一人分の枠
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それでは、どうぞお楽しみください。
放課後、黒板には4つの部門名ではなく、細い枠が並んでいた。個人総合戦、2名。
個人魔法戦、2名。個人武器戦、2名。クラス対抗戦、12名登録、試合出場8名。
その下に、同じ部門への希望者が枠を超えた場合は学府内選考を行う、と書かれている。
「2人だけか」
希望調査の結果を見たエリオットが、武器戦の欄の前で止まった。
名前は黒板へ出されていないが、希望者数は9人とある。
「2人だけ、ではない」
セルド先生は教卓へ登録票を置いた。
「各個人部門で、学府から大会へ登録できるのが2人だ。選考に出る者はもっといる。今日決めるのは、誰をいきなり代表にするかではなく、誰がどの選考を受けるかだ」
総合戦の希望者は11人。魔法戦は7人。武器戦は9人。
俺の名前を書く場所は、まだ大会の枠ではない。
その手前にある、選考を受けるための欄だった。
「複数部門の選考を受けてもいいんですか?」
アステラが尋ねた。
「受けられる。ただし、選考日は重なる可能性がある。大会本番でも、進行と休息時間が完全に都合よく並ぶとは限らない。出られるものを全部取るのではなく、何を確かめたいかで選べ」
ルシアスが魔法戦の希望者数を見て、珍しくすぐ手を上げた。
「僕は魔法戦だけにします」
「理由は?」
「大きく出せるかではなく、同じ威力で止められるかを見たいからです。総合戦まで入れると、足りない制御を別の動きで隠せそうなので」
昨日、アステラに言われたことを、そのまま避けずに置いた答えだった。
「記録する」
セルド先生は短く頷いた。アステラも魔法戦を選んだ。
「私は2つの操作を同時に維持したとき、相手の動きに応じて片方を変えられるか確かめたいです。二重制御の持続そのものではなく、選び直す精度を見ます」
ルシアスが横を向く。
「同じ部門なんだね」
「希望者が7人いるので、あなたと私だけの話ではありません」
「分かっているよ。でも、少しくらい意識してくれてもいいだろう」
「では、選考で同じ組になったら意識します」
それは意識するというより、必要になったら見るという意味に聞こえた。
エリオットは迷わず武器戦へ名前を書いた。
「僕は剣で出たいです。受けたあとに返す動きを、速さだけじゃなく距離まで合わせられるか試します」
剣勢を使いたい、ではなく、その条件になる受け流しから話している。
祝福が増やすのは次の斬撃だ。受ける位置を間違えれば、速く返せても届かない。
それを奉告式の翌日から何度も確かめていた。
カシアは総合戦の欄へ手を置いたまま、すぐには書かなかった。
「私は総合戦。走るだけなら、たぶん別の競技の方が向いてる。でも、誰かのところへ駆けつけたあとに何ができるか、1対1で見たい」
「個人戦では、駆けつける味方はいないぞ」
セルド先生が確認する。
「はい。だから祝福なしで、着いたあとの方を試します」
そこで初めて、カシアは自分の名を書いた。俺も総合戦の欄を見る。
昨日のうちに決めたつもりだった。剣、格闘、水、風。
どれか1つではなく、今あるものをどこまで繋げられるか確かめたい。
けれど名前を書く前に、右足へ少しだけ力を移した。痛みはない。
平地で立つだけなら問題もない。
ただし、選考日までに走行、急停止、切り返し、踏み込みの許可が出なければ受けられない。
「レオン」
セルド先生の声に、俺は顔を上げた。
「希望を書くことと、出場可能と判断されることは分ける。今の足で選考用の動きを試すな」
「はい。総合戦を希望します。ただし、治療担当と先生の許可が出なければ受けません」
「それも記録する」
名前の横へ、小さく条件が書き足された。選考日までに実技許可。
条件がついたことで、枠から遠ざかったとは思わなかった。
今の自分が立っている位置が、紙の上でも正しくなっただけだ。
ローディは個人武器戦とクラス対抗戦の間で視線を動かしていた。
「盾も武器戦へ登録できますか?」
「規定上はできる。ただし、防具として使うだけでは有効打にならない。押し出し、制圧、指定部位への打撃など、勝敗条件に届く技術が必要だ」
「なら、今回は武器戦へ出ません」
エリオットが振り返った。
「受けないの?」
「ああ。俺は盾で勝つより、後ろを残す方を確かめたい。クラス対抗に登録する」
ローディは申し訳なさそうにも、諦めたようにも見えなかった。
自分が得たい結果と、武器戦の勝敗条件が違うから選ばない。それだけの顔だった。
レイナとノエラも、個人戦には名前を書かなかった。
「私は治癒の精度を競う大会なら考えたけど、負傷させて治すわけにはいかないもの」
レイナはそう言って、クラス対抗戦の登録欄を指した。
「試合中の処置規定を確認してから。治癒が禁止でも、状態確認と退場判断には入れると思う」
ノエラも頷く。
「私は競技中の記録が認められるなら登録します。完全写記を使うかどうかは、記録物の持ち込み規定を確認してから決めます」
名前を書かない者も、何もしないわけではない。
出たい競技がないことと、クラスの中で担えるものがないことは同じではなかった。
「では、次にクラス対抗戦の登録希望を取る」
セルド先生が新しい紙を広げた。
「個人戦の出場者も登録できる。個人戦へ出ない者も登録できる。12人全員が毎試合出るわけではない。相手と競技条件に応じて、登録者の中から8人を選ぶ」
「毎回、強い順に8人じゃないんですか?」
後ろの席から声が上がる。
「違う。クラス対抗戦には、旗の保持、指定区域の確保、搬送対象の保護、相手の退場など複数の条件がある。詳細は説明会で確定するが、個人戦の順位だけで役割は決まらない」
黒板の12の空欄が、個人戦の細い枠より広く見えた。
俺は反射的に、全員の名前と練習日を頭の中へ並べかけた。
エリオットは武器戦の受け流し。ルシアスは3回同じ威力。アステラは2つの操作。
カシアは到達後の動き。ローディは正面を残す位置。レイナとノエラは規定確認。
そこまで考えて、止めた。俺が知っているのは、今ここで聞いた目的だけだ。
空いている時間も、誰と何を試したいかも、まだ聞いていない。
「クラス対抗の練習予定、あとで決めよう」
エリオットへ言いかけて、言葉を変える。
「違う。みんなは、登録するなら何をできるようにしたい?」
「今、聞くの?」
カシアが笑った。
「今決めなくてもいい。でも、俺が先に予定を作る前に聞いておきたい」
エリオットは少し考え、登録欄へ名前を書いた。
「僕は、誰かに言われてから前へ出るんじゃなくて、自分で前を変える練習がしたい。剣で勝つ練習とは分ける」
ルシアスはその下へ続いた。
「僕は大きな魔法を撃つ役より、撃たないと決める役もやりたい。大会でできるかは規定次第だけど」
「俺は後ろに誰かがいる位置を、自分で選べるようにしたい」
ローディも書く。アステラは用紙を自分の前へ引いた。
「私は全体指揮を希望しません。情報を集めて、変更条件を整理する役なら希望します」
「私は人数と、危ない場所へ誰が残ってるかを見る」
カシアが続く。
「私は負傷と続行可否」
「私は、確認した情報と推測を混ぜずに残します」
レイナとノエラの名前も並んだ。俺の番になった。何をできるようにしたいか。
全員を動かすことでも、全部の穴を埋めることでもない。
俺がいない場所で仲間が動けることは、もう確かめた。
それでも、自分にしか届かない場所があるのかは、まだ分からない。
「俺は、空いた場所へ動く役を試したい。最初から指揮を持つんじゃなくて、みんなが決めた範囲の間を繋ぐ」
そう言って、8人目の名前を書いた。
セルド先生は並んだ名前を数えたが、その場で出場者を決めなかった。
「これは登録希望だ。残り4枠も、今日欠席した者と規定を確認してから決める。8人の試合出場者は、その都度選ぶ。今ここに早く書いた順でも、声の大きい順でもない」
黒板には、個人戦の2つの枠と、クラス対抗の12の枠が残っている。
狭い枠へ入るために、自分の技を磨く。
広い枠の中では、自分の役だけでなく、隣の者が得たい結果も知っておく。
帰り際、俺は全員分の練習表を作らなかった。代わりに、小さな紙を1枚回した。
空いている時間。試したいこと。一緒に確かめたい相手。
最初の欄は空白のまま、俺の名前ではなく、書く本人へ向けて置いた。
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