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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第九章 ひとりでは届かない
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一人分の枠

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

放課後、黒板には4つの部門名ではなく、細い枠が並んでいた。個人総合戦、2名。


個人魔法戦、2名。個人武器戦、2名。クラス対抗戦、12名登録、試合出場8名。


その下に、同じ部門への希望者が枠を超えた場合は学府内選考を行う、と書かれている。


「2人だけか」


希望調査の結果を見たエリオットが、武器戦の欄の前で止まった。


名前は黒板へ出されていないが、希望者数は9人とある。


「2人だけ、ではない」


セルド先生は教卓へ登録票を置いた。


「各個人部門で、学府から大会へ登録できるのが2人だ。選考に出る者はもっといる。今日決めるのは、誰をいきなり代表にするかではなく、誰がどの選考を受けるかだ」


総合戦の希望者は11人。魔法戦は7人。武器戦は9人。


俺の名前を書く場所は、まだ大会の枠ではない。


その手前にある、選考を受けるための欄だった。


「複数部門の選考を受けてもいいんですか?」


アステラが尋ねた。


「受けられる。ただし、選考日は重なる可能性がある。大会本番でも、進行と休息時間が完全に都合よく並ぶとは限らない。出られるものを全部取るのではなく、何を確かめたいかで選べ」


ルシアスが魔法戦の希望者数を見て、珍しくすぐ手を上げた。


「僕は魔法戦だけにします」


「理由は?」


「大きく出せるかではなく、同じ威力で止められるかを見たいからです。総合戦まで入れると、足りない制御を別の動きで隠せそうなので」


昨日、アステラに言われたことを、そのまま避けずに置いた答えだった。


「記録する」


セルド先生は短く(うなず)いた。アステラも魔法戦を選んだ。


「私は2つの操作を同時に維持したとき、相手の動きに応じて片方を変えられるか確かめたいです。二重制御(にじゅうせいぎょ)の持続そのものではなく、選び直す精度を見ます」


ルシアスが横を向く。


「同じ部門なんだね」


「希望者が7人いるので、あなたと私だけの話ではありません」


「分かっているよ。でも、少しくらい意識してくれてもいいだろう」


「では、選考で同じ組になったら意識します」


それは意識するというより、必要になったら見るという意味に聞こえた。


エリオットは迷わず武器戦へ名前を書いた。


「僕は剣で出たいです。受けたあとに返す動きを、速さだけじゃなく距離まで合わせられるか試します」


剣勢(けんせい)を使いたい、ではなく、その条件になる受け流しから話している。


祝福が増やすのは次の斬撃だ。受ける位置を間違えれば、速く返せても届かない。


それを奉告(ほうこく)式の翌日から何度も確かめていた。


カシアは総合戦の欄へ手を置いたまま、すぐには書かなかった。


「私は総合戦。走るだけなら、たぶん別の競技の方が向いてる。でも、誰かのところへ駆けつけたあとに何ができるか、1対1で見たい」


「個人戦では、駆けつける味方はいないぞ」


セルド先生が確認する。


「はい。だから祝福なしで、着いたあとの方を試します」


そこで初めて、カシアは自分の名を書いた。俺も総合戦の欄を見る。


昨日のうちに決めたつもりだった。剣、格闘、水、風。


どれか1つではなく、今あるものをどこまで繋げられるか確かめたい。


けれど名前を書く前に、右足へ少しだけ力を移した。痛みはない。


平地で立つだけなら問題もない。


ただし、選考日までに走行、急停止、切り返し、踏み込みの許可が出なければ受けられない。


「レオン」


セルド先生の声に、俺は顔を上げた。


「希望を書くことと、出場可能と判断されることは分ける。今の足で選考用の動きを試すな」


「はい。総合戦を希望します。ただし、治療担当と先生の許可が出なければ受けません」


「それも記録する」


名前の横へ、小さく条件が書き足された。選考日までに実技許可。


条件がついたことで、枠から遠ざかったとは思わなかった。


今の自分が立っている位置が、紙の上でも正しくなっただけだ。


ローディは個人武器戦とクラス対抗戦の間で視線を動かしていた。


「盾も武器戦へ登録できますか?」


「規定上はできる。ただし、防具として使うだけでは有効打にならない。押し出し、制圧、指定部位への打撃など、勝敗条件に届く技術が必要だ」


「なら、今回は武器戦へ出ません」


エリオットが振り返った。


「受けないの?」


「ああ。俺は盾で勝つより、後ろを残す方を確かめたい。クラス対抗に登録する」


ローディは申し訳なさそうにも、諦めたようにも見えなかった。


自分が得たい結果と、武器戦の勝敗条件が違うから選ばない。それだけの顔だった。


レイナとノエラも、個人戦には名前を書かなかった。


「私は治癒の精度を競う大会なら考えたけど、負傷させて治すわけにはいかないもの」


レイナはそう言って、クラス対抗戦の登録欄を指した。


「試合中の処置規定を確認してから。治癒が禁止でも、状態確認と退場判断には入れると思う」


ノエラも頷く。


「私は競技中の記録が認められるなら登録します。完全写記(かんぜんしゃき)を使うかどうかは、記録物の持ち込み規定を確認してから決めます」


名前を書かない者も、何もしないわけではない。


出たい競技がないことと、クラスの中で担えるものがないことは同じではなかった。


「では、次にクラス対抗戦の登録希望を取る」


セルド先生が新しい紙を広げた。


「個人戦の出場者も登録できる。個人戦へ出ない者も登録できる。12人全員が毎試合出るわけではない。相手と競技条件に応じて、登録者の中から8人を選ぶ」


「毎回、強い順に8人じゃないんですか?」


後ろの席から声が上がる。


「違う。クラス対抗戦には、旗の保持、指定区域の確保、搬送対象の保護、相手の退場など複数の条件がある。詳細は説明会で確定するが、個人戦の順位だけで役割は決まらない」


黒板の12の空欄が、個人戦の細い枠より広く見えた。


俺は反射的に、全員の名前と練習日を頭の中へ並べかけた。


エリオットは武器戦の受け流し。ルシアスは3回同じ威力。アステラは2つの操作。


カシアは到達後の動き。ローディは正面を残す位置。レイナとノエラは規定確認。


そこまで考えて、止めた。俺が知っているのは、今ここで聞いた目的だけだ。


空いている時間も、誰と何を試したいかも、まだ聞いていない。


「クラス対抗の練習予定、あとで決めよう」


エリオットへ言いかけて、言葉を変える。


「違う。みんなは、登録するなら何をできるようにしたい?」


「今、聞くの?」


カシアが笑った。


「今決めなくてもいい。でも、俺が先に予定を作る前に聞いておきたい」


エリオットは少し考え、登録欄へ名前を書いた。


「僕は、誰かに言われてから前へ出るんじゃなくて、自分で前を変える練習がしたい。剣で勝つ練習とは分ける」


ルシアスはその下へ続いた。


「僕は大きな魔法を撃つ役より、撃たないと決める役もやりたい。大会でできるかは規定次第だけど」


「俺は後ろに誰かがいる位置を、自分で選べるようにしたい」


ローディも書く。アステラは用紙を自分の前へ引いた。


「私は全体指揮を希望しません。情報を集めて、変更条件を整理する役なら希望します」


「私は人数と、危ない場所へ誰が残ってるかを見る」


カシアが続く。


「私は負傷と続行可否」


「私は、確認した情報と推測を混ぜずに残します」


レイナとノエラの名前も並んだ。俺の番になった。何をできるようにしたいか。


全員を動かすことでも、全部の穴を埋めることでもない。


俺がいない場所で仲間が動けることは、もう確かめた。


それでも、自分にしか届かない場所があるのかは、まだ分からない。


「俺は、空いた場所へ動く役を試したい。最初から指揮を持つんじゃなくて、みんなが決めた範囲の間を繋ぐ」


そう言って、8人目の名前を書いた。


セルド先生は並んだ名前を数えたが、その場で出場者を決めなかった。


「これは登録希望だ。残り4枠も、今日欠席した者と規定を確認してから決める。8人の試合出場者は、その都度選ぶ。今ここに早く書いた順でも、声の大きい順でもない」


黒板には、個人戦の2つの枠と、クラス対抗の12の枠が残っている。


狭い枠へ入るために、自分の技を磨く。


広い枠の中では、自分の役だけでなく、隣の者が得たい結果も知っておく。


帰り際、俺は全員分の練習表を作らなかった。代わりに、小さな紙を1枚回した。


空いている時間。試したいこと。一緒に確かめたい相手。


最初の欄は空白のまま、俺の名前ではなく、書く本人へ向けて置いた。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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