四国の大会
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それでは、どうぞお楽しみください。
翌朝、教室へ入ると、黒板の横に見慣れない地図が掛けられていた。
中央にカレディア。その周囲には、4つの国名を書いた札が並んでいる。
エルディア王国、ヴァルグレン武王国、リュネア諸邦連合、セプティア聖王国。
「地理の授業、今日だったっけ?」
エリオットが鞄を置きながら首を傾げた。
俺が時間割を思い出すより先に、ノエラが黒板の下に積まれた紙へ目を向ける。
「違うと思う。紙の一番上に、交流闘技大会って書いてある」
その言葉だけで、教室の空気が変わった。
「闘技大会?」
ローディが身を乗り出し、カシアがすぐ隣から紙を覗き込もうとする。
けれど、教卓のものに勝手に触れる前に扉が開いた。
セルド先生は教室を見渡すと、騒ぎを止めるでもなく地図の前へ立った。
「先に伝えておく。今日は概要だけだ。参加者も代表枠も、今ここでは決めない」
期待で浮いた空気へ、最初に境界線を引く言い方だった。
「今年、カレディアで四国学府交流闘技大会が開かれる。対象は各国の基礎課程に相当する12歳から14歳まで。名の通り、エルディア、ヴァルグレン、リュネア、セプティアの学府が集まる」
先生は4つの国名を順に指した。
「目的は勝敗だけではない。異なる学び方、戦い方、安全基準を持つ者同士が、それぞれの技術を見せ、比べ、持ち帰るための大会だ」
「でも、勝ちは決めるんですよね?」
カシアが真っすぐ聞く。
「決める。交流という名で競争をぼかすつもりはない」
セルド先生は紙を4枚、黒板へ留めた。個人総合戦。個人魔法戦。個人武器戦。
クラス対抗戦。
「競技はこの4部門だ。個人総合戦は、許可された武器、体術、魔法を組み合わせて戦う。個人魔法戦と個人武器戦は、それぞれ定められた範囲で技量を競う。クラス対抗戦は、複数人で臨む競技になる」
「総合戦でも1対1ですか?」
俺が聞くと、先生は頷いた。
「個人戦は1対1だ。ただし、部門ごとの詳細規定と安全条件は別紙で確認する。今の説明だけで、使える技を決めつけるな」
アステラが手を上げた。
「祝福の扱いも、部門ごとに規定が違うのでしょうか」
「使用の可否、申告の方法、停止条件を含め、後日の説明で確定させる。未確認の祝福を大会用に勝手に試すことは禁止だ」
ルシアスが肩をすくめた。
「先に聞かれてしまった。僕もそこが気になっていたんだけど」
「あなたは、その前に同じ威力を3回続けて出す練習でしょう」
アステラが静かに返す。
「分かっているよ。分かっているから、違う話をしたかったんだ」
教室のあちこちで笑いが起きた。
俺も少しだけ口元を緩めたが、右足を組み替えようとしてやめた。
平地を歩く分には杖がなくても困らない。
それでも、走る、跳ぶ、急に止まる、強く踏み込む。
その全部は、まだ許可されていなかった。
レイナはその動きを見逃さなかった。
「レオン。大会って聞いたからって、治ったことにはならないからね」
「分かってる」
「昨日も同じ返事を聞いた」
「今日はまだ何もしてない」
「しようと考えた顔はしてる」
否定しようとしたが、カシアが先に笑った。
「してるしてる。黒板を見た瞬間、もう何戦か終わった顔」
「そこまでは考えてない」
「じゃあ、どの部門に出たいかは?」
その問いには、すぐ答えられた。
「個人総合戦」
教室のざわめきが少し近くなる。
俺の祝福は、1人で複数を相手にしたときだけ働く。
個人戦が1対1なら、孤軍覇闘を確かめる場にはならない。
それでも総合戦なら、今まで身につけた体術と剣、それに魔法を、決められた条件の中でどう繋ぐか試せる。
どれか1つだけではなく、全部を使って届く場所を知りたかった。
「理由は?」
セルド先生が聞いた。
「1対1なら祝福は動きません。だから、祝福を当てにせず、今ある技をどこまで組み合わせられるか試したいです」
先生はすぐに褒めも止めもしなかった。
「希望として記録する。ただし、出場できるかは別だ。足の回復、学府内の選考、登録条件。その3つを満たしてからになる」
「はい」
エリオットが勢いよく手を上げた。
「僕は武器戦が気になります。剣だけじゃなくて、得物ごとの違いも見られるんですよね?」
「他国の参加者が何を登録するかは、まだ届いていない。期待と確定情報は分けろ」
「じゃあ、届いたら教えてください」
「そのための説明会だ」
ローディは4枚の紙を見比べていた。
「クラス対抗戦は、全員で出るんですか?」
「登録人数も出場枠も、次に説明する。今は勝手に組を作るな」
後ろで相談を始めかけていた生徒たちが、そろって口を閉じた。
ノエラが地図を指す。
「先生。四国というのは国の区分ですよね。種族ごとに分かれて参加するわけではなく」
「その通りだ。どの国にも複数の種族が暮らしている。国ごとに多い種族や文化の傾向はあるが、それを個人の能力と同一視するな」
ノエラは頷き、すぐに手元へ書き留めた。
最後に、セルド先生は黒板の上へもう1枚の紙を留めた。
そこには王都グランゼルと、王立戦技奉覧祭の名がある。
「各個人部門の優勝者と、クラス対抗戦の優勝クラスは、王都グランゼルへ招かれる」
今度のざわめきは、さっきより大きかった。
「王都でも、また大会をするんですか?」
アステラが尋ねる。
「違う。王立戦技奉覧祭は次の優勝者を決める大会ではない。公開演習、模範試合、技術や文化の交流を行う場だ。四国大会の先にあるが、同じ競技の続きではない」
「王都かあ……」
カシアが目を輝かせる。
その隣でローディは難しい顔をし、エリオットはすでに見たことのない武器を想像しているようだった。
俺は黒板の4枚へ視線を戻した。
知らない国の、知らない戦い方が集まる。
そこへ出るには、まずこの学府の中で枠を取らなければならない。
そして俺には、まだ思いどおりに踏み込めない右足がある。
授業の終わりに、希望調査の紙が1人ずつ配られた。これは登録ではない。
興味のある部門を書くだけで、空欄のまま出してもいいと先生は念を押した。
俺は4つの名をもう一度読んだ。それから、最初の欄に書く。
個人総合戦 希望。文字の下へ線を引く代わりに、右足を床へ置いた。痛みはない。
だからこそ急がず、出場できる足まで戻す。
ひとりで立つ場所へ行くために、まず守るべき条件を守る。
紙を伏せると、次の説明を待つ教室の音が、昨日までとは少し違って聞こえた。
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