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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第九章 ひとりでは届かない
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奉告される記録

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

目を覚ますと、棚の上に予定表が置かれていた。


昨夜はなかった7人の字が増え、俺が決める欄だけが空いている。


『本人の再確認後――見学を続けるか、休むか』


右足首をゆっくり曲げる。痛みはないが、右は左より少し遅れた。


前なら動ける範囲を増やしたと思う。


だが表には、俺がいなくても剣、魔力、盾、記録の確認を進める方法が残されている。


俺は空欄へ『再診後、座学のみ。午後は休む』と書いた。


筆を置くと、隣の寝台からエリオットが顔を出した。


「起きてすぐ決めたの?」


「左右を5回ずつ動かしてからだ」


「なら、レイナには10回って伝えるね」


「左右差を見るためだから、5回だ」


向かいの寝台でローディが笑った。


ルシアスは枕へ顔を埋めたまま、片手を上げる。


「僕は、起きた人を3人と数える」


「お前は起きてないのか」


「返事ができる程度には起きてるよ」


予定表には4人分の朝食時刻があった。


俺は3人を起こす時刻を書き足さず、自分の欄だけを埋めて表を棚へ戻した。


食堂の窓際には、昨日と同じ8人分の椅子があった。


俺の右側は広く空けられ、足を載せる低い台も置かれている。


「午後は休むのね」


アステラが予定表を読み、レイナは俺の返事より先に右足と椅子の位置を確かめた。


「再診結果が変われば、午前も変えるよ」


「分かってる」


「分かっている人は、台を勝手にどかさないでね」


「まだ触ってない」


「見ていたでしょう」


アステラに言われ、俺は台から手を離した。


エリオットが向かいから身を乗り出す。


「午後に確認したことは、戻ったら僕が話すよ」


「剣の記録は手順と結果を分けろ」


「休む前から注文するの?」


「任せるために必要だ」


「なら、任された方で決めるところも残して」


返す言葉を探している間に、レイナが台を俺の足の下へ戻した。


朝食の途中、食堂の入口で職員が鐘を2回鳴らした。


基礎課程1年の第2座学を大講義室へ変更し、奉告(ほうこく)式の説明を行うという。


持参するのは筆記具と、入学後に自分で残した記録だった。


「奉告式って、神殿へ記録を出す式だよね」


ルシアスがパンを持ったまま聞くと、アステラが名前だけは知っていると答えた。


ローディは盾も必要かと尋ね、カシアに「神殿で何と戦うの」と返されている。


ノエラはもう(かばん)の中の紙を数えていた。


俺も授業記録、野外基礎の共有票、事件記録の写し、予定帳を思い浮かべる。


だが全部を持てば、松葉杖より重くなる。


「共有記録は学園側にもあるわ。まず説明を聞いてから選びましょう」


アステラの言葉に、俺は鞄へ伸ばしかけた手を止めた。


「でも、自分で残した記録って言ってたよ」


エリオットが首を傾げる。


「共有票にも本人の記入欄はあるわ」


「じゃあ、僕は剣の記録と停止票かな」


「俺は盾の傷も持っていくか?」


「盾そのものは筆記具じゃないでしょう」


ローディの問いにノエラが答え、カシアが笑った。


「持っていく紙を決めるだけで、もう荷物が増えそうだね」


「だから説明が先だ」


俺が言うと、アステラは「今の判断は早くて助かるわ」と鞄の蓋を閉じた。


大講義室の壇上には、担任のセルド・アレン先生と学園の記録担当者、白い法衣の神殿職員が立っていた。


全員が座ると、セルド先生は黒板へ『奉告』と『祝福』の2つを書いた。


「奉告は、欲しい力を願う手続きではありません」


「学園で確認された行動と、本人が残した記録を神殿へ納め、何を学び、選び、積み重ねたかを告げます」


先生が2つ目の言葉を指した。


記録へ神が応じた場合には祝福が現れることがある。


だが必ずではなく、得ない者も珍しくない。


成績や通常Lv、式を受けた回数だけで決まるものでもないという。


神殿職員は見本の用紙を広げた。


「祝福は、何もしてこなかった者へ突然すべてを与える力ではありません」


「続けてきた行いを、特定の条件で強めます」


「現れた場合も、名称だけで効果を決めず、条件、及ぶ範囲、及ばない範囲を確認します」


配布された用紙には、4つの欄があった。


『継続して行ったこと』『達成したこと』『失敗・中止・変更』『他者の判断を受けて変えたこと』。


失敗を出せば不利になるのではないかと、前の席から声が上がる。


「失敗ばかり書いたら、それしかしていないように見えませんか」


別の生徒も続けた。


神殿職員は、見本の4つの欄を順に指した。


「失敗した事実と、その後に何を選んだかは別々に書けます」


「成功だけを書けば、変えた理由が消えることもあります」


「では、書かない方が有利になることは?」


「奉告は競争ではありません」


セルド先生が答えた。


「不利に見えるから消した記録では、本人の行動を正しく奉告できません」


セルド先生は、事実を変えて書かないよう告げた。


止められなかった者が止めたと書かず、1人で決めたことを全員で決めたと書かない。


失敗のあとで方法を変えたなら、最初の失敗だけで終わらせない。


誰かの判断を使ったなら、その名も消してはいけない。


俺は個人記録を開いた。


最初に出てきたのは、野外基礎で俺の指示を待たせ、3人の動きを止めた記録だった。


次の紙には、俺が入口の外にいる間に3人が箱を運び終えたことが残っている。


その次には4人が配置を変え、俺が戻ったあとも変更を使ったことが書かれていた。


成功だけを抜けば紙は減る。失敗だけを抜いても減る。


だが、どちらにも収まらない行が多かった。


エリオットが道を変え、ルシアスが風を止め、ローディが盾を2回鳴らした。


アステラが退路を移し、カシアが人数を分けた。


レイナが俺を搬送対象にし、ノエラが読めない言葉を未確認へ戻している。


「先生。同じ名前が何度も入る場合は、まとめてもいいですか」


「同じ判断ですか」


「違います。俺がしたことより、ほかの人の名前が多くなる記録もあります」


後ろからローディの声が飛んだ。


「俺の名前なら、少しくらい減らしても構わんぞ」


「減らす基準がない」


「冗談だ。真面目に数えるな」


ルシアスが紙を(のぞ)き込み、小声で言う。


「でも、名前が多いとレオンの記録じゃなく見える、ってこと?」


「誰の判断で動いたかを書けば、そうなる」


「動くと決めたのはレオンでしょう」


ノエラの言葉に、俺は同じ行を見直した。


セルド先生は俺の紙を取り上げず、黒板の『他者』に線を引いた。


「助けを受けたあと、同じ方法を使ったのか、変えたのか、拒んだのか」


「次は自分が先に動いたのか。それも本人の行動です」


「名前を消せば、あなたが何を選んだかまで消える場合があります」


俺は7人の名前が並ぶ紙へ目を戻した。


誰かが決めたことをそのまま使った時もあれば、別の条件へ変えた時もある。


自分の成功だけを残そうとすれば、その違いはなくなった。


「提出する記録を、今日うまく見える形へ書き直してはいけません」


「学園の授業記録、担当教員の確認、班と個人の記録を照合します」


「足りない箇所は、足りないと残してください」


ノエラは『未確認を埋めない』と書いた。


ルシアスが神はどうやって記録を読むのかと尋ね、アステラが説明されていない部分は未確認だと返す。


ローディが「神様にも話が長いと思われるぞ」と言ったところで、セルド先生がこちらを見た。


奉告記録の締め切りは5日後だった。


学園が照合した記録を封じて神殿へ運び、式の日は学園章を左胸につける。


負傷や体調不良があれば延期でき、延期による不利はない。


「記録を増やすために無理をする必要もありません」


「奉告日までの行動だけが、その者のすべてになるわけではないからです」


神殿職員がそう言うと、レイナが俺を見た。


「分かってる」


「まだ何も聞いてないよ」


「先に言う必要があると思った」


エリオットが振り返り、ローディが声を抑えて笑う。


レイナは予定表の午後へ丸をつけたが、奉告用の記録にはまだ書かなかった。


説明のあと、1人に1つずつ薄い封筒が配られた。


俺は紙を4欄へ分けようとした。


だが、箱を運べた記録は達成であり、途中の配置変更でもある。


その変更を決めたのは俺ではない。


「出来事ごとに時系列で並べて、欄はあとでつけた方がいいわ」


アステラが言い、ノエラが紙の端を(そろ)えた。


同じ記録を別々に写せば、違う行動に見えるかもしれない。


俺は分けかけた紙を元へ戻した。


「この出来事は、達成と変更の両方でいいのか」


「欄が出来事を1つに決めるためのものとは言われていないわ」


アステラが答える。


「同じ紙を二度入れるのは?」


「封筒の中で増えたら怖いよ」


カシアが言い、ノエラは真顔のまま首を横に振った。


「参照先を書きましょう。『変更欄の三行目と同一』なら、別の出来事には見えません」


「それを使う」


「レオン、今のはノエラの方法だから名前を入れないとね」


エリオットに言われ、俺は余白へノエラの名を書き足した。


最初の紙より、あとの紙ほど多くの名前が残っている。


それは俺1人でできることが減った記録ではない。


誰が何を見て、どこを決めたかまで残せるようになった記録だった。


講義室を出る前、セルド先生は最後に告げた。


祝福が現れても失敗は消えず、現れなくても達成したことは消えない。


俺は封筒を鞄の一番上へ入れた。


午後は休む。


剣の確認はエリオットが行い、細い風はルシアスが試す。


盾の持ち手交換は延期され、ノエラは古い記録の写しを作る。


「戻ったら、全部聞く」


講義室の扉の前で俺が言うと、レイナが眉を上げた。


「休んだあとにね」


「結果だけなら短い」


「結果だけでいいなら、予定表に書くよ」


エリオットが封筒を持ち上げる。


「どこで迷ったかも聞く」


「それなら長くなるね」


「だから、起きてからにしろと言ってるの」


レイナに押し切られ、俺は先に寮へ戻る時刻だけを決めた。


俺がいない場所で進む予定も、何もしなかった時間にはならない。


休むと決め、任せた結果を受け取った時間として残るかもしれない。


封筒には、俺の字より先に7人の名前が並んでいた。

お読みいただきありがとうございました!

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感想や「ここが良かった」といったご意見もお待ちしております。

それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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