EX.111 「権能」
「貴族の船!?」
「海底生物に襲われた様だ······!!」
【魚人島】に落ちてきた貴族の船は見るも無残な状態で、船腹には巨大な生物の齧り跡も残っていた。
「なぜ海底に······【貴族】が」
もの珍しさと不審さが相まって、数多の魚人や人魚達が集まっているその中心に、ドンドン!と発砲している貴族が倒れていた。
その小さな子供にも見えるその人物は、額から流れる血で重厚な服を赤く濡らしている。
そしてその人物は船から滑り落ちたのだろうと、船の外に転がっていた。
彼の名前はロディカル·アーマン。世界有数の国を党じる貴族の息子だった。
「早く医者を呼べ!!そして私の命を助けろバカ共が!!」
「···············!!」
「医者だぁーー!!医者を出せ!!この私が死んでしまうぞ!!」
アーマンの自分勝手な物言いに、魚人達は何一つ動かなかった事に苛立ち、アーマンは手に持つピストルで、でたらめに撃ち続ける。
「医療班は······?」
「着いていますが······アレをどう扱えばいいのか······」
「······殺すべきだ。世界一のゴミ共め······」
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「港が騒がしいな······!!」
「貴族が難破船で助けを求めて来たそうぜすぜ!!エドワード·ティーチ船長!!」
「ムフフフフ面白そうだ······!!」
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「こんな筈ではなかった——————」
私は逃げ出した奴隷達を取り返しに来ただけだ!なぜ私がこんな目に······流してはならない最も高貴な私の血を流さなくてはならなかった······!?流すべきはそこらにいる沢山の魚人達だろう!?私の代わりに命を賭して私の為にゴミの様に働くべきなんだ!!何故だ何故だ何故なんだ!?私が全て正しいんだ!!貴族である私は世界で一番偉いんだ!!平民など私のただの肥やしで家畜など私の暇を持て余す一時の道楽。ましてや奴隷なんかは私の地の地の地の地の下にも及ばないんだ!!ゴミをゴミと扱って何が悪い!?私は正しい事を——————。
「え」
「おい!!よせ!!何をする気だ!?お前たち!!」
同族達の制止を無視し、武器を携えた屈強な魚人達がズラリと並びアーマンを睨みつけた。
彼らはアーマンでも見た事のある顔、つまりは彼の奴隷だった者達だった。
「おお!お前たちは私の奴隷共!!······大人敷くウチに帰るのだ!!誰が自由を許した魚類共!!」
そう振り上げたピストルを一人の魚類が踏み落とし、その場全員が銃口をアーマンに向けた。
「ひえ〜〜〜っ!!」と情けない声を上げる中、その周りで見ていた魚人達は慌てて止めに入る。
「よせお前たちっ!!貴族だぞ!!手を出せば恩赦も無効に!!」
「······バカやめろ身の程知らずめ。私を誰誰だと思っている!!」
すると、このグループのリーダー格である一人の魚人がきつく閉まっていた口を開く。
「地上ではお前たちの威厳は、世界政府の海上義務によって保たれているだけだ、ここは海底。島民が黙っていれば、ただの『海難事故』だ······!!」
その彼の言葉にアーマンは押し黙る事しかできず、自らの命の危機だけ察し冷や汗が滝のように流れ出す。
「それもそうだ······」
「俺はだまってるぞ!!」
「俺もだ。当然だ!!」
この三人を口火に、賛同者が盛り上がりだす。
「放っといてもそいつはもう虫の息······!死ぬ命だ」
「お前達が受けた苦痛を味わわせてやれ!!」
「殺せーーー!!」
「苦しめて殺せーーー!!」
「許そうにも······!!お前だけは許す事ができない······!!」
「おいやめろォォォオオオオオ!!」
「やれーーー!!」
「おやめなさい!!」
「魚類共め〜〜〜!!」
旧式のセーフティもグリップも付いていない、引き金を引くだけで銃口から弾が出る子供でも扱える兇器を皆が引いた。
ドン!と厚い音が重なり、何故か砂煙が上がった。
その場には人はなく、致命傷であったアーマンの姿もない。魔法や能力を使わない限り単体では動けなかったハズだ。
つまりは——————
「オトヒメ王妃!!」
引き金が引かれるコンマ数秒前、オトヒメはアーマンの下へ滑り込み助けたのだ。
「ウ······」
オトヒメの腕に銃弾は掠っていった。
「オトヒメ王妃!!」
「みなさん銃を捨ててください······!子供達が見てます······!!」
彼女が言うとおりこの場には数十人と、これからを生きていく子供達も集まっていた。
「アルファント、貴族はどうした!?」
次に駆けつけたのは、騒ぎを聞いたリュウギョウだった。
リュウギョウはすぐそばにいたアルファントに話しかけるが「おれも今来たところだ」と返答される。
「リュウギョウ親分!!母上が城を飛び出して······」
「王子達」
「きぞくってだあれ?お兄様」
まだ齢5歳のテティスには、貴族と言う存在を知らなかったらしく、ウバボシが。
「人間だよテティス······たくさんいる人間の······少し、コワイ方のな······」
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「掠っただけです······!!」
ポタポタと溢れる真紅の粒が、彼女の着ている服の袖を濡らす。
少し背広の大きい男が慌てて、
「オトヒメ様······!しかし、何故庇うのです!?その男が過去我々に何をしてきたか······!!」
他の魚人の気持ちを代弁したのだろう、周りの魚人達もぎこちなく頷いていた。
しかしオトヒメは、
「あなた達の心の叫びは痛いほど伝わってきます······。辛いでしょうけど······!!その人間達への怒りを、憎しみを!!子供達に植え付けないで······!彼らはこれから出会い······!考えるのですから!!」
その瞬間、リュウギョウの脳裏に浮かんだのは、伝えるな、と言ったロジャーの姿と言葉。オトヒメとロジャーのその言葉は酷く似ていた。
その姿に、その行動に誰もが矛を収めようとした。
だが——————
「あぶないお母様!!」
助けられ、息絶え絶えとなっていたはずのアーマンが、転がっていたピストルをオトヒメに向けた。
「しまった!王妃——————」
リュウギョウが駆け出す前に、何かせきのきれる音がした。
「お母様〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
心臓の方がやや大きい。鼓動が島中になだれ込んだ予感がした。
真相は眼。
彼女の——————テティスから膨らんだ光が、他の者達にも伝わり連鎖していく。
四肢をもがれ、生きながらえていく恐怖。
耳を引きちぎってしまいたい程の、人間の悲鳴。
後は——————。
『ここは······【俺達のの島】にする!!』
魚人島の崩壊。
そうそれは彼女に能力の代わりに与えられた宿命の権化。幻想。現実味の無い真実。
神から与えられた物が能力ならば、神自身が持つ能力は何と言うのだろう。
人々はこう唱えた。
能力を遥かに超えた、人智を越える思考のみが訪れる事が出来る力。
【権能】と。
「あれは!?」
眼の拘束から外れ、一人の魚人が口を出したのは、先程見えた【未来視】ではなく。
魚人島の天井を覆う、巨大な海獣であった。
誰もが目を丸くし、誰かは恐怖に口から泡を出して気絶し、誰彼構わず死の確信を持った。
こと伝説によると——————それはかつて遥か昔。信じがたき才能が海にあり······どの猛獣も【愛】と【慈悲】のみで従わせる人魚姫がいたという。
「ご先祖よ!!おれはついに!!見つけたゾォ〜〜!!」
その伝説を信じ7代前から探し続けたエドワード·ティーチは歓喜に震えていた。
「やりましたね!!船長!!」
「シ〜〜!黙ってろよお前達。この伝説の真意は我が一族だがら知っているのだ!!——————まずは姫の夫にならねば!!」
「でもまだテティス姫はガキんちょですぜ!!」
「ん〜〜そこが問題!!」
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「·····················」
アルファントは泡を吹いて倒れている貴族に対しての怒りを、理性と『彼』の言葉で抑えていた。
「アルファント······」
オトヒメは心配そうに、アルファントの名を呼んだ。
「私が······彼の治療を······オトヒメ様もすぐに······」
アルファントは苦汁を飲むように、そっと言った。




