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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第九章 ひとりでは届かない
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七柱の祝福

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

奉告(ほうこく)式の朝、俺は左手に杖を持ち、制服の左胸へ学園章をつけた。


右脚の歩幅はまだ狭く、急停止と切り返しも禁止されたままだった。


エリオットは鏡の前で章の位置を3回直した。


ルシアスが布の縫い目と平行に(そろ)えると、ようやく手を離す。


「盾がないと落ち着かんな」


ローディは何も背負っていない肩へ手を回した。


武器は持ち込めないため、剣も盾も学園へ置いてきている。


式場の中央には奉告板があり、その奥に7柱の祭壇が並んでいた。


すでに学園の記録と照合された封筒は、白い箱へ収められている。


神官は、名を呼ばれた者が奉告板へ手を置き、祝福の有無と身体の変化を申告する手順を説明した。


変化があってもその場で力を試さず、確認担当者の指示を待つ。


「勝手に剣を振る場所はないな」


エリオットが式場を見回す。


「剣そのものを持ち込んでないでしょう」


アステラが答えた。


「分かってるよ。手が動かないように言っただけ」


「俺は盾がないから平気だ」


ローディが言うと、カシアが何もない背中を指した。


「さっきから三回も探してるけどね」


「肩が軽すぎるんだ」


レイナは俺の杖と右脚を順に見る。


「レオンも、変化を確かめるために余計に歩かないで」


「まだ呼ばれてない」


「呼ばれる前に言ってるの」


先に呼ばれた生徒の中には、祭壇が光っても祝福が現れない者がいた。


どの祭壇も反応しない者もいる。


記録担当者は決められた事実だけを書き、不合格や失敗という言葉を加えなかった。


「エリオット・レイフォード」


エリオットが奉告板へ右手を置くと、武神ヴァルガの祭壇に赤い光が灯った。


しばらくして、本人の《ステータス》の祝福欄へ剣勢(けんせい)が加わる。


神官が奉告板に浮かんだ条件を読み上げた。


自分の武器で相手の攻撃を正面から受け、または受け流したあと、3秒以内に放つ次の斬撃を約20%強める。


回避、魔法、格闘には及ばず、再び使えるまで10秒を要し、受けた衝撃や損傷は消えない。


「強くなった感じはしない」


戻ってきたエリオットが右手を見た。


「今は武器も相手の攻撃もないからね」


レイナは、確認のために受けられる攻撃を探さないよう先に言った。


「探さないよ」


「今、ローディを見たでしょう」


「盾があれば受けてもらえると思っただけ」


「それを探したと言うんだ」


ローディが空の肩を叩く。


「今日は盾もない。俺も受けんぞ」


「分かってるって。試すなら、先生と場所と停止条件を決めてからにする」


アステラが確認票へ線を引いた。


「今の言葉も書いておきましょう。最初に試したくなったことも含めて」


「そこまで残すの?」


「奉告の授業で何を習ったの」


エリオットは右手を下ろし、否定しなかった。


「ローディ・ガーン」


次に光ったのは守護神バルネスの祭壇だった。


ローディの祝福欄には護壁(ごへき)が加わる。


守る対象を自分の後方へ置き、意識している間、正面から受ける衝撃と押し戻しを約20%軽減する。


ただし自分だけを守る場合や、側面、背後からの攻撃には及ばず、対象を追って移動している間も安定しない。


「盾がなくても使えるのか?」


「祝福の条件に盾はありません。ただし、何で受けても安全になるわけではありません」


「素手でも働くが、腕は傷つくということですか」


「その理解で構いません。軽減は無傷を意味しません」


「守る相手が二人なら?」


「後方にいる対象を一人ずつ判別する力ではありません。配置と本人の認識を含め、模擬条件で確認してください」


神官の答えを聞き、ローディは背後にいる俺たちを振り返った。


「並び方でも変わるのか」


「今、前に出ようとした?」


カシアが聞く。


「半歩だけだ」


「半歩でも試すのは禁止」


確認担当者にも止められ、ローディは動かした足を元へ戻した。


「祝福を得て最初にしたのが、止められることになるとはな」


「それもローディらしいよ」


エリオットが笑った。


「ルシアス・フェルド」


魔導神エルミナの祭壇に青い光が走り、天脈解放(てんみゃくかいほう)が現れた。


1日1回、1つの魔法に限り、安全に放出できる上限を約30%超えられる。


ただし精度は上がらず、使用後には腕の震え、吐き気、制御低下が起こり得る。


停止担当と安全な場所を用意しなければ、確認も認められない。


「今日は使わない」


ルシアスは右手を握らず、開いたまま言った。


「止められる大きさが先だから」


「一日一回なら、確認に使った日は実習で使えないのね」


アステラが尋ねる。


「その日は再使用できません」


「使ったかどうかは表示されますか」


「本人の《ステータス》には残りの使用可否が示されます。ただし、体調の回復を保証する表示ではありません」


レイナがルシアスを見る。


「腕の震えが止まっても、吐き気や制御低下は残るかもしれないってこと」


「うん。確認項目を分けるよ」


「僕が停止担当でも、勝手に試すなよ」


エリオットが言うと、ルシアスは開いた手をさらに広げた。


「だから握ってないでしょう」


その申告とやり取りも、記録担当者の紙へ加えられた。


「アステラ・リュネ」


知慧神ソレアの黄色い光が灯り、アステラは二重制御(にじゅうせいぎょ)を得た。


2つの独立した魔力操作(まりょくそうさ)を同時に維持できるが、精度はそれぞれ通常の約80%まで下がる。


魔力量は増えず、知らない魔法を使えるようにもならない。


3つ目は扱えず、長く続ければ頭痛と集中低下が起こる。


「2つとも同じ精度まで下がるのか、片方だけ変えられるのかは未確認ね」


「同じ魔法を二つでも、独立した操作になりますか」


「条件の読み上げだけでは判断できません。確認時に分けてください」


「維持中に片方を止めた場合、もう片方の精度が戻るかも未確認」


アステラはそう言いながら左右の指へ魔力を集めかけ、確認担当者の視線に気づいて消した。


「試してはいません。確認項目を分けただけです」


「手の上で分けずに行ってください」


「考える時に動く癖が出たわね」


レイナが言う。


「自覚しているわ。次は紙の上だけにする」


「次じゃなくて今もだよ」


アステラは小さく頭を下げ、席へ戻る前から紙へ欄を作り始めた。


「左右で分ける欄も作るの?」


カシアが(のぞ)く。


「左右ではなく、操作一と操作二。手が同じでも独立する可能性があるもの」


「もう確認が始まってるみたい」


「試してはいないわ」


アステラは念を押した。


「レイナ・ソル」


生命神フェルナの祭壇が緑に光り、治癒余光(ちゆよこう)が祝福欄へ現れた。


接触して治癒魔法(ちゆまほう)を使ったあと、その効果の約20%を手を離してから約60秒継続できる。


対象は1人だけで、新たに生じた負傷や、最初に治癒していない箇所へは及ばない。


診断する力でもなく、治癒前に呼吸や出血を確認する必要は変わらなかった。


レイナは条件を聞き終えると、俺の右脚を見た。


「今日は使わないから」


「頼んでない」


「試す相手にできると思ってない?」


「治療担当が必要と判断した場合なら」


「なら、確認のためには使わない」


祝福が増えても、使う理由を決めるのはレイナだった。


「カシア・ロンド」


旅神ラグティスの白い光が伸び、カシアは駆けつける足(かけつけるあし)を得た。


見えている味方が明らかな危険にさらされ、その者へ向かっている間だけ、敏捷と足場への適応が約15%高まる。


敵へ向かう時、退く時、追跡する時には働かず、味方へ到着すれば終わる。


見えない相手の位置を教える力でもない。


「危険かどうかを、私が決めるのかな」


カシアの問いに、神官は本人の認識だけで成立するとは限らないと答えた。


安全な模擬条件で確認するまで、故意に誰かを危険へ置いてはいけない。


「転びそうな人でも危険になりますか」


「程度の判定は未確認です」


「見えている味方が二人なら、どちらへ向かうかは?」


「本人が向かっている相手に対して働くと読めますが、途中で対象を変えた場合は確認が必要です」


「到着した瞬間に足場への適応も戻るのね」


アステラが尋ねると、神官は条件上はそうなると答えた。ローディが腕を組む。


「到着してから転ぶなよ」


「その時は普通の足で踏ん張るよ」


「俺を危険役に選ぶなよ」


「盾がある時なら考える」


「考えるのか」


カシアは笑ったあと、故意に危険を作らないと確認票へ書いた。


「ノエラ・フェイン」


最後に記録神ノルディアの祭壇が藍色(あいいろ)に光った。


ノエラの祝福欄へ加わった完全写記(かんぜんしゃき)は、1日1回、目で確認した1枚の文章、図、地図を細部まで正確に書き戻せる。


意味や真偽は判定せず、隠れていた部分は戻らない。


複数の紙を1枚として扱うこともできない。


「間違った記録を見れば、間違ったまま写すんですね」


「その通りです」


ノエラが最初に確かめたのは、正確さより、その力では分からないことだった。


7人が席へ戻った。


昨日まで持っていた剣、盾、魔力、判断、治癒、移動、記録の先に、それぞれの祝福がある。


どれも本人が続けてきた行いと切れておらず、同時に、名前だけで使える力でもなかった。


「レオン・アルヴェイン」


俺は杖をカシアへ預け、決められた歩幅で中央へ進んだ。


右手を奉告板へ置くと、冷たい石の感触だけが(てのひら)へ伝わる。


武神ヴァルガの祭壇は光らない。


守護神バルネス、魔導神エルミナ、知慧神ソレア、生命神フェルナ、旅神ラグティス、記録神ノルディアも同じだった。


神官に促され、自分の《ステータス》を確認する。


祝福欄に新しい名はなく、身体や魔力にも変化はない。


「表示はありません。変化もありません」


「手の感覚や、魔力の流れに違いは?」


「ありません」


「痛み、熱、寒気は?」


「石が冷たいだけです」


神官は定められた時間まで待ったが、7つの祭壇は沈黙したままだった。


後ろから物音がしても、俺は振り返らなかった。


誰かが椅子を引いただけかもしれない。


祭壇の光が遅れて現れる可能性も、俺には判断できない。


「もう一度、手を置き直しますか」


「いいえ。定められた時間と手順は満たしています」


神官は静かに答えた。記録担当者は『七大神の祭壇に反応なし。


祝福表示なし』と書き、それ以上の意味を加えない。


脈、呼吸、魔力の流れ、右脚の状態も式の前と変わらなかった。


俺は確認担当者へ、奉告記録に不足があったのかと尋ねる。


「現時点では判断できません。記録は照合済みです。祝福がないこと自体は異常ではありません」


「追加で確認することは?」


神官は俺の記録票を見てから、別の神官へ渡した。


「七柱のどの祭壇にも反応しなかった事実と、複数の領分に記録が重なっていることを、保管記録と照合します。結果が出るまでは、今日の記録を変えません」


全員のところへ戻ると、カシアが杖を差し出した。


レイナはさっき確認されたばかりだという俺の言葉を聞かず、手首へ指を当てる。


「少し速い」


「歩いたからだ」


「それだけとは決めない」


「右脚は変わってない」


「変わっていないことと、負担がないことは別」


レイナは脈を数え終えるまで指を離さなかった。ローディが声を落とす。


「俺たちの後だったから、祭壇が疲れたとかはないのか」


「根拠のない理由を足さないで」


ノエラが即座に止めた。


「分かっている。黙ってるよりましかと思っただけだ」


「今は、無理に話さなくていいよ」


カシアが言う。


「無理に黙る必要もない」


俺が答えると、ローディは短く(うなず)いた。


エリオットは自分の右手を見てから、俺の空いた掌を見た。


「調べることが残ったんだね」


「慰めなくていい」


「慰めてないよ。未確認を残しただけ」


「祝福がなかった事実は変わらない」


「変えないよ。原因まで決まったことにしないだけ」


アステラも確認票を閉じずに言った。


「喜ぶのをやめるつもりはないわ。でも、レオンの結果を軽く扱うつもりもない」


「私たちの祝福の確認と、レオンの照合結果は別々に待ちましょう」


ノエラが二本の線を引き、同じ欄へ混ぜなかった。


アステラは、今分かるのは祭壇が反応せず、祝福が現れなかったことだけだと言った。


ノエラも原因は未確認だと続ける。


7人には昨日までなかった祝福があり、俺にはない。


それでも式を終えて最初にしたことは同じだった。


誰もその場で力を試さず、条件と限界を確認票へ書き、分からない部分を残した。


次の名前が呼ばれる。


俺たちが後ろへ下がると、年配の神官が俺の記録票を持ち、式場の奥へ向かった。


扉の横には保管庫を示す札がある。俺は追わず、左手へ杖を戻した。


7つの祭壇は、最後まで俺へ光を返さなかった。


代わりに白い封筒だけが、閉じた扉の向こうへ運ばれていった。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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