アキバトEX 「メイドトラブル」
これは第1章セカンドシーズン(魚人島編〜天使編【予定】)の直後の物語です。
『いらっしゃいませ〜!ご主人様!!』
ここは、三宮辺りのメイド喫茶。
多種多様でまとまりのないメイド服を着て、次々に現れるご主人様にご奉仕する女性達。
そんな中、俺は——————。
「いっいらっしゃいませ···ご、ご主人様」
「うわ〜ありがたいな!シークレットのアキミちゃんが来てくれるなんて!!」
「あはは······喜んでくださるなら私も嬉しいです······」
メイド喫茶でバイトをしていた······。
もちろん変装はしているし、パットを何重にも重ねて胸を作って、オマケに他のメイドと違ってロングスカートを履かせて貰っている。
そして、さらに『性別』の能力で女に変更している為、最悪知り合い以外にバレる事はない。
「え〜と······。オレンジジュースに愛情たっぷりのミートスパゲッティー······それにチェキですね」
「はい!!」
俺は服のど真ん中にI♡メイドと書いてある服を着ている青年に、俺は男ですよ〜、と念じながら厨房へ向かう。
「オレンジジュースと愛情たっぷりのミートスパゲッティーで〜す!!」
「はい〜分かりましたぁ〜!!」
俺は厨房で料理を作っているメイド(ここではコックもメイド服だった)に注文伝え、それをメモした注文表をカラカラ回る洗濯ばさみに挟んだ。
それからチェキの為のカメラを用意し、先程のご主人様の所へ向かうなか、俺はチラッと時計を見た。
2時25分。ここの店長によると昼と3時辺りが一番繁盛する為、全員が働かないといけない。だからこそ、この期間の中でメイドスタッフが時間を決めて休憩している。
俺は30分から休憩の決まりなので後5分だ。
つまりこのチェキを終わらせれば余裕に終わる時間。
「あのぉ〜すみません」
俺はちょうど隣で接客を終わらせて、いざ厨房へ向かおうとしていた店長の妹を捕まえた。
「どうしたのアケミ?」
「アケミじゃないですアキミです」
俺は、チェキ撮って欲しいのです、と伝えて快く了承してくれた彼女にカメラを持たせて、先程のご主人の隣に移動する。
「ご主人様。何か私にとって欲しいポーズとかありますか?」
「え、ほんとに!?とってくれるの!」
「私限定のサービスです。ですから他の方にはナイショですよ」
俺はあざとく口の前に指でバッテンマークをとって、ダメですよと言った。
「じゃっ!じゃあキスするフリをしてください!!」
「はい!」
俺は冷や汗をダラダラと流しながら、このルールを作った店長に殺意を覚えた。
その後、俺は要望通りキスをするフリをしてその様子を撮って貰い、ご主人様にチェキを渡す。
そして、時間を見ると見事に規定時間を過ぎ、疲れた、と思いながらもバレないように乙女らしく悠然と休憩室へと歩いていった。
@@@@@
「お疲れ様です。アキヒト」
俺が休憩室のドアを開けると、何故か俺と同じメイド服を着ていたレインボーが抱きついてきた。
「おっと。突然抱きつくなよな」
俺は声だけ素に戻して、レインボーの頭を撫でる。
するとレインボーは俺の空いていた手を掴み、そのまま頬ずって「う〜」と猫なで声を出す。
そんなレインボーの様子に、ふいに頬を綻ばせていると。
「まったく······バックヤードとはいえ、いちゃつきすぎじゃないかな?お客様達が見たら卒倒するよ。多分」
「もし見られたときは、最悪レズメイドとして頑張るから安心しろよ」
「私の店はご主人様の性癖にヒットするような所じゃなかったはずだけど」
俺と同じ時間に休憩時間をとっていた店長が、ジト目でこちらを睨んできた。
なお、このメイド喫茶の休憩室は店長が設定したのか和風な部屋だった。
もちろんコタツが常備されており、秋の肌寒くなった頃にはありがたいものだ。
「しかしねぇ〜。アキトがシークレットメイドなんて言われるなんて思いもしなかったなぁ〜」
髪型が崩れてしまうであろう体勢に俺は、座布団に寝転んじゃだめだろメイド的に、と言ってレインボーを隣に寄せてコタツに入る。
「そもそもレインが勝手に派手商売を始めたからだろ。最初から嫌だったんだよ。カメラで撮られるの」
「その割にはノリノリじゃんか」
「仕事はきっちりとやるタイプですからね。アキヒトはそういう所もカッコいいのですよ」
「はいはい惚気はいいから。······あれ?何でここに働いているんだっけ」
「お前があの写真で脅すからだろ!俺だってあんな所撮られたら従わなきゃいけないんだよ!!」
「ああ〜これね!」
そう言って取り出したスマホの画面に映る俺の顔——————いや、俺の対女性ケーキバイキング用のある程度女装した状態の俺。
この時も今と同じようにメイクなどせずに、スズの服を借りて能力で性別を変えた姿だった。
最初こそはバレなかったかもしれないがレインボーのとある事故によって——————これは後々話す方がいいな······。
まあ、そんなこんなで写真を撮られ、脅されここに働いているのだが、一応忙しい2週間程度。もちろんギャラも出すという条件で働いている。流石に労働基準法は守るようだ。
ところでだ。俺がこんなにも立場が違う相手(店長とバイト)にタメ口をしているのかと言うと、こいつとは旧知の仲——————平たく言うと聖戦戦争での知り合いであるからだ。
だからこそ聖戦戦争が終わってからの今でも時々会うこともある。
最初の頃は、当時俺と彼女は80層攻略の際、たまたま出会っただけであり、100層攻略時には不謹慎ながらも死んでいたと思っていた。
だから当時病院でリハビリしていた俺にひょっこり顔を出した時は本当に驚いた。
まあ、だからといって彼女と俺の年齢差は5歳。つまりは現在15歳の俺にとって彼女はお酒をカパカパ飲める人間なのだ。
そう言う理由で初めの頃は敬語を使っていたのだが、彼女からの要望でこうしてタメ口の言える相手になっているのだ。
「しかしねぇ〜。初めて会ったときは黒のコートを着ていたにせよ女のコだと思っていたけど、実際ここでメイド服着させると本当に女のコだね」
「まあ実質今は女なのだが······」
胸や秘部が男と違うもん。
「その姿大変じゃない?例えば······生理とか」
「その発言は女と女であってもセクハラですよ」
「うわ······今ものすっごい心の距離が開いた気がする」
ころころと変わるレインの百面相を放って置いて時計を見ると2時56分。世間話で殆ど休憩時間が無くなってしまったようだ。
「そろそろ忙しくなるから、休憩室からでますよ〜」
「だめだ〜〜!コタツと言う魔の空間から私は逃れなれないぃ〜」
「コタツに電気入ってないんだから関係ないだろ!!」
俺はコタツムリを排除し、喉に手を当て能力『声』で俺が設定していた女のコよりの、具体的に言えば声変わりする前の声に戻して。
「いらっしゃいませ〜!ご主人様!!」
「あっメイドさぁ〜ん、注文いいですかぁ?」
そこにいたのは、
「ねぇ、本当にここから出ていく気にはならない?」
いつもの二人。
「あっゴメンねアキミちゃん。やっぱりあの子達はアキミちゃんが対応して」
「ちょっ!?店長ォォォオオオオオ!!」
この店でバイトをしている事を、死ぬほど後悔した。
@@@@@
数分前。
「ちょっと小腹が空かない?何か食べよぉ〜よ!」
カレンの買い物に付き合い、普段インドアな吉田も珍しくオシャレな格好で外に出ていた。
カレンからアメリカに帰ってしまうと言う報告を受けてから、はや1、2ヶ月。最近では、さして意味もなく街をぶらつく事が多かった。
少し歩き疲れたな、と思っていた頃、そうカレンから提案を受けたのだ。
「いいわね。どこにする?」
吉田は快く返事をし、カレンが辺りをキョロキョロ見回していると。
「あっ、ここにしようよ!!」
カレンが指差したのは、喫茶店と見間違える程の平凡な店の形をしたメイド喫茶だった。
「え···············」
吉田は死ぬほど後悔したという。
@@@@@
「え〜と〜。この真心パフェをお願いします!」
「私は······このコーヒーで」
絶対不本意だったのだろう。吉田がお通夜みたいな顔をしている。
「はい、承りました······」
しかし、正直今すぐここから逃げ出したいのが俺の本望だったのでこの吉田のテンションは、ナイス!としか言いようがない。
ここでバレたら······。
『うわっお前メイド喫茶でバイトしてたんだな······』
『なっなんでそんなことを!?』
『吉田達から聞いた』
『oh······』
ここからは地獄のイビリが開始される。せいぜい短くて半月くらいかかる予定だから、その間に俺のメンタルは崩れ落ちるだろう。
しかし、どうする。他の人に薦めるのが常識だが、このメイド喫茶はご主人様が出ていかれるまでご奉仕しなくてはならない。
つまりここで注文表に『真心パフェ』と書いた瞬間、俺はこの二人に出ていかれるまでご奉仕しなくてはならない。
吉田のテンションから考えるとすぐに出ていくかもしれないが、もしかしたらカレンがワガママ言って入り浸りするかもしれない。
「それではごゆっくり〜〜······」
本音より建前の方が勝ってしまった。
俺は『真心パフェ』と『コーヒー』が書かれている注文表を持って、厨房へ行く。
すると、カレンの声が大きかったのか、コックメイドさんの耳が鋭かったのか、出した瞬間にパフェとコーヒーが出された。
俺は渋々おぼんに乗せ、二人の所に持っていく。すると——————
「あなた······左利きなんですね」
吉田から、思いもよらぬ発言をされた。
「ええ、そうですが。どうしてそれを?」
「私はこの脳内花畑女と違って、あなたの事よく見てたからね。まあ、よく見てたというよりも目に入ったという方がよろしいかもしれないけれど」
「?」
「誰が脳内花畑女じゃあああ!!」
それよりもカレンの事を脳内花畑女と呼んでいる辺り、本当にプッツンいっているらしい。
「ごくごく単純よ。ペンを持っていた手が左手だってだけ、ちょっと聞きたかったのよ」
「?······ええ、まあ左利きですし。両利きではありませんからその推理はあってますね。流石!ご主人様」
俺がぱちぱちと拍手をすると、吉田は鼻で笑うと料金表を掴んで、俺が写した『真心パフェ』と『コーヒー』、そしてその二つよ料金を見せる。
「推理は合ってたとしても、流石に割引きは出来ませんよ」
「いやいや、そう言うような馬鹿な考えは持ってないわよ。ただ、人間の筆跡ってどれだけ見よう見まねで書いてもちょっとした癖ってあるのよね。あのコンピューターのように精密機械じゃない限り」
まあ、私はコンピューターつかけないけど、と彼女は言った。
そんなんで女子中学生大丈夫なのか!?と俺(小学生からやり浸り)は思った。
「はあ、それがどういたしましたか?」
吉田は料金表をピラピラさせて、言った。
「つまりね、筆跡は変わらないものなの。ちょうど、たまたまなのかこの筆跡私は知っているのよね。オマケに左利き。さらにはちょっと女っぽくなっているけど、少しだけ跳ねているその髪。そう貴方は——————!!」
「萌え萌えキュン!!」
「熱ぅっ!?」
メイドの極意、及び禁断の技。萌え萌えキュンデストロイ。
相手どった存在に、頼まれた料理を顔面で受けてもらう奥義。
「ちょっ!!熱っ!コーヒー全然冷めてない!!カレンなんかパフェ半分食べきってるのに!」
「メイドさん?どうしたの」
「私限定の特別措置です!危険な相手には萌え萌えキュンと物理的に天国へと参ってもらわねば!!」
とは言っても後遺症にはなって欲しくないので、すぐさまアイスとヒールをかける。
「二つ以上の能力を持つ——————やっぱりあな」
「萌え萌えキュン!!」
「熱い!!」
くそっ!まだ抵抗があったのか!!
俺はグリグリと吉田の顔面を既に中身が溢れ、表面張力で滴っているコーヒーの湖に押し付けている。
「ちょっと店長!アキミちゃんが!!」
「いいさ······あの子は少しばかり窮屈な目にあっていたからね」
「なんで店長はそんなに年とった言い方してるんですか!!」
「すみません!僕にも萌え萌えキュンデストロイをお願いします!!」
僕にも、おいらにもと際出すご主人様達には本当に感謝するぜ!
「······ぷはっ!!——————分かったわ。貴方がそういうつもりならこっちにも手がある」
俺の手から解放された吉田は何か不吉な事を言い出した。
「なんでしょうか?ご主人様」
「この······チェキをあの子に撮ってあげてちょうだい。金は私が払うわ」
なんだと!?あの本以外のあの倹約家の吉田が、この店で最も高いチェキを!?
「えっ!でもいいよ〜。それよりもユ〜ちゃん、ほらタオル」
「ありがとう。でもいいわ。私は覚悟を決めたから。その代わりちょっと私の我儘を聞いてもらってもいい?」
「うん良いけど」
こいつ······一切反応せず許可しやがった!
「さあ、アキミさん。さっさとチェキ用のカメラを持ってきなさい。躊躇うんじゃないわよ」
「はっ······はい」
俺は彼女の形相に怖じ気づき、本日十二度目のカメラを取りに、萌え萌えキュンデストロイによってごった返している店の中をすごすごと歩いていった。
——————
そうして戻ってきた俺の手から吉田は素早くカメラを奪いとる。
「あっちょっ!!」
「大丈夫よ。流石にカメラの使い方ぐらいは分かるわ」
そう言ってカメラに目を近づけフォーカスを合わせようとしている吉田。その間に俺はカレンの方に近づく。
「準備できたわ。ほらアキミ。さっさと顔を近づけなさい」
「?」
俺は言われた通りにカレンの方に顔を近づけると。カレンが小さく。
「ごめんなさい」
「え?」
ちゅ······
カレンが俺の頬にキスをしたのと、吉田がシャッターを押したのは同時だった。
「えっえっえっ!?」
「ありがとう。······そして、さっさと現像しなさいな」
「あの······えっと、撮ったらすぐに現像されるタイプなので······」
そう俺が言うのと同じ位の時に、チェキカメラの下側からジリジリと印刷されていった。
そこには、俺の顔にキスをするカレンの顔が——————。
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
絶句以上の状態であろう。顔は真っ赤になっているに違いない。
「何よその顔。······もしかしてそっちの気があるの?」
「ありません!!」
俺は半ば職務放棄するように、素早くコーヒーを拭いて逃げ去っていった。
@@@@@
「やっと終わった······」
俺がこの店から出てきたのは6時。本来5時で終わる予定だったのだが、萌え萌えキュンデストロイを所望するご主人様が多かったのと、その件に関しての説教が長ついたからだ。
あと3日か······。
そう思いながら、帰路へと向かおうとしていたところ。
「アキヒト」
人間って自分の名前を呼ばれるだけで「死んだ」って思えるんだね。
俺は壊れたブリキのおもちゃの用にギギギギと後ろを向くと。
腕を組み、直立不動の吉田がいた。
あれから既に3時間経ってんだぞ!どうなってるんだ!!
その感情を表情といて悟られぬよう。必死に冷静を保っていたものの。
「やっぱりあのチェキじゃ物足りないわね。そうでしょ······アキミちゃん?」
あっ終わった。
全身から汗が吹き出る。
俺はただ、彼女の影から現れるゴライアスを見つめる事しか出来なかった。
グシャ!と体から鳴ったのはその直後だった。
年末年始(年始編)はストーリーの都合上、来年になりました。




