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努力で生き抜くこの世界  作者: こっさむ
第八章 ひとりではない学び
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250/280

同じでない答え

ご覧いただきありがとうございます!

よろしければ、この話の読み終わりにでも【ブックマークへの追加】や【★★★★★評価】をポチッと押していただけると、今後の執筆の大きなモチベーションになります!


それでは、どうぞお楽しみください。

左足を置いた先で、カシアの肩が半歩だけ前へ動いた。


俺も同じ分だけ進む。


分岐までは、もう近いはずだった。


近いという言葉に歩数を足そうとして、やめた。


煙の向こうに見えるのは、担架の後ろ側と、その左に立つアステラの背中までだ。


「左道の入口、見る!」


エリオットが俺たちの横を抜けた。


剣は抜いている。だが、木立へ入る前に刃を下げ、石突きで地面を叩いた。


1回。


土の詰まった音。


半歩左で、もう1回。


今度は浅く響いた。


「中央は固い。左端は空洞か溝がある!」


「見える?」


アステラが聞く。


「煙で底までは見えない。剣を入れる」


エリオットは返事を待たず、左端の土へ剣先を差し込んだ。


刃の3分の1ほどが抵抗なく沈む。


「左端は使わない。人1人なら中央。担架は右を通す」


俺なら、入口の幅と担架の幅を測る。


右側の根の高さを確かめ、前後の持ち手が同時に通れる線を決める。


そう考えた時、ノエラがエリオットの後ろへしゃがんだ。


「古い地図の左道、途中で水場の細い流れと交わってる」


手にした地図を開かず、折ったまま指で縁をなぞる。


「木立の入口に溝があるなら、古い線と合う。でも、今も水があるとは限らない」


「入口の空洞と、古い地図の水路候補」


アステラが紙へ書く。


「同じものとは確定しない。通らない範囲だけ決める」


答えを1つへまとめなかった。


「ノエラ、入口の先を見られる?」


「中央からなら行ける。戻る合図は肩を2回」


「1人で行かないで」


カシアが言った。


先行6人の中から補助員が1人、ノエラの横へ入る。


「私が後ろを見る。ノエラは地面だけ」


「分かった」


2人は中央を進んだ。


俺は位置を追おうとせず、ノエラの靴だけを見る。右、左。


3歩目で木立の影へ入り、煙に消えた。


「3歩先まで固い!」


声が返る。


「その先、道が2つに見える。右は根が高い。左は低いけど、葉で地面が見えない!」


「古い地図だと?」


「線は1本。分かれ道はない!」


地図が間違っているのか、見えている2本のどちらかが道ではないのか。


俺は戦域把握(せんいきはあく)で木立の向こうをつなごうとした。


ノエラの声。補助員の足音。葉の揺れ。右道の煙。後ろの魔物。


線が重なる前に、カシアが俺の腕を引いた。


「左足」


「分かってる」


「今、止まってた」


俺は足元を見る。


前の土は平らだ。次の1歩を置ける。


「進む」


左足を出した。


その間に、ノエラの声が続く。


「右は道じゃない! 太い根の間だけ土が見えてる。担架は通らない!」


「左の地面は?」


「葉の下に石。動かない。入口から6歩、幅は担架より広い!」


エリオットが木立へ入る。


「僕が左の端を取る。担架は剣より右を通して」


刃で線を引くのではなく、エリオット自身が通らない側へ立った。


「先行6人を左道へ」


カシアが言う。


「2人ずつ。前の2人が木立を抜けるまで、次は入口で待つ。補助員は前後に1人ずつ」


「担架は?」


アステラが聞く。


「先行の4人目が入口から6歩進んだら動かす。歩ける2人は担架の前。レオンは最後の組」


「後ろの2人より前?」


「エリオットとローディは別。あの2人を列の人数へ入れて間隔を決めない」


カシアは、人の並びを俺のように1本の列へ置かなかった。


先へ進む人と、後ろを残す人を別に数えた。


「先行1組、動いて!」


ノエラが入口から呼ぶ。


2人の生徒が木立へ入る。補助員がその後ろへ続く。


担架の前でレイナが負傷者の顔を(のぞ)き込んだ。


「返事できる?」


「できる」


「息は?」


「さっきより……少し楽」


「右脚の痛みは?」


「揺れなければ、同じ」


レイナは添え木の結び目を2本触り、足先の色を見た。


「道が曲がる。前後で高さを変えると脚がずれる」


「担架の右を通す」


アステラが伝える。


「入口の右に根がある。幅は通る」


「幅が通っても、同時には曲げない」


レイナは担架の前後4人へ顔を向けた。


「前が木立へ入ってから、後ろを右へ寄せる。私が『次』と言うまで高さを変えない。道の判断とは別に、負傷者の状態で止める」


「分かった」


4人の返事が重なる。


誰も、俺へ搬送方法を聞かなかった。


右の分岐で煙が膨らんだ。


灰色の壁の中から、短い(うな)り声が出る。


木立の入口にいた1体が、道を横切ったのかもしれない。


「右、動いた」


俺は見えた葉を指した。


「低い枝が分岐側から木立側へ揺れた。姿は見えてない」


「受け取った」


ローディが大盾を右へ向けた。


俺たちの後ろから前へ出ず、分岐の中央に盾の下端を置く。


道を完全に塞がず、左道へ曲がる幅を残して身体を斜めにした。


「エリオット、入口はそのまま空けろ」


「でも、来たら右から挟まれる」


「来たら俺が盾を左へ振る。お前は入口から動くな」


ローディは盾の縁を石へ2回当てた。


硬い音が右道へ響く。


煙の中の唸り声が止まり、次に少し右へ離れた。


魔物の意識を自分へ向けた。


俺なら、2体の位置を確かめてから音を出す。


未確認の1体まで寄せる可能性を考える。


「もう1体は見えてない」


俺が言う。


「分かってる」


ローディは3回目を鳴らさなかった。


「だから、2回で止めた。近づく音が増えたら盾を下げる。今は右の1体だけを入口から離す」


全部の位置を知ってから決めたのではない。


自分が確かめられる音と、止める条件だけで使った。


「先行1組、6歩先!」


ノエラの声。


「2組目、入って!」


カシアが次の2人を動かす。


アステラは紙を胸の高さへ持ち上げた。


「現在。左道を使用。入口中央から入り、左端の溝候補は使わない。先行4人移動中。担架は待機。右道に煙、魔物1体の音。もう1体は未確認」


「風は?」


ルシアスが聞いた。


アステラは右の木立と左道を見比べる。


「入口の煙は今、膝まで。担架が動く前に腰まで上がったら必要」


「どこへ出す?」


「私には決められない。枝に当てて戻さない向き」


ルシアスは(うなず)き、左道の入口へ手をかざした。


風を出さず、落ち葉を1枚拾う。


指の高さから離すと、葉は右へ流れ、根の手前で巻き上がった。


もう1枚を膝の高さから離す。今度は左道の奥へ滑った。


「上は戻る。低い位置だけなら奥へ抜ける」


「担架の顔へ当たる?」


レイナが聞く。


「中央へ出すと当たる。入口の右から地面へ沿わせれば、足側だけを通る」


「顔へ来ないなら使える。土を巻き上げる強さにはしないで」


「分かった」


ルシアスは自分の右手首を左手で押さえた。


大きな風を出した時と違う構えだった。


「今はまだ出さない」


できる方法を見つけても、条件が来るまで待った。


俺たちは分岐の手前まで進んだ。


カシアの肩へ預ける重さが増えている。


左足だけで身体を運ぶたび、打った右膝が揺れ、外くるぶしの前で腫れが広がるような熱が増した。


痛みには耐えられる。それでも右足を支えには使えない。


「顔、上げて」


カシアが言う。


「上げてる」


「さっきより返事が遅い」


「道を見てた」


「今は私の歩幅を見るって決めた」


決めたのは、俺だった。


次の1歩と、見えたことだけ。


「分かった」


俺はカシアの左足を見る。


カシアが出す。俺も左足を出す。


「先行4人、木立の先へ出た!」


ノエラの声が遠くなる。


「先は平ら。水場はまだ見えない。補助員1人を残す!」


「残り2人を入れる」


カシアが判断する。


先行6人が左道へ入った。


アステラは担架の前へ移る。


「担架、開始。入口右。前が入るまで後ろは中央」


「前、半歩」


レイナが言う。


担架の前側が動く。


「止める。右前、根を越えて」


前の生徒が足を上げる。担架の高さは変わらない。


「置いた。次」


後ろ側が半歩進む。


4人は同じ速さで歩かなかった。


負傷者の脚が動かない順番で、1人ずつ足を置いた。


煙が担架の下へ流れ込む。


膝の高さだった灰色が、後ろ側の持ち手の腰まで上がった。


「条件」


アステラが短く言う。


ルシアスが右手を開いた。


風は担架へ向かわず、入口右の地面を撫でた。


落ち葉と煙が根の外側を通り、左道の奥へ細く伸びる。


負傷者の顔の高さは動かない。


足元だけ、土と根が見えた。


「強さ、そのまま」


レイナ。


「根を越えたら止めて」


アステラ。


「あと半歩」


カシア。


3人の声を、ルシアスは1人の指示へまとめなかった。


顔、道、人数。


別々の条件を聞きながら、風の太さだけを保った。


担架の後ろが根を越える。


「止める」


ルシアスは自分で手を閉じた。


煙はすぐ戻ったが、担架は左道の中に入っていた。


「歩ける2人、担架の後ろへ」


カシアが位置を変える。


「前じゃないの?」


生徒の1人が聞いた。


「入口は通った。次は負傷者の咳が聞こえる位置へ。前は先行6人が見てる」


道が変わったから、同じ役割を別の場所へ移した。


「分かった」


2人は担架の後ろへ入る。


「レオン、次は入口」


カシアが言う。


俺は左足を出した。


分岐の中央へ乗る。


右道の煙の中で、土を蹴る音がした。


1体が近づく。


ローディの盾が鳴る前に、灰褐色(はいかっしょく)の頭が煙から出た。


低い姿勢。耳が伏せられ、目は盾ではなく左道の入口を向いている。


「入口を見る!」


俺が言う。


エリオットは振り返らなかった。


「見えてる!」


剣を横へ払わず、柄で左の木を叩いた。


魔物の顔が音へ向く。


その一瞬にローディが盾を前へ出した。


正面から押し返さない。


盾の右縁を魔物の肩へ当て、身体ごと右道へ向きをずらす。


魔物の前脚が土を掻いた。


エリオットは入口から1歩も出ず、剣先を地面近くへ置いた。


左道へ向き直れば鼻先に刃がある。ローディへ飛べば盾がある。


2人で倒せる位置だった。


それでも、エリオットは踏み込まなかった。


「右へ戻るなら追わない!」


「盾はあと3息!」


「十分!」


3息目で、リッジハウンドは身体を翻した。煙の中へ戻り、足音が右へ離れる。


ローディは追わず、盾を左道の入口へ戻す。


エリオットも剣を上げなかった。


「1体、右道へ離れた」


「もう1体は?」


アステラが聞く。


ローディが耳を向ける。


エリオットも煙を見る。


「分からない」


2人が同時に答えた。


「未確認を継続」


アステラが紙へ書く。


俺なら、離れた1体の歩数を数えた。


もう1体の最後の位置を置き、2体が重ならない線を考えた。


だが、2人は知らない位置を埋めず、今守る入口だけを残した。


「レオン、入るよ」


カシアが俺の腕を引く。


左道の中央へ、左足を置く。


エリオットの剣より右。溝候補より内側。


2歩目。


根の手前。


「高い」


俺が言うより先に、カシアが止まった。


「右脚は上げたまま。左足を根の上へ置かないで、手前から奥へ」


「越えられる」


「高さじゃなく、着く場所を見て」


根の向こうに平らな石がある。


俺は左足を伸ばし、石へ置いた。


身体が前へ傾く。カシアが腰を支えた。


右脚は地面に触れない。


「越えた」


「次は半歩」


俺たちが木立へ入ると、後ろの煙が枝に遮られた。


薄くなったわけではない。流れる高さが変わり、足元が見えるようになっただけだ。


前方には、担架の後ろが見える。


先行6人の声も、1人ずつ違う場所から返っていた。


「前、平ら!」


「左に浅い水!」


「担架の幅、ある!」


「右の木は折れてる!」


ノエラが声を整理する。


「平らなのは8歩先まで。左の水は道へ入ってない。右の折れた木は頭の高さ。担架は中央!」


アステラが現在へ移す。


「中央を継続。水は使わない。折れた木の手前で担架の高さ確認」


レイナが付け足す。


「頭側を下げない。枝が当たるなら人が避ける。担架を傾けない」


カシアは後ろを数える。


「木立内13人。入口にエリオット、ローディ。合計15人」


ルシアスは風を出さず、戻る煙だけを見る。


誰も俺と同じ見方をしていない。


1人ずつ、違うものを見ていた。


それでも、道は途切れていなかった。


俺の頭の中に全員を置けなくても、ノエラの言葉が前を作り、アステラの紙が今を残し、レイナの声が担架を水平にし、カシアの数が後ろを欠けさせない。


ルシアスの手は煙が上がる条件を待ち、入口では剣と盾が幅を保っている。


同じ地図を7人が分けて持っているのではなかった。


地図を持たない人も、自分の方法で今いる場所を残していた。


「カシア」


「何?」


「今、俺たちは担架の後ろ何歩?」


「知らなくていい」


すぐに返される。


「私が離れすぎないように歩く。レオンは次の石」


前を見る。


左足の先に、平らな石が1つある。


「見えた」


「じゃあ、そこまで」


俺は石へ足を置いた。


その先でも、別の声が続いていた。


「担架、折れた木の手前!」


「高さは変えない!」


「前2人、枝を持ち上げる!」


「水際へ寄らない!」


「入口、まだ2人!」


答えは同じ形ではなかった。


だが、どの声も次の声へつながっている。


木立の奥から、長い笛が1回鳴った。


魔物確認の3回でも、停止の短い音でもない。


教員が北西側から位置を知らせる、長い1回。


「前方に教員!」


ノエラが叫ぶ。


「水場の先、補助員と2人! こちらへ来る!」


担架の周囲で、息を吐く音が重なった。


誰も止まらない。


「引き継ぐまで現在を保つ」


アステラが言う。


「先行6人は水場の手前。担架は木立中央。歩ける2人は後ろ。レオンは支えあり。入口に2人。魔物1体は右道へ離れ、1体は未確認」


カシアが数を返す。


「15人、全員いる」


レイナは負傷者へ聞く。


「笛、聞こえた?」


担架の上から、弱い返事が来る。


「聞こえた」


「意識、返事あり。呼吸はさっきより安定。搬送継続」


後ろで盾が1回鳴った。


今度は合図だった。


「ローディ、入口を離れる!」


エリオットの声が続く。


「魔物は追ってない! 2人で入る!」


「入口2人、移動開始」


アステラが紙を書き換える。


俺は振り返らなかった。


次の石を見た。


左足を置く。


カシアの肩と一緒に進む。


木立の切れ目から、青い上着が見えた。教員だ。


その後ろに補助員がいて、先行6人を水場から離れた高い場所へ誘導している。


あと少しなら、自分で行ける。


「カシア、教員まで着いたら全体を――」


言いながら、俺は肩から腕を外そうとした。


左足だけで立ち、右脚を地面へ下ろさないまま向きを変える。


教員へ現在を報告する。入口の2人を入れる。担架の引き継ぎ順を決める。


煙が木立へ回った時の移動先も――


「何してるの」


カシアが俺の腕を(つか)み直した。


「もう報告できる。前に教員がいるなら、俺が位置をまとめて――」


「まとめるのはアステラがやってる」


「なら、担架の後ろを」


「歩ける2人がいる」


「入口の確認は」


「エリオットとローディ」


答えが全部返ってくる。


俺はまだ立っていた。


右脚を浮かせ、左足だけで。


進めないわけではない。


声も出せる。


だから、次に必要な指示を探した。


その間にレイナが担架の横から戻ってきた。


俺の右膝を見て、足首を見て、カシアへ預けている体重を見た。


「レオン」


「大丈夫。教員までなら行ける」


「行けるかどうかを、今から決める」


レイナは俺の前へしゃがんだ。

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それでは、次回の更新でお会いしましょう!

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