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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第九章 ひとりでは届かない
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七つの名

ご覧いただきありがとうございます!

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それでは、どうぞお楽しみください。

奉告(ほうこく)記録の提出まで、あと4日。


朝の再診で、右脚へかけてよい重さは少し増えたが、歩幅は左の半分まで、急停止と切り返しは禁止された。


レイナは治療担当の説明を予定表へ書き、移動先を授業、食堂、寮に限った。


追加の見学はせず、途中で1回休む。


「昨日、無理をしないって先に言ったよね。今日も同じ?」


「同じにする」


「歩ける重さが増えたからって、歩く距離まで増やさない?」


「授業、食堂、寮だけだ」


「途中で休む?」


「1回」


「痛みがなくても?」


「左右差が増えたら休む」


レイナはそこで初めて(うなず)き、俺の言葉ではなく、再診欄へ小さな丸をつけた。


「信用してないのか」


「確認したから丸をつけたの」


「同じだろ」


「全然違うよ」


第1座学の教室では、黒板の下に7色の布が並んでいた。


セルド先生の横で、神殿職員が細長い木札を1枚ずつ置いていく。


赤の下には武神ヴァルガ。


戦闘、勇気、勝負を司り、騎士や冒険者、武芸者の信仰が多い。


灰色の下には守護神バルネス。


防衛、忍耐、城壁を司り、兵士だけでなく建築に携わる者も信仰するという。


青は魔導神エルミナ。魔力、術式、魔道具を司る。


黄色は知慧神ソレア。計算、判断、知識を司る。緑は生命神フェルナ。


治癒、出産、生命を司る。


白は旅神ラグティス。


道、移動、探索を司り、目的地へ進むことだけでなく、戻る道を残すことも領分に含まれる。


最後の藍色(あいいろ)には、記録神ノルディアの札が置かれた。


言葉、記録、契約を司る神だ。


「この中から、希望する神を選ぶんですか」


教室の右側から質問が出る。


「希望は書けますが、それだけで奉告先は決まりません。同じ剣でも、勝負を求めたのか、誰かを守ったのか、道を開いたのか、型を記録して伝えたのかで、重なる領分は変わります」


「剣を使って道を切り開いたら、武神と旅神の両方ですか」


「行動だけでなく、目的と、その後に何をしたかも記録します」


「では、本人が守ったつもりでも、守られた人がそう思っていなければ?」


セルド先生は質問した生徒へ向き直った。


「本人の記録だけで決めないために、学園の記録と照合します。違いがあれば、違いを消さずに奉告します」


ローディが小声で言う。


「盾を持っただけでは決まらんらしい」


「よかったね。置いてきても授業を受けられるよ」


カシアに返され、ローディは「そこを心配したんじゃない」と灰色の布を見た。


セルド先生は7柱の名が書かれた紙と、希望を書くための無地の紙を配った。


今から行うのは奉告先の決定ではなく、自分の記録がどの領分と重なるかの確認だった。


1つの行動を複数の紙へ置いてもよく、空欄があってもよい。


エリオットは最初に赤い紙を取ったが、勝った数を書くのかと迷っていた。


「勝敗なら数えられる。でも、それだけでいいのかな」


「勝った時に何をしたかは?」


カシアが聞く。


「相手の癖を見て、次は同じ入り方をしなかった」


「それなら行動でしょう」


「負けた時も書く?」


「変えたなら、そっちも」


エリオットは少し考え、剣の訓練を続け、相手に合わせて同じ攻撃を繰り返さなかったことを書く。


その下には、有効打を取れる場面でも実習の停止条件を優先した記録を加え、同じ行を灰色の紙にも写した。


「赤い紙なのに、止まったことを書くんだね」


「止まれない剣を続けたいわけじゃないから」


エリオットはそう答え、二枚の紙の同じ行へ印をつけた。


ルシアスは青い紙へ、通常より大きい風を出せると書いた。


先生が能力と行動を分けるよう告げると、その行を消し、必要量を超えた風を出したあと停止担当の合図で中止し、次から上限を先に決めたと書き直した。


「失敗から始まってるぞ」


ローディが言うと、ルシアスは筆を止めずに答えた。


「その方が、続きを書けるから」


「最初から上限を決めた、とだけ書けば短いだろう」


「それだと、どうして決めたか消えるよ」


「長くなるぞ」


「奉告される神様には我慢してもらう」


ノエラが隣から紙を見た。


「停止担当が誰だったかも必要です」


「もっと長くなった」


「ローディが話しかけるからでしょう」


「俺のせいか?」


ルシアスは笑いながら、停止を告げた者の名を書き足した。


ローディは灰色の紙に、盾で後方を残したことを書き、白い紙には荷を運ぶ際に帰り道の幅を空けたことを置いた。


盾を持つから守護神と決めるのではなく、自分が何を残そうとしたかで分けている。


ノエラは藍色の紙へ、古い言葉を推測で埋めなかったこと、確認した者と決めた者を分けたことを書いた。


写した紙の枚数は数えず、元の記録がないため正しく写せたとも書かなかった。


アステラは黄色と藍色の紙を並べ、条件を先に分けた記録と、確認事実と推測を分けた記録を置いた。


レイナは緑の紙へ、治癒の回数ではなく、治癒前に呼吸と出血を確認し、安定化と搬送可否を分けたことを書いている。


カシアは白い紙に、移動する人数を分け、遅れた者へ戻ったことを書いた。


そのうち1つを緑の紙へも写したが、負傷を治したのはレイナで、自分はそこへ行っただけだと迷う。


「行かなければ、治療できなかったよ」


レイナが言う。


「でも、できることは違う」


「違っても、同じ記録には入る」


カシアは2枚を重ねず、机の上へ並べたままにした。


俺も赤い紙へ、剣、格闘、回避、魔法を分けて反復し、相手と条件で使う手段を変えたことを書く。


灰色には危険が増えた時に中止した記録、青には水と風の量と距離を目的ごとに変えた記録を置いた。


黄色には地図、証言、痕跡を分けたこと、白には進む道と戻る道を分けたこと、藍には見た者、決めた者、動いた者を分け、失敗と未確認を消さなかったことを書く。


緑の紙だけが残った。


治癒魔法(ちゆまほう)は使えない。


それでも負傷者の呼吸を確認し、止血を手伝い、追うより戻ることを選んだ記録はある。


それを生命、守護、旅のどこへ置くか決められず、俺は空欄のまま残した。


6枚のどれも嘘ではないが、1つだけを選べば残りが消える。


「レオンは、どれを続けたいの?」


アステラが聞く。


「全部」


「一番ではなく?」


「一番を決めたら、使わなくなるものがあるのか」


「そうは言っていないわ。希望を書くなら、何を望むかということ」


答えてから、それでは選んだことにならないと気づいた。


剣だけでも、魔法だけでもなく、道と記録は戦闘の外でも使う。


エリオットが赤い紙の端を指で押さえた。


「僕は剣を続けたい。でも、止まる判断を捨てたいわけじゃないよ」


「俺も盾を選んだからって、荷運びをやめる気はないぞ」


「ローディは盾を置いても荷運びしてね」


カシアに言われ、ローディが顔をしかめる。アステラはもう一度聞いた。


「祝福を得るためなら?」


「祝福に合わせて、続けるものを減らすのは違うと思う」


「なら、それが希望欄へ書ける答えね」


アステラは無地の紙を指した。


俺は『希望する力を先に決めず、今まで続けた行動をそのまま奉告したい』と書いたが、これが希望になるのか分からなかった。


セルド先生は7枚を順に読み、無地の紙を最後に見た。


「奉告先を自分で1つに決められません」


「決める必要はありません。希望欄は空欄でも受理します」


「数が多い領分や、一番長く続けたものへ決まりますか」


「数や期間だけでは決めません。技能Lvだけでもありません。重なる記録は重なるまま整理し、神殿へ奉告します」


「最終的な奉告先は?」


「神が応じるまでは決まっていません」


神殿職員は、過去に複数の祭壇が一時的に反応した例はあるが、祝福として定着するのは原則1柱だと説明した。


どの祭壇も反応しない場合や、反応しても祝福が現れない場合もあり、それを神殿が失敗とは記録しない。


授業の最後に、全員が7枚を提出した。


エリオットは無地の紙へ武神ヴァルガと書き、相手と向き合って勝つ剣を続けたいと話した。


ルシアスは魔導神エルミナ、ローディは守護神バルネスの名を入れたが、理由は魔力量や盾という道具だけではなかった。


俺は無地の紙を封筒へ入れなかった。6枚に行動があり、1枚は空欄のまま残る。


「本当に入れないの?」


エリオットが自分の封筒を閉じながら聞いた。


「希望を書けば、どれかを先に選んだことになる」


「『選ばない』って書いた紙も、希望じゃない?」


「先生は空欄でも受理すると言った」


ノエラが俺の封筒と手元の紙を見比べる。


「入れなかった事実は残りますか」


「提出時の確認票には残す」


「なら、何も選ばなかったことも消えません」


アステラは自分の封を押さえながら言った。


「あとで決められなかったことを悔やんでも、今日決めたことには書き換えられないわよ」


「分かってる」


「それなら出しましょう」


帰りの廊下では、7色の布が窓から入る風に揺れていた。


決められない欄を埋めないまま、俺の記録は神殿へ進んだ。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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