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牛頭人身の魔物との死闘 その2

「ウガオオオオオ―――――――!!!!」


 土煙から、黒髪少女の背中が飛び出てくる。それを追うように、ミノタウロスの姿が現れた。


 おぞましい雄叫びを上げながらミノタウロスは黒髪少女に斬撃を繰り出す。右、左、上、斜め、飛び上がってからの振り降ろし攻撃など、さまざまな攻撃の手を使う。まるで、剣豪のように見えてしまう。


 そして、連撃しているのにも関わらず、攻撃の手がいっこうに緩まない。力を全力で出しているのはミノタウロスの方だ。なのに、黒髪少女の方が息があがっている。それでも必死にかわすしていた。彼女は、避けることに専念しているようだ。


 それからも一方的な戦いが続く。


 彼女の脇腹に切っ先が掠め、左の頬にも一文傷ができていた。ミノタウロスの刀剣が徐々に赤く染まっていく。痛がっている余裕はない。続けざまに横一文字からの渾身の一撃を振り切る。仰け反るように避けたとき、ミノタウロスに一瞬の隙ができた。黒髪少女にとっては、またのないチャンス。両手で長剣の柄を持った彼女は、反撃に出る。一歩踏み込み、その勢いを利用して、長剣を縦に振り下ろした。剣刃がミノタウロスの胸を捉える。


 小さな赤い火花が散った。 


 両手には金属に当たるような感触だった。確かにミノウタウロスの肉体に攻撃したはずなのに傷一つついていない。


「な、に?!」


 瞳孔を開いて、驚愕していると、右側から大きな拳が降ってくる。ミノタウロスからの拳攻撃だ。急いで、身を屈めて避ける。ブンっという重厚のある音がし、黒髪少女の髪の毛を激しく揺らした。


 攻撃を避けきった。


 今、ミノタウロスの懐にいる。攻撃するには、最高のポジションだ。長剣を上に突き上げるように構えた瞬間、分厚い蹄が瞳に映った。急いで手を交差して防御したが、そのまま蹴り上げられる。小柄な身体が宙に浮く。


「うっ?!」


 そのまま、地面に背中から叩きつけられた。


「かはっ」


 視線がぼやける。太陽の光りが眩しく、カラスが飛んでいた。


 骨が折れたかもしれない。身体中がとてつもなく重たい。まるで、重りが身体の上に乗っかっているかのように思えた。ミノタウロスがゆっくりと迫って来る。舌舐めつりしながら。完全に遊ばれてる。そう思えた。


 地面に手をつき、なんとか起き上がろうとした。そんなとき、目の前が黒い影に覆われる。ミノタウロスが自分を見下ろしていたのだ。黒髪少女は目を見開く。振り上げている刀剣が目に入った。振り下ろすと同時に、横ロールでそれをなんとかして避けることができた。振り下ろした刃が地面にめり込み、土ぼこりを巻き上げてている。あんなものをくらったら、ひとたまりもない。


 悲鳴をあげる身体。それでも彼女は立ち上がった。


「あの武器をなんとかしないと……」


 腕力のある相手が武器を手にしているのは、最悪な条件だ。一撃、一撃がとても思い斬撃、受け止めるたびに手に衝撃が伝わり、手が痺れる。


 少しでも自分が有利になるようにしなければならない。そのため、黒髪少女は、相手の武器をどうにかすることに決めた。ミノタウロスの胸は驚くほどに、まるで鋼のように硬い。では指先はどうだろうか、とそう考えた。さすがに指までは筋肉のつけようがない。


「なら、指ごと切り落とす!」


 対抗手段はわかった。相手の攻撃を避けつつ、反撃するタイミングを見計らう。横一文字の薙ぎ払いに、後ろへ飛んで回避。避けきったと思い、相手を見た瞬間、手の空いた左拳が黒髪少女に迫ってくる。


 防ぐよりも一瞬早く、ミノタウロスの左拳が黒髪少女の脇腹を捉える。身体が横へ吹き飛び、地面に落ちると、三回ほど転がった。


 激痛に悶え苦しむ。息ができない。うずくまっているとミノタウロスは同情を見せず、追い込んでくる。


「!」

「オオオッ」


 刀剣と再び振り上げた。そのとき、黒髪少女の目にはチャンスに見えた。痛みを噛み殺しタイミングに合わられるように身体を起こし、片膝をつく。


 そして、刀剣を握る右手を見定め、振り下ろされると同時に、長剣を柄辺りに持っていく。立ち上がると同時に右の指に斬りつけた。流れるような動きで、ミノタウロスの真横を通る。


 ミノタウロスの右手の指には刃は当たったはず。動きを止めたミノタウロスの背中を凝視した。刀剣が地面に落ちる。鉄が響く音がした。


 それを見て思わず、言葉が出る。


「やった……のか?」


 ゆっくりとミノタウロスが振り返ってきた。すぐさま、右手の指へ視線を送った。


 黒髪少女は目の前の光景に驚愕する。


「なんともない?!」


 確かにミノタウロスは思わぬ反撃に驚き、刀剣を落としてしまった。が、右手の指は全本とも健在。傷ひとつない。


 まさに鋼の肉体。竜並みの硬さなのか、と思った。


 でも、そういうわけではなかった。


 実はミノタウロスと剣を交えていくうちに黒髪少女が持つ長剣の刃が刃こぼれをしてしまっていたのだ。剣闘士用の武器は量産物が多い。一級品とはほど遠い代物を使わされている。剣闘士は激しい乱戦を行うこともあり、剣闘士の能力が負けて死ぬのではなく、武器が耐え切れずに破損して、死ぬ、と言った方が闘技を長いこと観ている民衆には納得させられる。


 黒髪少女も武器の耐久力があまりないことを知っていた。手に持っている長剣を一瞥して、切れ味が落ちていることに気が付いた。やっぱりか、と小さくつぶやく。


 不利な状況は変わらないが、少しは進歩したと見える。相手が武器を落として、そのまま、拾わないからだ。その点、相手が単純な魔物でよかったと安堵した。もし人間だったら、ものの数秒で拾い上げているだろう。


 ミノタウロスの重々しい足音と共に近づいてきた。黒髪少女は刃こぼれはしている長剣で構え、他の攻撃手段がないものかと思考を巡らせる。

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