできた右大臣がオトヒメに向かって言った。
「オトヒメ王妃。泣いてちゃ仕方ない。そちらでお休みに」
「だっで」
「王妃の熱い想いに賛同する署名はこちらに!!」
7年に渡る——————オトヒメの苦労はこの日、やっと実を結んだ。
何より国民達は——————
オトヒメという人物が好きなのだ。
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広場は連日国中から署名を手にした人々が集まった。
『【龍宮城】』
「——————私はあの瞬間······本当にこの島は変わる事ができるという勇気を貰ったのです······!!」
「あの瞬間?」
あれから大きく成長し、屈強な戦士に生まれ変わったウバボシが他の兄弟に変わって聞いた。
「——————そう、先日魚人島の民達が皆、未来を見た日······」
「ああ······!あの時はびっくりしたなー」
「あれは······テティスが起こしたのよ」
「え!?」
「——————この王家の言い伝えによると······。数百年に一人······近い未来を映し出す人魚が誕生すると言うのです」
「あんな奇跡じみた事を起こせる人魚!?」
「それがテティスなの!?母上さま!?」
「すっっげ〜〜〜よ!!」
「未来を観る事が出来る人魚······つまりテティスの元にはいつかその力を正しく導く者が現れ······。そしてその時世界には大きな変化が訪れる!と言う言い伝え」
「せかい〜〜!?」
「その話が本当ならきっとこの島にも大きな変化が訪れる」
「——————じゃあ母上様の助けにもなるかなあ」
「ええ、ですがこの力にはまだ彼女自身も気づいていないし、コントロールも出来ない······。もしも、テティスの身に前以上のショックな出来事が起きたら。今の彼女は力を操りきれずパンクするかもしれない」
「そんな事になっちゃったらテティスが死んじゃうじゃないか!」
「だからあなた達はいつの日か立派な戦士に成長し······兄として、戦士として。妹の事······命を懸けて守って下さい!!」
「「「はいっ!もちろんっ!!」」」
三人がそう奮起し、応じた事にオトヒメは笑顔で「ありがとう」と言った。
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そして事件は、何の前触れもなく起きた。
「離れろぉ!!火が上がった!!」
「署名箱が突然燃えたぞぉ!!」
「早く火を消して!!署名が!!」
逃げ惑う国民達。兵士達は慌てて集まった署名を一枚でも多く救いだそうとした。
パァン!!!!
「?何の音だ?」
「気のせいだ。とにかく火を!!」
「火を消せぇ!!」
「何と言う事!!せっかく集まった署名が!!」
そう頭を抱える右大臣のその真後ろ。
オトヒメの左胸。心臓がある場所のその部分のオトヒメの服が赤く染みっていた。
その原因は未だ滴る中、オトヒメは膝から崩れ落ちた。
オトヒメはそこに手を当て、その手を見ると赤い血が、気がつけば口からも溢れていた。
女性の悲鳴が始めだっただろう。
それに気付いたのは。
「オトヒメ様が撃たれたァーーーー!!」
「どこから誰が!?」
「どこかに狙撃手がおるぞ!王族をお守りしろォ!!」
「母上様」
「母上······」
「母上〜〜!!」
「?」
「全員広場から離れろォ!!」
「王妃様!!気をしっかり!!」
「救護班!急げ!!」
「はっ」
オトヒメの子供達は兵士達の制止を振り切り、真っ先にオトヒメの所に集まった。
オトヒメはどう見ても、もう間に合わない状態だった。
か細く息を漏らす彼女に国民達は名を叫ぶしかなかった。
「コリャ大騒ぎだ······。いやあ姫君大変な事にぃ」
「誰だ!!テティス姫に近づくな!!」
兵士の一人にピストルを撃たれながらもエドワード·ティーチはティーチの体を右手で『触り』。逃走した。
「母上様大丈夫!?」
「すぐに病院で治療を」
「クソぉ!!どこのどいつだ!!目に物見せてやる!!」
ウバボシの武器を持つ手にそっと抑えたのはオトヒメだった。
「そばにいて······私の天使たち······そんなにコワイ顔しないで······」
彼女の声は掠れていた。
掠れていた、と言うよりも残りの力を使って話しているような物だった。
「······油断しちゃった······。みんなの署名が嬉しくて······幸せで······ウバボシ······くやしいのは、私です」
手当を急ごうとした兵士を抑え、彼女は言った。
「······だがら、犯人が······どこの誰であれ、私の為に怒らないで下さい······私の為に怒りや、憎しみに取り込まれないで······」
「お、お母様······」
テティスは限界だった。
悲しみだけ気づき、小刻みに震えている。
「テティス······心をしっかり······」
『もしもテティスの身に前以上に、ショックな出来事が起きたら······』
「うわああああああああああ!!」
「おい!テティス!!」
「ウ〜〜ラウラウラ!ウ〜〜ラウラウラ!見ろっテティス?ウ〜〜ラウラウラ何でもない!ウ〜ラ〜ダンスはた〜の〜しっいなウ〜」
「た〜の〜しっいなー楽しいな〜〜何でもないぞ歌おうテティス〜〜!おれたちが〜〜3人いつで〜もついてソラシ〜〜!!」
「お······王子たち一体何を!?」
マンボシとリュウボシは歌を歌い、踊りを踊ってテティスの気を逸らす。
「王子達を止めろぉ!!」
「こんな時にオドケるなんて!!」
「母上みてみて、大丈夫〜〜」
「私達ずっと〜〜こうやって〜〜妹守って行くソラシ〜〜」
「おやめ下さい!王妃が今どのような——————」
「母上様······!燃えた署名は、また集めます!!我ら3人。父上のような大戦士になり······!約束通りテティスを命懸けで守ります!!」
ウバボシは笑顔で言った。
「だからどうかご安心を!!」
「······!!もう一息よ。本物の『タイヨウ』の下まで······!!」
オトヒメは安心したように言い、子供達と小指を重ねた——————。
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「犯人を仕留めたゾォ!!」
「コイツラだ、間違いない!!」
「何モンじゃあ!!」
リュウギョウが怒り心頭で駆けつけ、力尽きたある男を見る。
その男は——————。
「隠せ······!!」
「リュウギョウ親分!!」
「······!これまでの王妃の苦労の日々はどうなる!!あんまりじゃないか!!」
「これが······現実でしょう」
「違う!!コイツは——————」
「事実は事実!」
「よせ······!ディザスター!!」
「『人間』がァ!!我が国の······!」
「王妃を殺したァ〜〜〜!!」
その人間を掴み上げ、ディザスターは見せびらかすように叫んだ。
「オトヒメ王妃を殺したのは人間だァ〜〜〜〜!!」
人間が、共に生きようと歩み寄る魚人達の心を撃ち砕いた。
彼らの愛する人の命を、奪い去った。
「お前が死んでもオトヒメ様は戻らないんだ!!人間!!」
「神も仏もないのかこの世には······!!」
「無情すぎる······!!無情すぎる!!」
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『龍宮城【隠し絵の塔】』
「国王はまだ隠し絵の塔に······?」
「ああ、ご自分では衝動を抑えきれないと······」
「犯人は銃を持っていましたので、兵士が撃ちました······『人間』でした」
左大臣は一人、塔の中にいる王に言う。
「······左大臣······わしなら相手な丸腰でも、殺した」
「···············!!」
「オトヒメは、それを許さんじゃろう。復讐の連鎖はいつ始まったのか解りはせん······。殺せばその輪に組み込まれるだけ。———。そしてそれを見た子供らの目は鋭く荒んでゆく······オトヒメのいうことは······頭じゃ理解しとる、他人事ならな」
「——————だが、我が妻を殺した者を······!なぜブチ殺してはならんのか!!!わしには到底わからんのじゃもん!!」
ネプチューンの心からの叫びは左大臣にも届く。
「······わしはこれまで戦士として、数々仲間の敵討ちをした······!攻め来る人間達を幾人も討ち取った······!!じゃからわしはオトヒメの活動を手伝う資格もないと······ただ見守った。潔白なる者が死に······わしが生きてどうする!!オトヒメの想いを、わしが引き継いでも矛盾が生じるばかりじゃもん······!!」
「——————しかし人の心は移ろうもの······。矛盾だらけです······魚人も······人間も。戦士にしか守れぬものもありましょう······」
@@@@@
葬式その日、王子達は奇妙な出来事とネプチューンに駆け寄った。
「どうしたと言うのじゃもん······」
「どこにいてもこのお手紙が飛んでくるのです」
「もう5通目です!!父上様!!」
テティスから受け取った紙を見ると内容は一目瞭然だった。
「ラブレター!?テティスはまだ6歳じゃ!!——————エドワード·ティーチとは?」
「代々海賊をやっておる一族です」
「子供達を葬礼には出すな。まだ狙撃手の仲間がおるやもしれん」
「え!!」
「——————そしてこのティーチという海賊、即座に捕えろ!!」
「はっ」
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そして場所は変わり【海の森】。
大きな貝殻の上に、花が無数に置かれている。そしてその上には笑顔のオトヒメの写真が。
ここへ来た誰もが涙を流す中、モニターが開いた。
「ウバボシ······」
『母は言いました。本物の『タイヨウ』の下までもう一息——————。2年後『世界均衡』には、みなさんの心が······間に合わないかもしれないけど、6年後もあります······10年後もあります。母の願いは私達が生涯をかけて、引き継いでゆくと決めました』
「······王子達······!!」
『今回の事件での心変わりもあるでしょう。燃え残った書名も······全て破棄します!!——————1から始めましょう。またいつか······!みんなの心の傷が癒えたとき······!!』
『一緒に『タイヨウ』の夢を見ましょう······!!』
@@@@@
「——————その後10年······。ウバボシ、リュウボシ、マンボシ——————3人の王子を筆頭に······王や姫もモニターで呼びかけ······その努力で再び国民の署名は大きく集まっておる······!!これがここ16年程のこの島の差別との戦い······そして【日の下の解放軍】の成り立ちじゃ······お前さんの家族を苦しめたというライダーは······つまりわしの弟分なんじゃ······!責任を感じ取る!!」
長い長い夢を見ていた気分だった。
「何かあればどこにでもわしらが飛んでいくつもりじゃったが、ライダーは近くのギルドを買収し、かぐや様に情報が届かん様に手を回しておった」
つまりはあの夜の出来事も後から知ったのだろう。
「なんなりと処分は受ける!!」
「やめて!私が嫌いなのはライダー!——————とにかくあなたがライダー一味の黒幕じゃなくてよかった······だってアキヒトくんの友達なんでしょ?」
カレンは俺の隣に座って言った。
「確かにライダー一味にはひどい目にあわされたけど······そんなひどい渦の中、出会った人もいるのよね!全部繋がって私が出来てんの!魚人だからって恨みはしないわ」
それって俺の事なのだろうか?とこの場で不謹慎な事を思った。
「——————たから私の人生に勝手に謝らないで!!捨てたもんじゃないよ?今楽しいもん!!」
「にゅ〜〜〜カレン〜〜〜」
「······何ちゅう、もったいない言葉······!!かたじけない······!!」
「うぉ〜〜っ!わかるぜリュウギョウ!ロジャーもオトヒメもよぉ!おれは大好きだ魚人族〜〜!!」
「うるせぇ山本」
山本のおかげか、俺はここで冷静になれている。いなかったら泣いていただろう。
「あなたテティスって言うの?」
「あなたマスターの様に未来視ができるんですか〜〜?」
「こっこら二人とも王女さまだよ!!」
「······はいっ、あっ!申し訳ございません。お母様の事思い出してしまって涙が······!!」
「立派なお母さんだったんだね」
「······はいっ!!」
元気よく笑うテティスを見て、カレンも笑顔になる。
ところでハルトは何故か一番イライラしていて、それを料理にぶつけていた。
そして俺と、船から降りた山本はリュウギョウの近くに寄る。
「——————ではすまん、時間を取った······。龍宮城におるものを確認するが······ディザスターとその一味が攻めてきて、国王と兵士が捕らわれ······お前さんらの仲間たちが2名(ユウスケと岡田)動向不明。今ある情報はここまで······」
「にゅ〜〜〜、リュウギョウさん。ディザスターの計画通りなら今頃国中、もっとひどい事になっているハズだぞ」
「そうかルゥ!お前魚人街におったのなら、ディザスターの計画を知っとるのか!?あの男······軍を出た後魚人街で何か企んでおるとはふんどったが、わしの前では決してしっぽを出さなんだ」
「ああ······知ってる。ディザスターはライダーさんを超える程の『人間嫌い』。魚人族の恨みと怒りだけを食って育ったような男なんだ······。だけどあいつには明らかにライダーさんと違うところがある!ライダーさんは人間を蔑むけど同族を手を上げない『同族主義者』——————でもディザスターは人間と仲良くしようとする魚人にまでも容赦なく手をかける······!!」
「わーーーーー!!」
モフが突然叫ぶと、皆はそこの方向に向く。
そこにはモニターが何もない空中に浮かび上がった。
「あっ、あいつ!!」
『あ〜〜······全魚人島民——————聞こえるか?おれは魚人街の【新·解放軍】船長』
「ディザスター!!」
『レオナルド·ディザスターだ······!!』




