三人から
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それでは、どうぞお楽しみください。
神殿を出てから4日後、学園東棟の小訓練室に白い円が引かれた。
中心から半径5メートル。
外側には赤い待機線があり、そのさらに後ろへ机と椅子が並んでいる。
俺の右足首は、平地なら杖なしで歩けるところまで戻っていた。
ただし走行、跳躍、急停止、切り返し、強い踏み込みは禁止されたままだ。
治療担当者は円の中を一度歩かせたあと、床へ置いた低い木片を右足で越えないよう指示した。
「痛くなくても、速く動けそうでも、今日は動かないでください」
「動けるかの確認も駄目ですか」
「それを確認しないために、攻撃する側の速度を落とします。レオンが速くなったかは表示と反応だけで見ます」
レイナが隣で頷いた。
「私も止めるよ。先生と治療担当者と私、誰か1人が止めたら終了」
「3人の意見がそろうまでじゃないんだな」
ローディが確認すると、カレン先生は短い笛を見せた。
「止める判断は誰でもできます。再開は、止めた理由を確認してからです」
赤い待機線では、エリオット、カシア、ローディが綿を巻いた短い棒を持っていた。
棒の先には青い布が結ばれ、俺の上着へ触れる前に止める。
勝敗を決める訓練ではなく、何人が俺を攻撃対象にした時に祝福が働くかを確かめるための動作だった。
アステラは確認順を紙へ書き、ルシアスは砂時計を2つ並べる。
ノエラは神殿の記録票と学園の記録用紙を重ねず、机の左右へ分けて置いた。
その横で、オルハン研究官だけが3枚目の用紙を持って困っていた。
「七大神の欄は7つあります。その他の神という欄がありません」
「4日前も同じことで困っていませんでしたか」
アステラが聞く。
「困っていたので、神殿で臨時用紙を作りました。今日は学園の用紙にも欄がありません」
「余白はあります」
ノエラが右下を指した。
「余白は神名欄ではありません」
「神名を書けば、神名を記録した余白になります」
オルハンはしばらく紙を見たあと、丸眼鏡を押し上げた。
「非常に正しいので、非常に困ります」
カレン先生の笛が1回鳴った。最初は2人。
エリオットとカシアが赤い線を越え、俺を直接の攻撃対象にすると声で確認する。
ローディは線の外で棒を床へ置いた。
「右肩へ、途中まで」
「私は左の袖。足は狙わない」
2人は同時ではなく、砂時計の1目盛りだけずらして踏み出した。
エリオットの棒が右肩の手前で止まり、カシアの青い布が左袖まで指2本分を残して止まる。
《ステータス》を確認しても、孤軍覇闘の表示は変わらなかった。
身体にも魔力にも変化はない。
「2人、攻撃動作あり。発動なし」
ノエラが読み上げ、アステラが時刻を添える。
「僕が遅かった可能性は?」
「開始はずらしたけど、カシアが攻撃へ入った時もエリオットはレオンを攻撃対象にしたままだったわ」
「同時に振る必要はないんだね」
ルシアスが砂時計を戻した。
「今分かったのは、今のずらし方では2人のままだったことだけよ」
アステラが言い直すと、ルシアスは記録の端へ『完全同時は未確認』と加えた。
一度全員が線の外へ戻り、俺の呼吸、右足首の熱、腫れを確認する。変化はない。
次はローディも棒を持ち、3人が俺を攻撃対象にすると確認した。
「俺は正面から胸の手前で止める。エリオットとカシアは左右。レオンは受けなくていい」
「避けるのもなし?」
エリオットが俺へ聞く。
「左足を半歩ずらすまで。それ以上は笛を待たずに止められる」
レイナが答えた。
「僕が聞いたのに、レイナが決めた」
「脚の範囲は私が見るところだから」
「分かった。じゃあレオン、動かなくていい」
笛が鳴る。3人が赤い線を越え、ローディが正面から棒を突き出した。
エリオットは右へ回り、カシアは左袖へ青い布を向ける。
3本が届く前に、胸の奥で細い熱が広がった。魔力とは違う。
腕と背中が急に軽くなり、3人の足の置き方がさっきより遅く見える。
《ステータス》には新しい行が出ていた。
孤軍覇闘 発動中
《直接攻撃対象:3》
《筋力・耐久・敏捷・反応処理:約10%上昇》
左足が、決めた半歩より先へ出かけた。
ローディの棒を外してエリオットとの間へ入れば、2人の線を重ねられる。
そこまで見えた時、笛が鳴るより先にレイナが俺の袖をつかんだ。
「半歩まで」
俺は左足を戻した。カレン先生の笛が続き、3人も棒を止める。
「今、動けた?」
カシアは棒を下げずに聞いた。
「動けると思った。右脚が許可された動きまで増えたわけじゃない」
「祝福は治療担当者の指示を読まないのね」
アステラが記録する。
「負傷が消えないという表示と一致します。上がった力で無理をすれば、損傷も増える可能性があります」
治療担当者は俺の右足首へ触れ、熱と腫れを確かめた。
変化はなかったが、次から俺は両足を動かさず、左手を開閉するだけになった。
2回目の3人では、発動までの時刻を確認した。
3人目のカシアが赤い線を越えただけでは何も起きず、青い布を俺へ向けて踏み出した瞬間に表示が変わる。
立っている人数ではなく、実際に攻撃行動へ入った3人が必要だった。
次にアステラが円の内側へ入り、俺から4メートルの位置へ立った。
記録板を持つだけで、戦闘には加わらない。
エリオットたち3人が攻撃へ入ると、孤軍覇闘は発動したままだった。
「5メートル以内に味方がいるだけでは終了しない」
オルハンが鉛筆を走らせる。
「私を味方と判定したかは表示だけでは分かりません」
アステラが言う。
「では、次に共闘を明示します。ただし魔法は使いません」
ルシアスが円の外から手を挙げた。
「僕が入って、棒を1本止める。レオンを守る側として参加する」
「走らない。ローディの正面へ入らない。触れるのはカシアの棒だけ」
カレン先生が位置を指定した。
3人の攻撃で表示が現れたあと、ルシアスが円へ入った。
俺の左前へ立ち、カシアの青い布へ自分の棒を当てる。
胸の熱が薄れ、孤軍覇闘 発動中の行が消えた。
エリオットとローディはまだ俺を攻撃対象にしたまま、カシアも棒を外していない。
直接攻撃する者は3人のままだった。
「近くの味方が戦闘へ加わった時点で終了」
ノエラが読む。
「俺を助ける意思だけではなく、実際に加わることが必要かは?」
「今日は、実際に加わった場合だけ確認できました」
ノエラは断定せず、そのまま余白へ書いた。最後に、ローディが攻撃側から外れた。
エリオットとカシアが動作を続けていても、人数が2人になった瞬間に表示は消えた。
再発動させず、そこで確認を終える。
右足首に悪化はなかった。
けれど発動した2回とも、呼吸は通常より早くなり、首筋の体温も少し上がっていた。
短い確認でも疲労が増えるという条件まで記録される。
オルハンは神殿の臨時用紙を学園の用紙へ写そうとして、再び止まった。
「やはり神名欄がありません」
「さっき余白がありました」
ノエラは定規を置き、用紙の右下へ小さな枠を引いた。
『既存7分類外』、『古像名候補:ゼルガス』、『祝福名:孤軍覇闘』と、確認済みの言葉だけを順に書く。
「完全写記は使わないのですか」
オルハンが尋ねる。
「1日1回です。見ながら写せる1枚に使う理由はありません」
「それも非常に正しい」
「困りますか」
「今日は助かります」
ノエラは書き終えた欄を読み上げ、オルハン、カレン先生、治療担当者、俺が順に確認した。
7つの神名欄は書き換えず、その下の余白に8つ目ではない別の記録が加わった。
片付けのあと、エリオットたちは3本の棒を同じ籠へ戻した。
俺だけが強くなる条件を確かめたはずなのに、紙には攻撃する3人、加勢する1人、止める者、身体を見る者、時刻と表示を書く者の名前が並んでいる。
「次に試すなら、脚が治ってからだね」
エリオットが言う。
「次は避けてもいい?」
「治療担当者が決める」
俺が答えると、レイナが先に頷いた。
「それでいいよ」
孤軍覇闘は、俺が一人で戦う時に働く。
それでも、今日その条件を確かめた記録は、一人では作れなかった。
俺はノエラが余白へ加えた行をもう一度確認し、全員の名前が書かれた学園の用紙を閉じずに机の上へ残した。
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